会社譲渡とは?メリットと手続きの流れや事業譲渡との違いを解説!
会社譲渡は増加傾向にあり、注目している企業経営者の方も多いことでしょう。本コラムでは会社譲渡全般の情報をまとめました。主な内容は、メリット・デメリット、手続きの流れ、事業譲渡との違い、従業員の処遇などです。また、成功事例や案件情報なども紹介しています。
目次
会社譲渡とは
会社譲渡とは、中小企業のオーナー経営者が自社の経営権を他者に譲渡すること、および法人株主が子会社の経営権を他者に譲渡することです。この場合の他者とは個人・法人を問いません。企業の経営権の譲渡は、過半数の株式の譲渡により実現します。
ただし、3分の2以上の議決権がなければ、株主総会の特別決議を可決できません。したがって会社譲渡では、3分の2以上の株式を取得するのが一般的です。続いて、会社譲渡と企業譲渡、株式譲渡、事業譲渡の関係性や違いについて確認しましょう。
企業譲渡・株式譲渡との関係性
会社譲渡と類似する言葉に企業譲渡と株式譲渡があります。まず、企業譲渡は会社譲渡と同義です。企業譲渡と会社譲渡の意味に違いはありません。次に、株式譲渡には2つの意味合いがあります。1つはM&Aスキーム(手法)名としての株式譲渡です。
M&Aスキームとしての株式譲渡は、会社譲渡と同じ意味合いになります。もう1つは、一般的な意味合いとしての株式譲渡です。株式市場での株式売却取引など、経営権を左右しない少数の株式取引が該当します。この場合は、会社譲渡と同じ意味にはなりません。
事業譲渡との違い
もう1つ、会社譲渡と類似する言葉として事業譲渡があります。M&Aスキーム名の1つでもある事業譲渡とは、企業が行っている事業そのものを売買する取引です。事業に関連する資産や権利義務も合わせて譲渡されます。
しかし、事業譲渡側企業の法人格に変更はありません。事業譲渡側企業の経営権は保持されたままです。したがって、企業の経営権を譲渡する会社譲渡と、企業が行う事業の運営権のみを譲渡する事業譲渡の意味は異なります。会社譲渡と事業譲渡は別のものです。
以下の動画では、M&Aスキームの株式譲渡(会社譲渡)と事業譲渡の違いを解説しています。ご参考までご覧ください。
会社譲渡を行う背景
会社譲渡が行われる理由は、それぞれの企業、それぞれの経営者によってさまざまです。その中でも近年、目立つものとして以下の3点が挙げられます。
- 事業承継対策
- 会社譲渡益の獲得
- アーリーリタイア
会社譲渡を行うそれぞれの理由を説明します。
事業承継対策
中小企業が会社譲渡を行う理由として増えているものに事業承継対策があります。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると、日本の中小企業の後継者不在率は57.2%です。近年、減少傾向にはあるものの決して低い数値ではありません。
後継者不在のまま経営者が引退時期を迎えれば、その企業は廃業です。従業員は解雇、取引先は取引を失い、顧客はサービス提供や商品購入が利用できなくなります。そこで、中小企業が行っている対策が、廃業を回避するための会社譲渡による第三者への事業承継です。
会社譲渡益の獲得
会社譲渡を行う理由には、会社譲渡益の獲得もあります。会社譲渡益は自由使途の資金です。
引退時期を迎えるオーナー経営者であれば老後の生活資金として、ベンチャー企業やスタートアップならイグジット戦略として、今後もアントレプレナーとして新たな事業を起こすのであればその立ち上げ資金としてなど、会社譲渡益は、それぞれの立ち場に応じた目的に対し、有効に役立つでしょう。
アーリーリタイア
会社譲渡を行う経営者の中には、まだ年齢的には若いもののアーリーリタイアするために会社譲渡を行うケースも少なくありません。日本でも以前に比べて、人の価値観の多様化が指摘されています。
経営者である親の後を継がない子どもが増えたり、従業員の終身雇用への意識が低下したりなど、個人主義的価値観が目立つようになってきました。若手の企業経営者においても、老齢となる時期まで仕事を行わずにアーリーリタイアするケースが増えてきています。
会社譲渡のメリット
会社譲渡の実施で得られる主なメリットは以下の5点です。
- 廃業の回避
- 従業員の雇用継続
- 会社譲渡益
- 経営者保証の解消
- シナジー効果
会社譲渡のメリットの内容を説明します。
廃業の回避
会社譲渡のメリットの1つは、廃業の回避です。経営が行き詰まっている企業や、後継者が見つからない企業などは、廃業危機にひんしています。仮に廃業となれば、従業員、取引先、顧客などへダイレクトに悪影響を及ぼすでしょう。
これは、地域経済、地域社会にダメージを与えるものです。そこで会社譲渡を実施すれば、買収側が新しい経営者となって企業の経営は維持されます。廃業で発生する地域経済・地域社会へのダメージも起こりません。
従業員の雇用継続
会社譲渡のメリットには、従業員の雇用維持もあります。廃業危機にある企業が、そのまま廃業してしまえば従業員は解雇です。職を失う従業員本人だけでなく、従業員の家族の生活にも重大な影響をもたらします。
転職活動で現在と同じ労働環境の仕事が見つかるかどうかは分かりません。すぐには仕事が見つからない可能性もあります。会社譲渡によって廃業を回避すれば、従業員の雇用も維持されるのです。
会社譲渡益
会社譲渡により利益を得られることも、会社譲渡のメリットです。赤字経営であったり、大きな債務を抱えていたりする企業でなければ、会社譲渡により利益が得られます。
どの程度の利益が得られるかは経営の状態や所有資産次第ですが、それ相応の金額が得られるでしょう。一度に大きな利益を得られることは、会社譲渡の大きなメリットです。
経営者保証の解消
多くの中小企業経営者が悩んできた経営者保証が解消できるのは、会社譲渡のメリットです。中小企業が金融機関から借入する際、これまでほとんどのケースで経営者個人が連帯保証人となることを求められてきました。
この経営者保証は、経営者にとって大きな精神的負担をもたらすものです。ところが、会社譲渡を行うと負債は買収側が引継ぎます。それに伴って経営者保証も解消されます。なお、事業譲渡では買収側が負債を引継がない可能性が高く、経営者保証の解消につながりません。
シナジー効果
会社譲渡後、買収側とのシナジー効果や協業などによって業績の向上が見込めることも会社譲渡のメリットとしてあります。シナジー効果の創出やグループ企業間の協業などは、単独で経営していては成し得ないものです。
会社譲渡は、経営を安定化させ、さらに事業を発展させる有効な経営戦略という一面もあります。
会社譲渡のデメリット
会社譲渡では、以下の5点のようなデメリットを被る場合があります。
- ロックアップ(キーマン条項)
- 企業名変更
- 従業員の処遇変更
- 破談が生じる可能性
- 取引相手が見つからないケース
会社譲渡のデメリットとして懸念される内容を説明します。
ロックアップ(キーマン条項)
会社譲渡のデメリットの1つに、ロックアップがあります。ロックアップとは、会社譲渡側の経営者や役員などを一定期間、会社にとどまらせ業務に当たらせることです。ロックアップが最終契約書の条件に盛り込まれる場合、キーマン条項と表現されることもあります。
ロックアップの理由は、会社譲渡後、経営に支障が出ないように、経営の引継ぎを行いつつPMI(経営統合プロセス)へ協力させるためです。リタイア生活や新規事業立ち上げを想定していた会社譲渡側の経営者は、ロックアップの分、時期がずれるのはデメリットでしょう。
ただし、どのような会社譲渡でも必ずロックアップがあるわけではありません。
企業名変更
会社譲渡後、企業名が変更される場合があることも会社譲渡のデメリットといえるでしょう。会社譲渡側の経営者や従業員にとって、企業名は愛着があるものです。企業名の変更は心情的に寂しいものがあります。
ただ、大手の企業グループの場合、グループの一員に加わった企業に対して、共通の名称を組み込んだ企業名に変更することもよくあることです。一方、企業名にブランド価値がある場合、企業名の変更はほとんどなくデメリットは生じません。
従業員の処遇変更
会社譲渡後、従業員の処遇が変更される可能性があることも会社譲渡のデメリットといえます。会社譲渡後のPMIでは、組織図の変更や従業員の再配置が行われることも多いです。
その際、従業員が配置換えとなり、必ずしも希望する職種や部門の業務が続けられるかどうかは分かりません。ただし、人材不足が叫ばれている現在、従業員の離職は企業側のデメリットです。
したがって、本人の希望を全く無視した配置換えを行う企業がいるとは考えにくく、このデメリットは生じない可能性も高いでしょう。
破談が生じる可能性
会社譲渡交渉中、何らかの理由で破談になる可能性があることも会社譲渡のデメリットです。可能性が高い破談原因には以下のようなものがあります。
- 秘密保持契約違反:会社譲渡交渉中であることなどを外部に漏らしたケース
- 簿外債務:デューデリジェンスにて経営に大きなリスクのある簿外債務が発覚したケース
- コンプライアンス違反:デューデリジェンスで法令に反する経営が発覚したケース
会社譲渡を進めるにあたっては、破談のようなデメリットが生じないように準備を行って臨みましょう。
取引相手が見つからないケース
会社譲渡先が見つからない可能性があることも、会社譲渡のデメリットです。会社譲渡は相手がいて初めて成立します。また、会社譲渡先は誰でもいいわけではなく、一定の条件に合致する相手でなければ行えません。
こちらが会社譲渡したい時期に都合よく相手が現れるかどうかは、デメリットというより運の側面もあるものです。どのようなタイミングで会社譲渡を目指せばいいかについても、M&A仲介会社などに相談するとよいでしょう。
会社譲渡後の変化
会社譲渡が実施されると、会社譲渡前とは状況が変化する場合があります。具体的な変化の内容について、以下の4項目を見てみましょう。
- 代表者の立場
- 従業員・役員の立場
- 顧客や取引先への影響
- 資産・負債
会社譲渡前後で、それぞれがどう変化するのか説明します。
代表者の立場
会社譲渡後、オーナー経営者の対場の変化は以下のいずれかです。
- 退任
- ロックアップにより一定期間、残留
- 経営陣の一員として業務を継続
ロックアップの必要性がない場合、オーナー経営者は即時、退任し自由の身です。ロックアップの必要性がある場合、顧問や相談役、会長などの役職に就き、経営の引継ぎと経営統合への協力を行います。この際の期間は数カ月~3年程度が多いようです。
また、若い代表者の場合、そのまま会社に残り事業責任者として業務を行うケースも少なくありません。
従業員・役員の立場
会社譲渡後、従業員の待遇は良化することが多いでしょう。一般に、会社譲渡の買収側の会社規模は大きいケースがほとんどで、給与体系が高く福利厚生が充実しています。会社譲渡後、買収側に合わせた給与体系や労働条件となるため、従業員の待遇が良くなるのです。
役員の場合は、会社譲渡後、マネジメント側の立場にはなれるとしても、役員としてとどまれるかどうかは買収側の判断次第になります。
顧客や取引先への影響
会社譲渡のM&Aスキームが株式譲渡の場合、対外的には株主が代わるだけです。取引先や顧客に直接、与える影響はありません。ただし、取引先が以前のオーナー経営者との人間関係から取引を続けてきたケースでは、取引内容や取引継続に何らかの変化が生じる可能性はあります。
会社譲渡が合併スキームで行われた場合、譲渡側の法人格は消滅し残りません。取引先や顧客は買収側が引継ぐため、取引契約書は名義を書き換えるか新たに締結し直す必要が生じます。
資産・負債
会社譲渡側の資産と負債は、会社譲渡が株式譲渡か合併かで手続きが異なります。まず、会社譲渡が株式譲渡で行われた場合、会社譲渡側の法人格はそのまま残り株主が代わるだけであるため、資産と負債もそのままです。
一方、会社譲渡が合併で行われた場合、会社譲渡側の法人格は消滅し、買収側(存続会社)が資産と負債を引継ぎます。どちらも名義変更手続きを行わなければなりません。
会社譲渡の流れ
ここでは、会社譲渡の準備段階から成約まで、交渉相手とどのような手続きが行われていくのか、その流れを説明します。具体的に、会社譲渡プロセスの流れは以下のとおりです。
- 会社譲渡の検討
- M&A仲介会社などと業務委託契約
- 企業価値評価
- 相手先とのマッチング
- 秘密保持契約締結・交渉開始
- トップ面談
- 基本合意書
- デューデリジェンス
- 最終交渉・会社譲渡契約書締結
- クロージング
- PMI(買収側)
会社譲渡プロセスの流れを1つずつ確認しましょう。
会社譲渡の検討
会社譲渡の流れは、その検討から始まります。各企業により状況はざまざまですが、経営状態や後継者不在、経営者のアーリーリタイア志向、イグジット戦略など各社の理由に沿った会社譲渡の目的を定めなければなりません。
複数の目的が混在する場合には、それぞれにプライオリティをつけておくことも肝要です。
M&A仲介会社などと業務委託契約
会社譲渡の検討時には、M&A仲介会社などが行っている無料相談を活用します。また、中小企業が初めて会社譲渡を行うケースでは、自社単独で行うのは無理があるでしょう。M&A仲介会社などに業務委託するのが一般的です。
複数のM&A仲介会社と無料相談で話し、自社に適するM&A仲介会社選びに活用しましょう。M&A仲介会社の選定が済めば、業務委託契約を締結します。
以下の動画では、M&A仲介会社との業務委託契約に関する注意点を解説しています。ご参考までご覧ください。
企業価値評価
M&A仲介会社との業務委託契約後の流れの1つとして、企業価値評価(バリュエーション)があります。企業価値評価とは、M&Aアドバイザーまたは公認会計士などに算定してもらい、自社の企業価値を金額化することです。
その算定結果を基にして、今後、行うことになる会社譲渡交渉で提示する売却希望額を決めます。
相手先とのマッチング
企業価値評価と並行して行う会社譲渡の流れが、交渉相手探しです。M&A仲介会社と契約している場合、交渉相手探しはM&A仲介会社が行います。まずは、大枠で条件に合致する交渉相手候補十数社を抽出したロングリストが提示されるでしょう。
そこから5社程度まで絞り込みます。絞り込みの際、プライオリティをつけるのは必須です。この5社程度まで絞り込んだリストをショートリストといいます。
秘密保持契約締結・交渉開始
次の会社譲渡プロセスの流れとして、M&A仲介会社がショートリストの各企業にプライオリティ順に交渉の打診を行います。打診の際に提示するのがノンネームシートと呼ばれる企業概要書です。
ノンネームシートは、会社譲渡側の社名が特定されないように匿名状態にし、所在地や事業規模、業績などはアバウトな情報しか記載しません。交渉打診に応じる相手が現れた場合、秘密保持契約を締結し交渉を開始する流れです。交渉開始に先立って、会社譲渡側の経営情報を開示します。
以下の動画では、秘密保持契約と情報漏えいに関する解説をしています。ご参考までご覧ください。
トップ面談
会社譲渡交渉が行われる流れの中で必ず行われるのがトップ面談です。トップ面談では、お互いの経営トップが直接会って話をします。トップ面談で話し合われる内容は以下のとおりです。
- これまでの経営方針
- 会社譲渡を決断した要因
- 会社譲渡後の進退(会社譲渡側)
- 会社譲渡後の経営方針(買収側)
- 自社の特徴、企業風土、アピールポイントなど
上記と合わせて、お互いの人物像の把握・確認も行います。また、トップ面談で条件交渉は行いません。会社譲渡交渉はM&A仲介会社を介して、あるいはM&A仲介会社が代行して進めます。
以下の動画では、トップ面談とその後の流れについて解説しています。ご参考までご覧ください。
基本合意書
会社譲渡交渉で条件面に一定の合意が形成された場合、次は基本合意書を取り交わす流れです。基本合意書には合意内容を記しますが、法的拘束力はありません。あくまでも合意内容を確認するための書類です。ただし、心理的拘束性は効果が期待できるでしょう。
また、例外的に以下の項目には法的拘束力を持たせます。
- 買収側の独占交渉権
- 会社譲渡側のデューデリジェンスへの協力義務
- 秘密保持
独占交渉権の設定により、一定期間、会社譲渡側は第三者との交渉が行えなくなります。
デューデリジェンス
基本合意書の取り交わし後の流れは、買収側によって実施されるデューデリジェンスです。デューデリジェンスとは会社譲渡側に対する調査のことですが、以下の目的で実施されます。
- 最終の企業価値評価に必要な情報の収集・確認
- 簿外債務などの経営リスクとなる事象の有無とその程度
- PMI(経営統合)計画策定に必要な情報の収集
デューデリジェンスは、士業などの各専門家を起用して実施されます。
以下の動画では、デューデリジェンスの解説をしています。ご参考までご覧ください。
最終交渉・会社譲渡契約書締結
デューデリジェンス終了後の流れは、最終交渉です。買収側では最終交渉へ臨むにあたって、デューデリジェンスで得た情報を基に企業価値評価をやり直し、最終交渉で提示する買収希望額を決める流れが挟まれます。
デューデリジェンスで問題が発覚していなければ、基本合意書に沿った内容となるでしょう。最終交渉で買収側から提示された条件に合意できれば、会社譲渡契約書を作成・確認、そして締結する流れです。
以下の動画では、会社譲渡などのM&A交渉を進める流れの中で登場する各契約書の解説をしています。ご参考までご覧ください。
クロージング
会社譲渡プロセスの流れの最後はクロージングです。会社譲渡では、会社譲渡契約書を締結してもまだ会社譲渡の効力は発生していません。会社譲渡契約書の締結は、会社譲渡が成約したに過ぎないのです。
会社譲渡契約書に記載されている内容を履行(=クロージング)することで、初めて会社譲渡の効力が生じます。クロージングの例としては、会社譲渡側であれば株式や資産などの引き渡し、株主名簿の書換えなどです。買収側であれば、対価の支払い、資産の名義書換えなどが該当します。
以下の動画では、会社譲渡などのM&A全体の流れを解説しています。ご参考までご覧ください。
PMI(買収側)
会社譲渡側のプロセスの流れはクロージングまでですが、買収側ではクロージング後にPMI(経営統合プロセス)があります。買収側にとってPMIが円滑に行われないと、想定していたシナジー効果や業績の向上が望めないでしょう。
したがって、PMIが成功するために、十分に練られたPMI計画が必要です。買収側では有効なPMI計画策定のために、デューデリジェンスと並行してプロジェクトを立ち上げ、クロージングまでに準備を行います。
会社譲渡で発生する手続き
会社譲渡を実施するためには、さまざまな社内手続きも発生します。会社譲渡で発生する具体的な社内手続きは、以下のとおりです。
- 株式譲渡の承認請求
- 取締役会または株主総会決議
- 株式譲渡契約の締結
- 株主名簿の書換請求
- 株主名簿記載事項証明書の交付請求
会社譲渡のための各手続き内容を説明します。
株式譲渡の承認請求
非上場の中小企業では、自社株式が好ましくない第三者へ知らないうちに渡らないようにするため、ほとんどの企業において譲渡制限株式です。譲渡制限株式は、株主の一存だけで売却できません。企業の承認を得て初めて他者に売却できます。
この譲渡制限株式を他者に売却する承認を得るための手続きが「株式譲渡の承認請求」です。株主は、企業に対して「株式譲渡承認請求書」を提出します。
取締役会または株主総会決議
株主から株式譲渡承認請求書の提出を受けた企業は、請求を審議し決定を下す手続きをしなければなりません。取締役会が設置されている企業は、取締役会が承認機関です。取締役会が設置されていない企業は、臨時株主総会を招集し決議を行わなければなりません。
取締役会、臨時株主総会ともに、過半数の賛成で株式譲渡承認請求は承認されます。株主の株式譲渡を承認した企業は、株主に対し株式譲渡承認通知書を送る手続きを行わなければなりません。
株式譲渡契約の締結
株式譲渡承認通知書を受けとった株主は、買収側と株式譲渡契約書の締結手続きを行います。
前章で説明した会社譲渡の最終交渉での合意後、会社譲渡契約を締結するためには、ここで紹介した「株主による株式譲渡の承認請求」と「企業側の承認機関による承認」、そして「株式譲渡承認通知書の受領」という手続きを経なければなりません。
なお、一般に株式譲渡契約書の作成手続きは買収側が行います。
株主名簿の書換請求
会社譲渡を成立させるためには、株式譲渡契約書の締結だけでは足りません。株式譲渡契約書の締結によって、株式の所有権は確かに買収側に移転することになります。
そのうえで、旧株主(株式譲渡側)と新株主(買収側)の連名により、企業に対し「株主名簿の書換請求」を行い、株式所有の実態に則した株主名簿の書換えを促すことが必要です。企業が株主名簿を書換えることによって、初めて株式譲渡が効力を持ちます。
株主名簿記載事項証明書の交付請求
株主名簿の書換請求後、何も手続きを行わないでいると、実際に株主名簿が書換えられたかどうか確認できません。そこで、その確認を行うために、新株主は企業に対し「株主名簿記載事項証明書の交付請求書」を提出します。
その後、企業から送られた株主名簿記載事項証明書の内容を見ることで、株主名簿の書換えが確認できる流れです。
会社譲渡手続きに必要な書類
会社譲渡(株式譲渡)手続きを進めるにあたって、それぞれの場面で必要となる書類があります。書類一覧は以下のとおりです。
- 株式譲渡承認請求書
- 取締役会議事録
- 取締役決定書
- 臨時株主総会招集通知
- 臨時株主総会議事録
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株主名簿書換請求書
- 株主名簿
- 株主名簿記載事項証明書交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
各書類が、会社譲渡のどの場面で必要になるのかを説明します。
株式譲渡承認請求書
非上場の中小企業の株式は、ほとんどが譲渡制限株式です。譲渡制限株式の場合、株主が買収側と株式譲渡契約を結ぶためには、企業側から株式譲渡の承認を得なければなりません。その際に企業側に提出する書類が「株式譲渡承認請求書」です。
株式譲渡承認請求書の内容に法的な定めはありませんが、最低限、以下の事項は記載しなければなりません。
- 株主の氏名、住所
- 譲渡する株式の種類と株式数
- 株式買収側の氏名または法人名と住所または所在地
また、株式譲渡が承認されない可能性もあるため、その場合の株主の意見、要望も書き添えるのが通例です。
取締役会議事録
株式譲渡承認請求書の提出を受けた企業側は、その審議を行わなければなりません。取締役会が設置してある企業の場合は、取締役会が株式譲渡承認請求の審議・決議機関です。取締役会で過半数の賛成があれば、株式譲渡承認請求は承認されます。
取締役会の決議内容を記録として残すために、「取締役会議事録」を作成し保存しなければなりません。
取締役決定書
株式譲渡承認請求書の提出を受けた企業が取締役会を設置していない場合、審議・決議機関は株主総会です。このケースでは、臨時株主総会を招集します。臨時株主総会招集のためには、取締役過半数の賛成が必要です。
この取締役過半数の賛成を示す書類が「取締役決定書」になります。取締役決定書の書式に法的な定めはありません。臨時株主総会招集を決定した旨と、各取締役の氏名および捺印があれば十分です。
臨時株主総会招集通知
株式譲渡承認請求の審議のために臨時株主総会を開催する場合、各株主に「臨時株主総会招集通知」を発送しなければなりません。臨時株主総会招集通知は、会社法の定めにより、臨時株主総会開催日の1週間前までに送ることになっています。
臨時株主総会議事録
株主総会を開催した際は、定時株主総会・臨時株主総会の区別なく議事録を残すことが会社法で定められています。議事録は書面に限らず、電磁的記録でも可能です。
株式譲渡承認請求を審議する臨時株主総会の際も、審議および決議内容を議事録に記載しなければなりません。なお、株式譲渡承認請求の決議は、過半数の賛成で可決できる普通決議です。
株式譲渡承認通知書
株式譲渡承認請求に対し、取締役会、または臨時株主総会での承認決議を行った場合、企業側は該当株主へ「株式譲渡承認通知書」を発送する必要があります。
この株式譲渡承認通知書は会社法の定めにより、株式譲渡承認請求を受け取ってから2週間以内に行わなければなりません。2週間以内に通知を行わなかった場合は、自動的に株式譲渡を承認したと見なされることになっています。また、不承認の場合も通知は必要です。
株式譲渡契約書
譲渡制限株式の譲渡を企業側から承認が得られれば、ようやく買収側との株式譲渡契約締結となります。一般的に、株式譲渡契約書は買収側が作成するものです。株式譲渡側としては、作成された株式譲渡契約書のチェックを弁護士に依頼し、必要に応じて内容修正を依頼します。
株主名簿書換請求書
株式譲渡契約書の締結により、株式の所有権が買収側に移転することは確定しました。しかし、株式譲渡契約の締結だけでは、対外的に買収側が新たな株主になったことの立証には足りません。
譲渡された株式の対象企業が保管する株主名簿において、名義の書換えが必要です。そのため、旧株主と新株主が連名で「株主名簿書換請求書」を企業に提出します。
株主名簿
企業が保管する「株主名簿」には、株主に関する以下の情報が記載されています。
- 株式の取得日
- 株主の氏名または法人名
- 株主の住所または所在地
- 所有する株式の種類と種類ごとの株式数
前項で説明した株主名簿書換請求を受けた場合、旧株主の情報を削除し、新株主の情報を記載する書換えが行われます。また、対象企業が株券発行会社の場合、株主名簿には株主が所有する株券の番号も記載されています。
株主名簿記載事項証明書交付請求書
株主名簿書換請求を行っても、企業側から能動的に通知や連絡は届きません。請求どおりに株主名簿が書換えられたかどうか確かめるためには、「株主名簿記載事項証明書交付請求書」を企業に提出し、株主名簿記載事項証明書の内容を確認する必要があります。
株主名簿記載事項証明書
企業に株主名簿記載事項証明書交付請求を行うと、株主名簿記載事項証明書が送られてきます。株主名簿記載事項証明書は、株主名簿の記載事項と、その記載事項は正しいことを保証する旨が記されているものです。
この株主名簿記載事項証明書によって、会社譲渡の買収側が新たな株主になったことを対外的に表明できることになります。
会社譲渡を成功させるポイント
ここでは、会社譲渡を成功させるポイントとして以下の5項目を取りあげます。
- 企業価値向上
- 財務・税務の点検
- 合意を得やすい売却額の検討
- 情報漏えいしない
- 会社譲渡の専門家活用
それぞれのポイントが、なぜ会社譲渡を成功させるのかについて説明します。
企業価値向上
会社譲渡を成功させるには、企業価値を向上させることです。ただし、企業価値向上は一朝一夕ではできません。また、会社譲渡交渉がスタートするまでに実現しておく必要もあります。
企業価値向上は、業績向上が全てではありません。自社を分析して強みを強化したり、弱みを克服してデメリットをなくしたりなどの方策も考えられます。また、従業員の有資格者を増やすことや知的財産権の取得は、工夫次第では短期間で実現できる可能性もあるため検討してみましょう。
財務・税務の点検
財務・税務が適切に行われているか点検し、問題があれば是正しておくことも、会社譲渡を成功させるポイントです。
意図的ではないにしても簿外債務や税務の不適切な処理が、買収側の実施するデューデリジェンスで発覚した場合、買収側の心証は非常に悪くなるでしょう。できるだけ健全な財務・税務の状態を維持することが肝要です。
合意を得やすい売却額の検討
会社譲渡を成功させるには、特に会社譲渡額について高望みはし過ぎず、なおかつ買い叩かれないことが重要です。そのためには、自社の正確な企業価値評価を行い、M&A仲介会社などのアドバイスを受けて会社譲渡希望額を設定することが意味を持ちます。
交渉初期段階で会社譲渡側と買収側の希望額がかけ離れていると、交渉が難航するかもしれません。そのような事態を防ぐことを念頭におきましょう。
情報漏えいしない
会社譲渡交渉を進めていることが社内外に漏れないようにすることも、会社譲渡の成功を考えるうえで重要です。特に従業員や取引先に情報が漏れると、動揺した従業員が離職したり取引が停止したりなど、会社譲渡交渉に影響を及ぼす事態になりかねません。
注意したいのは、基本合意書の取り交わしで安心して情報を漏らしてしまうケースです。会社譲渡契約書を締結するまで情報管理は徹底しましょう。
会社譲渡の専門家活用
M&A仲介会社などの会社譲渡の専門家を活用することは、会社譲渡を成功させるうえで欠かせないポイントです。
特に、会社譲渡などのM&Aに不慣れな企業の場合、専門的な知識や経験を有する専門家の存在は心強いものがあるでしょう。専門家を起用すれば手数料が発生しますが、費用に見合った効果は得られるはずです。
以下の動画では、実際に会社譲渡を行った企業経営者へ、成功ポイントについてインタビューを行っています。ご参考までご覧ください。
会社譲渡の支援機関
会社譲渡を自社のみで成立させるのは難しいものがあります。そこで、会社譲渡を実施する際は、各支援機関に相談や業務委託をするのが一般的です。会社譲渡の支援機関には、以下のようなものがあります。
- M&A仲介会社
- FA(ファイナンシャル・アドバイザー)・経営コンサルタント
- 士業事務所
- 金融機関
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工団体
- M&Aマッチングサイト
会社譲渡の支援機関、それぞれの特徴を説明します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、会社譲渡、事業譲渡などのM&Aに関する専門業者です。M&Aに関する初期の相談からM&Aの成約まで、場合によっては成約後に買収側が行うPMI(経営統合プロセス)も含め、M&Aのあらゆるサポートに対応しています。
M&A仲介会社の起用によって、特に自社単独では難易度が高い、相手候補探しで豊富な情報が得られるでしょう。M&A仲介会社の対応内容は多岐にわたるため、詳細は後述します。
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)・経営コンサルタント
FAや経営コンサルタントもM&Aの支援業務を行います。FAや経営コンサルタントの支援の特徴は、アドバイザリー型契約で業務を請け負う点です。
アドバイザリー型契約では、M&Aの譲渡側・買収側のどちらかとのみ契約します。クライアントがM&Aによって得られる利益を最大限にするよう、妥協なき交渉を代行する業務スタイルです。
以下の動画では、アドバイザリー型契約の解説をしています。ご参考までご覧ください。
士業事務所
税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士などの士業事務所も、M&A支援業務を行います。顧問契約を結んでいる場合はこちらの経営状況を把握している立場にあり、特に会社譲渡などM&Aの初期段階での相談先に向いているでしょう。
ただし、士業事務所の全てがM&A支援業務に対応しているわけではありません。M&A支援業務の依頼にあたっては、実績を確認して判断しましょう。
金融機関
銀行や証券会社など金融機関の多くが、会社譲渡などのM&A支援業務に進出しています。ただし、メガバンクや証券会社が担当するM&Aは大企業のものです。
中小企業が会社譲渡や事業譲渡などの相談や支援業務を依頼する場合は、地方銀行や信用金庫が対象となります。地方銀行や信用金庫の場合、全支店がM&A支援業務に対応しているわけではないため、注意が必要です。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁からの委託事業として各都道府県に設置された、中小企業の事業承継を専門に支援する公的機関です。
ただし、会社譲渡による事業承継の相談には乗るものの、事業承継・引継ぎ支援センター自体はM&A支援業務は行いません。提携するM&A仲介会社などの紹介を受けられます。
事業承継・引継ぎ支援センター独自の事業として行っているのは、後継者不在企業の事業承継を希望する起業家と中小企業を引き合わせる「後継者人材バンク」というマッチングサービスです。
商工団体
商工会や商工会議所などの各種商工団体では経営相談を受けつけており、その一環で会社譲渡の相談が可能です。ただし、基本的に経営相談ができるのは会員に限られており、そのための費用がかかります。
また、商工団体自体はM&A支援業務を行いません。あくまでも相談レベルに限られます。
M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトは、会員登録することにより会社譲渡や事業譲渡などM&Aの譲渡希望側・買収希望側のマッチングサービスを提供しています。手軽に情報収集ができるでしょう。
現在、非常に多くのM&Aマッチングサイトが運営されています。各社によって料金を含めた利用規定が異なるため、使う場合にはまず規定をよく確認してから利用しましょう。
会社譲渡に役立つM&A仲介会社
会社譲渡などM&Aの専門業者であるM&A仲介会社は、会社譲渡の支援機関として多く活用されています。そこでここでは、M&A仲介会社が会社譲渡で果たす役割や、業務委託する際のメリットを確認しましょう。
M&A仲介会社の役割
M&A仲介会社が、会社譲渡で担う主な役割は以下のとおりです。
- 会社譲渡スケジュールと戦略策定
- 相手先探し
- 会社譲渡交渉の仲介または代行
- 専門家の手配
M&A仲介会社が会社譲渡で担う役割の内容を説明します。
会社譲渡スケジュールと戦略策定
M&A仲介会社との業務委託契約締結直後、M&A仲介会社がまず担う業務は、これからの会社譲渡手続きのスケジューリングと戦略の策定です。会社譲渡手続きを円滑に進めていくためには、初期段階におけるスケジュールと戦略の策定が鍵を握ります。
会社譲渡に不慣れな企業だと、自社だけで実効性の高いスケジューリングや、有効な戦略策定は難しいものです。その点、M&A専門業者として会社譲渡に関する専門的な知識と経験を持つM&A仲介会社であれば、安心してスケジューリングと戦略の策定を任せられます。
相手先探し
M&A仲介会社は、会社譲渡の相手先探しで大きな役割を担います。M&A仲介会社は、これまでの業務で培ったネットワークや、M&A専門業者としての独自の情報網などを駆使し、会社譲渡の相手先候補を探すことが可能です。
一般の企業が独力で会社譲渡先を見つけるのは、ほとんど不可能に近いものがあります。それをM&A仲介会社に任せれば、有望な会社譲渡先を複数の候補の中から選べるでしょう。
会社譲渡交渉の仲介または代行
M&A仲介会社に業務委託することで、会社譲渡交渉を当事者が直接、行わずにすみます。利害が一致しない会社譲渡側と買収側が、直接会って交渉するのは精神的負担が大きいでしょう。
M&A仲介会社と仲介形式の契約をすれば、M&A仲介会社は会社譲渡側と買収側の間に入って交渉を仲介します。FAのようにアドバイザリー形式の契約の場合は、会社譲渡側・買収側それぞれと契約したM&A仲介会社が交渉を代行する業務スタイルです。
専門家の手配
会社譲渡プロセスの中では、税理士や公認会計士、弁護士など士業の専門家が必要な場合もあります。多くのM&A仲介会社では、そのような際、必要に応じてすぐに専門家の紹介を行えるように、税理士や公認会計士、弁護士などが社内に在籍している体制です。
仮に社内に専門家が在籍していない場合には、提携している士業事務所と連携し、クライアントの要望に応えられるようになっています。
M&A仲介会社のメリット
会社譲渡でM&A仲介会社へ業務委託した場合に得られる主なメリットは、以下の3点です。
- 負担軽減
- リスクヘッジ
- 適正な会社譲渡取引の実現
会社譲渡におけるM&A仲介会社の各メリットについて説明します。
負担軽減
M&A仲介会社に業務委託することで経営者の負担は大きく軽減され、本来の経営業務に影響を及ぼすような事態を回避できます。
会社譲渡を進めるうえでは、スケジューリングや戦略策定、ノンネームシートや企業概要書などの作成、買収側に開示する経営情報の内容確認、会社譲渡交渉などさまざまなプロセスに対応しなければなりません。
これら全てを経営者が対応していては、本業に悪影響を及ぼすのは必至です。M&A仲介会社に業務委託することで、ほとんどの負担から解放されるでしょう。
リスクヘッジ
専門家であるM&A仲介会社に業務委託することで、発生しやすいトラブルを未然に防ぐなどリスクヘッジできるメリットがあります。会社譲渡では、利害の一致しない双方の思惑が交錯することもあり、トラブルに発展するのは大いにあり得ることです。
トラブルが大問題化してしまうと、会社譲渡交渉が破談になる恐れもあります。会社譲渡の専門的な経験を持つM&A仲介会社であれば、トラブルの発生を事前に察知し問題化しないよう対処できます。
適正な会社譲渡取引の実現
M&A仲介会社が交渉の仲介や代行をすることで、買い叩かれて安値で会社譲渡するような事態を避けられます。専門業者による第三者視点でのサポートにより、買収側が有利となりやすい会社譲渡交渉において、譲渡側としての適正な主張を行い満足できる条件を得やすくなるでしょう。
M&A仲介会社の手数料
M&A仲介会社の料金体系には法的な規定がないため、各社で内容はさまざまです。そのため会社譲渡で業務委託した際、M&A仲介会社によっては複数の手数料が発生する場合があります。M&A仲介会社で発生する可能性のある手数料は以下のとおりです。
- 相談料
- 着手金
- リテイナーフィー
- 中間金
- デューデリジェンス費
- 成功報酬
会社譲渡の際に発生する可能性のある、M&A仲介会社の各手数料の内容を説明します。
相談料
相談料とは、M&A仲介会社に業務委託する前の段階において、相談を行った際に請求される手数料です。現在、ほとんどのM&A仲介会社では無料相談を実施しています。しかしながら、M&A仲介会社へ相談に赴く際は、念のため事前に無料か有料か確認して選びましょう。
また、FAや経営コンサルタント系の場合は、相談料が発生する傾向があります。相談料が発生する場合の相場は1万円程度です。
着手金
着手金とは、M&A仲介会社と業務委託契約を締結した際に請求される手数料です。現状では、多くのM&A仲介会社で着手金は無料となっています。完全成功報酬制のM&A仲介会社であれば成功報酬以外の請求はないため、着手金は発生しません。
着手金が発生する場合の相場は50万円~200万円程度です。着手金の注意点として、仮に会社譲渡が成立せず業務委託契約を解消する場合、着手金は返金されません。
リテイナーフィー
リテイナーフィーとは、M&A仲介会社との業務委託契約締結後、会社譲渡が成立するまで毎月請求される顧問料、あるいはアドバイス料のことです。月額報酬ともいわれます。リテイナーフィーは、多くのM&A仲介会社で採用されていません。
傾向としては、FAや経営コンサルタント系で請求されることがあります。リテイナーフィーが発生する場合の相場は、毎月30万円~200万円です。リテイナーフィーも、会社譲渡が不成立の際に返金されません。
中間金
中間金とは、会社譲渡の基本合意書取り交わしのタイミングで請求される手数料を指します。中間金請求の有無は、M&A仲介会社によってまちまちです。
会社譲渡側は無料でも、買収側は請求されるケースもあります。中間金の相場は50万円~200万円程度、または成功報酬の前払い分として、その10%~20%該当分です。中間金も、会社譲渡が不成立の場合に返金されません。
デューデリジェンス費
デューデリジェンス費は、デューデリジェンスにおける調査で起用される外部の士業専門家などに支払う手数料です。したがって、支払い先窓口はM&A仲介会社ですが、厳密にはM&A仲介会社の手数料ではありません。
ただし、士業専門家の全てがM&A仲介会社に在籍している場合は、M&A仲介会社への手数料といえます。また、デューデリジェンスは買収側が実施するものであるため、費用を負担するのは買収側です。
デューデリジェンス費の相場は、調査規模により異なります。対象が中小企業の場合、50万円~200万円程度です。デューデリジェンス費も、会社譲渡が不成立の場合に返金されません。
成功報酬
成功報酬とは、会社譲渡が成約した際に請求される手数料です。M&A仲介会社の成功報酬の計算にはレーマン方式が用いられます。レーマン方式とは、計算基準額を複数の金額帯に分け、それぞれの金額帯に異なる手数料率を設定して計算後、最後に合算する計算方法です。
以下に、M&A仲介会社で代表的なレーマン方式の手数料率を紹介します。
計算基準額の金額帯 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の金額帯 | 5% |
5億円超~10億円以下の金額帯 | 4% |
10億円超~50億円以下の金額帯 | 3% |
50億円超~100億円以下の金額帯 | 2% |
100億円超の金額帯 | 1% |
計算基準額に何を用いるかはM&A仲介会社によって異なりますが、以下の4種類のいずれかです。
- 会社譲渡取引額
- オーナー受取額(会社譲渡取引額+役員借入金)
- 企業価値(会社譲渡取引額+有利子負債総額)
- 移動総資産(会社譲渡取引額+負債総額)
役員借入金とは、オーナー経営者が会社に貸し付けていた金額のことです。計算基準額が異なれば、同じ手数料率でも成功報酬額は差がつきます。M&A仲介会社が、どの基準額を採用しているかは重要なポイントです。
以下の動画では、会社譲渡、事業譲渡などのM&Aの手数料について解説しています。ご参考までご覧ください。
会社譲渡における企業価値評価
会社譲渡のプロセスの流れにおいて、譲渡側でも譲受側でも必ず行われるものの1つが企業価値評価です。会社譲渡の企業価値評価には、さまざまな専門的な算定方法が確立されています。それらの算定方法は3つの体系に分類され、その呼称は以下のとおりです。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
会社譲渡における企業価値評価3種類の体系について、その概要を説明します。
コストアプローチ
コストアプローチとは、対象企業の純資産額を株式価値と見なし、そこから企業価値評価を行うアプローチ方法です。それぞれ以下のように計算します。
- 純資産額=総資産額-総負債額
- 企業価値=株式価値+総有利子負債額
このようにコストアプローチは理論的に分かりやすく計算も簡単で、誰でも同じ算定結果が得られるであろう点がメリットです。ただし、対象企業の事業における稼ぐ力が評価に加わっておらず、会社譲渡などのM&Aには向きません。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、対象企業の未来の収益見込みを予測して企業価値評価を行うアプローチ方法です。特に、インカムアプローチの1つであるDCF(Discounted Cash Flow)法は、会社譲渡などのM&Aで多用されています。
DCF法は、5年分程度の中期事業計画を基に、専門的な計算方法を用いて各年度の事業価値を算定し、最終的に企業価値評価を行うものです。事業価値を基にする企業価値は以下のように算出します。
- 企業価値=事業価値+非事業用資産総額
DCF法の注意点として、中期事業計画の予測の正確性と計画策定者の恣意性があります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場で成立している他社の評価を参照して対象企業の企業価値評価を行うアプローチ方法です。
具体的には、対象企業と業種や事業規模、ビジネスモデルなどが類似する上場企業の株価や財務数値、あるいは対象企業と類似するM&A取引における対価や譲渡側企業の財務数値などを参照します。
市場で成立している数値を参照するため客観性のある評価につながりますが、類似する上場企業やM&A取引が見つからなければ評価そのものが行えません。
以下の動画では、企業価値評価における3種のアプローチの解説をしています。ご参考までご覧ください。
簡易算定方法
簡易的な企業価値評価の計算方法として、年買法があります。計算式は以下のとおりです。
- 企業価値=時価純資産額+営業利益×3~5
営業利益に掛け合わせる数値が変数となっているのは、対象企業の希少性や特殊性などの差を勘案するためです。
この年買法は計算が簡単で便利ですが、金融経済学の論理に基づいているものではありません。インカムアプローチやマーケットアプローチでは算定に時間がかかるため、一時的な目安として用いられます。正しい企業価値評価を得るには、正当な算定方法が必須です。
以下の動画では、年買法の解説をしています。ご参考までご覧ください。
会社譲渡における税務
会社譲渡は、株主が譲受側に株式を売却するものです。その際に現金で対価を受け取り、利益が出れば課税の対象となります。会社譲渡における株主は、個人のケースと法人のケースがあるでしょう。個人と法人では税務内容が異なるため、それぞれ分けて説明します。
個人株主
会社譲渡の際の個人株主は、株式譲渡所得(譲渡益)に対し以下の内容の分離課税を受けます。
- 所得税15%
- 住民税5%
- 復興特別所得税0.315%(2037年までの時限税)
株式譲渡所得は以下のように計算します。
- 株式譲渡所得=株式譲渡対価-(株式取得費+M&A仲介会社などへの手数料)
M&A仲介会社などへの手数料は消費税込の金額で計算します。
法人株主
会社譲渡における法人株主は、株式譲渡益が法人税の対象です。法人税は、損益通算後の黒字額に課税されます。損益通算後、赤字であれば課税されません。ここでいう法人税とは、以下の税金をまとめて表現しています。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 地方法人税
- 特別法人事業税
2023(令和5)年11月現在、上記5つの法人税の税率を累算した実効税率は、中小企業の場合、約31%です。
以下の動画では、会社譲渡などのM&Aにおける税金の解説をしています。ご参考までご覧ください。
会社譲渡の税務トラブル
会社譲渡の際、適切な価額での取引と税務署から見なされなかった場合、税務上のトラブルへと発展します。特にそのようなトラブルになりやすいのが、以下の会社譲渡取引のケースです。
- 第三者間取引
- 関係会社間取引
どのような税務トラブルが起こり得るのかについて説明します。
第三者間取引
会社譲渡における株式譲渡を、譲渡側と買収側が直接交渉せず、第三者を経由して売買が行われることを第三者間取引といいます。
その際に、買収側が最終的に支払った対価が本来の株式の価値よりも大きく下回ると判断される場合、税務署は譲渡側が贈与または寄附を行ったと見なし、買収側に課税措置が取られる可能性があるのです。
それとは逆に、対価が本来の株式価値より大きく上回っていると、譲渡側が贈与または寄附を受けたとして課税されることがあります。
関係会社間取引
関係会社とは、親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社全てを指す言葉です。関連会社とは、株式所有数は半数未満ではあるものの15%以上の株式を所有し、経営に重要な影響を与える関係にある会社を指します。
関係会社間取引は、その関係性から相手方に便宜を図る意志があるとして税務署から目をつけられやすく、前項で述べたような本来の価値に見合わない対価の場合、課税が追加されることになるでしょう。
会社譲渡の成功事例5件
ここでは、実際に行われた会社譲渡の成功事例5件を紹介します。
- ヒューガンがラグザスに会社譲渡した事例
- バリューネクストがケアネットに会社譲渡した事例
- タッグがタケエイに会社譲渡した事例
- 大久保鉄工所がMipoxに会社譲渡した事例
- アヤベックスがアドベンチャーに会社譲渡した事例
各会社譲渡事例の概要を見てみましょう。
ヒューガンがラグザスに会社譲渡した事例
会社譲渡側 | 買収側 | |
---|---|---|
法人名 | ヒューガン | ラグザス |
所在地 | 北海道札幌市 | 大阪府大阪市 |
事業内容 | 人材紹介事業 | インターネット上でプラットフォーム事業や メディア事業を行う企業グループの持株会社 |
売上高 | 非公開 | 非公開 |
2023年11月、ラグザスは、ヒューガンの全株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は公表されていません。ラグザスとしては、グループとして行っているIT人材の創出・育成事業の強化のためにヒューガンを傘下に加えました。
バリューネクストがケアネットに会社譲渡した事例
会社譲渡側 | 買収側 | |
---|---|---|
法人名 | バリューネクスト | ケアネット |
所在地 | 東京都港区 | 東京都千代田区 |
事業内容 | 医療機関やヘルスケア企業向けに 事業を行う企業グループの持株会社 | 製薬企業向け医薬営業支援サービス、 医師・医療者向け医療コンテンツサービス |
売上高 | 非公開 | 93億2,700万円(連結) |
2023年11月、ケアネットは、バリューネクストの過半数の株式を取得し子会社化しました。取得価額は公表されていません。
ケアネットの目的は、バリューネクスト傘下で医療機関向け経営コンサルティング事業を行うメディカルクリエイト(東京都港区)と、医療機関向け経費削減コンサルティングや院内物流管理システム導入支援・受託管理事業などを行う DALI(青森県八戸市)をグループ化することです。
タッグがタケエイに会社譲渡した事例
会社譲渡側 | 買収側 | |
---|---|---|
法人名 | タッグ | タケエイ |
所在地 | 宮城県東松島市 | 東京都港区 |
事業内容 | 一般廃棄物・産業廃棄物の収集運搬・中間処理 ・再生・最終処分業、プラスチック製品製造業 | 廃棄物の処理・再資源化 ・再エネルギー化事業 |
売上高 | 非公開 | 非公開 |
2023年10月、TREホールディングスの子会社であるタケエイは、タッグの株式54.2%を取得して連結子会社化しました。TREホールディングスとしては、グループ内でシナジー効果が見込めることと、技術・ノウハウの共有によりリサイクル技術の深化が図れるという狙いがあります。
大久保鉄工所がMipoxに会社譲渡した事例
会社譲渡側 | 買収側 | |
---|---|---|
法人名 | 大久保鉄工所 | Mipox(マイポックス) |
所在地 | 栃木県宇都宮市 | 栃木県鹿沼市 |
事業内容 | 部品精密研磨加工業 | 研磨フィルムの製造販売、研磨装置の開発販売、 液体研磨剤の製造販売、研磨関連商品の製造販売、 受託製造業務、研磨システムのコンサルタント業務 |
売上高 | 非公開 | 100億2,900万円(連結) |
2023年10月、Mipoxは、大久保鉄工所の全株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は公表されていません。Mipoxとしては、受託研磨事業において事業領域を拡大し多角化させていくことが狙いです。
アヤベックスがアドベンチャーに会社譲渡した事例
会社譲渡側 | 買収側 | |
---|---|---|
法人名 | アヤベックス | アドベンチャー |
所在地 | 京都府綾部市 | 東京都渋谷区 |
事業内容 | ランドオペレーター事業、 地方創生インバウンドプロモーション事業 | 投資事業、 総合旅行予約サイト「skyticket」運営事業 |
売上高 | 1億600万円 | 200億2,700万円(連結) |
2023年10月、アドベンチャーは、アヤベックスの全株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は5億621万1,010円です(アドバイザリー費用含む)。アドベンチャーとしては、アヤベックスとの協業により大きなシナジー効果を創出できると見込んでいます。
会社譲渡案件の紹介
ここでは、会社譲渡案件の具体情報として、M&A総合研究所が担当している以下の案件を紹介します。
- 【関東地方】青果仲卸売業
- 【北陸地方】駅弁を中心とした仕出し弁当製造・販売業(自社ECサイト保有)
- 【首都圏】特装車・キャンピングカー製造、パーツ販売業
会社譲渡案件情報の内容を確認しましょう。詳細が確認できるリンク先も合わせて紹介します。
【関東地方】青果仲卸売業
地域 | 関東地方 |
---|---|
業種 | 青果仲卸業 |
売上高 | 10億円〜25億円 |
営業利益 | 赤字 |
譲渡希望額 | 希望なし |
会社譲渡理由 | 資金調達 |
【北陸地方】駅弁を中心とした仕出し弁当製造・販売業(自社ECサイト保有)
地域 | 北陸地方 |
---|---|
業種 | 仕出し弁当製造・販売業 |
売上高 | 2億5千万円〜5億円 |
営業利益 | 1千万円〜5千万円 |
譲渡希望額 | 1億3千万円(応相談) |
会社譲渡理由 | 事業承継 |
【首都圏】特装車・キャンピングカー製造、パーツ販売業
地域 | 関東地方 |
---|---|
業種 | 特装車・キャンピングカーの製造・パーツ販売業 |
売上高 | 1億円〜5億円 |
営業利益 | 〜1千万円 |
譲渡希望額 | 1億円〜2億5千万円 |
会社譲渡理由 | 事業承継 |
会社譲渡のまとめ
会社譲渡では、さまざまなメリットが得られます。その一方で、手続きを進める過程で注意しなければいけないことも少なくありません。
中小企業が初めて会社譲渡に臨む場合、それらの注意点を回避しスムーズに会社譲渡交渉を進めるためには、M&A仲介会社などの専門家に業務依頼することをおすすめします。
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