運送会社・物流業界のM&Aとは?動向から成功事例・メリットまで徹底解説!
近年、運送・物流業界のM&A件数が増加しています。
本記事では、運送・物流業界の現状と動向を踏まえたM&Aの概要やメリット・デメリット、成功事例について解説します。
運送・物流業界のM&Aを成功させるために、参考にしてください。
目次
運送会社・物流業界とは?
運送会社や物流業界の定義や課題について解説します。
運送・物流業界の定義
運送と物流は、それぞれ以下のように定義されています。
- 運送:人や物を運ぶこと
- 物流:生産者から消費者に商品を運ぶ流れのこと
業界に当てはめると、運送業界は預かった物を運ぶ会社で、物流会社は商品を消費者に届ける過程を管理する会社です。つまり、物流という大きな概念の中に運送が存在するというイメージです。
運送・物流業界の課題
運送・物流業界の課題は以下の3つが挙げられます。
- 人手不足
- 後継者不足
- 単価下落・燃料費上昇による収益の悪化
運送・物流業界においては、労働時間が長いにもかかわらず賃金が低いことが人手不足に繋がっています。人手不足により若い人材が足りず、世代交代できないまま経営者が高齢化してしまうことも懸念点です。
近年は、新規参入業者の増加に伴い競争の激化による単価引き下げや、ガソリン代高騰による影響で、従来より利益獲得が困難化している課題も存在します。
運送会社・物流業界のM&Aの動向
運送・物流業界の課題に対し、M&Aで問題解決している会社が増加傾向にあります。会社の今後の動向について検討する際の参考にしましょう。
経営者の高齢化
経営者の高齢化に伴い、M&Aを実施する会社が増えています。
運送・物流業者では、経営者以外にも従業員やドライバーの高齢化により、後継者候補の不在問題を抱える会社が多数存在します。また、若い人材不足問題も存在し、後継者不在により、廃業せざるを得ないケースも多いです。
このような問題を抱えた物流・運送会社が事業を存続させる方法として、M&Aを活用する会社が増加しています。
燃料費高騰による経営悪化
近年の燃料費高騰による経営難・利益減少も、運送・流通会社の大きな問題です。
外国諸国の貿易摩擦の影響で燃料費は高止まりしており、改善されなければ経営悪化していくことが見込まれます。
そのような問題に対し、M&Aで大手企業の傘下に入ることで、輸送の効率化や経費削減を図って会社を維持している会社が存在します。
ドライバーの不足
平成27年の厚生労働省の発表では、ドライバー全体のうち約45%は40歳から54歳で、29歳以下の若年層は10%以下とされ、若年層が極めて少ないことがわかります。
また、運送・流通業界では労働時間に対する賃金の低さで離職する若年層の増加や、新型コロナウイルスの影響による宅配の需要増加に伴い、年々ドライバー不足が深刻化しています。ドライバー不足による受注機会の損失により、廃業・倒産に追い込まれた会社が多いことも事実です。
上記の問題に対抗するため、人材確保を目的とした運送・物流会社のM&Aが増加しています。
業界再編が進む
近年の運送・物流業界では業界再編を目的としたM&Aの件数が増加しています。
大手企業の傘下に入ることで、売り手企業は自社のドライバー不足問題が解決でき、買い手企業は拠点を活かした物流量の増加が図れます。
業界全体で利益減少問題が深刻になり、単独の事業拡大や利益増加の動向が困難化している会社にとって、M&Aは有効な手段といえます。
運送会社・物流業界のM&Aのメリット・デメリット
運送会社・物流業界におけるM&Aのメリット・デメリットを解説します。
売り手側と買い手側のメリット・デメリットを理解し、自社の動向の参考にしましょう。
メリット
売り手側
売り手側のM&Aのメリットは以下のとおりです。
- 廃業を阻止できる
- ドライバーの待遇が改善できる
- ドライバーの新規獲得が見込める
M&Aによって大手企業に買収されたり傘下に入ったりすれば、廃業を免れつつ、既存のドライバーの待遇改善が期待できるメリットが存在します。また、大手企業の運送・物流会社に買収されると、その知名度や待遇の良さ(ブランド力)によって、求職者がドライバーや従業員として応募してくるメリットも存在します。
買い手側
買い手側のM&Aのメリットは以下のとおりです。
- ドライバーを獲得できる
- シナジー効果を期待できる
- 新規参入リスクを軽減できる
M&Aの実施により、買収企業のノウハウやドライバーをはじめとした従業員を取り込めるため、既存事業の拡大や新規事業への参入が可能となります。売り手側のノウハウを取り込むことによるシナジー効果が期待でき、仮に買い手側が運送・物流業以外の場合であれば、事業を買収するコストのみで新規事業への参入ができます。
デメリット
売り手側
売り手側のデメリットは、以下のとおりです。
- 顧客が反発するおそれがある
- 買収企業が見つからない可能性がある
大手運送・物流会社の傘下に入れば、グループ会社全体で統一している契約条件を採用せざるを得ません。従来の配送料や契約条件が変更されれば、既存顧客が反発して他会社に乗り換えられるリスクがあるため、M&A後の動向を事前に顧客とすり合わせをする必要があります。
多くの運送・物流会社では経営者の高齢化問題やドライバー不足問題が発生しているため、自社を売りたいと考えている会社が数多く存在します。つまり買い手よりも売り手の数の方が多いため、自社が売れ残る可能性が充分に考えられます。
買い手側
買い手側のデメリットは以下のとおりです。
- ドライバーが離職する可能性がある
- 簿外債務のリスクある
M&Aの実施で売り手側のドライバーが獲得できますが、買い手側の従業員への待遇がよくないと離職する可能性があります。ドライバーが離職しないよう、売り手側以上の待遇を確保したり、売り手側とのすり合わせしたりと、買収後の動向を検討する必要があります。
簿外債務を承継するリスクは、運送・物流業界に限った話ではありませんが、M&Aにおけるデメリットとして常に問題視されています。買収する前に、売り手側の社内調査を念入りに実施し、合併後のリスクをあらかじめ想定しておきましょう。
運送会社・物流業界のM&Aの費用相場
運送・物流業界におけるM&Aの費用相場について解説します。
M&A仲介業者や相談先に支払う費用
当然ながらM&Aの仲介業者や専門家などの相談先を利用すれば、相談費用や成功報酬が発生します。
相談費用や成功報酬の金額ついては相談先に応じて異なるため、相談先候補をいくつか挙げて、費用の比較をするとよいでしょう。
M&A実施には買い手候補を探す以外にも、税務・法務・会計などの専門知識が必要であるため、経営者一人だけでM&A実施の動向を確立させるのは困難です。専門家への相談は必須であることから、相談料や成功報酬は必ず発生するものとして念頭に置いておきましょう。
企業価値を元に話し合いを行い最終決定する
M&Aでの売却金額は、算出した売り手側の企業価値をもとに交渉を進め、買い手側に及ぼすメリットやシナジー効果を踏まえて決定されます。そのため、企業価値と取引金額に差が生じることが多く、実際に想定よりも低い金額で売却されるケースが散見されています。
企業価値そのままの金額で売却できるとは思い込まず、取引金額が前後する可能性をふまえ、売却後の動向を検討しましょう。
企業価値の算出方法
企業価値の算出には、以下の3つの方法が存在します。
算出方法 | 具体的な内容 |
コストアプローチ | ・純資産ベースの計算方法 ・「簿価純資産価額法」「時価純資産価額法」の2種類がある ・簡易的に企業価値を算出できる |
インカムアプローチ | ・将来的に期待できる収益やキャッシュフローに着目した計算方法 ・「DCF法」「収益還元法」の2種類がある ・将来性を加味するという点で活用しやすい |
マーケットアプローチ | ・市場や類似会社に着目した計算方法 ・「市場株価法」「マルチプル法」の2種類がある ・客観的な企業価値を算出可能 |
それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、どの方法を用いて計算するはM&A専門家と相談しながら決定する流れになります。
運送会社・物流業界のM&Aの成功事例
運送・物流業界のM&Aをの成功事例を紹介します。
M&Aを検討しているのであれば、成功事例を参考に動向を確立させるとよいでしょう。
サカイ引越センターによるSDホールディングスのM&A
最初に紹介する成功事例は、サカイ引越センターとSDホールディングスのM&Aです。
2016年サカイ引越センターは、清掃業のSDホールディングスの全株式を取得しました。
SDホールディングスはサカイ引越センターが業務提携していた株式会社ダスキンの関係企業です。清掃業のSDホールディングスを傘下にすることで引っ越し時の清掃サービスを充実させ、顧客満足度向上を目指すというシナジー効果を期待したM&Aを実施しました。
五健堂による六ツ星運送のM&A
続いて紹介する成功事例は、五健堂と六ツ星運送のM&Aです。
2022年五健堂は、関東で配送業を営む六ツ星運送を子会社化しました。
六ツ星運送は2021年には約4億円の売上を計上したり、31代の車両を保有していたため、六ツ星運送を子会社にすることで2024年問題の解決が期待できると見込み、M&Aを実施しました。
ビックカメラによるエスケーサービスのM&A
3つ目に紹介する成功事例は、ビックカメラとエスケーサービスのM&Aです。
2018年ビックカメラは、都市圏で一般貨物運送業を営むエスケーサービスを子会社化しました。
エスケーサービスは大型家電の設置を強みとした会社で、ビックカメラの家電製品の販売・配送の品質向上のシナジー効果が期待できるため、M&Aを実施しました。
鴻池運輸による九州産交運輸のM&A
4つ目に紹介する成功事例は、鴻池運輸と九州産交運輸のM&Aです。
2014年鴻池運輸は、九州地区で運送業を営む九州産交運輸を全株取得により子会社化しました。
鴻池運輸が推進する院内物流や医療機器物流のサービスを、九州産交運輸が持つ医薬品運輸の技術と組み合わせることで、効率的な医療物流モデルの構築ができるというシナジー効果を期待し、M&Aが実施されました。
トナミホールディングスによるケーワイケーのM&A
5つ目に紹介する成功事例は、トナミホールディングスとケーワイケーのM&Aです。
2018年トナミホールディングスは、運送業のケーワイケーを子会社化しました。
ケーワイケーは引っ越し、産業収集、空調設備機材の整備・取付など運送業を中心に多角的な事業を展開しています。トナミホールディングスはケーワイケーの地域密着型の配送サービスを活かした輸送サービスの高度化促進というシナジー効果を期待し、M&Aを実施しました。
両備ホールディングスによるタカラ物流システムのM&A
最後に紹介する成功事例は、両備ホールディングスとタカラ物流システムのM&Aです。
2016年両備ホールディングスは、全国規模で酒類・食品物流業を営むタカラ物流システムを子会社化しました。
タカラ物流システムは本業である酒類・食品物流業の特化を目指し、水宅配事業を両備ホールディングスに売却しました。両備ホールディングスは、物流・交通・観光など多角的に事業を展開しており、タカラ物流システムの全国的な物流ネットワークを獲得することで運送サービスの質の向上を期待し、M&Aを実施しました。
運送会社・物流業界でM&Aを成功させるポイント
運送会社・物流業界でM&Aを成功させるポイントは、以下の5点です。
- M&Aのタイミング
- シナジー効果が期待できる企業に売却する
- 税金対策を行う
- 相場を把握する
- 運送業・物流業界に強みを持つM&A仲介会社を選ぶ
ポイントを抑えながら、M&A実施の動向を確立させましょう。
M&Aのタイミング
M&Aは、実施のタイミングの見極めが重要です。
現在再編期にある運送・物流業界では、タイミングを見計らわないと最適な案件が見つからない可能性があります。また、経営者が高齢化してからではM&Aへの意欲的な準備や検討が進められなかったり、従業員・ドライバーの年齢が上がるにつれてM&Aへ抵抗感が大きくなったりするおそれがあります。
適切なタイミングで案件を獲得するためには、経営者やドライバーが健康なうちに専門家に相談して、早い段階で今後の動向を確立させる必要があります。
シナジー効果が期待できる企業に売却する
「M&Aでどのようなメリットを望むのか」を検討した上で、シナジー効果が期待できる相手を探しましょう。
着目点としては、以下のものが挙げられます。
- 事業の内容
- 営業のエリア
- トラック・ドライバーの数
- 相手企業の規模
- 保有する資産
シナジー効果を検討するには、相手企業の事前調査の実施が欠かせません。
買い手であれば拠点の拡大やドライバーの確保、売り手であれば相手企業の傘下に入ることによる採用力強化や新規顧客の確保など、検討・期待すべきシナジー効果はさまざまです。
税金対策を行う
M&Aの手法(スキーム)によって、発生する税金や利率、負担する人物が異なります。
具体的に、株式譲渡であれば株式を売却した株主に納税義務が生じたり、事業譲渡であれば売り手側の経営者に納税義務が生じたりとさまざまです。M&A実施後に予期せぬ税金が発生してしまっては、利益を用いた経営や新事業の展開などに影響を及ぼします。
M&Aで生じる税金を事前に対策し、M&A実施後の資金繰りを計画しましょう。税金対策には、顧問の弁護士に相談したり、M&A専門家にアドバイスを求めたりする方法があります。
相場を把握する
M&Aで売却する際は、売却相場を把握して企業価値との比較を行いましょう。
自社の企業価値が売却相場を大きく上回っていた場合、買収してくれる相手が見つからない可能性があります。一方、売却相場を知らずに交渉を進めてしまうと、相場を大きく下回った金額で売却してしまうおそれがあります。企業価値は、自社の利益やノウハウ、事業規模を適切に評価しつつ、売却相場から大きく外れない金額を算出する必要があります。
適切な企業価値を算出するには、M&A専門家に依頼することが確実です。
運送業・物流業界に強みを持つM&A仲介会社を選ぶ
運送業・物流業界に強みを持つM&A仲介会社を選ぶことが、M&A成功の大きなポイントです。
M&A仲介会社ごとに、得意とする業種や事業規模は異なります。自社の業種と規模に見合った相談先を選択することで、希望する金額で交渉を進めたり、運送・物流業界ならではの運送業許可の引継ぎ・トラック運転手との雇用契約などの問題を解決できたりします。
中には、無料相談を実施しているM&A仲介会社が存在します。複数の仲介会社の無料相談を利用し、安心して任せられる相談先を探しましょう。
運送会社・物流業界でM&Aを行う際の注意点
運送会社・物流業界でM&Aを行う際の注意点を解説します。
法律が関係するため、M&A専門家にアドバイスを受けながら確認するとよいでしょう。
国土交通省の認可が必要なケース
M&Aによって運送事業もしくは許可を売却する場合は、許可手続きが必要になります。
貨物自動車運送事業法の第30条において、「国土交通大臣の認可を受けなければ、運送事業の譲渡および譲受の効力は生じない」という規定が存在するためです。
許可を申請するには、以下の 情報を記した「事業の譲渡譲受認可申請書」 を提出しなければなりません。
- 譲渡人および譲受人の氏名または名称、住所(法人の場合は代表者の氏名)
- 事業譲渡価格
- 事業譲渡予定日
- 事業譲渡を必要とする理由
事業の譲渡譲受認可申請書に添付する書類として、「 事業譲渡契約書の写し」「事業譲渡価格の明細書」「定款や貸借対照表、資産目録などの資料 」も必要になります。
運送業許可を承継する主な要件
運送業許可を承継する主な要件は、簡潔にまとめると以下のとおりです。
- 運送事業を運営するうえで必要な資源の確保していること
- 運行管理者や整備管理者、運転者を確保していること
- 運送事業に必要な資金を確保していること
貨物自動車運送事業法の第30条3項において、「第5条および第6条の規定は、前2項の認可について準用する」と規定されているためです。つまり、運送事業を承継するには、第5条と第6条の規定を満たす必要があります。
運送会社・物流業界のM&Aは専門家に相談しよう
運送会社・物流業界のM&Aを成功させるには、専門家に相談しましょう。
解説してきたように、運送・物流業界のM&Aは、専門性が高く、税務・司法・会計に知識を必要とします。また、売り手側が多く存在する業界のため、適切なタイミングでM&Aを実施しなければM&A成功は困難といえます。
適切なタイミングでM&Aを実施するには、早い段階でM&A専門家に相談して動向を確立し、その時期を見据えた事前準備をしましょう。
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