事業承継の手続き方法と流れとは?必要書類や税金についても解説!
事業承継には後継者の立場の違いによって3種類の方法があり、それぞれの手続き内容は同じではありません。本コラムでは、事業承継の方法ごとに、手続きの流れやポイント、必要書類、発生する費用・税金、個人事業と会社の事業承継の違いなどを解説します。
目次
事業承継とは
事業承継とは、会社や個人事業の経営を現経営者から後継者に引継ぐことです。事業承継が行われない会社や個人事業は、現経営者の引退をもって廃業するしかありません。会社や個人事業が存続していくためには、事業承継手続きは欠かせないものです。
まず、ここでは、事業承継の基本的な項目として以下の説明をします。
- 事業承継で後継者に引き渡すもの
- 事業承継への対策内容
- 会社と個人事業主との事業承継方法の違い
それぞれの内容を確認しましょう。
事業承継で後継者に引き渡すもの
事業承継手続きによって現経営者から後継者に受け渡される要素は以下の3点です。
- 経営権
- 経営用資産
- 無形資産
経営権とは文字どおり、会社または個人事業の経営権・運営権のことです。経営権の承継に付随して欠かせないものに、経営用資産があります。経営用資産とは、会社の場合は自社株式であり、個人事業の場合は事業用資産のことです。
また、無形資産も受け渡さなければ事業承継手続きは完了しません。無形資産とは人材、ノウハウ、ブランド力、技術力、知的財産などのことです。
事業承継への対策内容
事業承継手続きは、現経営者が後継者を指名して終わりではありません。後継者の選定と並行して行うべき事業承継対策の主な内容として、以下の3つがあります。
- 現在の会社・事業状態の分析・把握
- 弱みの克服、強みの強化などの企業価値向上施策
- 事業承継計画書の策定
事業承継手続きの細かな説明は後述しますが、手続きのポイント・柱となるのは上記の3点です。
会社と個人事業主との事業承継方法の違い
会社と個人事業の事業承継手続き・方法の違いは、個人事業では廃業手続きを行うことです。会社の事業承継手続きでは、後継者が自社株式を取得することで経営者の地位を引継ぎます。法人格や会社組織に関する特別な手続きはありません。
一方、個人事業の事業承継手続きでは、後継者に事業用資産を引渡した先代経営者は廃業手続きを行います。そして、後継者が新たに開業手続きを行うことで事業承継手続きが完了する流れです。
事業承継3つの方法
事業承継は、後継者の立場の違いにより、以下の3種類の方法があります。
- 親族内事業承継
- 社内事業承継
- M&Aによる事業承継
各事業承継方法の概要を説明します。
親族内事業承継
親族内事業承継とは、現経営者の配偶者、子ども、孫などの親族が後継者となる事業承継です。代表的な後継者は、経営者の子どもでしょう。
従来、親族内事業承継は広く行われてきましたが、少子化で子ども自体が減り、価値観の多様化で親の後を継がない子どもが増え、近年は減少傾向です。親族が後継者になりたがらない他の理由として、相続税や贈与税の負担を嫌うケースもあります。
社内事業承継
社内事業承継とは、会社の役員や雇用している従業員が後継者となる事業承継です。従来から親族内事業承継ができない際の次善の策として広く行われてきましたが、現在は親族内事業承継の減少に伴い増加傾向にあります。
社内事業承継の課題は、後継者候補の資金問題です。親族ではない従業員は自社株式や事業用資産を相続できないため、現経営者から買取るしかありません。高額となる買取資金を用意できず、後継者を辞退する従業員もいます。
M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継とは、親族や社内に後継者候補がいないケースにおいて、M&Aで自社株式や事業用資産を売却し、その買収側が新たな経営者(後継者)となって事業承継することです。
以前は、後継者候補がいない会社や個人事業主の選択肢は廃業でした。しかし、廃業する中小企業や小規模事業者が多発することを警戒した国が、M&Aによる事業承継の啓発活動を行い、現在、増加傾向にあります。
以下の動画では、3種類の事業承継方法について解説しています。ご参考までご覧ください。
親族内・社内事業承継の手続き方法と流れ
親族内事業承継と社内事業承継は、以下のような流れ・方法で手続きを進めます。
- 状況の把握
- 後継者候補選び
- 後継者本人の意思確認
- 関係者への周知
- 事業承継計画書の作成
- 経営改善
- 後継者教育
- 株式・事業用資産の受け渡し
- 個人保証の処理
- 税金の納付
時系列の流れに沿って、親族内事業承継と社内事業承継の各手続き・方法を説明します。
状況の把握
事業承継を完遂させる手続きの流れの中には、経営の改善や自社の磨き上げ(企業価値向上)が含まれます。それらの具体的な施策を検討するためには、あらためて自社の状況を把握し分析しなければなりません。状況の把握・分析の主たるテーマは以下の項目です。
- 業界動向
- 事業の状況
- 組織
- 人材
- 設備
- 知的財産権
これらの分析により、自社の強みと弱みを明確化することが肝要です。
後継者候補選び
状況把握からの流れとして次に行うのは、後継者候補の選定です。親族あるいは社内から、後継者としての適性があると思える人物を選定します。
単に自分の子どもだから、社歴の長い社員だからなどといった理由で決めるのではなく、経営者として適性があるかどうかを鑑みて選びましょう。ここで後継者候補が見つからない場合、M&Aによる事業承継に切り換える流れとなります。
後継者本人の意思確認
後継者候補の選定がすんだら、早速、本人の意思確認をする流れです。経営者の子どもであれば、ある程度の予測はしていたかもしれません。しかし、従業員の場合は驚いてためらうこともあるでしょう。後継者候補に選んだ理由や、経営を託したい思いなどを丁寧に説明することです。
もし、この段階で後継者候補が固辞するような場合は、M&Aによる事業承継に切り換える流れとなります。
関係者への周知
後継者の意思を確認できたら、今後は具体的な事業承継手続きを進めていく流れとなります。その手始めに、後継者候補の決定をステークホルダーに伝えましょう。事業承継手続きにおけるステークホルダーは、親族、従業員、取引先です。
タイミングや伝え方を工夫し、できるだけ各ステークホルダーが後継者を好意的に受け取るようにしましょう。
事業承継計画書の作成
今後の事業承継手続きを問題なく進めるため、事業承継計画書の作成は必要な流れです。独自に作成するのが難しい場合は、各都道府県にある公的機関の事業承継・引継ぎ支援センターに相談できます。
あるいは、中小企業庁が作成しインターネット上で公開されている「事業承継マニュアル」では、事業承継計画書の作成方法や書式、サンプルが掲載されているので参考にしましょう。
経営改善
経営改善は一時的に行うものではなく、事業承継が完了するまで、場合によっては事業承継後も後継者が引継いで行っていくこともあります。事業承継手続きの流れの中に経営改善があるのは、できるだけ良い経営状態にして事業承継のバトンを渡すためです。
経営改善には負債の圧縮といったことも含まれます。不要資産があれば積極的に売却し、財務状態も改善しましょう。
後継者教育
後継者教育は、事業承継手続きの流れの中で最重要テーマといってもいいでしょう。会社・事業の今後を託すわけですから、教育内容は多岐にわたり時間もかかります。後継者専用の外部のセミナーに一定期間、通わせるケースもあるようです。
いずれにしても、後継者教育には5~10年かかるという説もあります。抜けがないように事業承継計画を立てておきましょう。
株式・事業用資産の受け渡し
会社・事業の経営権を実際に後継者に引渡す流れとなれば、以下のいずれかを行います。
- 親族内事業承継(現経営者存命中):自社株式または事業用資産の贈与・受贈
- 親族内事業承継(先代経営者死去):自社株式または事業用資産の相続
- 社内事業承継:自社株式または事業用資産の買取り
親族内事業承継であれ社内事業承継であれ、現経営者の存命中に自社株式・事業用資産を引渡した方がスムーズに手続きが進むでしょう。
個人保証の処理
個人保証とは、会社が金融機関から融資を得た際に経営者個人が連帯保証人になることです。個人保証は、中小企業経営者のほとんどが行ってきました。事業承継が行われた場合、個人保証の扱いは以下のいずれかになります。
- 先代経営者がそのまま個人保証
- 先代経営者の個人保証を解除し後継者が新たに個人保証
- 個人保証を解除
現在、中小企業庁では、個人保証をできるだけなくすよう金融機関に働きかけています。事業承継を機に、個人保証の解除を金融機関に提案してみるとよいでしょう。
税金の納付
親族内事業承継の場合、自社株式または事業用資産を引継いだ後継者は、税金を納付しなければなりません。税金は贈与税または相続税です。
贈与税は、受贈した翌年の確定申告(2月16日~3月15日)で納付します。相続税は、相続から10カ月以内が納付期間です。税額の計算も必要であり、税理士に相談することをおすすめします。
以下の動画では、親族内事業承継とM&Aによる事業承継の比較解説をしています。ご参考までご覧ください。
M&Aによる事業承継の手続き方法の流れ
M&Aによる事業承継手続きは、以下の方法・流れとなっています。
- M&Aアドバイザーとの契約締結
- 買い手企業探し
- 秘密保持契約締結・交渉開始
- トップ面談
- 基本合意書の取り交わし
- デューデリジェンス
- 最終交渉・最終契約締結
- クロージング
この流れに沿って、M&Aによる事業承継手続き・方法を説明します。
M&Aアドバイザーとの契約締結
M&Aによる事業承継手続きを進めるには、M&Aに関する専門的な知識や経験が求められます。独力で進めるのは無理があるため、M&Aアドバイザーと業務委託契約を締結するのが一般的です。
ほとんどのM&A仲介会社では、無料相談を実施しています。これを活用し、複数のM&Aアドバイザーと話をして自社に適すると思う会社を選びましょう。
以下の動画では、M&Aアドバイザーの見極め方を解説しています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、M&Aアドバイザーと契約する際の注意点を解説しています。ご参考までご覧ください。
買い手企業探し
買い手企業探しは、M&Aアドバイザーが行う流れです。多くの候補の中から数社に絞り込んだら、優先順位に沿ってM&Aアドバイザーが交渉の打診をします。
その際、用いられるのがノンネームシートと呼ばれる企業概要書です。この段階では、こちらの社名が特定されないように社名は伏せ、企業情報も大まかな内容にとどめます。
以下の動画では、ノンネームシートの解説をしています。ご参考までご覧ください。
秘密保持契約締結・交渉開始
M&A交渉の打診に応じる相手が見つかったら、秘密保持契約締結の流れです。交渉に先立って自社の経営情報を開示するため、その内容が外部へ漏れないように、また、M&A交渉を行っていること自体も秘密にするために秘密保持契約は必ず結ばなくてはいけません。
秘密保持契約締結後、交渉開始する流れになりますが、M&Aアドバイザーと契約している場合、交渉はM&Aアドバイザーが仲介または代行するため、当事者間の直接交渉は行われません。
以下の動画では、秘密保持契約と情報漏えいについて解説しています。ご参考までご覧ください。
トップ面談
M&A交渉の流れの中で、必ず行われる重要なプロセスがトップ面談です。買い手・売り手の経営トップが直接会って話をします。交渉自体はM&Aアドバイザーに委ねられているため、トップ面談で交渉が行われることはまずありません。トップ面談で話す内容は、以下のようなものです。
- これまでの経営方針
- 会社の特徴、社風など
- M&Aを決断した経緯
- M&A後の経営方針(買い手)
- M&A後の自身の去就方針(売り手)
以下の動画では、トップ面談について解説しています。ご参考までご覧ください。
基本合意書の取り交わし
M&A交渉が大筋でまとまったら、基本合意書を取り交わす流れです。基本合意書は合意内容確認のために書面化したものにすぎず、正式な契約書ではなく法的拘束力は持ちません。ただし、心理的な拘束性は期待できるでしょう。なお、以下の条項には例外として法的拘束力を持たせます。
- 秘密保持
- 買い手の独占交渉権
- 売り手のデューデリジェンスへの協力
独占交渉権とは、一定期間(1~3カ月程度)、売り手が第三者とM&A交渉することを禁じるものです。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、M&Aの買い手が実施する、売り手に対する詳細な経営状況の調査です。公認会計士、税理士、弁護士などの士業が起用され、一定の期間を設けて調査を行います。
売り手は資料の提供、インタビューを受けるなど、要望に対応しなければなりません。デューデリジェンスの調査結果は、最終交渉の内容へダイレクトに反映されます。
以下の動画では、デューデリジェンスについて解説しています。ご参考までご覧ください。
最終交渉・最終契約締結
デューデリジェンスが完了すると、最終交渉を行う流れです。最終交渉で合意に至れば、最終契約書の締結となります。
なお、最終契約書とは、説明のための便宜的な呼称です。実際には、用いられるM&Aスキーム(手法)名を冠した契約書名になります、例えば、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書などです。最終契約書の締結でM&Aは成約となります。
クロージング
最終契約書の締結だけでは、M&Aはまだ効力を発生していません。M&Aの効力を発生させるには、クロージングを行う必要があります。クロージングとは、契約内容の履行のことです。
買い手であれば、対価の支払い、資産の名義書換え手続き、法務局での変更登記手続きなどが該当します。売り手のクロージング例としては、株券や事業用資産の引き渡し、株主名簿の書換え手続きなどです。
以下の動画では、M&A全体の流れについて解説しています。ご参考までご覧ください。
個人事業の事業承継
法人格を持たない個人事業の場合、会社の事業承継とは異なる手続き・方法の部分もあります。個人事業主の事業承継の手続きの流れは、以下のとおりです。
- 事業運営権の承継
- 従業員・取引先の承継
- 資産の承継
個人事業主の事業承継手続き・方法の各内容を、流れに沿って説明します。なお、この説明は、個人事業主の生前に後継者へ事業承継する前提での内容です。
事業運営権の承継
個人事業の事業運営権を後継者に承継するにあたっては、現個人事業主(先代経営者)と後継者それぞれが個別に手続きを行う必要があります。そこで、両者の手続き内容を分けて記載しますので、内容を確認しましょう。
現個人事業主の手続き方法
現個人事業主は、事業承継にあたり税務署に対し以下の書類を提出する必要があります。
- 事業廃止届出書(廃業届)
- 従業員を雇用していた場合は給与支払事務所等の廃止届出書
- 青色申告者は青色申告取りやめ届出書
- 予定納税者は所得税・復興特別所得税予定納税額の減額申請書
- 消費税課税事業者は消費税の事業廃止届出書
従業員を雇用していた場合は、この他に、労働基準監督署で労働保険確定保険料申告書、ハローワークで雇用保険被保険者資格喪失届、年金事務所で健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届などの提出手続きがあります。
後継者の手続き方法
後継者が税務署で行う提出手続きには以下のようなものがあります。
- 事業開始届出書(開業届)
- 青色申告承認申請書(必要な場合)
- 青色事業専従者給与に関する届出書(必要な場合)
- 減価償却方法・棚卸資産の評価方法の選択届(必要な場合)
許認可が必要な事業の場合は、新たに取得しなければなりません。先代経営者が使っていた屋号を引継ぐ場合や新たな屋号を使う場合は、法務局での手続きが発生します。
従業員・取引先の承継
先代経営者が従業員を雇用していて後継者がそれを引継ぐ場合、新たに雇用契約を結ぶ必要があります。法人格を持たない個人事業では、雇用関係をそのまま承継できません。また、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所で従業員の労働保険、社会保険、年金に関する手続きが必要です。
事業承継では、取引先も承継しなければ事業を継続できません。取引先との契約も従業員の雇用契約と同様です。先代経営者と同様の取引を希望する場合は、取引先と新たな取引契約を締結する必要があります。
資産の承継
個人事業の事業承継では、事業用資産の承継も必須です。この場合、親族内事業承継であれば贈与・受贈か相続で後継者が事業用資産を取得します。社内事業承継およびM&Aによる事業承継であれば、後継者またはM&Aの買い手が事業用資産を買取ります。
その場合、先代経営者に売却益が生じた場合、売却益は税金の対象です。また、社内事業承継では、事業用資産が無償譲渡されるケースもあるでしょう。その場合、後継者は贈与税の対象です。
事業承継手続きの必要書類と税金
ここでは、親族内事業承継と社内事業承継、M&Aによる事業承継における手続きで必要となる書類と発生する費用・税金を、事業承継の方法ごとに説明します。なお、税金の内容や税率の情報は、2024(令和6)年2月現在のものです。
親族内事業承継
親族内事業承継で後継者に必ず課される税金は、贈与税か相続税のどちらかです。そこで、ここでは、贈与税、相続税とそれに関連する事業承継税制を重点的に説明します。その前に、まずは、親族内事業承継で必要となる書類の紹介です。
必要書類
親族内事業承継で必要となる書類には以下のものがあります。
- 株式譲渡契約書(会社の場合)
- 事業譲渡契約書(個人事業主の場合)
- 遺言書
- 遺産分割協議書
先代経営者が、親族である後継者に対し、生前贈与で自社株式、または事業用資産を引継がせる場合、それらを無償譲渡する内容の書類を作成します。それが株式譲渡契約書、事業譲渡契約書の役割です。
遺言書は、後継者が相続で自社株式または事業用資産を取得する場合、先代経営者が遺言として、その内容を書類に記します。遺産分割協議書は、先代経営者が遺言書を残さず死去し相続人が複数いる場合に、相続人間で協議して決めた遺産分割内容を記した書類です。
贈与税
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があり、選択が可能です。まずは暦年課税を説明します。暦年課税は1年(1月~12月)の間に受けた贈与に対して税金が課され、基礎控除額は110万円です。税率は、特例税率と一般税率があります。特例税率は以下のとおりです。
基礎控除後の課税金額帯 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
次に、一般税率です。
基礎控除後の課税金額帯 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例税率は、受贈者が18歳以上で父母または祖父母から贈与を受けた場合に適用されます。それ以外のケースは一般税率です。暦年課税の活用方法としては、毎年110万円以下に分けて自社株式や事業用資産を贈与できれば、後継者に税金の負担はかかりません。
相続時精算課税とは、18歳以上の受贈者が父母または祖父母から贈与を受けた場合に、2,500万円までは贈与税が非課税になる制度です。
ただし、非課税となった分は、後日の相続税の際に課税対象となります。つまり、税金を先送りする効果しかありません。また、2,500万円超の部分は一律20%の贈与税が課されます。
相続税
後継者が相続によって事業承継した場合に課される税金が相続税です。相続税では、まず、基礎控除額を以下のように計算します。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数
相続税には細かい計算が必要ですが、ここではその基となる相続税率を紹介します。
基礎控除後の課税金額帯 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税は高額となる可能性があります。事業の維持に必要な自社株式や事業用資産は、売却して納税資金にはできません。相続で事業承継する場合は、その資金対策が必要です。
事業承継税制
事業承継税制とは、事業承継によって発生した贈与税、相続税の納付が猶予され、最終的にはそれらの税金が免除されることも可能な制度です。ただし、これを認められるには、いくつかの要件を全て満たし、なおかつ、その状態を維持しなければなりません。
また、手続き面も複雑です。税理士に相談するとよいでしょう。なお、個人事業主の場合は、現行では2028(令和10)年までの時限制度となっています。
社内事業承継
社内事業承継では、従業員または役員である後継者が、現経営者から自社株式または事業用資産を買取ります。その際に必要となる書類と費用・税金を確認しましょう。
必要書類
社内事業承継での必要書類は以下のとおりです。
- 株式譲渡契約書(会社の場合)
- 事業譲渡契約書(個人事業主の場合)
- 株式譲渡承認請求書
- 株主名簿書換請求書
- 株主名簿
- 株主名簿記載事項証明書交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
中小企業のほとんどでは、自社株式に譲渡制限を付けています。そのため、たとえオーナー経営者でも、自社株式の売却には会社から承認を得る手続きが必要です。
2006(平成18)年の会社法施行後、原則的に株券の発行は不要になりました。そのため、株式の売買で株主が変わった場合は、会社に対し株主名簿の書換請求と、書換がきちんと行われたことを確認する株主名簿記載事項証明書が必要になります。
費用と税金
社内事業承継で必要となる費用は、後継者の自社株式または事業用資産の買取り資金です。自己資金で足りない場合は融資を受ける、分割支払いを認めるなどの対応を取る必要があります。
先代経営者は、自社株式または事業用資産の売却益が出た場合、税金の対象です。まず、自社株式の譲渡益(譲渡所得)は以下のように計算します。
- 株式譲渡所得=株式譲渡対価-株式取得費用-M&Aアドバイザー手数料
自社株式の譲渡所得は分離課税で、税率は20.315%です。内訳は以下のようになっています。
- 所得税15%
- 復興特別所得税0.315%
- 住民税5%
復興特別所得税は、2037(令和19)年までの期間限定です。
また、事業用資産の売却益は、基本的に総合課税として所得税の対象になります。後継者側が不動産を取得した場合には不動産取得税と登録免許税、消費税課税資産を取得した場合には消費税が発生するので、その分の資金調達も必要です。
M&Aによる事業承継
ここからは、M&Aによる事業承継での必要書類と費用・税金を説明します。
必要書類
M&Aによる事業承継では、数多くの必要書類があります。
- M&Aアドバイザーとの業務委託契約書
- ノンネームシート
- 企業概要書
- 買い手との秘密保持契約書
- 財務諸表
- 定款、社員名簿、取引先リストなど経営に関する情報が記されたさまざまな書類
- 基本合意書
- 最終契約書
以下の動画では、M&Aに必要な書類の解説をしています。ご参考までご覧ください。
費用と税金
M&Aによる事業承継では、M&Aアドバイザーと契約した場合、手数料が発生します。M&A仲介会社によっては複数の手数料が発生する料金体系の会社もありますが、近年は完全成功報酬制の会社が増加傾向です。完全成功報酬制であれば、M&Aが成約した場合にしか手数料が発生しません。
以下の動画では、M&Aアドバイザーの手数料について解説しています。ご参考までご覧ください。
M&Aによる事業承継で発生する税金は、基本的に社内事業承継で発生する税金と同じ内容です。
以下の動画では、M&A時の税金について解説しています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、実際にM&Aによる事業承継を行った事例の解説をしています。ご参考までご覧ください。
事業承継手続きにおけるポイント
ここでは、事業承継手続きにおけるポイントを、会社と個人事業主の事業承継における共通のポイントと、会社の事業承継におけるポイントに分けて説明します。
会社と個人事業主共通のポイント
事業承継手続きにおいて、会社と個人事業主とで共通となるポイントは以下のとおりです。
- 後継者選びと教育
- 親族内事業承継の対策
- 事業承継・引継ぎ支援センターの活用
- 任意後見制度
各事業承継手続きポイントの内容を説明します。
後継者選びと教育
後継者には、真に経営者としての適性を備えている人物を選ばなければなりません。親族であれ社員であれ、厳しい視点での評価が必要です。また、選んだ後継者へ十二分に教育を行うのは、現経営者にしかできません。一人前の経営者にするもしないも現経営者の責任です。
親族内事業承継の対策
複数の相続人がいるケースで親族内事業承継が相続で行われた際、自社株式や事業用資産が相続人間で分離してしまう可能性があります。それでは後継者が、安定した経営は行えません。
現経営者が存命のうちに財産分与の内容を取り決め、後日のトラブルにならないよう対策を取っておくべきです。
事業承継・引継ぎ支援センターの活用
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業・小規模事業者の事業承継を専門にサポートする公的機関です。親族内事業承継や社内事業承継、M&Aによる事業承継のどれでも相談を受けつけています。
また、センターが独自で行っている対応策が後継者人材バンクです。中小企業の事業承継を希望する個人起業家と、後継者不在の中小企業・小規模事業者のマッチングをしています。
任意後見制度
任意後見制度とは、認知症のような状態になることに備えて、本人の代わりに特定の法律行為を行う任意後見人と契約を結んでおくことです。
契約は公正証書でなければなりません。本人、配偶者、四親等以内の親族、任意後見受任者のいずれかが家庭裁判所に申し立てると、任意後見監督人が選ばれ契約が発動されます。
任意後見人は任意後見監督人の監督下で、契約で約定された内容の法律行為を代行するものです。認知症は若くても発症するケースがあります。念のための措置として、任意後見制度の活用も検討しましょう。
会社のポイント
会社の事業承継手続きでのポイントは以下のとおりです。
- 事業用資産の整理
- 株式の整理
- 会社法の活用
各事業承継手続きポイントの内容を説明します。
事業用資産の整理
中小企業では、オーナー経営者の個人資産を事業用に使っているケースもあります。その場合、その資産は相続財産扱いになり、他の相続人が相続してしまうかもしれません。それでは後継者の経営に支障が生じてしまいます。そのような資産は、会社として買取り手続きをしておきましょう。
株式の整理
中小企業では、少数株主がいるケースも多いです。その中には連絡がつかない少数株主もいます。後日のトラブルを生まないためにも、連絡がつかない少数株主については会社法の手続きにのっとり、買取り手続きを行っておきましょう。
会社法の活用
経営承継円滑化法による都道府県知事の認可を受ければ、上述した所在不明株主の株式買取手続きに必要な所在不明期間を、5年から1年に短縮できる会社法の特例があります。
また、経営陣に反対する少数株主がいる場合、こちらが3分の2以上の株式を所有していれば、株主総会でスクイーズアウト(株式の強制買取り)の決議が可能です。このように会社法を活用することもおすすめします。
事業承継手続きを専門家に相談するケース
事業承継手続きを進めるにあたっては、士業その他の専門家を活用するのも得策です。一例として、以下の専門家と相談すべき内容を紹介します。
- M&Aアドバイザー:M&Aによる事業承継を行う場合
- 税理士:各種税金対策
- 弁護士:遺言書作成、財産分割相談
- 公認会計士:自社株式や事業用資産の評価(金額算定)
- 金融機関:後継者の資金調達のための融資相談
以下の動画では、事業承継に関する解説をしています。ご参考までご覧ください。
事業承継手続きの注意点
帝国データバンク発表の「全国『社⻑年齢』分析調査(2022年)」によれば、社長の平均引退年齢は68.8歳です。仮に、後継者教育に10年かかるならば、逆算してタイミングを計り、後継者を選定して事業承継準備に取りかからねばなりません。
したがって、事業承継手続きの注意点は、早期に取り組むことです。事故や病気などのアクシデントは、誰にでも起こり得ます。事業承継手続きの準備に、早過ぎはないでしょう。
事業承継の手続きまとめ
事業承継手続きは、後継者の立場の違いによって方法が異なるものです。また、会社と個人事業主では後継者の立場が同じでも、手続きの一部は異なります。
このように事業承継手続きでは多様な方法が混在していますが、後継者が定まれば、その後の手続き方法は一本道です。どのような方法で事業承継を行うか決まったら、その内容にあった専門家や各種機関に相談して準備を始めましょう。
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