M&Aのマルチプル法を徹底解説!算出方法や企業価値評価の活用メリットは?

効果の高いM&Aを行うためにも適切な方法で企業価値評価を行うのは重要な課題で、その際に活用できる計算手法の1つがマルチプル法です。本記事ではM&Aのマルチプル法の解説を行い、算出方法や企業価値評価の活用メリットも紹介します。

目次

  1. M&Aにおけるマルチプル法とは?
  2. M&Aにおけるマルチプル法での企業価値評価の手順
  3. マルチプル法の主な指標と計算方法
  4. M&Aにおけるマルチプル法のメリット
  5. M&Aにおけるマルチプル法のデメリット
  6. M&Aにおけるマルチプル法を活用した事例
  7. 相手企業との交渉を重視して最終的に取引金額を決める
  8. マルチプル法で企業価値を評価する際は他の手法と併用しよう

M&Aにおけるマルチプル法とは?

マルチプル法を活用すれば効果的なM&Aを成功させることができますが、M&Aにおけるマルチプル法にはどのような定義があるのでしょうか。

ではM&Aにおけるマルチプル法の詳細を解説します。

マルチプル法の定義

M&Aの対象企業と同様の上場企業の株価などを参考に、利益や売り上げなどの指標に倍率(マルチプル)をかけ、対象企業の大まかなデータを算出する方法がマルチプル法です。

M&Aにおいてマルチプル法を活用するためには企業価値評価の算出も重要になります。

以下で企業価値の定義や企業価値評価を算出する方法を解説するため、参考にしてください。

企業価値とは?

企業価値とは企業が将来的に生み出す利益の存在価値を表し、企業全体の経済的価値を表す言葉です。

効率的に企業価値を算出する方法には異なった特性を持った3種類の方法があり、それぞれを組み合わせて評価します。

M&Aの企業価値評価を算出する他の方法

効果的なM&Aを行うためにも明確な企業価値評価が重要で、企業価値評価の算出方法には前述した通り3つの手法があります。

それぞれの異なった特質を理解したうえで使用すれば、M&Aで効率的に活用することも可能です。

ではM&Aの企業価値評価を算出する3つの方法について詳しく解説をします。

コストアプローチ

コストアプローチとは、M&Aの対象会社の純資産を基準に評価する計算方法のことです。

この算出方法は時価修正を専門家の評価を参考に行ったり、帳簿価格を基準に評価します。

したがって全体的に正確な評価を可能にしているのが最大の特徴です。

一方コストアプローチは正確な評価方法であるゆえに、将来の収益性など不明瞭な部分を反映できません。

またM&A対象企業の帳簿価格を基準に評価するので、市場状況などを評価に反映できない点も把握しておきましょう。

さらに帳簿の記載が間違っていれば、間違った評価がされるので注意が必要です。

マーケットアプローチ

M&Aの対象企業の過去の取引データや、同様の上場企業のデータを参考にして評価する方法がマーケットアプローチです。

この方法では、M&A対象企業と類似した上場企業の株価や財務状況を参考にして評価するので、相対的な評価ができます。

一方マーケットアプローチは類似企業がない場合や、類似企業に異常があれば利用できないので事前に確認しましょう。

インカムアプローチ

M&Aの対象企業が見込める将来的な利益を基準に、企業価値を評価する方法をインカムアプローチといいます。

この方法はM&A対象企業の今後の資産計画や事業計画を基準に企業価値を評価する方法で、企業の将来性を盛り込めるのが特徴です。

また評価としてM&Aの対象会社の事業内容も盛り込めるので、企業の強みなども大きな評価点になります。

インカムアプローチは企業の将来性に対しての評価なので、現状の正確な把握ができない点も認識しておきましょう。

M&Aにおけるマルチプル法での企業価値評価の手順

M&Aにおいてマルチプル法を活用すれば、明確な企業価値評価が可能になりますが実際にどのような手順で行うのでしょうか。

ここからは、M&Aにおけるマルチプル法での企業価値評価の手順を紹介します。

類似上場企業の選定

M&Aにてマルチプル法活用時には、最初に類似上場企業の選定をします。M&A対象企業の事業内容や規模、財務上の性質が類似している上場企業を選定しましょう。

選定の際には四季報などを参考にして類似上場企業を検索し、最終的に数社に絞り込んで選定をします。

倍率の算定

事業の特性や収益構造などの種類により、マルチプル法に用いられる倍率指標が異なります。

倍率指標を選定する際に重要なのは、株式市場が評価時点でどの評価指標を重要視しているかという点です。

倍率が狭いレンジに収まっているか、倍率の変動が大きければ売り上げと利益の相関性などを検討することで株式市場が重要視している指標を見極めることができます。

企業価値・株主価値の算定

倍率の算定が完了したら、検出された数値をもとにして評価対象企業の企業価値や株主価値を算定します。

計算法としては、株式市場が重要視する倍率指標の中央値を利用する方法が一般的です。

一方で各倍率指標の中央値を平均値とする方法は、株式市場の動向を反映できないやり方で評価ミスが発生するのでおすすめできません。

マルチプル法の主な指標と計算方法

マルチプル法を活用して企業価値評価を行えば、効率的にM&Aに取り組むことができますが、実際にどのような計算方法で評価をするのでしょうか。

ではマルチプル法の主な指標と計算方法を紹介していきます。

EV/EBITDA

企業価値を表す言葉がEVで、その価値を営業利益と減価償却費を加算して算出された数値であるEBITDAで割ることで算出される数値がEV/EBITDAです。

この数値はM&Aにおいて重要視される数値で、この倍率が低ければ割安な企業とみなすことができます。

またEBITDAは企業の収益性を明確に表す指標で、企業の純利益に支払利息や税金を加えることで算出可能です。

このような観点からも経営指標を自社分析で利用する際には、EV/EBITDAとEBITDA倍率の双方の内容を把握しておきましょう。

PER

PERは企業の収益力に対する割安度・割高度を表す指標です。この指標は純利益に対する株式の時価総額を評価する指標で、投資家から注目されやすい指標として認識されています。

PERは純利益に対する株式の時価総額を評価する指標で、企業の業績が反映される数値です。

またこの指標は株式の時価総額を当期純利益で割ることで算出され、一般的な上場企業では、15倍前後のPERが目安とされています。

しかしPERは業種や規模によって平均値が異なるので、類似企業の数値と比較するのもおすすめです。

PBR

企業の1株あたりの純資産に対しての株価の高さを表す指標がPBRです。

この指標を活用すれば、株価の割安度や割高度を効率的に算出できるので、投資家の参考資料として多く使用されています。

PBRは株式の時価総額を簿価純資産額で割ることで算出され、一部上場企業の平均値は1.2~1.3程度です。

この指標が低いほど株価が割安ということになり、時価総額以外の要素を反映できるので株価変動時などは積極的に利用しましょう。

M&Aにおけるマルチプル法のメリット

マルチプル法を活用すればスムーズなM&Aが促進されますが、活用すればどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。

ではM&Aにおけるマルチプル法のメリットを紹介します。

客観的・相対的な評価が期待できる

客観的・相対的な評価が期待できるのもM&Aにおいてマルチプル法を活用するメリットです。

マルチプル法は資産などが明確で、自社と比較しやすい上場企業と比較検討して企業価値評価をします。

このような株式が明確な企業と比較・検討することにより、客観的・相対的な評価に繋がります。

将来的な企業価値の算出ができる

上場企業の株式は、将来性を評価した上で取引されています。

そのため上場企業と比較することによって対象企業を評価するマルチプル法では、対象企業の将来性があるかどうかを判断する指標にもなります。

M&Aの取引において将来の企業価値は絶対に外せない要素の1つなので、マルチプル法を活用することを強くおすすめします。

非上場企業でも算出できる

非上場企業でも正確な企業価値評価ができるのも、M&Aにおいてマルチプル法を活用するメリットです。

一般的に非上場企業は市場で株式の取引のある上場企業に比べ、企業価値評価がしにくい特徴を有しています。

そこでマルチプル法を活用すれば1つの明確な指標である上場企業との比較が可能になり、非上場企業においても的確な企業価値評価が可能です。

M&Aにおけるマルチプル法のデメリット

M&Aにおいてマルチプル法を活用するメリットがあれば、その一方でデメリットも発生します。

ではM&Aにおけるマルチプル法のデメリットを紹介します。

算出者や選定企業によって結果に差が出る

非上場企業が企業価値評価を行う際には、自社と同様の上場企業を見つけることはできません。

したがって自社と同様の企業規模や収益性などが自社と類似している企業を検索し、評価対象とします。

このような場合に自社との類似点の選定基準は算出者によって異なるので、結果的に算出者によって企業価値評価の結果も異なってしまいます。

そして最終的に平均値や中央値などを参考にして指標を計算しますが、選択者が選んだ企業によっても結果に差が出てしまいます。

このように算出者や選定企業により、企業価値評価の結果に差が出てしまい、必ずしも正確な企業評価ができないという点がデメリットです。

類似企業の選定が難しい時がある

類似企業の選定が難しい場合があることも、M&Aにおいてマルチプル法を活用する際のデメリットです。

非上場企業の中には、まだ世間一般的に普及していないビジネスを展開している企業もあります。

マルチプル法は、自社とできるだけ類似した上場企業との比較によって企業価値評価をする方法なので、マルチプル法を活用しても独自のオリジナル性の強い中小企業と類似した上場企業の選定は困難で、その場合は企業価値評価ができません。

類似企業の株価の変動に左右される

株式市場では昼夜を問わずに無数の株式取引が行われ、その動きに伴って上場企業の株価も大きく変動します。

このように株式の変動が大きい場合にマルチプル法を用いて評価を行えば、評価対象企業の変動に伴って企業価値評価も左右されてしまいます。

その結果として評価対象企業の正確な企業価値評価ができなくなってしまいます。

このように、類似企業の株価の変動に左右されてしまうのも、M&Aにおいてマルチプル法を活用するメリットです。

M&Aにおけるマルチプル法を活用した事例

M&Aにおいてマルチプル法を活用すれば、効率的な企業価値評価を行うことができます。

では実際のM&Aにおけるマルチプル法の活用事例を紹介しましょう。

ZホールディングスによるZOZOの買収

Yahoo!に関するイーコマース事業を展開しているZホールディングスが、ファッションECサイトであるZOZOを買収したのもM&Aにおけるマルチプル法の活用事例の1つです。

この事例では譲渡企業であるZOZOはシナジーを強化するために、譲受企業であるZホールディングスはファッションECを強化するために取引を行いました。

結果的にZホールディングスがZOZOを子会社化することで取引が完了し、約4,007億円もの金額が譲渡金額として支払われました。

またZホールディングスが算出したマルチプル法でのZOZOの株式評価は、DCF法を利用した際の株式価値と同程度で評価されたのです。

SBIホールディングスによる新生銀行の買収

金融サービス事業を展開しているSBIホールディングスが、商業銀行業務などを行う新生銀行を買収したのもM&Aにおけるマルチプル法の代表的な事例の1つです。

このケースでSBIホールディングスは新生銀行の連結子会社化できる議決権比率を取得し、新生銀行との提携を構築・強化することができました。

結果的にこの取引でSBIホールディングスは新生銀行を約1,138億円で子会社化することに成功しました。

この取引におけるSBIホールディングスがマルチプル法で算出した新生銀行の評価は、DDM法での株式評価より低かったことも特徴的です。

相手企業との交渉を重視して最終的に取引金額を決める

M&Aにおいては譲渡企業・譲受企業がそれぞれ明確な目的を追って取引に臨みます。

したがって交渉時には相手企業のニーズを把握・対応できるように慎重に交渉を進めた上で、マルチプル法を活用すれば高額の取引金額の提示も可能です。

このように相手企業との交渉を重視してマルチプル法を活用することで企業価値評価を行い、取引金額を決めるのもM&Aを成功させるために重要なテクニックになります。

マルチプル法で企業価値を評価する際は他の手法と併用しよう

マルチプル法はM&Aを成功させる有効な計算法ですが、評価基準とする企業次第で算出される指標が大きく異なる場合があります。

したがって効率的なM&Aに取り組むためにも、マルチプル法と他の手法を併用して確かな企業価値評価を行うことをおすすめします。

またM&Aでマルチプル法を活用しても効率的な事業の引継ぎを行うことができますが、さらにスムーズな引継ぎを行うのであれば事業承継がおすすめです。

事業承継を活用すれば、自社親族内の後継者を擁立できれば比較的簡単に手続きが完了します。

さらに親族や従業員内に後継者がいなくても、第三者企業から最適な後継者の擁立ができるのも事業承継のメリットです。

特に近年は事業承継に特化して支援している仲介会社も多いので、一度利用を検討されてはいかがでしょうか。

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