事業承継とは?中小企業の経営者が後継者に会社を譲り渡す方法やメリットを解説!

事業承継とは後継者へ会社の経営を引き継ぐことを指し、会社が成長・発展するためにも不可欠な行為です。事業承継には複数の方法がありますが、いずれも計画的に行うことが成功の鍵となります。本記事では、中小企業の経営者が後継者に会社を譲り渡す方法やメリットを解説します。

目次

  1. 事業承継とは
  2. 事業承継で後継者に引き継ぐ要素
  3. 事業承継の方法
  4. 中小企業の事業承継事情
  5. 親族・社内での事業承継の流れ
  6. M&Aで事業承継する場合の流れ
  7. 事業承継で発生する税金
  8. 事業承継を成功させるには
  9. 事業承継への公的支援
  10. 事業承継のまとめ

事業承継とは

事業承継とは、会社経営を現在の経営者から後継者へと引き継ぐ行為のことです。事業承継は単純に経営者の地位を後継者へ譲り渡せばよいというものではなく、会社の資産や人材・ノウハウ・ブランド・信用力など経営に必要な要素を後継者へ引き継ぎ、負債もこれに含まれます。

会社にとって適切な時期に事業承継を行うことは、事業の存続だけでなく成長や発展につなげるためにも不可欠なものです。日本国内の企業は9割以上を中小企業が占めており、もし事業承継をせずに廃業する企業が増えれば、経済や雇用に大きな影響を及ぼします。

中小企業の経営者には事業承継を適切なタイミングで行うことが求められており、事業承継を成功させるためにも後継者の選定や事業方法などについて計画的に進めておくことが重要です。

事業承継で後継者に引き継ぐ要素

前述したように、事業承継は単純に会社の経営者の地位を現経営者から後継者へと譲り渡せばよいというものではありません。

事業承継には後継者へ引き継ぐ3つの要素があり、事業承継を成功させるためにはすべての要素を後継者へ引き継ぐことが不可欠です。ここでは、事業承継で後継者へ引き継ぐ3つの要素について説明します。

事業承継で引き継ぐ要素の1つ目は「人」であり、これは「経営権」のことです。法人形態であれば代表(代表取締役)の交代、個人事業主の場合は現経営者が廃業手続きをして後継者が開業手続きを行います。

中小企業の場合、経営者に事業運営のノウハウが集中していたり、個人的な関係から契約が続いている取引先があったりするケースも多いです。

それゆえ、経営者の資質が事業運営や業績を大きく左右する傾向があり、経営権を承継する際はノウハウや取引先との信頼関係などもしっかり引き継ぐことが成功のポイントとなります。

事業承継の方法には親族内承継・社内承継・M&Aによる事業承継の3種類がありますが、親族内承継あるいは社内承継を選択した場合は後継者を育成する時間を十分とることが重要です。

後継者教育に必要な期間は5年程度といわれるため、中小企業の経営者には早期から後継者候補を決めておき、事業承継が円滑に行えるよう準備をしておく必要があります。

資産

事業承継で引き継ぐ要素の2つ目は「資産」であり、これは「会社の事業運営に必要となる資産を後継者へ譲り渡す」ことです。

株式会社形態の場合は株式(現経営者が個人保有している自社株式)の承継が基本となり、そのほかに不動産・設備などの事業用資産、現預金・貸付金・保険積立金などの非事業用資産を後継者へ引き継ぎます。

また、事業承継では、借入金や連帯保証なども後継者へ引き継がなければなりません。資産を引き継ぐと、後継者に対しては贈与税や相続税がかかります。

株式会社形態の場合は株式の引継ぎが必須ですが、株式評価額は優良企業であるほど高くなるのが一般的です。そのため、後継者の税負担が大きくなるケースが多く、税対策の有無や実施時期によっても変わります。

事業承継を成功させるためには後継者の税負担に対する配慮や対策は不可欠ともいえるものですが、適切に行わなければ逆にデメリットを被る可能性もあるため、専門家へ相談して進めていくことが成功のポイントです。

知的資産

事業承継で引き継ぐ要素の3つ目は「知的資産」であり、これは会社の強みとなる無形資産のことです。知的資産に該当するのは、会社の人材・技術・ノウハウ・特許・ブランド力・顧客・経営理念など、さまざまなものがあります。

知的資産は他社との差別化を図るために不可欠な要素であり、会社にとって収益力の源となるものです。

事業承継を成功させるためには、後継者へこれらの知的資産を正しく承継することが重要ですが、これらの目にみえない経営資源は引継ぎが難しい要素でもあります。

後継者へ正しく引き継ぐためには、現経営者が自社の価値や強みはなにかを客観的な視点で分析し、そのうえで後継者と共有する取り組みを行うことが必要です。

事業承継の方法

冒頭で少し述べたように、事業承継の方法には大きく3つの種類があり、どの方法が適しているかは会社や経営者の状況だけでなく、将来のビジョンによっても変わります。

また、どの事業承継方法にもメリットだけでなくデメリットもあるため、それらを総合的に判断して自社に合った事業承継の方法を選択することが重要です。

親族内承継

親族内承継とは、経営者の子など親族を後継者に据えて会社を引き継ぐ方法をいい、中小企業において親族内承継は最もポピュラーな方法です。

事業承継は子どもへ会社を引き継ぐことというイメージが広く一般的に持たれており、実際に中小企業では親族内承継を選択するケースは多くみられます。

親族内承継のメリット

親族内承継の主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。

  1. 周囲からの理解が得られやすい
  2. 後継者教育の期間が十分確保できる
  3. 所有と経営の分離が起こらない

1つ目のメリットは、周囲からの理解が得られやすいことです。親族内承継の場合、後継者は経営者の子など親族となるため、従業員や関係先も心情的に納得しやすく、特に代々親族へ引き継いできた会社であれば既定路線として自然な流れで事業承継ができます。

2つ目のメリットは、後継者教育の期間が十分確保できることです。事業承継について後継者と早期から話し合っておくことができるので、自社や社外で実務経験を積ませることも可能となり、経営者に必要な基礎部分を学ばせてから会社を引き継ぐことができます。

3つ目のメリットは、所有と経営の分離が起こらないことです。所有と経営の分離とは会社(株式)の所有者と経営者を分離する仕組みをいい、所有と経営が分離されている会社の場合は重要事項を決定する際に株主からの同意が必要となります。

所有と経営の分離はコーポレートガバナンスの強化などのメリットもありますが、意思決定スピードが遅くなったり経営の自由度が下がったりする点などがデメリットであり、中小企業の場合は所有と経営が同一であるケースが大半です。

親族内承継であれば、贈与や相続によって株式や資産を引き継ぐことができるので、所有と経営の分離が起こらず事業承継後もスムーズな事業運営ができます。

親族内承継のデメリット

親族内承継のデメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。

  1. 親族内に後継者としての適任者がいない場合がある
  2. 親族内でトラブルが起こる可能性がある
  3. 株式が分散してしまうと経営権の集中が難しくなる

1つ目のデメリットは、親族内に後継者としての適任者がいない場合があることです。経営者の子などを後継者に据えるつもりでいても、経営者としての資質が備わっているとは限りません。

また、資質・能力があっても、後継者候補に会社を継ぐ意思がない可能性も考えられます。経営者はこのような場合も想定し、親族内に後継者がみつからない場合の事業承継方法も考えておくほうがよいでしょう。

2つ目のデメリットは、親族内でトラブルが起こる可能性があることです。事業承継では後継者が物的資産も引き継ぐかたちとなるため、後継者以外の相続人は相続時に受け取る財産が減ってしまいトラブルが起こる可能性もあります。

親族内承継で経営者に複数人の相続人がいる場合は、後継者以外への配慮や財産分与についての話し合いを行っておくことが重要です。

3つ目のデメリットは、株式が分散してしまうと経営権の集中が難しくなることです。これは特に相続による事業承継で起こりやすいことですが、後継者や友好的な株主以外に株式が分散してしまうと、事業承継後の会社運営においてスムーズな意思決定が難しくなる可能性があります。

親族内承継では後継者が株式(議決権)の2/3以上を取得するのが望ましいといわれますが、生前贈与や遺言による事業承継でも後継者以外の法廷相続人には遺留分の取得が認められているため配慮が必要です。

社内承継

社内承継とは、自社の役員や従業員などを後継者に据えて会社を引き継ぐ方法です。実務上では、後継者となる役員や従業員が自社の株式を取得して会社を引き継ぐケース、株式の譲渡はせずに代表取締役の地位のみを譲るケースなど、さまざまなケースがあります。

社内承継のメリット

社内承継のメリットとしては、主に以下の2点が挙げられます。

  1. 事業や企業理念を理解している人物に会社を引き継げる
  2. 経営者の適性や資質がある人物に会社を引き継げる

1つ目のメリットは、事業や企業理念を理解している人物に会社を引き継げることです。後継者候補となるのは自社に長年勤めた役員や従業員なので、事業内容や企業理念をよく理解しています。

事業承継において企業理念の承継は特に難しいといわれるため、それをスムーズに引き継ぐことができるのは非常に大きなメリットといえるでしょう。

2つ目のメリットは、経営者の適性や資質がある人物に会社を引き継げることです。経営者はともに働く流れのなかで、役員や従業員の適性や資質を見極めることができます。

また、後継者に不足している部分がなにかをあらかじめ把握することができるので、後継者教育が必要な場合も効率的に行える点もメリットのひとつです。

社内承継のデメリット

一方で社内承継のデメリットとして考えられるのは主に以下の3点があります。

  1. 社内に適任者がいない可能性がある
  2. 後継者に株式取得の資金力がない場合が多い
  3. 個人債務保証の引き継ぎが障壁となる場合がある

1つ目のデメリットは、社内に適任者がいない可能性があることです。役員や従業員に必要な能力・スキルと、経営者に必要な資質や能力はイコールではありません。

言い換えれば、役員や従業員としてどれだけ優秀であっても、経営者に適任であるとは限らないということです。そのため、社内承継を検討していても、社内に適任者がいない可能性があります。

2つ目のデメリットは、後継者に株式取得の資金力がない場合が多いことです。社内承継で自社の株式を後継者へ譲り渡す場合、有償による譲渡が一般的です。

株式の評価額は優良企業であるほど高くなり、後継者が経営権掌握に必要な株式を取得するとなれば高額の資金を用意しなければなりません。

社内承継は相続税対策が不要になるメリットはあるものの、後継者が株式取得に必要な資金を個人保有しているケースはほとんどないため、資金面がネックとなりやすい点がデメリットです。

3つ目のデメリットは、個人債務保証の引き継ぎが障壁となる場合があることです。中小企業の場合、事業に必要な融資を受ける際に経営者が個人保証を負うケースが大半ですが、事業承継ではそれらの個人保証も後継者が引き継がなければなりません

そのため、後継者およびその家族が経営リスクに対して十分理解し納得しなければ、社内承継の実現は難しくなります

実際に個人保証の承継がネックとなり社内承継が行えないケースは少なくないため、現経営者は後継者とその家族に対して経営リスクに対する説明を丁寧に行い、理解を得たうえで進めていかなければなりません。

M&Aによる事業承継

M&Aは事業承継を目的として行うこともでき、第三者の企業を後継先として自社(事業)を引き継ぐことが可能です。国の施策が充実してきたこともあり、近年は中小企業がM&Aを行いやすくなっており、中小企業のM&A実施件数も増えています。

M&Aによる事業承継のメリット

M&Aによる事業承継のメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。

  1. 幅広い範囲から後継者を探すことができる
  2. 経営者は売却益(創業者利潤)を得ることができる
  3. 経営者の連帯保証や個人保証が解消される

1つ目のメリットは、幅広い範囲から後継者を探すことができる点です。親族内承継や社内承継の場合はどうしても後継者を探す範囲が限定されますが、M&Aによる事業承継では広範囲から後継者を探すことができます。

同業種だけでなく異業種が相手先(後継者)となるケースもあるため、自社にとって最適な相手先を探せる点はM&Aによる事業承継の大きなメリットです。

2つ目のメリットは、経営者は売却益(創業者利潤)を得ることができる点です。事業承継目的でM&Aを行う場合、会社そのものを売却するケースがほとんどであり、株式譲渡を用いるケースが一般的です。

株式譲渡では株主(経営者)が株式の売却対価を得るので、まとまった現金を得ることができます。事業譲渡スキームでは売却益を会社が受け取りますが、その場合でも経営者は退職金などのかたちで受け取ることが可能です。

3つ目のメリットは、経営者の連帯保証や個人保証が解消されることです。通常、M&Aによる事業承継では、譲受側企業(後継者となる側)が保証自体を引き継ぐか、融資を肩代わりする方法で経営者の個人保証が解除されます。

といっても、M&Aによる事業承継を行う流れで自動的に個人保証が外れるわけではなく、金融機関など融資元での手続きが必要です。この解除手続きが完了するまでは経営者の個人保証は解除されないため注意が必要です。

M&Aによる事業承継のデメリット

M&Aによる事業承継のデメリットとなり得るものには以下の3つがあります。

  1. 自力で相手先(交渉先)をみつけるのは難しい
  2. M&A後の統合プロセスに時間がかかる
  3. M&A後は経営の自由度が下がる

1つ目のデメリットは、自力で相手先(交渉先)をみつけるのは難しいことです。M&Aによる事業承継では、多くのケースにおいて面識のなかった企業が相手先(後継者)となります。

そのため、自社の力のみで相手先を探すとなれば、相当な労力と時間がかかるケースがほとんどでしょう。M&A仲介会社などを活用すれば費用はかかりますが、効率的かつ希望条件に合った相手先(後継者)を探すことができます。

2つ目のデメリットは、M&A後の経営統合に時間がかかることです。M&Aは最終契約を交わして対価の支払いや経営権を移転したら成功というものではなく、M&A後のスムーズな事業運営にはPMIと呼ばれる統合プロセスが必要です。

PMIの範囲は経営・業務・意識のすべてに及ぶため、時間をかけて丁寧に進めなければ想定していたM&Aの効果が得られない可能性もあります。

M&Aによる事業承継は、統合プロセスに時間がかかることを意識しておき、M&Aの効果が十分発揮されるよう譲渡側・譲受側が協力して統合プロセスを進めることが成功のポイントです。

3つ目のデメリットは、M&A後は経営の自由度が下がることです。M&Aによる事業承継を選択した場合、M&A後は譲受側の経営方針に従って事業を進めていく流れとなります。

組織が大きくなれば経営基盤の安定化が図れるなどのメリットがある一方で、経営の自由度が下がる点をデメリットと感じるケースもあるでしょう。

中小企業の事業承継事情

中小企業は国内企業の9割以上を占める経済や雇用を支える柱です。しかし、近年では事業承継が困難な中小企業も少なくなく、中小企業の円滑な事業承継の推進は課題のひとつとなっています。ここでは中小企業の事業承継事情についてみていきましょう。

中小企業の後継者不在率推移

国内の中小企業における後継者不在率は改善傾向がみられます。帝国データバンクが全国・全業種の約27万社を対象に行なった調査によれば、2023年の後継者動向について「後継者がいない・未定」と回答した企業は14万6000社であり、全体の53.9%が後継者不在という結果でした。

同調査における2022年の後継者不在率は57.1%であり、前年比で3.3%低下しています。前年の水準を下回るのは6年連続であり、同社が調査を開始した2011年以降では過去最低の後継者不在率となりました。

中小企業の後継者不在率が改善傾向にある要因として考えられるのは、事業承継・引継ぎ補助金制度など支援体制が充実してきたこと、事業承継・引継ぎ支援センターの設置、M&A仲介会社など民間の支援会社が増えたことなどです。

また、経営者だけでなく後継者候補も事業承継の必要性・重要性を認知してきたことも、後継者不在率の改善につながっているものと考えられます。

参考:株式会社帝国データバンク「 特別企画:全国 後継者不在率 動向調査(2023 年)」

中小企業の事業承継方法の実情

中小企業では経営者からその子どもへ代々事業を引き継ぐ流れも多く、かつては親族内承継が中小企業の事業承継では主流でした。しかし、近年は親族内承継の割合が徐々に減っており、社内承継(内部昇格)やM&Aによる事業承継を選択する企業が増えてきています。

前述した帝国データバンクの調査によれば、2019年から2023年までの5年間で実施された事業承継では社内承継(内部昇格)を選択した割合が2023年は35.5%であり、親族内承継の33.1%を上回る結果となりました。

また、M&Aによる事業承継(買収や出向など)の割合は20.3%、社外の第三者を後継者とする外部招聘は7.2%となり、中小企業の事業承継方法は「脱ファミリー化」の流れが加速しています。

親族・社内での事業承継の流れ

事業承継は、親族内承継・社内承継とM&Aによる事業承継では全体の流れが異なります。事業承継を成功させるためには準備が大切なので、自社が選択する事業承継方法の流れをあらかじめ把握しておきましょう。ここでは、親族内承継・社内承継の大まかな流れを解説します。

状況把握

経営者が事業承継について意識し始めたら、まずは後継者候補の有無や自社の経営状況、保有資産(相続などで後継者へ譲り渡す資産)の把握など、現時点の状況を確認します。

これらをしっかり把握しておかなければ事業承継計画はたてられないので、現時点では事業承継を検討していないという経営者も、ある程度の年齢になったら準備を進めておくとよいでしょう。

また、状況を把握するなかで後継者候補がいない場合や、他社へ引き継いだほうが自社の将来に有益だと判断した場合はM&Aによる事業承継について検討することも必要です。

磨き上げ(企業価値向上)

事業承継について自社の現況が把握できたら、次は経営状況や現時点での課題を「見える化」します。そして、自社が改善すべきポイントが明確になったら、次に行うべきは「磨き上げ(企業価値向上)」のための取り組みです。

磨き上げの方法には問題点の改善だけでなく、自社の強みを強化したり売上向上のために業務マニュアルを見直したりするなども含まれます。

後継者は問題点があったり業績が思わしくなかったりする会社を引き継ぎたいとは考えないのが普通です。そのため、事業承継を行う前に磨き上げを行っておき、自社の魅力を高めておくようにしましょう。

後継者の選定

親族内承継・社内承継のどちらを選択するにせよ、経営者は後継者候補の適性・能力・年齢などから本当に会社を任せるにふさわしい人物なのかをよく考えることが重要です。

そのうえで、後継者候補に会社を引き継ぐ意思があるかを確認します。特に経営者の個人保証の引継ぎや社内承継であれば株式取得費用の用意がネックとなりやすいため、丁寧に説明したうえで後継者候補の意思を確認することが重要です。

また、後継者の選定時は、親族内承継であれば相続税や贈与税のシミュレーションやほかの法定相続人への対応、社内承継であれば株式取得費用のための融資方法なども検討しておく必要があります。

これらを検討したうえで後継者候補に会社を引き継ぐ意思を確認し、後継者にその意思がある場合は次の経営者に決定しますが、もし辞退された場合はM&Aによる事業承継を視野に入れることが必要です。

事業承継計画書策定

後継者が決定したら事業承継計画書を策定し「いつどのような方法で何を承継するか」を具体的に決めておきます。

事業承継計画を策定するときは後継者が自身のすべきことを理解できるよう、共同で行うことが成功のポイントです。

また、事業承継計画書では経営方針や目標、自社の方向性などを長期的な視点から考え、具体的な計画を策定します。

事業承継計画書の策定方法やポイントは中小企業庁のホームページにも載っているので参考にするとよいでしょう。

後継者教育

後継者教育にはいくつかの方法がありますが、いずれも経営者にとって必要なノウハウや知識を身に着けさせるために行います。

後継者教育には社外で経験を積ませる方法や、自社で経営幹部として参画させる方法などがあるので、後継者の状況に合わせて決めるとよいでしょう。

後継者教育にかかる期間は少なくとも5年ともいわれているため、事業承継を行う時期から逆算して計画的に進めていくことが成功のポイントです。

事業承継実施

事業承継計画に沿って後継者教育などを進め、事業承継を行う時期になったら経営権や資産を後継者へ移転させます。

親族内承継であれば贈与や相続によって株式や資産を移譲するケースもありますが、その際は税金対策などもあらかじめ行っておくようにしましょう。

法律や税務の面で専門的な知識が必要な場面もでてくるため、手続きの漏れや間違いがないよう、専門家に相談しながら進めていくことが成功のポイントです。

M&Aで事業承継する場合の流れ

事業承継の方法にM&Aを活用する場合は、親族内承継や社内承継とは流れが異なります。ここでは、M&Aによる事業承継の大まかな流れをみていきましょう。

M&Aマッチング

M&Aによる事業承継の場合、まず後継者(事業を引き継ぐ相手先)となる企業を探します。M&Aの手続きには専門的な知識やノウハウが必要となるため、M&A仲介会社などに依頼して進めていくのが一般的です。

相手先を探す際は、自社の希望条件をアドバイザーに伝えると候補先リストを作成してくれるので、そのなかから交渉したい企業を絞り込みます。そして、アドバイザーを通して打診し、相手先企業もM&Aに前向きであれば交渉へと進む流れです。

トップ面談

M&A交渉に先駆けて譲渡側・譲受側企業の経営者同士によるトップ面談の場が設けられます。トップ面談は、相手先経営者の人間性や企業理念などを確認し、M&A成功に不可欠な信頼関係を構築することが主な目的です。

そのため、価額やM&Aの諸条件について交渉するのではなく、自社を任せるのにふさわしい企業なのかを見極めることを意識して臨むようにしましょう。

デューデリジェンス

トップ面談を終えて譲渡側・譲受側企業の双方がM&A成立に向けて前向きであれば、価額や諸条件など具体的な交渉を進め、互いがM&Aの内容に大筋合意した段階で、基本合意を締結します。

なお、基本合意の締結はその時点までで取り決めた内容を確認する意味合いが強く、またM&A成立を確約するものではありません。

基本合意締結後は、譲受側企業が譲渡側企業に対し、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスは譲渡側企業が交渉前に開示した情報が正確であるか、買収によるリスクはどの程度なのかを譲受側が把握するために行う調査です。

デューデリジェンスの結果は譲受側企業がM&A実行を判断する材料となるため、基本合意時点の条件や価額が変更されたり、場合によってはM&A交渉が白紙になったりすることもあります。

M&A契約締結

デューデリジェンスの結果、譲受側企業がM&Aを実行すると判断したら最終交渉へ進みます。最終交渉はデューデリジェンスの結果を踏まえて行われ、交渉内容すべてに双方が合意したら最終契約を締結してM&Aは成立となります。

なお、最終契約書に記載された事項はすべて法的拘束力があるため、締結前によく確認しておくことが重要です。

M&A成立後は株式の移転や対価の決済などのクロージング手続きを行います。クロージングの流れはM&A手法によっても変わるため、アドバイザーに確認しつつ行いましょう。

事業承継で発生する税金

事業承継は株式や資産などの移転を伴うため、課税の対象となります。かかる税金は事業承継方法によって変わりますが、税額が高額となるケースも少なくないため事前に把握しておくことが重要です。

親族内承継での税金

親族内承継を選択した場合は、相続税や贈与税の課税対象となります。事業承継では自社株式だけでなく資産も後継者が引き継ぐため、高額な税額となるケースも多いです。

税負担を抑える方法もあるので、それらを上手に活用することが円滑な事業承継の実現にもつながります。

贈与税

後継者へ経営権を移転させるためには自社株式を移譲しますが、その際は生前贈与を活用すると後継者にかかる贈与税の負担を軽減することが可能です。

贈与税には「相続時精算課税制度」「暦年課税制度」の2つの課税制度があり、そのどちらかを選択することができます。

相続時精算課税制度は、生前贈与で譲り受けた資産額が2500万円以下の場合は非課税となる制度です。相続時精算課税制度を選択した場合、2500万円を超える場合は贈与税が一律20%で課されます。

ただし、相続時精算課税制度を活用する場合、現経営者の死亡時に財産を相続すれば、取得した財産に対して相続税がかかる点に注意が必要です。

一方の暦年課税制度は1年間の贈与合計額に対して贈与税が課される制度であり、税率は贈与合計額によって変動します。ですが、暦年課税制度には非課税枠があり、贈与額が年間110万円以下であれば税金はかかりません。

相続税

事業承継が相続によって行われた場合は、後継者が移譲された株式およびすべての事業用資産が相続税の課税対象となります。

複数の法定相続人がいるケースでは、全体の相続税額(総額)を各相続人の相続割合で割ることで各々の税額が決まる仕組みです。

相続による事業承継は相続税額が高額となるケースも多く、相続人は納税額分の現金を用意しなければなりません。そのため、相続税の支払いがネックとなり、事業承継できない企業もみられます。

相続税負担を軽減するためには、事業承継税制を活用する方法が有用です。事業承継税制を活用すると要件を満たせば納税猶予や免除を受けられるので、上手に活用するとよいでしょう。

M&Aの株式譲渡における税金

事業承継方法にM&Aを活用した場合は、M&Aスキームによって課される税金が変わります。まずは株式譲渡によって事業承継を行った場合にかかる税金について、譲渡側・譲受側それぞれ解説します。

譲渡側の税金

株式譲渡スキームを使用して事業承継を行なった場合、株式の売却益を受け取るのは経営者(株主)です。そのため、課税対象者は経営者(株主)となり、売却で得た利益に税金がかかります。

分離課税方式による固定税率であり、税率は20.315%です。譲渡取得額と株式取得税額は以下の計算式で求めることができるので、事前にシミュレーションしておくとよいでしょう。

株式譲渡の取得額にかかる税金の計算方法

株式譲渡所得額の計算方法

所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%

=株式譲渡所得税率20.315%

※復興特別所得税は2037年まで

株式売却価格-(株式取得費用+株式譲渡にかかった費用)

=株式譲渡所得額

※株式取得費用→資本金額

※株式譲渡にかかった費用→仲介会社などへの支払い手数料

譲受側の税金

譲受側への課税は原則生じません。

M&Aの事業譲渡における税金

事業譲渡は企業が手掛ける事業(一部あるいは全部)を売買対象とするM&Aです。株式の移転を伴わない手法であり譲渡側の法人格はM&A後も残るので、売却対象以外の事業を続けることができます。

事業承継では後継者へ経営権を移譲するのが一般的なため、事業譲渡が事業承継方法として用いられるケースはあまりありません。

譲渡側の税金

事業譲渡を用いた場合の売主は企業となるため、課税対象者である企業に対して法人税がかかり、現在の法人税率(実行税率)は約31%です。

また、法人税法では損益通算が認められているため、譲渡益を上回る赤字を抱えているケースなどでは課税が生じません。

譲受側の税金

譲受側が取得した対象に消費税の課税対象となる資産が含まれているときは、それに対して消費税が課されます。

この消費税は譲受企業が直接納めるわけではなく、消費税額を事業取得対価に上乗せして支払い、譲渡企業が納めるかたちです。また、不動産を取得した場合は不動産取得税と、登記時には登録免許税がかかります。

事業承継を成功させるには

事業承継は単に代表取締役の地位を後継者へ譲り渡せばよいというものではなく、承継後に自社がより成長・発展していくことが望ましいです。ここでは、事業承継を成功させるためのポイントについて解説します。

早い段階での準備

事業承継を成功させるためには、できるだけ早い段階から準備を始めておくことが大切です。親族内承継や社内承継を予定している場合は後継者教育の期間も見越しておく必要があり、M&Aによる事業承継でも希望条件に合う相手先がみつかるまでに時間がかかる可能性もあります。

事業承継が必要になってからでは十分な準備ができない可能性もあるため、経営者は自身の引退予定時期から逆算し計画的に進めておくことが成功のポイントです。

後継者教育

親族内承継または社内承継を予定している場合、後継者教育をしっかり行うことも重要なポイントです。

後継者教育では経営者としてのノウハウや知識を教えるだけでなく、企業理念などの目に見えない要素もしっかり伝えなければなりません。

また、後継者教育の一環として他社で実務経験を積ませる方法を採るケースも多いですが、その場合は事業承継計画にその流れも組み込んでおく必要があります。

税金対策

事業承継では後継者へ経営権を移転させるために自社の株式を移譲するのが一般的です。親族内承継であれば贈与や相続によって譲り渡すケースが多いですが、その際は後継者に対して贈与税あるいは相続税が課されます。

通常、事業承継では会社の経営権を掌握できるだけの株式を後継者へ譲り渡すため、税金が高額となるケースも少なくありません。

そのため、経営者は事業承継の計画をたてる際に後継者の税金対策についても考えておく必要があります。税金対策の方法には生前贈与や事業承継税制を活用するなどがあるので、専門家へ相談してみるとよいでしょう。

資金対策

社内承継を予定している場合、後継者に株式を有償譲渡するケースが一般的です。株式取得には多額の資金が必要ですが、後継者が個人でその分の現金を保有していることはほぼありません。

そのため金融機関からの融資など、どのような方法で資金を用意するかを後継者と一緒に経営者も考えておく必要があります。

また、事業承継を機に事業転換や経営革新を行うケースで資金が必要となる場合もあるでしょう。このような場合は「事業承継・引継ぎ補助金」の活用がおすすめです。

この制度は国が事業承継を行う中小企業を対象に設けた制度であり、要件を満たせば事業転換や経営革新を行う場合も活用することができます。

事業承継で活用できる補助金については中小企業庁のホームページに掲載されているので、一度見ておくとよいでしょう。

相続対策

経営者に複数人の法定相続人がいる場合、相続によって事業承継が行われるケースも想定しておくことが必要です。

中小企業の場合、経営者が自社の株式をすべて保有しているケースも多いですが、法定相続人が複数いると株式が分散してしまう可能性もあります。また、法定相続人にも遺留分を請求する権利があるため、親族内でトラブルが起こる要因にもなりかねません。

経営者は相続によって事業承継が行われるケースも考え、遺言書を作成しておくとともに相続について親族内で話し合う機会を設けておくことも大切です。また、相続の場合、後継者以外の法定相続人への財産分与についても決めておくことが事業承継の成功につながります。

失敗事例を知っておく

事業承継を成功させるためには、実際の事例を知っておくと役立つことも多いです。成功事例だけでなく失敗事例もみておくと、注意すべき点や成功させるためのポイントなどを知ることができます。ここでは、中小企業の事業承継で失敗しやすいポイントをみていきましょう。

事前準備不足

十分な準備をしておかなければ、事業承継を成功させるのは難しいものです。単純に代表取締役の地位を譲り渡すことはできても、事業承継後に会社経営が円滑に進まなければ事業承継が成功したとはいえません。

M&Aによる事業承継の場合は希望条件を決めたり磨き上げを行ったり、相手先探しや交渉の前にすべきこともあります。また、満足度の高いM&A実現を目指すためにはタイミングも重要となるため、早めに準備をして備えておくことが成功のポイントです。

後継者の人選ミス

後継者には次の経営者にふさわしい人物を選ぶことが重要ですが、見極めが難しいというのも事実です。後継者を選定するときは、能力だけでなく経営者としての適性の有無も見極めなければなりません。

後継者にどちらかが欠けている場合、後継者教育で補えるものかどうかを含めてよく検討することが重要です。

後継者教育の失敗

能力・資質の高い後継者であっても、経営者に必要な知識やノウハウは不足しているケースがほとんどです。後継者教育はその不足部分を補い、同時に経営者としての意識やノウハウを身に着けさせるために行います。

実務上では社外である程度経験を積ませたうえで自社の経営に参画させる流れも多いですが、これには少なくとも5年程度が必要です。

社内承継であれば経営理念もよく理解していますが、親族内承継でこれまで自社の業務に携わっていなかった場合は意識面もしっかり伝えなければなりません。

後継者教育に十分な時間を割けずに事業承継の時期を迎えてしまうと、承継後の会社運営がうまくいかない可能性もあるため、時間的余裕を持って後継者教育を行うことが成功のポイントです。

相続争い

中小企業の場合、経営者の死亡によって相続が発生し、事業承継が行われるケースも多いです。生前から親族内の後継者を決めておいたとしても、法定相続人が複数いる場合は株式が分散したり財産分与について争いが起きたりする可能性もあります。

事業承継後に後継者が円滑に事業運営をしていくためには、2/3以上の株式を取得させるのが望ましく、中小企業の場合は全株式を取得させたいと考える経営者も多いはずです。

また、事業用資産も後継者が引き継げるよう準備をしておかなければなりませんが、法定相続人には遺留分の請求が認められているため、生前から財産分与について親族内で話し合っておかなければ相続争いに発展する可能性もあります。

経営者は自身が死亡した場合も想定し、相続争いが起こらずに自社を後継者へ引き継げるよう対策をとっておくことが成功のポイントです。

周知不足

中小企業の場合、経営者がすべての経営ノウハウを持っていたり、個人的な人間関係から取引先と長く続いていたりするケースも多いです。

いわゆる「ワンマン経営」である中小企業も少なくないため、事業承継で経営者が代わることで従業員や取引先との関係性が変わってしまう可能性もあります。

どの方法で事業承継を行うにせよ、経営者が交代することは従業員・関係者に少なからず影響を与えることをよく理解しておき、しかるべきタイミングで関係者へは丁寧に説明し、事業承継後の会社運営が円滑に進むよう理解を求めることも成功のポイントです。

M&Aにおけるミス

M&Aによる事業承継では、第三者である企業へ自社を引き継ぐこととなります。ほとんどの場合はこれまで面識がなかった企業が引継ぎ先(後継者)となるため、希望条件に合っているか、将来のビジョンや事業の方向性は納得のいくものか、などを慎重に見極めることが重要です。

高値で売却できれば多くの利益を得ることはできますが、高値で売却できる企業が事業承継相手として最適なのかは必ずしもイコールではありません

また、M&Aによる事業承継は着手してすぐに交渉先がみつかるとは限らないため、早期からしっかりと準備を進めておくことが、よい相手先を逃さないためのポイントです。

事業承継への公的支援

中小企業が円滑に事業承継を行えるよう、国や地方自治体などによる公的支援があります。補助金や税制優遇が受けられるものや事業承継計画の作成に役立つものまでさまざまあるので、積極的に活用するとよいでしょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継を支援する国設置の相談窓口です。センターは全国47都道府県に設置されており、親族内承継・社内承継・M&Aによる事業承継の方法を問わず、事業承継に関する相談を無料で行うことができます

M&Aによる事業承継の場合はセンター側が仲介業務を行うことはしませんが、提携先の専門家へつないでもらうことが可能です。また、創業を希望する起業家と後継者不在の中小企業をマッチングする「後継者バンク」事業も行っています。

中小企業大学校

中小企業大学校は、中小企業者を対象とする経営方法や技術研修や、中小企業支援担当者などの養成や研修を行う機関です。

全国に9か所ある地域本部やWebを通して研修メニューを利用することができます。公的機関が運営しているので受講料は安価となっており、助成金制度の活用も可能です。

事業承継ガイドライン

事業承継ガイドラインは、経済産業省中小企業庁が中小企業および小規模事業者の経営者を対象とし、事業承継における課題や取り組み方を周知するために策定した指針です。

ガイドラインでは事業承継への早期取り組みの重要性、事業承継実現までに踏むべきステップなどがまとめられています。

具体的な取り組みの方法や事業承継に活用できるツールなども紹介されているため、一度は目を通しておくべき資料です。

参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」

事業承継マニュアル

事業承継マニュアルは事業承継ガイドラインに沿った内容となっており、中小企業の経営者が円滑な事業承継を実現させるために知っておきたいポイントがイラストや図を交えてわかりやすくまとめられています。

事業承継計画の策定方法や後継者教育の方法、株式(経営権)の分散防止への対策方法など、知っておきたいポイントが解説されているので、一度読んでおくとよいでしょう。

参考:中小企業庁「事業承継マニュアル」

中小M&Aガイドライン

中小M&Aガイドラインとは、後継者不在の中小企業がM&Aによって事業承継を行う場合や、中小M&A全般を支援する事業者の行動指針などについて、中小企業庁が策定したものです。

このガイドラインは、中小企業が円滑にM&Aを行うことによって、雇用の損失や企業の廃業を防ぐことを主な目的として2020年に初版が策定されました。

ガイドラインではM&Aについての基本的知識やM&Aプロセス、M&A仲介会社など支援業者への費用などについても説明されています。

中小M&A推進計画

中小M&A推進計画は、後継者問題やコロナ渦などによる中小企業の休廃業を防ぐ目的で、中小M&Aを事業承継方法のひとつとして推進するために、官民が行う2021年度から2025年度までの取り組みを策定したものです。

小規模・超小規模M&Aや大規模・中規模M&Aの円滑化、 中小M&Aを実施しやすくするための基盤構築についての課題や具体的な対策が示されています。

M&A支援機関登録制度

M&A支援機関登録制度は、M&Aを行う中小企業が安心して取り組める基盤の構築を目的として中小企業庁が創設した制度です。登録されているのは審査を通った支援事業者のみなので、安心して利用することができます。

また、中小企業が事業承継・引継ぎ補助金を活用してM&Aを行う場合に依頼する専門家は、M&A支援機関登録制度に登録された事業者でなければ補助金の対象とはなりません。

事業承継税制

事業承継税制は、事業承継時に課される贈与税および相続税の納税猶予が受けられる制度です。制度を利用するためには要件を満たしていることが前提であり、事業承継後に一定要件を満たした場合は猶予された税金が免除されます。

事業承継税制を活用できるのは、都道府県の知事から経営承継円滑化法の認定を受けた非上場企業のみなので、利用する場合は事業承継を行う前に申請手続きが必要です。

制度の詳細や申請期間などは中小企業庁のホームページから確認できるので、確認しておくとよいでしょう。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制は、経営力向上計画に基づきM&Aを行った中小企業が税の優遇が受けられる制度です。この制度を活用するためには要件を満たしたうえで経営力向上計画について申請を行い、採択される必要があります。

経営資源を集約することで生産性向上などを図ることが制度の目的であり、設備投資減税と中小企業事業再編投資損失準備金の2つを活用することが可能です。

経営資源集約化税制についての詳細や申請方法などは中小企業庁のホームページから確認することができますが、要件が複雑なので専門家に相談しながら進めていくとよいでしょう。

遺留分に関する民法の特例

法定相続人には遺留分の請求が認められているため、親族内承継の場合は後継者へ事業用資産や自社株式を集中させるのが困難なケースもあるでしょう。

この法定相続人の遺留分については民法上の特例があり、現経営者の法定相続人全員(後継者を含む)の合意があれば自社株式の贈与や事業用資産の価額について、固定合意あるいは除外合意できます。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継を機に経営革新などを行う中小企業および小規模事業者を対象とする補助金です。

補助金にはⅠ型とⅡ型の2種類があり、補助対象の要件が異なります。Ⅰ型は「後継者承継支援型」といい、経営革新などを事業承継を機に行う中小企業または小規模事業者が対象です。

一方のⅡ型は「事業再編・事業統合支援型」であり、経営統合や事業再編によって経営資源の引継ぎを行う中小企業または小規模事業者が補助対象となります。

Ⅰ型とⅡ型とでは補助限度額が異なり、また補助を受けるためには公募期間内に申請が必要です。公募スケジュールや補助要件などは、事業承継・引継ぎ補助金事務局から確認できるのでこまめにチェックしておくとよいでしょう。

自治体による事業承継支援助成金

中小企業の事業承継を支援する助成金制度を設けている自治体もあります。たとえば、東京都の「事業承継支援助成金」は、M&Aによる事業承継や経営改善のためにM&Aを活用する取り組みに対し、経費の一部を補助する制度です。

自治体によって支援制度の有無や補助内容が違うため、ホームページなどで確認してみるとよいでしょう。

中小企業信用保険法や日本政策金融公庫法などの特例

事業承継に伴い、中小企業の代表者個人が資金を必要とする場合、中小企業信用保険法や日本政策金融公庫法などの特例が受けられます。

これは経営承継円滑化法に基づくものであり、中小企業の円滑な事業承継の実現が目的です。特例が適用されるためには都道府県知事の認定が必要であり、認定されれば日本政策金融公庫あるいは沖縄振興開発金融公庫の融資を受けることができます。

また、資金を用意するために金融機関から融資を受ける場合は信用保証協会の特例制度を利用することが可能です。

所在不明株主に関する会社法の特例

事業承継時に所在不明の株主がいる場合、その株式を取得するためには所在を特定しなければならず手間と時間がかかり、円滑な事業承継の妨げになる可能性もあります。

このような場合でも中小企業が円滑に事業承継を行えるよう、2021年に所在不明株主について会社法の特例が新たに設けられました。

特例では、M&Aを含む事業承継を予定している中小企業が、所在不明の株主がいるために事業承継が困難であることが法的に認められた場合、当該株主からの株式買取りなどの手続き期間を5年から1年に短縮することができます。

なお、特例が適用されるためには申請が必要となるため、専門家に相談しながら進めていくと安心です。

事業承継のまとめ

中小企業の事業承継は企業の存続というだけでなく、地域雇用を守るうえでも重要な意味を持ちます。また、企業が成長・発展していくためにも、適切な時期に事業承継を行うことが重要です。

そのため、中小企業の経営者には事業承継の重要性を認識し、早期から計画をたてて進めていくことが求められます。そして、経営者自身の周りに後継者候補がいない場合は、M&Aによる事業承継を視野に入れることも必要といえるでしょう。

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