ホテル・旅館のM&A事例は?市場動向からメリット・デメリットまで徹底解説!
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経営難になったホテル・旅館を回復させるきっかけとして、M&Aはさまざまな事業で活用されています。
まずはM&Aの概要とホテル・旅館業界の動向を把握し、自社でもM&Aの実施検討をしてみましょう。
目次
ホテル・旅館の現状
ホテル・旅館業界のM&Aを知る前に、業界の現状・特徴について把握しましょう。
ホテル・旅館業界の定義
ホテル・旅館業界の定義は、「宿泊料を受けて人を宿泊させる業界」です。
ホテル・旅館業については、旅館業法に基づき営業を行います。
ホテル・旅館の特徴
旅館業法では、宿泊施設を以下の4つに分類しています。
- ホテル:様式構造・施設のもと、客室10室以上で入浴設備・水洗式トイレ・暖房設備がある
- 旅館:和式構造・施設のもと、客室5室以上で入浴設備・トイレがある
- 簡易宿所:宿泊所を多数で共有する施設で、入浴設備・トイレがある
- 下宿:1か月以上宿泊する施設で、入浴設備・トイレがある
4つの分類には、上記のような設置基準が設けられています。
ホテル・旅館のM&Aの動向
ホテル・旅館業界のM&Aの動向について解説します。
業界によってM&Aの動向や実施理由は異なります。また、業界ごとにM&Aが活発化する・しない理由が存在するため、自社が存在する業界のM&A動向はしっかりと理解しておく必要があります。
集客強化を目的としたM&A
近年では、集客強化を目的としたM&Aが活発化している動向がみられています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年の訪日外国人が昨年よりも約87%下落しました。その影響で、訪日外国人の宿泊が激減し、倒産・廃業したホテル・旅館会社が数多く存在しました。
新型コロナウイルスの影響で下落した利益や宿泊者数を回復させるために、M&Aで他社の事業やホテル・旅館を買収し、他社との差別化を図りながら集客強化を目指す企業が増加傾向にあります。
不動産獲得を目的としたM&A
不動産獲得の目的でM&Aを実施する動向も散見されています。
新型コロナウイルスの影響で、経営難となったホテル・旅館施設が多数存在します。資金に余裕がある企業は、そのような企業の事業や不動産を買収することで、様々なエリアにグループ会社を構えながら更なる利益獲得が目指せます。加えて、グループ会社で共通のサービスを提供することで、傘下を増やしながらコスト削減を図るといった動向も見られています。
廃業の増加と業界再編
ここまで何度も述べているように、ホテル・旅館業界は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大打撃を受けました。そのような状況を打破するために、大手のホテル・旅館会社が、経営難に陥ったホテル・旅館事業を買収することでホテル・旅館業界全体の経営を立て直すといった動向が見られています。
大手のホテル・旅館会社にとっては、さまざまなホテル・旅館事業を買収することで提供するサービスの充実や他社との差別化が図れるといったメリットがあるため、近年ではそのような会社の積極的なM&A動向が見られます。
ホテル・旅館のM&Aスキーム(手法)
ホテル・旅館業界でM&Aを実施する際のM&Aスキームについて解説します。
スキームとは、M&Aを実施する手法を意味し、自社が求める利益・メリットに応じて使い分けるものです。
株式譲渡
株式譲渡とは、売却側が発行している株式を、現金を対価に買収側に譲渡する方法です。
買収側は、売却側の株式を一定数以上保有することで、売却側の企業の経営権を掌握します。
株式譲渡は、手続きが簡便であることと対象事業に与える影響が少ないといったメリットが存在するため、多くの企業が株式譲渡のスキームを選択しています。また、個人株主が株式を売却する場合は、株式譲渡による税金が20%と、税負担が少ないこともメリットといえます。
事業譲渡
事業譲渡とは、その名のとおり売却側の事業の一部もしくはすべてを、買収側に譲渡することで対価を得る手法です。
売却側は事業を譲渡しても、引き続き会社を運営できるメリットが存在します。また、株式譲渡よりも実施しやすいといったメリットが存在します。株式譲渡は、株主全員の同意のもと行われるのに対し、事業譲渡は株主総会の特別決議で3分の2以上の賛成が得られれば実施できます。
合併
合併とは、2つ以上の会社が1つの会社に統合されるスキームを指します。
合併にはすべての会社を消滅させて新会社を設立する「新設合併」と、1つの会社を残してそれ以外の会社を消滅させて吸収する「吸収合併」の2種類があります。
M&Aは事業譲渡や株式譲渡のスキームが選択されるケースが多いですが、子会社同士の合併によって、1つのホテル・旅館の経営力強化や経営資源の効率的な運用を図る企業も存在します。
ホテル・旅館の価格相場
ホテル・旅館業界の価格相場について解説します。
M&Aの準備を進めたり動向を確立させる中で、取引価格の算出が行われます。相場はその際に使うものとなります。
価格相場
ホテル・旅館業界の価格相場は、一概にこのくらいと数値を出すことはできません。ホテル・旅館業界の規模や資本、事業内容などのさまざまな要素によって、取引価格が異なるためです。
ホテル・旅館事業を中小規模と大規模といった枠で捉えた場合の相場については、中小規模で数千万円から数億円、大規模であれば十数億円の資金が必要になることが想定されます。
売却価格の元となる企業価値の算出方法
自社もしくは自社の事業を売却する際には、以下の3つの計算方法を用いて企業価値を算出します。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
企業価値の算出は難しいことから通常はM&Aの専門家に依頼をしますが、自社でもある程度把握しておくことが大切です。今回は、3つの計算方法の概要について解説します。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業が持っている資産・負債ベースで企業価値を算出する方法です。
コストアプローチには、帳簿の資産から負債を差し引いた額を企業価値とする「簿価純資産法」と、帳簿の資産・負債を時価換算したうえで差し引きし、その額を企業価値とする「時価純資産法」の2種類があります。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、将来的に見込まれる収益やキャッシュフローをベースにし、そこからリスク率などを考慮して企業価値を算出する手法です。
インカムアプローチには、将来的なキャッシュフローからリスク率を差し引いて企業価値を算出する「DCF法」と、株式配当金・資本金をベースに企業価値を算出する「配当還元法」の2種類があります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、M&A市場ベースに企業価値を算出する手法です。
マーケットアプローチには、自社と類似する事業・規模・収益をもつ企業をベースに企業価値を算出する「類似企業比較法」と、過去のM&A事例を参考に企業価値を算出する「類似取引比準法」の2種類があります。
ホテル・旅館をM&Aするメリット・デメリット
ホテル・旅館業界のM&Aのメリット・デメリットについて解説します。
M&Aは買い手・売り手ともに多くのメリットが存在します。M&A実施を検討している場合は、まずはメリットについて理解するとよいでしょう。そのメリットをもとに、今後の会社経営の動向を検討することができます。
メリット
売り手側
- 後継者不足問題が解消する
- 従業員雇用を確保できる
- 大手企業のブランド力を活用できる
- 経営者の負担が解消する
上記の項目は、売り手のM&Aによるメリットです。
後継者問題を抱えたままにすると、会社が倒産・廃業するリスクがあります。M&Aでは新たな後継者を探すことができるため、事業で後継者不足問題を抱えている場合、その解消ができるメリットがあります。また、後継者が見つかればそこに従事する人材の雇用を確保することも可能です。
M&Aで大手企業の傘下に入ることで、そのブランド力を活かした経営が可能になるメリットも存在します。ブランド力を活かした新しい顧客を集めたり、新規採用者が増加したりすることに期待できます。
M&Aでは、売却側の経営者の債務を承継してくれる場合があるため、経営者が抱える個人保障をはじめとする債務を解消できるメリットもあります。また、M&Aで事業もしくは会社を売却することで売却利益を手にすることができるため、その資金を活かして今後の生活・事業を行うことができます。
買い手側
- 外国人観光客への対応力向上
- 短期間で顧客・拠点を獲得できる
- 事業成長が見込める
上記の項目は、買い手のM&Aにおけるメリットです。
近年は新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、外国人観光客の数が回復している動向が見られます。そのため、今後ホテル・旅館会社は、外国人観光客をはじめとした顧客の宿泊数の増加に対応する必要があります。
M&Aでは買収した事業に従事する人材を獲得できたり、買収事業のノウハウ・技術を承継できるメリットがあるため、それらを活かして更なる高品質なサービス提供、グループ会社を増やして対応するといったことが可能となります。
短期間で顧客・拠点の獲得を見込むことも可能です。買い手側は、M&Aで買収した事業の施設を活用することができます。そのため、遠方のホテル・旅館を買種することでその地域から顧客を獲得することが見込めます。
上記で述べたことをもとに、M&Aによって買い手側は更なる事業成長・利益獲得が見込めるといったメリットがあります。
デメリット
売り手側
- すぐに売却できない可能性がある
- 従業員・関係先との関係に影響がある
上記の項目は、売り手のM&Aによるデメリットです。
M&Aは業界の流れやタイミングによっては、希望するタイミングで売却できない可能性があります。売却できたとしても、売却価格が低くなるといったデメリットも想定されます。
M&Aで大手企業に買収された場合、グループ会社統一の雇用・契約を用いることとなります。そのため、従来の雇用に満足していた従業員や、契約をしていた取引先との関係が変化する可能性をあらかじめ考慮してさまざまな対応を取る必要があります。
買い手側
- リスクを承継する可能性がある
- 維持費だけがかかる可能性がある
上記の項目は、買い手側のM&Aによるデメリットです。
M&Aでは、売却企業の簿外債務や社内トラブルといったリスクを承継する可能性があります。そのため、買収前のデューデリジェンスを入念に実施し、リスクについてしっかりと把握する必要があります。
また、買収をしたにもかかわらず思うような利益が得られなかった場合、買収した事業・施設の維持管理費が負担になる可能性があります。買収前に、どのような会社・事業を買収すればシナジー効果がもたらされるかを検討しましょう。
ホテル・旅館のM&Aの事例
ホテル・旅館業界のM&A事例について解説します。
ホテル・旅館業界のさまざまな企業の動向を知るきっかけとして、事例を活用しましょう。ホテル・旅館会社の動向を知ることで、自社でもM&Aを踏まえた経営戦略を考えるきっかけになります。
ブラックストーンによる近鉄グループホールディングスのM&A
最初に紹介する事例は、ブラックストーンによる近鉄グループHDのM&A事例です。
買い手のブラックストーンは、世界最大級のファンド会社です。売り手の近鉄グループHDは、ホテル・レジャー・運輸・不動産など、多岐にわたる事業を展開しています。
本M&Aは、近鉄グループHDのホテル事業の成長・拡大を狙って実施されました。
三菱地所によるロイヤルパークホテルのM&A
2つ目に紹介する事例は、三菱地所とロイヤルパークホテルのM&A事例です。
買い手の三菱地所は、オフィス・商業施設の開発・賃貸・運営管理を行う会社です。売り手のロイヤルパークホテルは、日本各地でホテル事業を展開する会社です。
本M&Aは株式交換のスキームが実施され、ロイヤルパークホテルのチェーン力の強化と運営力の強化、経営資源の効果的・効率的な配分を狙って実施されました。
野村不動産HDによる野村不動産ホテルズとUHMのM&A
3つ目に紹介する事例は、野村不動産HDによる野村不動産ホテルズとUHMのM&A事例です。
買い手の野村不動産HDは、グループ会社の事業活動の管理・経営指導を行う会社です。売り手の野村不動産ホテルズ・UHMは、それぞれホテル事業を展開しています。
本事例は、合併のスキームで実施され、人材の融合・サービスの向上を狙ったものとなります。
ハウステンボスによるホテルデンハーグ(旧 ウォーターマークホテル長崎)のM&A
4つ目に紹介する事例は、ハウステンボスによるホテルデンハーグ(旧 ウォーターマークホテル長崎)のM&A事例です。
買い手のハウステンボス、売り手のホテルデンハーグ(旧 ウォーターマークホテル長崎)は、それぞれホテル事業を展開しています。
本事例は、顧客へ提供するサービスのさらなる向上を図り、実施されました。
シャトレーゼホールディングスによる談露館のM&A
5つ目に紹介する事例は、シャトレーゼホールディングスによる談露館のM&A事例です。
買い手のシャトレーゼホールディングスは、菓子事業・ワイナリー事業・リゾート事業を展開しています。売り手の談露館は、山梨県でホテル事業を展開している会社です。
本M&Aは、ホテル事業の成長を図る目的で実施されました。
NAPによるファーストキャビンのM&A
6つ目に紹介する事例は、NAPによるファーストキャビンのM&A事例です。
買い手のNAPは、留学生の収縮支援事業を営む会社です。売り手のファーストキャビンは、ホテル事業を営む会社です。
本M&Aは、両社のノウハウ・技術を融合させて企業価値を向上させる目的で実施されました。
JR西日本と奈良ホテルのM&A
7つ目に紹介する事例は、JR西日本と奈良ホテルのM&A事例です。
買い手のJR西日本は、陸運企業の大手会社です。売り手の奈良ホテルは、奈良県でホテル事業を経営しています。
本M&Aは、奈良ホテルのブランド力強化・企業価値向上を図り実施されました。
小野写真館による桐のかほり 咲楽のM&A
8つ目に紹介する事例は、小野写真館による桐のかほり 咲楽のM&A事例です。
買い手の小野写真館は、フォトウェディングの撮影や結婚式のプロデュース事業を営んでいます。売り手の桐のかほり 咲楽は、静岡県で小規模な旅館事業を展開しています。
本M&Aは、異種業の掛け合わせによるシナジー効果を図って実施されました。
恵比寿リゾートによる大和リゾートのM&A
最後に紹介する事例は、恵比寿リゾートによる大和リゾートのM&A事例です。
買い手の恵比寿リゾートは、ホテル事業を展開しています。売り手の大和リゾートは、ホテルをはじめとしたレジャー事業を展開しています。
本M&Aは、大和リゾートの事業譲渡による経営資源の改善を図る目的で実施されました。
ホテル・旅館のM&A実施の際の注意点
ホテル・旅館をM&Aする際の注意点について解説します。
許認可の引き継ぎ
ホテルの営業には、ホテル営業許可を取得する必要があります。また、食事・お酒を提供するには飲食店営業許可や酒類販売業許可を取得する必要があります。加えて、大浴場を設置する際の公衆浴場許可も必要となります。
株式譲渡のスキームであれば、上記のような許可を包括して承継できるため許認可の取得は必要ありませんが、それ以外のスキームでは許認可取得が必要となります。
そのため、許認可の取得を含めたM&Aスキームの検討が必要となります。
従業員の雇用
M&Aでは、従業員の雇用についても気を付けなくてはなりません。
M&Aで事業を売却する際、そこに従事していた人材は買収企業の人材となります。買収企業の雇用が従来よりも悪い場合、従業員が退職するリスクがあります。
M&Aは、従業員の今後の動向を配慮した上での実施がM&A成功と言えるため、M&A交渉相手とは従業員の雇用について入念に検討を進める必要があります。
情報漏洩に注意する
M&Aを実施するのであれば情報漏洩には気を付けましょう。
情報漏洩は、企業の信頼・信用を下落させる行為です。信頼・信用を下落させることは、企業価値を下落することに繋がります。
M&A交渉中の情報漏洩にも注意しましょう。交渉相手と秘密保持契約を締結することで、交渉相手が自社の情報を漏らす心配はなくなります。
ホテル・旅館のM&Aは専門家に相談・依頼しよう
ホテル・旅館のM&Aは専門家に相談しましょう。
M&Aは専門家のサポートのもと実施することで、より成功率が高まります。M&A専門家は、M&Aの進め方や目的・動向の確立、交渉相手の選定などM&Aに関して包括的なサポートをしてくれます。
ホテル・旅館業界に特化した専門家を探したり、専門家の無料相談を複数回実施したりして、頼れる担当者を探してみましょう。
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