事業譲渡のメリット18選とデメリット12選!手続きの方法や株式譲渡との違いも解説!
事業譲渡は他のM&A方法と比較してメリットもデメリットも大きいです。事業譲渡は会社を手放すのではなく存続を目的としている場合が多いため、他のM&A方法とは異なる点が多いと言えるでしょう。その分メリットもデメリットも大きくなるということです。
目次
事業譲渡とは?
事業譲渡はM&A方法の一つです。M&Aには複数の方法があり、事業譲渡以外のM&A方法としては株式譲渡や会社分割が代表的な方法です。事業譲渡は法人でも個人事業主でも一般的なM&A方法として用いられ、複数のメリットがあります。
法人の場合は他のM&A方法も選択できますが、個人事業主の場合は事業譲渡以外の方法は選べません。つまり個人事業主がM&Aを実施する場合、方法は事業譲渡一択になるということです。
株式譲渡との違い
事業譲渡は会社の全部、または一部の事業を譲渡するM&A方法です。一方で、株式譲渡は会社の株式を譲渡するM&A方法です。このことから、事業譲渡と株式譲渡では複数のメリットの違いなどが出てきます。
まず事業譲渡は会社の事業を譲渡するので、譲渡の主体は法人です。一方で株式譲渡で譲渡する株式は法人ではなく経営者個人が所有しているものなので、譲渡の主体は個人になります。これに関してはどちらかだけにメリット・デメリットがあるというわけではなく、それぞれにメリット・デメリットがあると言えるでしょう。
また事業譲渡で譲渡するのは事業なので、経営権を譲渡するわけではありません。一方で、株式譲渡の場合は株式の50%以上を譲渡した場合は経営権が移転します。こちらもそれぞれにメリット・デメリットがあると言えます。
目的としても、事業譲渡は会社の存続を目的としているのに対し、株式譲渡は会社を手放すことを目的としている場合が多いでしょう。詳しくは後述しますが、会社を存続させられることは事業譲渡の大きなメリットです。
税金面でも事業譲渡と株式譲渡には違いがあります。株式譲渡で売買するのは株式なので、株式譲渡の方が基本的には税金面で優遇されています。事業譲渡は税金面での優遇はありません。これは事業譲渡のデメリットで、逆に言えば株式譲渡のメリットです。
会社分割との違い
事業譲渡は事業や債権・債務を個別に譲渡します。一方で、会社分割は組織再編を目的としているため、事業や債権・債務は包括的に承継されます。会社分割の方法は大きく分けて、吸収分割と新設分割があります。吸収分割と新設分割にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
吸収分割は既存の買い手企業が売り手企業を引き継ぎます。新設分割は新たに会社を新設し、その新設会社が売り手企業を引き継ぎます。吸収分割は会社の新設が不要な点がメリットで、新設分割は組織体系を再編できる点がメリットと言えるでしょう。
逆に言えば、吸収分割は会社を新設できない点がデメリットで、新設分割は会社設立の手間がかかる点がデメリットです。
いずれにしても会社分割は事業譲渡とは異なり、個別の事業や債権・債務ではなく、会社を丸ごと承継するM&A方法ということです。
税金については、株式譲渡と比較すると会社分割の方が複数の税金がかかる傾向がありますが、事業譲渡と比較すると税金面での優遇があります。具体的にどのように税金がかかるかは会社分割の方法によっても異なりますが、たとえば消費税がかからない方法もあり、これはメリットと言えるでしょう。
事業譲渡のメリット18選
事業譲渡のメリットを売却側、買収側それぞれの視点から挙げていきます。どちらにとっても複数のメリットがあることから、事業譲渡はM&A方法の中でも事例が多い方法です。また他のM&A方法と比較してのメリットもあれば、M&A全般に該当するメリットもあります。
事業譲渡の売却側のメリット9選
まずは事業譲渡の売却側のメリットを挙げていきます。事業譲渡の売却側のメリットは以下です。
- 対価の獲得
- 経営権は手放さない
- 事業の選択と集中の実現
- 取引対象事業を選別できる
- 複数の事業をまとめて売却
- 移籍する従業員を選別できる
- 売却する資産を選別できる
- 事業承継の実現
- 株式譲渡と比べて負債があっても成約しやすい
それぞれのメリットについて解説していきます。
対価の獲得
事業譲渡を実施することで、譲渡利益を得られるメリットがあります。譲渡利益の算出方法は個別のM&A事例により異なりますが、現在価値にくわえて、数年間の営業価値などをくわえるのが一般的です。
事業譲渡によって得た譲渡利益は、残った事業のために活用できるため、企業の成長につながるメリットがあります。
経営権は手放さない
事業譲渡によって譲渡するのは事業や選択した債権・債務のみです。経営権は売却側の企業に残ります。経営権を手放さないので、引き続き会社の経営を続けられるメリットがあります。
事業の選択と集中の実現
事業の選択と集中を目的として事業譲渡を実施するケースは多いです。自社にとって不要、もしくは継続が困難な事業を事業譲渡によって売却し、残った事業に集中するということです。
自社にとって利益の大きい事業やメイン事業を残し、その他の事業を事業譲渡によって売却するのが一般的です。事業譲渡によって得た資金は残った事業に回せるので、事業成長、事業拡大につながるメリットもあります。
取引対象事業を選別できる
取引対象の事業は基本的に売却側の企業が決められます。買収側企業も希望を出すので交渉にはなりますが、買収側が提示している条件に納得できない場合、事業譲渡を行わない選択肢もあります。選択できる点はメリットです。
複数の事業をまとめて売却
売却する事業は一つとは限りません。複数の事業をまとめて売却可能です。ただし買収側がすべての事業を買収してくれるとは限らないため、最終的には売買企業間の交渉によって売買対象は決まります。交渉が必要なのは手間がかかるのでデメリットにもなりますが、売買企業間で最適な条件に調整できる点はメリットです。
移籍する従業員を選別できる
事業譲渡の場合は他のM&A方法とは異なり、移籍する従業員を選別できます。売却側の企業に残る従業員もいれば、買収側の企業に移籍する従業員もいるということです。たとえば譲渡する事業を担当している従業員は移籍するといったパターンがありますが、これも絶対的なものではありません。
売却した事業を担当していた従業員が売却側の企業に残り、残った事業を担当する、といったパターンもあります。
売却する資産を選別できる
事業譲渡では譲渡する事業だけでなく、譲渡する資産も選別できます。自社に残したい資産は確実に残し、自社にとって不要な資産のみ売却するといったことが可能です。ただし買収側の希望もあるため、売却側の希望通りの形になるとは限りません。売買企業間で交渉し、最終的に決定することになります。
事業承継の実現
他のM&A方法同様、事業譲渡でも事業承継を実現できます。事業承継とは、経営者が自社を後継者に引き継ぐことです。中小企業の後継者不足問題が深刻化しているため、事業譲渡を含むM&Aが活発になっています。
株式譲渡と比べて負債があっても成約しやすい
事業譲渡は譲渡する負債も選択できます。そのため、買収側は引き継ぎたくない負債を避けることができます。結果的に、売却側は負債を理由にM&Aを懸念されることが少ないということです。
事業譲渡の買収側のメリット9選
次に買収側のメリットです。買収側のメリットは以下です。
- 買収する事業を選別できる
- 事業拡大の実現
- 低リスクで新規事業進出
- 不要な資産や負債を除外
- 簿外債務を承継する可能性がない
- 人材獲得
- 技術の獲得
- 取引先獲得
- 節税効果
それぞれのメリットについて解説していきます。
買収する事業を選別できる
事業譲渡では、買収側企業も事業を選別できます。売却側が断れば当然買収できないのですが、希望を伝えたうえで交渉可能です。
事業拡大の実現
事業拡大を目的にM&Aを実施するケースは多いですが、事業譲渡の場合は欲しい事業のみピンポイントで買収できます。その結果、自社の弱い事業の補強、新規事業への参入、自社の強い事業のさらなる拡大、シナジー効果の発揮、といったことを実現可能です。
低リスクで新規事業進出
ゼロから事業を立ち上げるのはリスクが高いです。初期コストを回収できないまま撤退するケースも多々あります。一方で、事業譲渡で事業を獲得した場合はすでに事業が軌道に乗っています。そのため、低リスクで新規事業に進出できます。事業だけでなく顧客など派生する要素もそのまま引き継ぐことになる可能性が高いです。
不要な資産や負債を除外
事業譲渡は譲渡する事業だけでなく、資産や負債も取捨選択できます。そのため、不要な資産や負債は除外できます。除外という観点では、買収側の希望は比較的通りやすいでしょう。売却側は不要なものを押し付けることはしづらいからです。
簿外債務を承継する可能性がない
会社を丸ごと買収する場合、簿外債務を承継してしまう可能性があります。売却側が意図的に隠している場合もあれば、売却側も把握していない簿外債務が存在する場合もあるでしょう。事業譲渡の場合は買収する事業を選択できるので、簿外債務を承継するリスクがありません。
人材獲得
他のM&A方法同様に、事業譲渡は人材を獲得できます。他のM&A方法と事業譲渡の違いとしては、人材も取捨選択できることでしょう。必要な人材を獲得し、逆に不要な人材は獲得しないという選択ができます。
技術の獲得
事業譲渡は他のM&A方法同様、売却企業の技術を獲得できます。すべての設備やノウハウを獲得するかどうかは売買企業間の交渉によりますが、売却側は希望を伝えることが可能です。
取引先獲得
事業譲渡も他のM&A方法同様に、取引先を獲得できます。取引先ともともと契約を結んでいる場合は、改めて契約を結び直す必要があります。また明確に契約を結んでいるわけではない取引先は、事業譲渡実施後も取引を継続してくれる場合もあれば、離れていく場合もあります。
節税効果
事業譲渡によるM&Aの費用には、売却事業の現在価値だけでなく将来的な利益も含まれます。この将来的な利益のことを「のれん」と呼び、のれんは損金に算入することが可能です。損金に算入するということは、税金から引かれるということです。
事業譲渡のデメリット
次に事業譲渡のデメリットについて解説します。デメリットも売却側と買収側の視点からそれぞれ複数挙げていきます。デメリットも同様に、他のM&A方法と事業譲渡を比較してのデメリットもあれば、M&A全般に該当するデメリットもあります。
事業譲渡の売却側のデメリット6選
まずは事業譲渡の売却側のデメリットです。売却側のデメリットとしては以下が挙げられます。
- 株主総会の特別決議
- 競業避止義務
- 移籍する従業員の同意が必要
- 取引先の同意が必要
- 売却益への課税
- 負債が残る
それぞれのデメリットを解説していきます。
株主総会の特別決議
事業譲渡を実施するためには、原則的に株主総会での特別決議が必要です。株主が少ない中小企業では大きなデメリットにならない場合が多いですが、大企業の場合は手間がかかり、デメリットが生じます。
競業避止義務
競業避止義務とは、譲渡した事業と同一の事業を同一市区町村・隣接する市区町村で行えないという既定のことです。競業避止義務の期間は基本的には20年、最大で30年まで延長可能となっています。
ただし実態としては数年程度の期間に設定する場合が多いでしょう。競業避止義務の期間は売買企業間で交渉して決定できるため、相場としては法的に基本と定められている20年間よりも大幅に短くなる場合が多いということです。
また最近は、そもそも競業避止義務をなしとするケースも増えています。競業避止義務がなければデメリットにはなりませんが、競業避止義務が発生する可能性があるという点もデメリットと言えるでしょう。
移籍する従業員の同意が必要
一般的なM&A方法では、会社を売却すると従業員はすべて買収企業に移籍することになります。しかし事業譲渡の場合は従業員も売却側に残る人と買収側企業に移籍する人に分かれます。
そして、移籍する従業員に対しては一人一人承認が必要です。交渉に手間がかかり、さらに難航するケースもあります。難航すれば大きなデメリットです。
取引先の同意が必要
取引先と契約を結んでいる場合、個別に承認を得る必要があります。契約を結んでいない場合も、納得してもらわないと事業譲渡後に取引ができません。取引先への対応に手間がかかる点も事業譲渡のデメリットです。
売却益への課税
事業譲渡では売却益に対して法人税がかかります。法人税は売却益単体で課税されるわけではなく、同年度の損益を計算した金額に対して課されます。事業譲渡は基本的に売却益に対して税金が多くかかるデメリットがあります。
負債が残る
事業譲渡によって負債を譲渡することは可能ですが、買収側は当然負債の譲受は避けたいと考えます。その結果、負債は売却側企業に残ってしまうことが多いです。他のM&A方法であれば負債も含めて丸ごと会社を売却できるので、負債が残るという点はデメリットと言えるでしょう。
事業譲渡の買収側のデメリット6選
次に事業譲渡の買収側のデメリットです。買収側のデメリットとして以下が挙げられます。
- 株主総会の特別決議
- 手続きが煩雑
- 許認可を承継できない
- 消費税の発生
- 資金調達
- PMIが難しい
それぞれのデメリットについて解説していきます。
株主総会の特別決議
事業譲渡では買収側も株主総会の特別決議が必要です。売却側は例外的に株主総会を省略できる場合がありますが、買収側は省略できません。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権のうちの2/3以上の賛成が必要ということです。手間がかかるのでデメリットと言えるでしょう。
手続きが煩雑
事業譲渡は事業、資産、負債などをそれぞれ個別に手続きします。取引先や従業員についても個別に交渉が必要な場合があります。これらをすべて行う場合、時間も労力もかかります。特に大企業は上記すべての量が多くなるため、その分手続きも煩雑です。
許認可を承継できない
事業譲渡の場合は事業、資産、負債などをそれぞれ個別に引き継ぐので、許認可も個別に対応する必要があります。そして許認可は売買企業間だけでなく、監督官庁への申請も必要です。事業譲渡後すぐに事業を行うためには、あらかじめ許認可申請が必要な場合もあります。
消費税の発生
事業譲渡の買収費用には消費税がかかります。株式譲渡など他のM&A方法では消費税はかからないため、事業譲渡のデメリットと言えるでしょう。
資金調達
事業譲渡を含むM&Aで買収するためには、資金が必要です。資金調達が必要な点はデメリットとも言えますが、買収も買い物なので当然と言えるでしょう。ただし他のM&A方法では、たとえば現金ではなく自社株の譲渡によって買収が可能な方法もあります。
PMIが難しい
PMIはPost Merger Integrationの略で、M&A完了後の統合マネジメントを指します。事業譲渡を含むM&Aの実施後は、売却側の企業や事業と買収側企業を統合させる必要があります。事業譲渡の場合丸ごと買収するわけではなく個別に買収するため、丸ごと取り入れてしまうよりもPMIが難しくなる場合があります。
事業譲渡手続きの方法と流れ
事業譲渡を実施するためには段階があります。具体的な手続きの流れは個別に異なるのですが、大枠はどの事例でも概ね同じです。そこで、事業譲渡手続きの方法と流れを解説していきます。まず全体の流れは以下です。
- M&Aアドバイザーと業務委託契約
- 企業価値評価
- 取締役会決議
- 交渉相手探し
- 秘密保持契約・交渉開始
- トップ面談
- 基本合意書
- デューデリジェンス
- 最終交渉
- 事業譲渡契約
- 臨時報告書
- 公正取引委員会
- 株主への通知・公告
- 株主総会特別決議
- 許認可取得
- 資産の名義変更手続き
- 取引契約の地位移転手続き
- 従業員との労働契約締結
- クロージング
各手続きの内容について解説していきます。
M&Aアドバイザーと業務委託契約
まずはM&Aアドバイザーと業務委託契約を結びます。M&Aの実施という意味では業務委託契約が最初の手続きですが、先に無料相談しておくのがおすすめです。多くのM&Aアドバイザーは無料相談が可能なので、M&Aを検討している方は相談してみると良いでしょう。
業務委託締結後は、M&Aアドバイザーと企業で協力してM&Aを進めていくことになります。
企業価値評価
企業価値評価は主に売却側が実施する手続きです。買収側も買収先候補の企業を評価しますが、もう少し後で実施するのが一般的です。売却側の場合は比較的初期段階で自社の企業価値評価を行います。
M&Aアドバイザーと業務委託契約を結んでいれば、M&Aアドバイザーが企業価値評価を行うか、もしくは専門家に依頼をしてくれます。自社で的確な企業価値評価を実施するのは難しいので、いずれにしてもM&Aアドバイザーに任せるのが一般的でしょう。
取締役会決議
取締役会を設置している企業は、事業譲渡実施前に取締役会決議が必要です。取締役の過半数の承認があれば事業譲渡を実施できます。
交渉相手探し
売却側も買収側も交渉相手を探す必要があります。交渉相手とは、売買先候補の企業ということです。M&Aアドバイザーは売却側、買収側双方と契約を結んでいて、プラットフォームも持っています。つまり企業の状況や経営者の希望に応じて交渉相手を見つけてくれるということです。
M&Aアドバイザーとよく話し合う必要がありますが、交渉相手の選定や交渉機会の用意はM&Aアドバイザーが行ってくれます。
秘密保持契約・交渉開始
交渉相手が見つかったら、秘密保持契約を締結して交渉を開始します。秘密保持契約を締結する理由は、売却側企業の情報を買収側企業に公開するからです。公開した情報が流出すると売却側企業が不利益を被る可能性があるため、秘密保持契約を締結します。
秘密保持契約締結後に情報を開示し、具体的な交渉に移ります。
トップ面談
秘密保持契約締結後に、トップ面談を行います。トップ面談とは、売買企業の各経営者による面談のことです。トップ面談ではまだ事業譲渡に関する詳細は話さないのが一般的で、どちらかというと事業や会社経営に関する考え方などを話します。
人となりを知るために、趣味などプライベートな会話をする場合もあるでしょう。トップ面談で事業譲渡の詳細を話さなくても、重要な手続きです。ここで考え方が合わないとM&Aの話が流れる場合もあるからです。逆に意気投合し、その後の手続きがスムーズに進む場合もあります。
基本合意書
基本合意書とは、事業譲渡に関する基本的な内容に同意する旨の書類です。基本合意書に法的拘束力はないので、基本合意書を締結したからといって事業譲渡の実施が決定するわけではありません。基本合意書の内容としては、デューデリジェンスを行う旨、独占交渉権、今後のスケジュールなどが一般的です。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、売却側企業の実態調査です。売却側企業は自社の情報を開示しますが、この情報はあくまでも売却側企業が出しているものです。言い換えれば、すべてが正しいとは限らず、また正しかったとしても売却側企業の主観が含まれています。
そこで、デューデリジェンスという手続きで客観的に売却側企業を調査するということです。デューデリジェンスは買収側企業のために行うものですが、M&Aアドバイザーが全面的にサポートします。
デューデリジェンスの分野ごとに、M&Aアドバイザーが専門家に依頼するのが一般的です。
最終交渉
デューデリジェンスの結果に問題がなければ、最終交渉の手続きに移ります。最終交渉では、事業譲渡の具体的な内容を話し合います。金額やスケジュールはもちろん、事業譲渡実施後のことまで交渉内容に含まれます。
事業譲渡は特に譲渡する事業、資産、負債などを個別に決定する必要があるので、交渉の内容も細かくなる傾向があります。
事業譲渡契約
最終交渉で話がまとまったら、事業譲渡契約の締結に移ります。事業譲渡契約を締結したら、事業譲渡を実施することが決定事項となります。そのため契約書には実際に実施する内容を詳細に記載します。
臨時報告書
事業譲渡の実施によって資産額が直近事業年度の純資産額よりも30%以上増減する場合か、売上高が10%以上増減する場合は内閣総理大臣に臨時報告書を提出する必要があります。
公正取引委員会
公正取引委員会への届出が必要な場合もあります。条件としては、買収側の国内売上高合計額が200億円を超えていて、なおかつ売却側の事業の国内売上高が30億円を超える場合は公正取引委員会への届出が必要です。
株主への通知・公告
事業譲渡の実施、もしくは事業譲渡の実施を検討している旨を株主に通知する義務があります。通知方法は官報公告や電子公告です。事業譲渡に反対する株主に対しては、株式の買取請求権があることを伝えます。
株主総会特別決議
事業譲渡の効力発生日前日までに、株主総会の特別決議で株主の承認が必要になります。承認は議決権の過半数以上を持つ株主が出席し、2/3以上の賛成を得ることで認められます。
例外的に、譲渡事業・資産の総資産額が20%を超えない場合、買収側が売却側株式の9/10以上を保有している場合は株主総会の特別決議は不要です。
許認可取得
事業譲渡では許認可は引き継がれません。そのため、買収側企業は許認可を取得しなおす必要があります。事業譲渡後すぐに事業を開始するためには、早めに許認可を取得しておく必要があるでしょう。
資産の名義変更手続き
許認可同様に、資産の名義変更も必要です。名義を変更しないと資産の所有権が売却側企業に残ったままになります。
取引契約の地位移転手続き
資産の名義と同様に、契約上の地位も移転させる必要があります。再度契約を結び直すのと実質同じですが、地位の移転手続きの方が簡易的に済む場合もあります。
従業員との労働契約締結
従業員が買収側企業に移転する場合、従業員ごとに個別に労働契約を締結する必要があります。他のM&A方法のように会社を丸ごと買収する場合は従業員の労働契約はそのまま引き継がれるので、事業譲渡の場合は他のM&A方法とは異なります。
クロージング
クロージングとは、売買企業間で契約を履行することです。資産の引き渡しや対価の支払いが該当します。事業譲渡に限らず、すべてのM&A方法で当然クロージングの手続きが必要です。
事業譲渡の税金
事業譲渡を実施すると複数の税金がかかります。具体的には以下です。
- 法人税(企業の場合)
- 所得税(個人事業主の場合)
- 消費税
- 不動産取得税
- 登録免許税
それぞれの税金について解説していきます。基本的に税金は事業譲渡における大きなデメリットと言えるでしょう。他のM&A方法では税金面での優遇措置が設けられている場合が多いですが、事業譲渡では事業、資産の売買が一般的な売買と同様に扱われます。そのため、売買金額にそのまま税金がかかってくるということです。特に消費税は他のM&A方法ではあまりかからない税金なので、事業譲渡ならではの税金です。
法人税(企業の場合)
事業譲渡によって利益を取得すると、法人税がかかります。法人税なので企業の場合のみです。事業譲渡による利益だけが特別というわけではなく、同じ事業年度の利益全般に事業譲渡による利益も合算する形で法人税額は算出されます。
所得税(個人事業主の場合)
個人事業主の場合は法人税ではなく所得税になります。これは事業譲渡の利益に限らず、利益全般の違いです。法人には法人税、個人には所得税がかかるということです。
消費税
事業譲渡では消費税が発生します。同じくM&A方法としてメジャーな株式譲渡では消費税は発生しません。事業譲渡の場合は消費税がかかるので、税金の見積もり段階で課税資産と非課税資産を把握しておく必要があるでしょう。
不動産取得税
事業譲渡によって不動産を取得する場合、不動産取得税がかかります。不動産取得税の計算は事業譲渡に限らず、一般的に不動産を取得した場合と同じです。
登録免許税
事業譲渡は買収側が免許を登録し直す必要があるので、登録免許税がかかります。登録免許税についても、事業譲渡ではない一般的な方法で登録する場合と同じです。また免許の内容によって労力や費用は異なります。
事業譲渡の注意点
事業譲渡の注意点として以下が挙げられます。
- 税務リスク
- 法的トラブルリスク
- 詐害行為取消権
- 免責登記
- 従業員の解雇
それぞれの注意点について解説していきます。
税務リスク
事業譲渡は事業や資産を個別に売買するのでそれぞれ税金がかかります。そのため他のM&A方法に比べると税金の負担が大きいです。リスクというよりは、あらかじめ事業譲渡にかかる税金を把握しておかないと資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。事業譲渡の注意点であり、デメリットとも言えます。
法的トラブルリスク
会社を丸ごと売買するM&Aよりも、個別に売買する事業譲渡では法的トラブルが発生しやすいです。M&Aの実施後にトラブルが発生するというもので、たとえば資産に抵当権などの負債がついていることを把握していなかった、といった事例が挙げられます。法的トラブルリスクも、事業譲渡の注意点であり、デメリットでもあります。
詐害行為取消権
詐害行為とは、債務者が意図的に債権者に不利益を及ぼす行為のことです。そして詐害行為を受けた債権者は、詐害行為取消権を行使することが認められています。詐害行為取消権については他のM&A方法でも同様なので、事業譲渡ならではの注意点、メリット、デメリットというわけではありません。
しかし、事業譲渡は他のM&A方法に比べると詐害行為が行われやすい傾向があります。言い換えると、詐害行為取消権も行使されやすいということです。事業譲渡では事業、資産、負債、取引先、従業員などを個別にやり取りするので、その分契約が細かくなります。
その結果、売却側が意図的に情報を伏せるような可能性も高くなります。事業譲渡は詐害行為を行いやすいということです。買収側にとっては特にデメリットであり注意点です。
免責登記
免責登記とは、事業を買収した企業が債務の弁済責任を免れるための登記のことです。免責登記を行えば、債務の履行者は売却側のままになります。どちらが債務を履行するかあらかじめ交渉したうえで、免責登記を行うか決める必要があります。
従業員の解雇
事業譲渡時に従業員を解雇するのが得策な場合もあるでしょう。その際、不当解雇にならないように労働法に則って解雇を進める必要があります。具体的には、人員整理の必要性があること、その従業員を選ぶ合理性があること、解雇を回避するための努力を行ったこと、解雇という選択が妥当であること、などの条件が求められます。
事業譲渡をするべきケース
事業譲渡をすべき状況もあれば、他の選択肢の方が合理的な場合もあるでしょう。そこで、売却側、買収側それぞれの立場から、事業譲渡をするべきケースについて解説します。またここでの比較は他のM&A方法と比べるという視点です。
売却側
売却側が事業譲渡をするべきケースとして以下が挙げられます。
- 継続したい事業がある
- 不採算事業がある
- 企業再生を目指す
- 後継者が不在
事業譲渡で売却するのは会社そのものではなく事業や資産です。そのため、M&A成立後も経営者自ら事業を継続できます。この点が他のM&A方法とは大きく異なるメリットで、事業譲渡を選択すべきかどうかの判断基準になるでしょう。それぞれのケースについて解説していきます。
継続したい事業がある
売却側は、事業を継続するために別の事業を事業譲渡によって売却する場合があります。いわゆる選択と集中です。一部の事業を手放すことで、資金と労力をメイン事業に集中させるということです。他のM&A方法にはない、事業譲渡ならではの方法です。
不採算事業がある
不採算事業を切り離す目的で事業承継が実施される場合も多いでしょう。不採算部門は他社から見ても不要に思えるかもしれませんが、他社のノウハウや既存事業との組み合わせによって黒字化できる可能性があります。
自社にとっては不採算事業で継続が難しくても、他社にとっては需要があるということです。不採算事業を売却することで資金や労力を既存事業に集中させることができます。
企業再生を目指す
上の事業の継続や不採算事業の切り離しからより大局的な視点で、企業再生のために事業譲渡を実施する場合もあります。要するに事業の選択と集中を行うことで企業再生を図れるということです。
後継者が不在
後継者不在は多くの中小企業で問題になっています。M&Aの王道の理由と言えるでしょう。事業譲渡に限らず、M&A全般が後継者不在という理由から実施されることが多いです。
後継者不在の場合は企業を丸ごと売却するのが一般的なので、事業譲渡ではなく別のM&A方法が選択される場合が多いでしょう。しかし、事業譲渡を選択する場合もあります。一部の事業は自分で続けるか、もしくは一部の事業のみ残して後継者に引き継ぐ場合もあるからです。
買収側
次に買収側の事業譲渡をするべきケースを挙げていきます。以下のようなケースが挙げられるでしょう。
- 簿外債務を承継したくない
- 低予算でM&Aをしたい
それぞれの内容を解説していきます。
簿外債務を承継したくない
事業譲渡は買収する事業、資産、負債を個別に選択できます。その結果、簿外債務を承継するリスクを回避できます。会社丸ごと承継する場合は、売却側が簿外債務の存在を隠していたり、売却側も把握していない簿外債務が存在したりする可能性があります。事業譲渡では不明確な部分は承継しない選択が可能です。
低予算でM&Aをしたい
会社を丸ごと買収するM&A方法よりも、事業譲渡はM&Aにかかる費用を抑えられる可能性が高いです。必要な事業や資産に絞って買収し、その他の部分は買収しないという選択ができるからです。
ただし、事業譲渡は他のM&A方法に比べると買収費用に対して税金が多くかかるケースが多いです。そのため、税金はあらかじめ計算して把握しておく必要があります。
事業譲渡の成功事例
事業譲渡の成功事例を紹介します。成功事例を把握しておくことで、実際にどのような形で事業譲渡が行われているのか、自社の場合はどのような選択が最適か、といった判断材料として役立ちます。
Worldgate Express Lines Pte. Ltd.から安田倉庫への事業譲渡
2023年6月8日付で、Worldgate Express Lines Pte. Ltd.とWorldgate Express Lines International Pvt. Ltd.から安田倉庫への事業譲渡契約が締結されました。
Worldgate Express Lines Pte. Ltd.はシンガポールを拠点にフォワーディング業務を営んでおり、Worldgate Express Lines International Pvt. Ltd.はインドでフォワーディング業やコンテナによる輸送業や倉庫業を営んでいました。
今回の事業譲渡によって安田倉庫は事業エリアが拡大したため、同業者間でシナジー効果を得た事業譲渡事例と言えるでしょう。また事業譲渡に伴い、安田倉庫はシンガポールにYasuda Logistics Singapore Pte. Ltd.という子会社を新たに設立しています。
イワイホームから大英産業への事業譲渡
2023年5月26日、株式会社イワイホームから大英産業株式会社に事業譲渡が行われました。イワイホームは熊本県を中心に総合建設業を営む会社です。具体的には、注文住宅の設計施工 、鉄筋鉄骨ビル工業、土地造成及び宅地分譲、分譲住宅の販売などを行っています。
大英は九州と山口県で分譲マンション・分譲住宅の建築・販売、中古物件の買取再販などの事業を行う会社です。大英がイワイホームの事業を買収することで熊本県へのエリア拡大、技術・顧客獲得などが可能なため、事業譲渡契約に至りました。
事業譲渡によって売買されたのは、住宅建築販売事業とアフターメンテナンス事業です。
小岩井ドリームから大英産業への事業譲渡
上記のイワイホームと同時に、有限会社小岩井ドリームも大英産業に事業譲渡を行っています。小岩井ドリームは熊本県でアフターメンテナンス、リフォーム請負工事を行う会社でした。
大英産業は主に施工や販売を手掛けるイワイホームとメンテナンスやリフォームを行う小岩井ドリームの事業を同時に買収することで、建築・不動産に関する幅広いシナジー効果を獲得したということです。
事業譲渡のメリット・デメリットまとめ
事業譲渡は売却側から見ても買収側から見ても、複数のメリットとデメリットがあります。M&Aそのもののメリット・デメリットもあれば、M&Aの中でも事業譲渡のみに該当するメリット・デメリットもあります。
事業譲渡、株式譲渡、会社分割はM&A方法の中でもメジャーなので比較されることが多いですが、目的もクロージング後の形態も大きく異なります。特に事業譲渡の場合はメイン事業の存続を目的としている場合が多いため、会社を手放す株式譲渡や、組織再編される会社分割とは別物と言えるでしょう。
事業譲渡は選択と集中によって資金獲得しつつ売却側企業を最適な形に整理できます。買収側も欲しい事業や資産だけに絞って買収できるので、売買企業ともに合理的な選択が可能です。
しかし取捨選択する分、双方とも時間と労力がかかる傾向があり、また税金面でも他のM&A方法と比較すると割高になる可能性が高いです。このように事業譲渡には大きなメリットとデメリットがあるので、他のM&A方法のことも把握したうえで自社にとって最適な方法を検討する必要があります。
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