事業承継対策の方法と必要性とは?準備や成功のポイントを解説!
企業が発展していくためには適切なタイミングでの事業承継が必要ですが、成功させるためには経営者自身が事業承継対策の必要性を認識し、計画的に準備をしておくことが重要です。この記事では、事業承継対策の方法と必要性、準備や成功のポイントを解説します。
目次
事業承継とは
事業承継とは会社(事業)の経営権を現経営者から後継者へ引き継ぐ行為をいいます。
事業承継は相続によって行われるケースも多いですが、資産や経営権だけでなく経営理念など目に見えない要素を引き継ぐことも重要であるため、早期から準備を進め計画的に行うことが成功のポイントです。
事業承継の対策やポイントについて述べる前に、主な事業承継方法や特徴を説明します。
事業承継の方法と特徴
事業承継には大きくわけて3つの方法があります。各方法の違いは、誰を後継者に据えるかという点です。ここでは、3つの事業承継方法と主な特徴を説明します。
親族内承継
親族内承継は最もポピュラーな事業承継方法であり、現経営者の子どもなど親族を後継者として自社(事業)を引き継ぐ方法です。
中小企業の場合、経営者の子供が次の後継者となるのは既定路線であることも多く、従業員や取引先など関係者から受け入れられやすく、事業承継の必要性が高まる前から計画的に準備を行える点などがメリットとして挙げられます。
社内承継
社内承継は役員や従業員へ自社(事業)を引き継ぐ方法であり、現経営者が後継者となる人材の能力や適性を見極めたうえで自社(事業)を引き継ぐことができるのが大きなメリットです。
また、事業承継後も経営方針や企業風土などが大きく変化することがなく、第三者を後継者とする場合に比べてノウハウなどの無形資産をスムーズに承継できます。
その一方で、社内承継の場合は株式を有償譲渡するケースがほとんどなので、後継者が取得費を用意するのが難しいケースが多く、資金面がネックとなりやすい点がデメリットです。
M&Aによる事業承継
M&Aは会社や事業の売買を行うことですが、事業承継の手段としても用いることができます。
M&Aによる事業承継とは、第三者である他社(あるいは個人)を後継者として自社(事業)を引き継ぐ方法です。
現経営者の周りに後継者候補がいない場合でも実施でき、事業承継後は買い手側企業の傘下となるかたちで事業を存続することができます。
近年、M&Aによる事業承継は事業承継問題の解決手段として、中小企業でも広く活用されるようになってきました。
中小企業における事業承継対策の必要性
事業承継の必要性は漠然と認識していても、引退時期まで時間的に余裕があったり通常業務が忙しかったりするなどの理由で、事業承継対策を行っていない中小企業も多いのが実状です。
ですが、自社(事業)のさらなる成長を図るためには、早めに準備を進めておき、事業承継を適切なタイミングで行う必要があります。ここでは、中小企業における事業承継対策の必要性やポイントを解説します。
会社の存続
自社を存続させ、かつ持続的に成長させるために事業承継は不可欠であり、地域雇用の確保という点でも重要な意味を持ちます。しかし、事業承継は会社の資産や経営権を単に後継者へ引き継げばよいというものではありません。
会社が築き上げてきた信頼力やブランド力、ノウハウ、技術などの無形資産もしっかり後継者へと引き継がなければ、事業承継後の事業運営がうまくいかない可能性もあります。
無形資産は会社が利益を上げる源となるものですが、引継ぎには時間がかかるため事業承継対策をたてて準備をしておくことが大切です。
相続トラブルの予防
事業承継を行う前に現経営者が死亡した場合、会社(事業)は相続によって引き継がれることとなります。
相続による事業承継では相続人が複数いることも多いですが、遺言などがない場合は株式が分散してしまったり、分与割合でトラブルが起こったりするケースも珍しくありません。
なかでも株式は分散してしまうと事業運営に支障をきたしかねず、経営が不安定になれば従業員や取引先などが離れてしまうおそれもあります。
そのような事態を避けるためにも、経営者は相続による事業承継の可能性を考え、どのような方法で財産・経営権を分与するかを決め、対策をたてて準備しておくことが重要です。
事業承継税制の活用
事業承継を行うと、資産や株式を取得した後継者に対して相続税や贈与税がかかります。株式評価額は優良な会社ほど高くなるため、その分税負担も大きくなり、資産を売却しなければ納税できないケースもあるほどです。
そのため、現経営者は事業承継時に生じる税金についての対策や準備をしておく必要があります。
中小企業が事業承継時の税負担を軽減するためには、事業承継税制の活用が有用です。事業承継税制は従来からある制度で、要件を満たす場合は相続税と贈与税の納税猶予が受けることができます。
事業承継税制は2018年に改正が行われ、贈与税と相続税の全額猶予が受けられるようになりました。
さらに一定要件を満たした場合は猶予分が免除されるため、事業承継を行う中小企業にとって有用な節税対策といえるものです。
ただし、事業承継税制による優遇を受けるためには、書類の用意など事前準備が必要となります。そのため、事業承継の必要性を感じ始めた段階から専門家へ相談しておくとよいでしょう。
事業承継対策が必要な状況
事業承継をスムーズに行うためには事前の準備や対策が必要ですが、なかでも以下のような状況にある会社はその必要性が高いです。
もし自社の状況が当てはまる場合は、できるだけ早期から対策を行っておくと、事業承継が成功しやすくなります。
後継者不在
現経営者が事業承継を考えていても、引退時期までに後継者候補がみつからなければ行うことはできません。
最近では親族内に後継者候補がいない経営者も少なくありませんが、事業承継を行わなければ最終的に廃業という選択をせざるを得なくなります。
廃業となれば、築いてきた信頼やノウハウ・技術力、従業員の雇用、地域雇用などさまざまなものが失われるため、後継者不在の場合はM&Aによる事業承継方法を検討するなど、早めの対策と準備が必要です。
複数の相続人
子どもや親族あるいは役員・従業員など後継者に据えたい人材がいても、現経営者に複数の相続人がいる場合は事業承継対策を行っておく必要があります。
というのは、事業承継を行う前に現経営者が死亡して相続が発生した場合、相続人の間でトラブルが起こる可能性があるためです。
相続人間のトラブルは株式の分散や周囲からの信用度低下などのリスクもあるため、現経営者は相続が起きた場合の分与などについて、あらかじめ書面に残しておくなどの対策を行っておく必要があります。
ワンマン経営
中小企業の場合、現経営者が全株式を保有しているケースも多く、事業運営に関して大きな影響力を持っていることも少なくありません。
また、現経営者との個人的な付き合いから取引先とよい関係が続いている会社も多いです。
このような場合、もし事業承継前に現経営者が死亡するなど予期せぬ事態が起これば、経営に関する引継ぎがうまくいかなかったり、長く続いてきた取引先との関係が崩れてしまったりする可能性があります。
自社を存続して発展させるためには、目に見えない要素も後継者へしっかり引き継ぐことが重要となるため、事業承継の必要性を現経営者自身が認識し、早めに対策と準備をしておくことが成功のポイントです。
事業承継対策の成功ポイント
事業承継の対策にはさまざまなものがありますが、意識すべきポイントや必要な準備はそれぞれ異なります。ここでは、事業承継対策を成功させるためのポイントについてみていきましょう。
計画的に準備
事業承継対策を成功させるためには、計画的な準備が重要です。具体的な対策を考える前に、まず事業承継計画書を作成すると、どの時点までに何を行うべきかが明確になり対策をスムーズに進めることができます。
事業承継計画書の作成方法がわからない場合は、中小企業庁のホームページからひな形をダウンロードして利用するのも方法のひとつです。
また、事業が忙しくて時間的に余裕がない場合などは、M&A仲介会社など専門家に支援を依頼するのもよいでしょう。
後継者教育
後継者候補が決まっている場合は、経営者として必要なスキルを身に着けさせるための教育も必要です。
その際は、経営に関する知識やノウハウだけでなく、付き合いのある取引先などとの人脈も引き継ぐなど丁寧に教育を行うようにしましょう。
後継者教育の方法としては、現経営者のサポートという立場で経験を積ませる方法や、良好な関係にある他社へ入社させて実務を経験する方法、セミナーへ参加させる方法などがあります。
一般的に後継者教育は数年程度の期間が必要だといわれるため、できるだけ早い段階から行っておくことが事業承継を成功させるポイントです。
持株数の調整
会社の状況によっては、自社の株式を友好な関係にある株主や従業員持ち株会へ経営権に影響が及ばない範囲で移転させたほうがよい場合もあります。
株式数の調整を行う目的は後継者の税負担額を抑えるためであり、持株比率を下げることで税額を少なくすることが可能です。
ポイントとしては、株式の移転先との関係が友好的であること、株式の移転割合は経営権に影響が及ばない範囲にとどめることの2つが挙げられます。
これらのポイントを抑えたうえで株式数の調整を行わなければ、株式が分散して経営権を失うリスクもあるため注意が必要です。
株価対策
贈与や相続によって後継者へ株式を譲渡する場合、課税額の算出基準となるのは株式評価額です。
一般的に株式評価額は優良な企業ほど高くなるので、税金が高額になるケースもあります。株式を換金できればよいですが、流動性が低い中小企業の株式は換金が難しいため、税額分の現金が用意できない事態も考えられます。
そのような場合に備え、役員退職金の損金計上などを活用し、自社株の評価額を意図的に下げて税額を抑える対策もケースによっては必要でしょう。
役員退職金は税制優遇措置があるため、資産として引き継ぐより税金面で得になるケースも多いです。
ただし、過度に評価額を引き下げれば、税務署から不当とみなされるので注意が必要です。株価対策は妥当な株価であれば有用な手段となるため、専門家に相談して行うようにしましょう。
納税資金対策
現経営者の子どもや親族が後継者となる場合、相続だけでなく生前贈与を活用することもできます。
しかし、いずれの方法であっても、後継者は相続税または贈与税がかかるため、納税分の現金を用意しなければなりません。
また、後継者以外に法定相続人がいる場合、ほかの相続人から遺留分を請求されることもあるため、代償給付金を用意しておく必要もあります。
相続による事業承継の場合は、納税額の確保と併せてほかの相続人への分与分も考慮しておきましょう。
遺産分割対策
現経営者の相続人が複数いるケースでは、遺産分割は協議によって決定しなければトラブルの原因となります。
相続が発生した場合に相続人間で争いが起こらないよう、現経営者は遺産分割について相続人と話し合っておくことも必要です。
その際は、株式が分散するなど事業承継後の会社運営に支障がでないよう、相続人全員から理解が得られるよう調整を行う必要があります。
事業承継対策の考え方
事業承継対策の必要性は理解していても、具体的にどのように進めていけばよいかがわからないという経営者の方もいるでしょう。ここでは、事業承継対策の考え方やポイントについて説明します。
社内状況の把握
まず、自社の正確な状況を把握しておくことが重要です。その際は以下4つのポイントについて、実態を調べておく必要があります。
後継者候補
事業承継は誰を後継者に据えるかによって、必要な準備や対策が変わります。そのため、最初に後継者となる人材が周りにいるかを考え、候補者がいる場合は適性の有無や本人の意思も確認しておきましょう。
現経営者の子どもや親族に後継者候補がいない場合、事業承継の方法は社内承継かM&Aによる事業承継となりますが、どちらを選ぶかによって必要な準備や対策が違ってきます。
社内承継とM&Aによる事業承継のいずれかを選択する場合は、両方のメリット・デメリットを検討したうえで決定することが重要です。
財務状況
資産・負債・キャッシュフローなど、自社の財務状況はしっかり調べて正確に把握することが重要です。
また、財務状況と併せて従業員数・取引先との契約・許認可なども把握しておくと、事業承継計画書をたてる際に役立ちます。
経営者の遺産
会社の資産や負債だけでなく、現経営者の個人資産も正確に把握しておきましょう。主なものとしては、個人名義の土地や建物・預貯金や有価証券・個人保証などがあり、負債ももちろん含まれます。
現経営者の個人資産は、事業承継の妨げになったり相続時の争い要因になったりする可能性もあるため、正しく把握しておくことが重要です。
相続時の問題
会社の財務状況や現経営者自身の資産状況が把握できたら、相続が発生した際に問題となりうるポイントを洗い出しておきます。
相続時に問題となりうる点については、遺言を作成したり親族間で派内合う場を設けたりなど、ケースによって具体的な対策をたてておくことが重要です。
後継者選定
会社や自身の状況、相続が発生した際に問題となりうるポイントなどがわかったら、誰に事業を承継するかを決定します。
後継者は親族・役員や従業員・第三者(M&Aの相手先)のいずれかですが、後継者が親族や社内の人材の場合は本人に事業を引き継ぐ意思があるのかを確認しなければなりません。
子どもや親族を後継者に選ぶ場合、周囲から納得が得られやすく後継者教育の期間も確保しやすいですが、ほかの相続人には丁寧に説明し理解を得ることが必要です。
役員や従業員の場合、経営理念や事業内容をよく理解した適任者を選べるメリットがあります。ですが、後継者候補が株式の取得費用を用意しなければならず、資金面での対策をたてることも必要です。
また、子どもや親族あるいは役員や従業員を後継者とする場合、経営者の個人保証がネックとなり事業承継がうまくいかない可能性もあります。そのような場合は、M&Aによる事業承継も検討する必要があるでしょう。
M&Aによる事業承継では第三者である他社が後継者となるため、株式取得費用などを心配せずに行うことができ、従業員の雇用維持や自社の発展に期待できるメリットもあります。
しかし、M&Aは相手先企業がみつからなければ行えないため、事業承継のタイミングまでに磨き上げなどの準備が必要です。
事業承継計画書の策定
後継者が決まったら、次は具体的な事業承継計画を作成します。事業承継計画は、事業を引き継ぐ時期や方法、必要な対策などを長期的な経営計画に加えたものです。
また、事業承継計画には税金対策(節税対策)に関する内容や、事業承継税制を活用する場合はそのスケジュールなども入れるとよいでしょう。
事業承継方法ごとの対策
事業承継の方法が決まったら、具体的な対策をたてておくとスムーズに後継者へ引き継ぐことができます。ここでは事業承継方法ごとの具体的な対策やポイントなどをみていきましょう。
親族内承継の対策
親族内承継を選択した場合は、以下3つのポイントについて対策や準備を行っておくと、円滑に進めることができます。
周囲への周知
後継者が事業を引き継いだ後、円滑に事業を運営していくためには、従業員や取引先など周囲の協力や理解が不可欠です。
現経営者の子どもや親族が後継者となるため理解は得やすいですが、事前の説明なしに経営者が交代すれば混乱を招いたり、不信感が生まれたりする可能性もあります。
現経営者は関係者へ事業承継を行う必要性や実施タイミング、事業承継後の体制などを丁寧に説明するとともに、あらかじめ後継者を紹介しておくことも有効な対策です。
後継者教育
後継者教育は短期間で行えるものではなく、少なくとも5年程度はかかるともいわれています。
親族内承継におけるメリットのひとつは事業承継の必要性を認識した早期から、後継者教育の時間を確保できることです。
後継者教育の具体的な対策には、会社経営に必要な知識やノウハウを習得させるために自社で業務経験を積ませたり、現経営者の補佐的な立場で経営を学ばせたりなどがあります。
なかでも経営理念のような目に見えない要素は承継が難しいといわれるため、早めに教育を始めて時間をかけて丁寧に伝えることが成功のポイントです。
株式の生前贈与
事業承継後の会社経営を安定させるためには、後継者の自社株保有割合を高めておく必要があります。
議決権の2/3以上を保有していれば意思決定のほとんどを行なえるため、後継者へ株式を取得させる1つの目安と考えておくとよいでしょう。
株式は相続でも取得させることができますが、株式の分散リスクを抑えるためには生前贈与の活用が効果的です。生前贈与は110万円以下であれば非課税で行えるため、計画的に取得させれば株式の分散リスクだけでなく、税金面でのメリットもあります。
ただし、生前贈与を活用して後継者に株式を集中させる場合、後からトラブルが起こらないよう、ほかの相続人に対する配慮も必要です。
もし、生前贈与を始めるタイミングで株式が分散しているなら、株式を可能な限り買い取っておくなど対策をとっておくとよいでしょう。
社内承継の対策
社内承継を選択した場合は、以下2つのポイントを意識して対策や準備を行っておくと、円滑に進めることができます。
後継者の資金対策
社内承継の場合、後継者への株式譲渡は有償譲渡が一般的です。役員や従業員は経営権が掌握できるだけの株式を買い取るために多額の現金を用意しなければならないため、資金調達がネックになりやすく事業承継計画が頓挫してしまうケースもあります。
後継者が資金調達する方法には金融機関から借入を行うか、役員報酬額を調整してそれを原資として返済していくなどが考えられますが、ハードルが高いのが実状です。
社内承継を成功させるためには、現経営者と後継者との間で株式取得の資金をどのように調達するかをよく話し合い、対策をたてておく必要があります。
経営者保証解除の話し合い
事業承継では会社の保有資産や経営権だけでなく、負債も後継者が引き継ぎます。現経営者の個人保証も含まれるため、後継者にリスクを引き継ぐ覚悟があり、自社の状況を正しく認識しているかを事前によく確認することが重要です。
後継者にとってはリスクや精神的負担が大きいため、事業の引継ぎを辞退するケースも考えられます。
また、金融機関が現経営者の個人保証(全部または一部)を解除しない可能性もあるため、事前に確認したうえで慎重に検討することが重要です。
そのうえで社内承継を行う場合は、経営者保証の解除について後継者とよく話し合っておく必要があります。
M&Aによる事業承継の対策
M&Aによる事業承継の場合、後継者となるのは企業なので資金面での心配はありませんが、以下2つのポイントについては対策や準備が必要です。
企業価値向上
M&Aにおいて買い手側が重視するのは、買収後のシナジー発揮やリソースの相互活用によって事業の成長や売上向上が図れるかという点です。
その判断基準となるのは「企業価値」と呼ばれる「会社の値段」であり、会社の資産だけでなくノウハウ・技術力・信用力・ブランド力・従業員など目にみえない要素も加味されます。
M&Aによる事業承継をよりよいかたちで実現するためには、実行前に企業価値を向上させておくことがポイントです。
企業価値を高めるためには「磨き上げ」が有効であり、強みの強化・財務の健全化・経営体制の見直しなどを行っておく必要があります。
もし磨き上げの具体的な方法がわからない場合は、M&A仲介会社など専門家にアドバイスをもらうとよいでしょう。
非事業用資産の現金化
M&Aによる事業承継の場合、ほとんどのケースは株式譲渡スキームによって行われます。
株式譲渡では売り手側の資産だけでなく負債も譲渡対象に含まれるため、買い手側は非事業用資産や不要な在庫などはないほうがよいと考えるものです。
そのため、売り手側はM&Aによる事業承継を行う前に非事業用資産を売却しておくと、スムーズに進みやすくなります。
事業承継の税金・資金対策
ここまで述べたように、事業承継を成功させるためには税金・資金の対策が不可欠です。次は事業承継の税金・資金対策にはどのようなものが活用できるのか、具体的な方法を紹介します。
生前贈与
生前贈与は主に親族内承継で活用できる方法です。現経営者が生前から後継者へ財産や株式を贈与するかたちで譲り渡すことができます。
生前贈与を活用すると相続税の額を減らすことができますが、代わりに贈与税の対象となるため、非課税枠をうまく使うことがポイントです。
年間110万円以下の贈与は非課税となるため、事業承継の必要性を認識した時点から準備を進め、計画的に株式を後継者へ譲り渡せば贈与税が課されることなく経営権を引き継ぐことができます。
財産調整
相続による事業承継の場合、相続財産の額が高ければ課される相続税も高額になります。
つまり、財産が減ればその分だけ贈与税額も低くなるので、事業承継を行う前に不動産を購入して財産額を減らすのも方法のひとつです。
そのほか、相続税がかからない墓石や仏壇などの財産を購入する方法もあります。
事業承継税制
事業承継税制は、事業承継で株式を取得した後継者に課される贈与税や相続税の納税猶予が受けられる制度です。
事業承継税制を活用した場合、事業承継後に一定要件を満たせば猶予された税額が免除されます。
事業承継税制は従来からある制度ですが、2018年の改正で特例措置が設けられ、納税猶予の対象となる株式範囲が80%から100%へ引き上げられたことで、中小企業にとってのメリットがさらに大きくなりました。
また、事業承継税制はM&Aによる事業承継でも活用することができます。改正により事業承継後に免除となる要件も緩和されたので、事業承継の税負担軽減を図るために積極的に活用したい方法のひとつです。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継時にかかる費用について受けられる補助金制度です。
事業承継・引継ぎ補助金には3つの類型があり、補助上限額および補助率は類型によって変わりますが、最高で600万円の補助が受けられます。
ただし、補助金を受けるためには必要資料を提出して採択されなければなりません。申請方法や準備する資料、審査時の注意点・加点ポイントについては中小企業庁のホームページで確認することができるので一度確認しておくとよいでしょう。
事業承継対策の成功事例
埼玉県にある株式会社ヤナ・コーポレーションは住宅リフォーム工事業を行う企業で、新築物件の建築や行政設備の整備なども手掛けています。
一級建築士などの有資格者や技術力の高い従業員が多く在籍しており、プランニングから施工まで一貫受注できる点が強みです。
経営者は親族内承継を考えていましたが、後継者に事業を引き継ぐ意思がなかったためM&Aによる事業承継を検討したといいます。
また、M&Aであれば自社のさらなる成長と発展につながると考え、相互補完によるシナジーが見込める相手先と交渉を進めました。
譲受側の株式会社ニッソウは、賃貸物件の原状回復工事や空室対策リノベーションを手掛ける企業です。
国内では数少ない賃貸不動産のリフォーム専門会社であり、年間10,000件以上の原状回復工事を行っています。
両社の強みを生かし不得意分野を補完し合うことでシナジー効果に期待できるとし、本M&Aに至りました。
事業承継対策を早期に講じるべき理由
事業承継の必要性を感じてから行っても、十分な準備ができず引継ぎがうまくいかない可能性もあるでしょう。ここでは、事業承継対策を早期から行うべき2つの理由を紹介します。
現経営者の健康リスク
現経営者の健康リスクは、高齢になるほど高くなるものです。もし事業承継対策を行っていない状態で引退を余儀なくされればスムーズな引継ぎが難しくなり、後継者に大きな負担がかかります。
そればかりか、事業承継後の会社経営がうまくいかなくなる可能性もあるため、現経営者が体力的にも余裕がある年齢のうちに準備を進めていくことも必要です。
また、後継者候補を決めていない状態や事業承継計画がない状態で現経営者が亡くなる事態となれば、相続による争いが起こる可能性もあります。
現時点では事業承継の必要性をあまり感じていないという場合も、自社の将来を考え早めに事業承継の準備を行うことが重要です。
後継者が若い間に事業承継する
現経営者の引退年齢が高くなれば、事業承継時に後継者も高齢になっていたというケースも考えられます。
事業を引き継いでも後継者が経営に携われる期間が短ければ、すぐに次の事業承継を行わなければなりません。
短いスパンでの経営者交代は従業員や関係先に大きな負担を与えます。また、経営者が高齢になれば経営力も低下しやすいのも事実です。
現経営者は自身の年齢や体調だけでなく、後継者のことも考えてできるだけ若いうちに事業承継対策の準備を進める必要があります。
事業承継対策で受けられる公的な支援
事業承継の対策や準備を行う際は、公的支援を活用して進めるのも方法のひとつです。最後に中小企業の事業承継で活用できる公的支援を紹介します。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不在または未定の中小企業・小規模事業者を対象とする、国が設置した公的相談窓口です。
相談窓口は47都道府県にあり、専門家が事業承継や引継ぎに関する相談対応やアドバイス、マッチング支援などを行っています。
M&Aによる事業承継だけでなく親族内承継に関する相談も可能であり、無料で利用することができます。
事業承継ガイドライン・マニュアル
事業承継ガイドラインは中小企業および小規模事業者の経営者を主な対象として、事業承継の必要性や課題、準備の進め方、課題への対応策などをまとめたものです。
経営者が知っておくべき事業承継の指針がまとめられているので、一度読んでおくと基本的な考え方や全体の流れを理解することができます。
一方の事業承継マニュアルは、事業承継を進めるうえで経営者が知っておくべきポイントをまとめたものです。
事業承継ガイドラインに沿った内容となっており、イラストや図を交えてわかりやすく解説されています。
事業承継計画の策定や後継者の育成方法、特例制度の活用などのほか、 経営の「見える化」や 会社の「磨き上げ」についても載っているので、目を通しておくと役立つはずです。
事業承継対策のまとめ
事業承継は企業が存続し成長していくために不可欠なものであり、適切なタイミングで行う必要があります。
しかし、中小企業においては事業承継の必要性は認識していても、日々の業務に追われて具体的な対策や準備が進んでいないケースも多いのが実状です。
事業承継や後継者の育成には時間が必要であり、準備を始めるのに早すぎるということはありません。
事業承継を成功させ自社をより成長・発展させるためにも、事業承継対策の必要性を意識し早期から計画的に進めていくようにしましょう。
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