【会社を売りたい人へ】会社売却のメリットと注意点は?手続きや成功のポイントを解説!
会社を売りたい経営者の方に向けて、会社売却に関するさまざまな情報をまとめました。主な内容は、会社売却のメリットや手続き、成功ポイント、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aスキーム、企業価値評価、税金などです。また、会社を売りたい時の相談先や注意点も紹介しています。
目次
会社を売りたい傾向の強まり
昨今、中小企業や小規模事業者において、会社を売りたいと考えている経営者が増えてきているといわれています。以前は、たとえ会社を売りたいという気持ちがあっても、M&Aに対するネガティブなイメージが先行してしまい、会社売却を実行に移す経営者は多くありませんでした。
しかし近年は、経営戦略としてのM&Aの認知や、後継者不在問題への対策など経営課題の解決手段としての有効性などが幅広く浸透しつつあります。その結果、中小企業経営者や小規模事業者の間では、積極的に会社を売りたいという意思表示が強まってきています。
会社を売りたい理由とは?
経営者が会社を売りたいと考える際に多い理由には、以下のようなものがあります。
- 経営者のリタイア
- 雇用や取引の維持
- 経営の安定化
- 業績の向上・会社の発展
- イグジット戦略
会社を売りたい、それぞれの理由を確認しましょう。
経営者のリタイア
長年経営を続けてきた経営者でも、体調不良や人生の余暇を楽しみたいという理由からリタイアしたいと考える人も非常に多いです。
そこでこれまで続けてきた会社を廃業させてしまうのではなく、他者へ売ることで売却益を獲得し老後資金に充てることなどが可能です。
雇用や取引の維持
会社を売りたい理由の1つは、従業員の雇用や取引先との関係維持です。後継者不在の会社において経営者が引退時期を迎えると、会社は廃業するしかありません。会社が廃業となれば、従業員は解雇となって職を失い、取引先も1つの取引が消滅することで業績に悪影響が出ます。
顧客もサービスや商品購入ができなくなり、地域社会にダメージを与えるでしょう。
しかし、会社売却を実行すれば、M&Aの買い手によって経営は維持され事業も継続されます。廃業によるステークホルダーへの悪影響を避けるため、会社を売りたいと考えるわけです。
経営の安定化
会社を売りたいと考える理由には、経営の安定化という目的もあります。一般に、会社売却の場合、売り手よりも買い手の方が会社の規模が大きく、財務面も安定しているでしょう。
一方、中小企業や小規模事業者の場合、資金的な余裕がなく、なかなか安定した経営が行えません。そこで、会社売却をすることで大企業の傘下となり、親会社の資金力を含めた経営リソースを活用することで、経営は断然、安定化します。
業績の向上・会社の発展
業績を向上させ、会社の発展を実現するために、会社を売りたいと考える経営者もいます。会社売却の際の買い手側がM&Aを決断するのは、対象企業を買収することでシナジー効果の創出が期待でき、相互に業績が向上するだろうという見込みがあるからです。
会社を売りたい側の狙いも全く同じでしょう。親会社の経営資源を活かしつつグループ会社と協業することによって、単独では実現しなかったであろうレベルの業績の発展を目指すものです。
イグジット戦略
ベンチャー企業やスタートアップであれば、会社を売りたい理由はイグジット戦略そのものです。イグジット戦略とは、投資した資本を回収したうえで利益を得るための戦略、手段を意味します。
以前の日本のベンチャー企業のイグジット戦略といえば、IPO(Initial Public Offering=新規株式公開)が主流の考え方でした。確かにIPOに成功すれば会社売却よりも大きな利益が得られる可能性はあるのですが、その分、難易度も高いものです。
そこで近年は、IPOよりも難易度が低く一定の利益獲得が望めるM&Aに軸足が移りつつあります。
会社売却のメリット
経営者が会社を売りたいと思うのは、会社売却にはメリットがあるからです。会社売却の主なメリットには、以下のようなものがあります。
- 事業承継の実現
- シナジー効果
- 資金獲得
- 経営者保証の解消
- 経営からの解放
それぞれの会社売却のメリットについて説明します。
事業承継の実現
会社売却のメリットの1つは、事業承継の実現です。中小企業や小規模事業者に後継者がいないまま経営者が引退時期を迎えると、残された手段は廃業しかありません。会社が培ってきた技術やノウハウは失われ、従業員は解雇となります。
取引先にも影響を及ぼし、顧客はサービスの利用や商品購入ができなくなります。この後継者不在による廃業問題の解決策となるのが会社売却です。会社売却によって、その買い手が後継者(新たな経営者)となり、会社は維持されます。
後継者不在の経営者が、事業承継を実現できるなら会社を売りたいと思うのは自然の発想でしょう。
シナジー効果
会社売却のメリットには、M&A後のシナジー効果もあります。企業経営におけるシナジー効果とは、M&A後の買い手・売り手の業績が、単なる合算値を上回る成績を上げることです。単独での事業は資金面や人材不足などにより、業績を上げるにも限度があります。
そこで、会社売却後、買い手の資金をはじめとする経営資源を活用しつつ協業を行うことで、シナジー効果を創出して業績を向上させることが可能です。このメリットを念頭に、会社を売りたいと考える経営者もいます。
資金獲得
会社売却を実行し、現金で対価を得られることも大きなメリットです。この現金は自由使途の資金ですから何にでも使えます。会社売却後、新しい事業を立ち上げる資金にしてもいいでしょう。
事業譲渡でノンコア事業を売却し、主力事業につぎ込む資金にも使えます。会社売却でリタイアするのであれば生活資金にもできますし、投資に用いるのも可能です。資金の獲得は、会社を売りたい経営者の大きな動機になります。
経営者保証の解消
経営者保証を解消できることも、会社売却のメリットになります。経営者保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人になることです。個人資産を担保にすることもあり、経営者保証は精神的負担が重いものとされています。
これまでは中小企業が融資を受ける場合、ほとんどのケースで経営者保証が求められてきました。しかし、事業譲渡以外のM&Aスキームでは、負債も買い手が引き継ぐため、経営者保証は解消されます。これも会社を売りたい1つの目的となるでしょう。
経営からの解放
会社売却によって経営の責務から解放されることも、人によってはメリットといえるでしょう。経営者は孤独といわれます。従業員を含めて会社の全責任を負うという立場は、重圧がかかるものです。
長年の精神的重圧から解放された時の気持ちは経営者にしかわかりませんが、心が軽やかになるのでしょう。そのために会社を売りたいと思うのも、うなずけます。
会社売却のデメリット
会社売却にはメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。会社売却でデメリットや注意点となる主なものは以下のとおりです。
- ロックアップ(キーマン条項)
- 競業避止義務
- 人材流出
- 売りたい金額で売れない可能性
- 法的なリスク
会社売却におけるデメリット・注意点の内容をそれぞれ説明します。会社を売りたいと思った場合には、デメリットや・注意点も把握しておきましょう。
ロックアップ(キーマン条項)
会社売却のデメリット・注意点の1つは、ロックアップです。ロックアップとは、売り手側の経営陣を一定期間、会社にとどまらせることを意味します。M&Aの最終契約書には、キーマン(経営のカギとなる人物)条項として記載されるもので、その目的は以下のとおりです。
- 買い手経営陣への引継ぎ
- 引継ぎ後の経営サポート
- PMI(経営統合プロセス)への協力
会社売却後、新事業の立ち上げや、のんびりリタイア生活を送りたいとしてもロックアップがM&Aの条件になっている場合、従うしかありません。期間はケースバイケースですが、長い場合は2~3年という場合もあり留意が必要です。
競争避止義務
競業避止義務も会社売却のデメリット・注意点です。ただし、M&Aスキームが事業譲渡だった場合に限ります。競業避止義務とは、会社法の定めにより、譲渡した事業と同一の事業を、買い手側の所在区市町村および隣接区市町村で20年間、行えないことです。
しかしながら、離れた地域であれば問題ありません。また、買い手から同意を得れば競業避止義務を無効にできます。
人材流出
人材が流出する可能性も、会社売却のデメリット・注意点です。会社売却の事実を知った従業員は、将来を心配し不安になりがちでしょう。経営者が代わることに反発心を持つ従業員もいます。また、会社売却後、買い手の社風になじめず、業務がはかどらなくなるかもしれません。
それらの結果、従業員の離職があり得ます。特に、重要な人材や大量の人材流出は、会社の今後を考えれば避けねばなりません。買い手と協力し、会社売却の意義を丁寧に説明しましょう。
売りたい金額で売れない可能性
想定どおりの金額で会社売却できない可能性があることも、会社売却のデメリット・注意点です。M&Aは売り手と買い手の交渉によって対価が決まります。しかし、どちらかといえば、対価を支払う買い手の方が優位になりやすいケースが多いでしょう。
買い手主導の交渉の結果、想定より安い金額で交渉がまとまってしまうかもしれません。また、売り手は利益に課税を受けるため、その分の出費も計算しておく必要があります。
法的なリスク
会社売却では、最終契約書における「表明保証」条項によって、売り手が法的リスクを負います。これもデメリット・注意点です。表明保証では、開示している情報に虚偽がないこと、および隠している不利益な情報がないことを表明し保証します。
仮に違反した場合、買い手には損害賠償請求が認められている条項です。虚偽や隠匿情報がなければ心配いりませんが、経営上のリスクとなる簿外債務などは、売り手自身も把握できないケースもあり、安心はできません。
会社売却時のM&Aスキーム(手法)
会社を売りたい際のM&Aスキームには多くの種類があり、どのM&Aスキームが自社にとって適切か迷ってしまうかもしれません。ここでは、会社売却に限らず、会社組織は手元に残して事業のみを売りたい場合も含め、以下のM&Aスキームを紹介します。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 会社分割
- 株式交換
- 合併
各M&Aスキームの概要とメリット・デメリットを説明します。
株式譲渡
株式譲渡とは、対象企業の過半数の株式を買収することで経営権を取得するM&Aスキームです。通常、過半数では株主総会の普通決議しか可決できないため、特別決議が可決できる3分の2以上の株式を買収します。また、株式譲渡の対価は現金のみです。
株式譲渡は、会社を売りたい中小企業のオーナー経営者の場合に、よく用いられるM&Aスキームです。対象企業が上場企業の場合は、株式市場で株を買い付けるか、TOB(Take Over Bit=株式公開買付)により、不特定多数の株主に対し株の売却を募集します。
株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットは以下のとおりです。
- 株主と買い手の直接交渉でM&Aが成立するため、他のM&Aスキームに比べて手続きが簡便
- 包括承継であるため、買い手は会社を丸ごと承継できる
- 対外的には株主が代わるだけであるため、会社売却前後で事業活動に支障が出ない
- 売り手の会社組織はそのままであるため、独立性が保たれる
- 売り手は対価を現金で受け取れる
会社を売りたい場合に株式譲渡が多用されているのは、手続きが簡便である点が大きいでしょう。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡のデメリットは以下のとおりです。
- 包括承継であるため、買い手は不要な事業や資産、負債も承継する
- 買い手は経営上のリスクとなる偶発債務などの簿外債務を承継する可能性がある
- 売り手企業の独立性が保たれるため、シナジー効果を発揮しづらい場合がある
- 買い手は現金の調達が必要
デメリットの中でも、簿外債務が最も脅威です。これを防ぐためには徹底したデューデリジェンス(売り手への調査)を行うしかありません。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手が行っている事業のいずれか、または全部を売買するM&Aスキームです。全部の事業を売却したとしても、会社組織(法人格)は、そのまま売り手に残ります。事業譲渡の対価は現金のみです。
事業に付随する資産や権利義務のどれを譲渡対象とするかは、交渉によって1つずつ決めます。事業譲渡は、M&Aスキームの中で唯一の個別承継です。
事業譲渡のメリット
事業譲渡のメリットは以下のとおりです。
- 買い手は個別承継であるため、不要な資産や負債を承継せずにすむ
- 買い手は偶発債務などの簿外債務を承継せずにすむ
- 売り手は会社組織を手元に残せる
- 売り手は事業の選択と集中ができる
- 売り手は対価を現金で得られる
事業の選択と集中とは、ノンコア事業を売却し主力事業に経営リソースを集中させることです。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡のデメリットは以下のとおりです。
- 従業員との雇用契約、取引先との契約など全て個別に同意を得て契約締結し直さなければならない
- 手続きが煩雑である分、時間もかかる
- 買い手は許認可を承継できない
- 買い手は現金の調達が必要
- 売り手は競業避止義務を負う
- 会社譲渡と比べると売却時の税率が高い
事業の許認可は申請した事業者に与えられるものであるため、事業譲渡の買い手には承継できません。
以下の動画では、株式譲渡と事業譲渡の比較を解説しています。ご参考までご覧ください。
会社分割
会社分割とは、売り手の事業部門を売買するM&Aスキームです。事業譲渡との違いとして、譲渡対象の個別交渉は行わず、事業部門を丸ごと売買します。会社分割の対価は、現金以外に自社株式、社債、新株予約権などが可能です。
会社分割は2種類あります。既存企業間で行う会社分割が吸収分割、新設企業が買い手となる会社分割が新設分割です。会社法により、会社分割は組織再編行為と定められています。
会社分割のメリット
会社分割のメリットは以下のとおりです。
- 買い手は現金以外を対価にできる
- 対価が株式の場合、売り手は買い手の株主になれる
- 包括承継であるため、買い手は許認可も承継できる
- 買い手は事業部門を社内に取り込むため、シナジー効果を創出しやすい
- 要件を満たして適格組織再編と認められると税制上の優遇措置が得られる
許認可については、業種によっては会社分割で引継げないものもあります。事前の確認が肝要です。
会社分割のデメリット
会社分割のデメリットは以下のとおりです。
- 対価が株式の場合、買い手側の株主構成が変わる
- 包括承継であるため、買い手は不要な資産や負債を承継する
- 買い手は経営上のリスクとなる偶発債務などの簿外債務を承継する可能性がある
- 事業部門の統合は現場の負担が大きい
- 現金以外が対価の場合、売り手は現金化する手間がかかる
買い手にとって、対価に現金を用いなくてもよい反面、株主構成が変わってしまうのは悩みどころでしょう。
株式交換
株式交換とは、完全親子会社関係になる前提で行われるM&Aスキームです。以前の対価は、買い手の自社株式のみが可能であったため、株式交換と呼ばれました。現在は、法改正により社債、新株予約権、現金などのどれでも可能です。
完全親会社となるのが新設企業の場合の株式交換は、株式移転といいます。また、子会社の全株式を取得しない場合のM&Aスキーム名は、株式交付です。株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも組織再編行為と定められています。
株式交換のメリット
株式交換のメリットは以下のとおりです。
- 買い手は現金以外を対価にできる
- 包括承継であるため、買い手は会社を丸ごと承継できる
- 対外的には株主が代わるだけであるため、会社売却前後で事業活動に支障が出ない
- 売り手の会社組織はそのままであるため、独立性が保たれる
- 対価が株式だった場合、売り手の株主は親会社(買い手)の株主になれる
- 買い手は3分の2以上の株式を取得すればスクイーズアウトで全株式を取得できる
- 要件を満たして適格組織再編と認められると税制上の優遇措置が得られる
スクイーズアウトとは、株主総会の特別決議により少数株主の株式を強制で買い取れることです。
株式交換のデメリット
株式交換のデメリットは以下のとおりです。
- 包括承継であるため、買い手は不要な事業や資産、負債も承継する
- 買い手は経営上のリスクとなる偶発債務などの簿外債務を承継する可能性がある
- 売り手企業の独立性が保たれるため、シナジー効果を発揮しづらい場合がある
- 買い手は自社株式を対価にした場合、株主構成が変わる
- 現金以外が対価の場合、売り手は現金化する手間がかかる
買い手が非上場企業で対価が株式だった場合、売り手が必要に迫られて現金化するにしても手段は限られ、現金化自体、難しいものがあります。
合併
合併とは、複数の企業を1社に統合するM&Aスキームです。理論上、何社が同時に合併してもかまいません。合併では、法人格が残る存続会社以外は消滅します。合併の対価は、現金、自社株式、社債、新株予約権など、いずれも可能です。
合併も、会社法により組織再編行為と定められています。合併には2種類があり、既存企業間で行う吸収合併と、新設企業が存続会社となる新設合併です。
合併のメリット
合併のメリットは以下のとおりです。
- 買い手は現金以外を対価にできる
- 対価が株式の場合、売り手は買い手の株主になれる
- 包括承継であるため、買い手は売り手の全てを承継する
- 買い手は売り手を社内に取り込むため、シナジー効果を創出しやすい
- 要件を満たして適格組織再編と認められると税制上の優遇措置が得られる
適格組織再編による税制上の優遇措置とは、売り手の資産や負債を簿価で引継げるため、事実上、法人税の課税対象とならないことを指しています。
合併のデメリット
合併のデメリットは以下のとおりです。
- 対価が株式の場合、買い手側の株主構成が変わる
- 包括承継であるため、買い手は不要な資産や負債を承継する
- 買い手は経営上のリスクとなる偶発債務などの簿外債務を承継する可能性がある
- 会社組織丸ごとの統合は現場の負担が大きい
- 現金以外が対価の場合、売り手は現金化する手間がかかる
会社を売りたい場合、どのM&Aスキームが自社にとって適切なのか、それぞれのメリット・デメリットを把握して検討しましょう。
会社を売りたい時の相談先
ここでは、会社を売りたい時の相談先を紹介します。会社を売りたい際に活用できる相談先は以下のとおりです。
- M&A仲介会社
- FA(ファイナンシャルアドバイザー)・経営コンサルタント
- 金融機関
- 士業事務所
- 公的機関
- M&Aマッチングサイト
各機関の特徴を説明します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aの専門業者であり、会社を売りたい時の相談先としておすすめです。ほとんどのM&A仲介会社では、無料相談を実施しています。M&Aに関する基本的な質問から、会社を売りたい場合の具体的な戦略など、幅広い内容の相談が可能です。
ひと口にM&A仲介会社と言っても、それぞれの会社で特徴があります。主な特徴は以下のようなものです。
- 大企業のM&A案件を専門に扱う
- 中小企業から大企業まで幅広いM&A案件を扱う
- 中小企業や小規模事業者のM&A案件に特化
- 特定の業種のM&A案件に特化
M&A仲介会社に相談に赴く場合は、自社に適した特徴の会社を選びましょう。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)・経営コンサルタント
FAや経営コンサルタントも、M&Aアドバイザリー業務を行っています。M&A仲介会社と違って、売り手か買い手のどちらかと契約し、M&Aのアドバイスやサポートを行うスタイルです。
FAや経営コンサルタントの場合、M&A成約後のPMI(経営統合プロセス)のサポートも行うことが多いでしょう。ただし、大企業のM&A案件を中心に業務を行っているため、中小企業が会社を売りたいケースでは要検討です。
金融機関
銀行や証券会社などの金融機関も、M&A仲介業務を行っています。メガバンクや証券会社が担当するのは、ほとんどが大企業のM&Aです。中小企業が会社を売りたい場合は、地方銀行や信用金庫などが相談先になります。
ただし、地方銀行や信用金庫の全ての支店がM&Aに対応できるわけではありません。自社の取引支店でM&Aの相談が可能かどうか確認が必要です。
士業事務所
税理士、公認会計士、弁護士などの士業事務所と顧問契約を結んでいるのであれば、会社を売りたい時の初期の相談先になります。自社の経営事情をよく知っている相手ですから、客観的なアドバイスを期待できるでしょう。
ただし、近年、M&A仲介業に進出している士業事務所は増加傾向ですが、全ての士業事務所がM&Aに精通はしていません。その点を踏まえて相談をしましょう。
公的機関
会社を売りたい時の相談ができる公的機関は、事業承継・引継ぎ支援センターと商工会・商工会議所が代表的です。事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁の委託事業として各都道府県に設置されています。
事業承継全般のサポートを行っていますが、その一環としてM&Aによる事業承継の相談も受けています。ただし、事業承継・引継ぎ支援センター自身はM&A仲介業務を行っていません。登録M&A支援機関の紹介を受けられます。
商工会・商工会議所は、経営相談の一環としてM&Aの相談も可能です。商工会・商工会議所もM&A仲介業務は行っていません。また、原則として相談可能なのは会員のみとなります。
M&Aマッチングサイト
相談先とは異なりますが、会社を売りたい時にM&Aの相手探しができるという意味では、M&Aマッチングサイトがあります。簡単な手続きで情報を閲覧できるサイトも多いため、会社を売りたい場合の情報収集の場としても有効でしょう。
M&Aマッチングサイトは多数あり、それぞれで運営ルールが異なります。内容をよく確認してから利用しましょう。M&Aマッチングサイトは基本的に当事者間で手続きや交渉を進めますが、別料金でM&Aアドバイザーに業務を依頼できるサービスが用意されているところもあります。
会社売却時の手続きフロー
M&Aによる会社売却は、さまざまな手続きの連続で進んでいきます。一般的な会社売却手続きのフローは以下のとおりです。
- M&Aの検討
- M&A仲介会社などへの相談
- M&A仲介会社などとの業務委託契約締結
- 交渉相手とのマッチング
- 企業価値評価
- 秘密保持契約締結・交渉開始
- トップ面談
- 基本合意書の取り交わし
- デューデリジェンス
- 最終交渉・最終契約締結
- クロージング
- PMI(買い手側)
会社売却手続きの各フローについて説明します。
以下の動画では、M&A全体の流れについて解説しています。ご参考までご覧ください。
M&Aの検討
会社を売りたい際のフローは、M&Aの検討から始まります。この段階での成功ポイントは、会社売却の目的を明確に定めることです。M&Aには多くのメリットがありますから、会社売却の目的を1つに絞る必要はありません。
注意点としては、複数の目的を設定する際は、それらにプライオリティをつけることです。目的にプライオリティをつけることで、交渉の際の成功度を上げられるでしょう。
M&A仲介会社などへの相談
ほとんどのM&A仲介会社では、無料相談を実施しています。会社を売りたい時には、これを活用してM&Aの知識を得たり、会社売却について尋ねたりしましょう。複数のM&A仲介会社を訪問して比較しながら、最終的に業務委託契約を結ぶ先の選定も行います。
M&A仲介会社に自社の詳細を話す相談をする際は、秘密保持契約を締結してから行うようにしましょう。
M&A仲介会社などとの業務委託契約締結
M&A仲介会社の選定が固まったら、業務委託契約を締結します。注意点としては、契約には「仲介タイプ」と「アドバイザリータイプ」の2種類があることです。それぞれの内容は以下に説明しますが、どちらのタイプの契約が結べるかについても、M&A仲介会社選定のポイントになるでしょう。
仲介タイプ
仲介タイプの業務委託契約では、M&A仲介会社は売り手と買い手の両方と契約します。両者の交渉を仲介しながら着地点を目指す業務スタイルです。
仲介タイプは、比較的にM&Aが短期間で成功しやすいとされています。その代わり、条件面の変更を提案されることが多く、ある程度の妥協が必要でしょう。中小企業が会社を売りたい場合、仲介タイプを選ぶことが多いと言われています。
アドバイザリータイプ
アドバイザリータイプの業務委託契約では、仲介会社は売り手と買い手のどちらかと契約します。売り手と買い手がそれぞれ異なるM&A仲介会社と契約し、M&A仲介会社同士がクライアントの交渉を代行する業務スタイルです。
クライアントの最大利益獲得を目標とし、基本的に条件面の妥協はしません。M&Aが成功した場合は、希望条件どおりか、それに近い内容となるでしょう。ただし、交渉は長期化しやすく決裂する可能性もあります。FAや経営コンサルタントの契約は、このタイプです。
交渉相手とのマッチング
会社を売りたい相手候補は、M&A仲介会社が探してきます。まず、ロングリストの提示を受けるでしょう。
- ロングリスト:大枠で条件の合う買い手候補十数社程度のリスト
ロングリストから3~5社程度に絞り込んだショートリストを作成します。ショートリストにはプライオリティをつけ、M&A仲介会社はその順番に沿って交渉の打診を行う流れです。打診の際はノンネームシートが使われます。
- ノンネームシート:売り手の社名が特定されないように匿名状態にし、所在地、経営数値なども大まかな情報だけ記した企業概要書
企業価値評価
会社を売りたい場合の重要なフローの1つが、企業価値評価(バリュエーション)です。M&A仲介会社のアドバイザーや公認会計士などにより、売り手の企業価値評価が行われます。
この企業価値評価結果を基にして、後日、行われる交渉で提示する売却希望額を決める流れです。企業価値評価の算定方法の説明は後述します。
企業価値評価自体は、M&A仲介会社との最初の相談や契約までに算定されることもあります。
秘密保持契約締結・交渉開始
交渉の打診に応じる相手が現れたら、まず、秘密保持契約を締結します。会社を売りたい場合、交渉相手に重要な経営情報を開示しなければなりません。その情報の使用制限を行い、なおかつ外部に漏れないようにするために、秘密保持契約は必須です。
また、秘密保持契約では、会社を売りたいと考えて行動していること自体も秘密扱いにして、この情報の漏えいも予防します。秘密保持契約締結後、交渉が開始です。
以下の動画では、秘密保持契約の解説をしています。ご参考までご覧ください。
トップ面談
会社を売りたい場合の交渉フローで必ず実施されるのが、トップ面談です。売り手と買い手の経営トップが面会するトップ面談では、条件交渉は行いません。主に以下の内容を話します。
- 会社の経営方針
- 会社を売りたい・買いたいと決めた理由
- M&A後の経営方針(買い手)
- M&A後の進退方針(売り手)
- 会社の特徴や企業風土、アピール
上記の話をしながら、お互いの人物像の把握も行います。トップ同士が意気投合した場合、M&Aが一気に成功まで話が進むケースもあるでしょう。
以下の動画では、トップ面談の解説をしています。ご参考までご覧ください。
基本合意書の取り交わし
会社売却交渉において条件面で大筋の合意が得られたら、基本合意書を取り交わします。基本合意書の注意点は、合意内容を確認するための用途であり、法的拘束力を持たないことです。ただし、書面化することで心理的拘束性は持たせられるでしょう。
また、例外的に以下の条項には法的拘束力を持たせます。
- 秘密情報の保持
- 売り手のデューデリジェンスへの協力
- 買い手の独占交渉権
独占交渉権とは、基本合意書に記載された一定期間、売り手が第三者と交渉するのを禁じることです。
デューデリジェンス
基本合意書の取り交わし後、独占交渉権の期間中に買い手はデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、会社を売りたい側に対して行う経営状態の調査です。法務、税務、財務、労務などの分野ごとに、士業などの専門家を起用して行われます。
デューデリジェンスの目的は以下の3点です。
- 最終企業価値評価のための情報の精査
- 簿外債務が潜んでいないかの精査
- PMI(経営統合プロセス)計画に必要な情報の収集
以下の動画では、デューデリジェンスの解説をしています。ご参考までご覧ください。
最終交渉・最終契約締結
デューデリジェンス後、最終交渉が行われます。その前に買い手は、デューデリジェンスで精査した情報を基に、あらためて売り手に対する企業価値評価を行い、最終交渉で提示する買収額を決める流れです。
デューデリジェンスで問題が出ていなければ、基本合意書に沿った金額提示となるでしょう。最終交渉で合意が得られたら最終契約書の締結です。正式な契約書名は、用いられるM&Aスキーム名が冠されたものになります。
クロージング
M&Aは、最終契約書の締結で完了ではありません。最終契約書の締結後、クロージングが済んで初めて、M&Aの効力が発生します。クロージングとは、最終契約書に記載された内容を履行することです。
具体例として、会社を売りたい側は株式や資産の引き渡し、株主名簿の書き換えや株主名簿記載事項証明書の発行などが該当します。買い手側のクロージング例は、対価の支払い、各種名義の書き換え手続き、法務局での手続きなどです。
PMI(買い手側)
M&Aの買い手側では、クロージング後に重要なプロセスが控えています。それは、PMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)です。買い手にとってM&Aが成功するか否かは、PMIをスムーズに行い想定していたとおりに業績が向上することにかかっています。
一般にPMIでは、経営面・業務面・意識面の3層における統合を実施しなければなりません。PMIを成功させるためには、入念なPMI計画の策定が鍵となります。
会社売却時の企業価値評価
ここでは、会社売却手続きフローの1つである企業価値評価について詳しく説明します。企業価値評価を行う際には、専門的な算定方法で行われるのが常です。算定方法には多くの種類があり、それらは以下の3体系に分類されています。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
各アプローチの概要と、会社売却時の企業価値評価で用いられる代表的な算定方法を説明します。また、どのアプローチにも属さない簡易的な企業価値評価方法も紹介しますので、そちらもご参照ください。
コストアプローチ
コストアプローチは、対象企業の純資産額を株式価値として企業価値評価を算定するものです。純資産額は、資産総額から負債総額を引算して求めます。
計算が簡単であり、貸借対照表の見方が分かれば誰でも計算できるのが特徴です。また、客観性にも優れています。しかし、企業の収益力が評価に含まれていないため、M&Aには適しません。
時価純資産法
コストアプローチの代表的な企業価値算定方法として、時価純資産法があります。時価純資産法は、帳簿に記載されている資産と負債を時価に換算してから、純資産額を算定する方法です。
簿価は過去に取得した金額を示すだけであり、現在の価値を表していません。それぞれが持っている含み益、含み損を評価に反映させるため、時価に換算しています。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、対象企業と類似する上場企業の財務指標や、類似するM&A取引の内容を引用し、専用の計算方法を組み合わせて企業価値評価を算定するものです。
上場企業の公表されている財務指標や実際に行われたM&A取引を用いるため、客観性があります。ただし、類似する上場企業やM&A取引が見つからない場合は、算定そのものが行えません。
類似会社比較法
マーケットアプローチの代表的な算定方法が、類似会社比較法です。マルチプル法とも呼ばれます。
類似会社比較法は、対象企業と業種、ビジネスモデル、事業規模などが似ている上場企業を探し、その上場企業の時価総額、有利子負債、営業利益、減価償却費などの数値を用いて事業価値を算定するものです。
以下の動画では、類似会社比較法の解説をしています。ご参考までご覧ください。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、対象企業の今後の収益やフリーキャッシュフローを予測し、その数値に専用の計算方法を組み合わせて企業価値評価を算定するものです。将来の収益を勘案した算定方法は、M&Aに適しています。
ただし、収益やフリーキャッシュフローの予測に用いる中期事業計画は売り手側が用意したものです。予測の正確性と恣意性が注意点となります。
DCF法
インカムアプローチの代表的な算定方法として、DCF(Discounted Cash Flow)法があります。
DCF法は、中期事業計画における営業利益、減価償却費、設備投資費、運転資本の増減額などから、1年ごとにフリーキャッシュフローを算出したうえで、フリーキャッシュフローに特定の割引率による割引計算によって、事業価値を算定するものです。
以下の動画では、3体系の企業価値評価の解説をしています。ご参考までご覧ください。
簡易算定・年買法
企業価値評価の算定方法は、一部を除けば計算が複雑で専門知識も必要です。そこで、簡易的に誰でも計算できる年買法という算定方法を紹介します。年買法の計算式は以下のとおりです。
- 企業価値=時価純資産額+営業利益×3~5
営業利益の掛算が変数となっているのは、対象企業や業種の希少性や特殊性を評価するためです。
年買法は、コストアプローチの時価純資産額に営業利益を加えることで収益力も加味した算定方法ですが、ファイナンス理論によって構築されたものではありません。正確な企業価値評価を得るには、他の算定方法が必要です。
以下の動画では、年買法の解説をしています。ご参考までご覧ください。
会社売却時の税金
会社売却時、対価を現金で受け取り利益が出れば税金が課されます。対価が必ず現金で支払われるM&Aスキームは株式譲渡と事業譲渡です。そこで、ここでは株式譲渡と事業譲渡の際の課税内容を説明します。
株式譲渡
個人の株式譲渡所得は分離課税です。譲渡所得(譲渡益)の計算方法および2023(令和5)年10月現在の税率20.315%の内訳は以下のようになります。
- 株式譲渡所得=株式譲渡対価-(株式取得費用+M&A仲介会社などへの消費税込の手数料)
- 所得税15%
- 住民税5%
- 復興特別所得税0.315%(2037年までの時限税)
法人の株式譲渡益は法人税の対象です。法人税は他の損益と通算した金額に課されるため、通算後、赤字であれば課税されません。法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税、特別法人事業税の税率を合算・通算した実効税率は、中小企業の場合、約31%です(2023年10月現在)。
事業譲渡
事業譲渡の売り手は法人です。事業譲渡益は、株式譲渡と同様に法人税が課されます。事業譲渡益の計算方法は以下のとおりです。
- 事業譲渡益=事業譲渡対価-(譲渡資産取得額+M&A仲介会社への消費税込の手数料)
買い手が事業譲渡で消費税対象資産を取得した場合、消費税を対価支払い時に加算して売り手に渡さねばなりません。この消費税を税務署に納付するのは、売り手が行います。消費税課税資産とは以下のものです。
- 土地以外の有形固定資産
- 棚卸資産
- 無形固定資産
- のれん
事業譲渡で不動産を取得した場合には、不動産取得税と登録免許税も発生します。
以下の動画では、M&A時の税金の解説をしています。ご参考までご覧ください。
会社売却時の必要書類
会社売却の手続きでは、さまざまな書類の取りそろえが必要です。ここでは、以下の公的機関で取りそろえなければならない書類の手続きについて説明します。
- 税務署での手続き
- 法務局での手続き
- 区市役所・町村役場での手続き
各機関での手続きについて確認しましょう。
税務署での手続き
会社を売りたい場合の手続き上、税務署で取得する必要があるのは以下の書類です。
- 法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税、特別法人事業税、消費税の納税証明書
e-Taxを用いてオンラインで交付請求手続きをすることも可能です。
法務局での手続き
会社売却手続きに必要なる種類で、法務局での手続きが必要なものは以下のとおりです。
- 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 不動産登記簿謄本(会社が不動産を所有している場合)
- 法人印鑑証明書
- 法人代表者印鑑証明書
上記の書類は、いずれもオンラインでの申請が可能です。
区市役所・町村役場での手続き
会社を売りたいオーナー経営者の場合、区市役所または町村役場で取得手続きする必要があるのは以下の書類です。
- 固定資産評価証明書(会社が不動産を所有している場合)
- オーナー経営者の住民票
- オーナー経営者の印鑑証明書
上記の書類以外に、オーナー経営者の運転免許証やマイナンバーカードなど、顔写真付きの身分証明書の写しも必要になります。
以下の動画では、M&Aで必要となる書類全般の解説をしています。ご参考までご覧ください。
会社売却時の注意点
会社を売りたい時、そして、実際に会社売却の手続きを進めていく時、成功させるためには注意点があります。それは以下の2点です。
- 必要以上の節税行為
- 情報の漏れ
会社売却を成功させる注意点の内容を説明します。
必要以上の節税行為
中小企業で行われることがある節税対策として、固定資産の購入や保険への加入があります。本来、剰余金は事業に再投資すべきものです。
目先の節税のために固定資産の減価償却費を増やしたり、必ずしも必要ではない保険に加入したりしていることは、買い手から見てあまり評価されません。利益本来の使い方をする経営に切り替えましょう。
情報の漏れ
従業員や取引先に会社売却を伝えるのは、M&Aが成約した時とするのが大原則です。それ以前に情報が漏れると従業員が動揺して退職したり、取引先が取引中止措置を取ったりなどが起こり得ます。それらはM&Aの成功を妨げるものです。
注意点として、基本合意書の取り交わしに安心し、その段階で情報を漏らしてしまうケースがあります。情報開示は成約するまで控えましょう。
会社を高く売りたい時のポイント
ここでは、会社をできるだけ高く売りたい時に成功させるポイントを紹介します。具体的には以下の8点です。
- 企業価値向上を心がける
- コンプライアンスを意識する
- 資産内容の総点検
- 属人性の排除
- プライオリティをつける
- 株式の収集(株券発行会社)
- 客観的判断
- 会社売却の実情を知る
会社を高く売りたいことを成功させるためのポイントそれぞれについて説明します。
企業価値向上を心がける
会社をより高く売りたいことに直結するのは、企業価値の向上です。具体的には収益力の強化ですが、それ以外にも自社をあらためて分析し、強みをさらに強化したり、弱みをできるだけなくしたりなど、取り組み方はさまざまなものがあります。
ただし、それらはすぐには結果を出せませんから、会社売却を意識した段階から早期に取り組むことが肝要です。
コンプライアンスを意識する
非上場の中小企業の場合、コンプライアンス(法令遵守)の意識が不十分なケースが見受けられます。コンプライアンス意識が足りていないと、故意ではないものの結果としてコンプライアンス違反の経営を行っていた事例も少なくありません。
特に買い手が上場企業の場合、コンプライアンス違反には敏感です。会社を高く売りたいのであれば、コンプライアンスを意識しましょう。
資産内容の総点検
会社を高く売りたい場合、財務改善のために資産内容の総点検がおすすめです。遊休資産や不要な在庫などを抱えているのであれば、それらを処分・現金化することで無駄が省かれ資金を増やせます。無駄のない財務状態は、買い手から良い評価を受けるでしょう。
属人性の排除
会社の事業において、属人性はできるだけ避けておきたいことです。従業員数が限られている中小企業の体制では止むを得ない部分もありますが、その人物が抜けた場合、会社の価値が落ちることになります。
これは、会社を高く売りたいこととは反比例するリスクです。属人性の除外にも着目しましょう。
プライオリティをつける
会社売却には多くのメリットがあり、会社を売りたい目的も複数あるでしょう。また、具体的な会社売却条件も複数あるはずです。複数の目的や条件全てが希望どおりにかなうのは難しいため、それらにプライオリティをつけておきましょう。
そのプライオリティに沿って条件面で一定の妥協をすることで、結果として高く売れる可能性も高まります。
株式の収集(株券発行会社)
2006(平成18)年の会社法改正以前は、株式会社は株券を発行する義務がありました。該当する企業で株券不発行会社への移行手続きを行っていない場合、株券発行会社のままです。
株式譲渡では、買い手が全株式の買収を希望することが多いため、オーナー経営者以外に少数株主がいる場合は、少数株主の持つ株券を買い戻しておくとよいでしょう。
客観的判断
会社売却の希望額を決める際は、客観的見地から判断することも重要です。また、自社の強みをアピールする際は、買い手の立場になって考えることで、より有効な提示ができるでしょう。
主観的な判断よりも客観的判断に基づく方が、交渉を円滑化し結果として高く売れることにつながります。
会社売却の実情を知る
会社売却が決まるのは簡単ではないことを知っておきましょう。売り手に会社を売りたい目的があるように、買い手にも目的があります。目的に合致していない会社であれば、たとえ業績が良くても選ばれません。
また、目的が合致する買い手がいたとしても、先に別の会社とM&Aを成約していれば、こちらにチャンスはありません。M&Aはタイミングも重要なのです。
赤字でも会社売却できるのか?
赤字経営でも会社売却が成立した事例はあります。特に以下のようなケースは有望です。
- 特有な無形資産がある
- 含み益がある資産を持つ
- 参入障壁が高い業種
- 今後は黒字化の見通し
- 買い手とシナジー効果が見込める
- 赤字は外的要因で一時的
- 専門性の高い人材を抱えている
現在、赤字経営であっても会社を売りたい場合には、一度、M&A仲介会社などに相談してみるとよいでしょう。
会社を売りたい人への会社売却のまとめ
会社を売りたい目的の中でも、後継者不在による事業承継の実現が最も切実なものでしょう。会社売却を成功させるには、早期にM&A仲介会社などの専門家に相談し、十分な準備をしてM&Aに臨むことです。
その意味でも、自社に適した専門家選びは重要な意味を持ちます。M&A仲介会社などの無料相談を活用し、選定に役立てましょう。
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