会計事務所・税理士法人のM&Aの動向や事例は？価格相場や注意点も解説！

会計事務所業界は、経済の背骨とも言える重要な役割を担っています。この業界は、企業や個人の会計・税務業務をサポートし、経営の助言やコンサルティングサービスを提供することで、ビジネスの成長と安定を支えています。

しかし、業界自体も多くの変化や課題に直面しており、特に高齢化や後継者不足といった点が問題です。ここでは、会計事務所業界の概要や特徴、そして税理士法人との違いについて、詳しく解説します。

会計事務所は、会計や税務に関する業務、会計・経営のコンサルティングなどを請け負う事務所のことです。近年、中小企業の経営者の高齢化が問題となっていますが、会計事務所業界でも高齢化が進行している傾向があります。

特に「第6回税理士実態調査」の結果によると、税理士全体のうち60歳以上は過半数を超えています。

会計事務所と税理士事務所は、呼び方が異なるものの、両者の仕事内容に大きな差異はありません。税理士業務（税金に関するサービス）を中心に提供する場合は「税理士事務所」と称し、税理士業務以外にも会計やコンサルティングなど幅広く提供する場合は「会計事務所」と称します。

どちらも税務業務を行うため、税理士登録が必要です。一方、会計事務所と税理士法人の違いは組織形態にあります。会計事務所や税理士事務所は、代表となる公認会計士や税理士が個人事業主として申請するのに対し、税理士法人は複数の税理士が所属し、法人としての形態を取ります。

会計事務所業界の特徴として、高齢化が進行していることが挙げられます。この高齢化の背景には、後継者不足や人材不足の問題が潜んでいます。

このような状況の中、会計事務所の譲渡を検討する事例が増えてきており、一方で、人材の確保や事業規模の拡大を目的としてM&Aの活用を検討する事例も増加中です。

現状では、譲渡側と譲受側のニーズが安定していますが、今後の税理士が資格業であることや少子高齢化の影響により、ニーズのバランスが崩れる可能性が考えられます。

会計事務所や税理士法人のM&Aの動向は、業界内の経営者の高齢化や後継者不足、さらには経営の先行きの不安など、多岐にわたる課題がM&Aの背景にあります。

これらの動きは、業界の再編や将来のビジネスモデルに大きな影響を与える可能性があります。今回は、これらの事例を中心に、会計事務所や税理士法人のM&Aの動向とその背景を詳しく解説します。

会計事務所の数は約2.6万あり、税理士登録者数は約8万人です。単純計算で、1つの事務所に3人の税理士が所属している計算です。しかし、実際には多くの税理士が大手の税理士法人に所属しており、多くの会計事務所は1〜2人の税理士で運営されています。

このような背景から、後継者がいないために事業承継で悩む中小企業と同じように、会計事務所でも後継者不足の問題が生じています。特に、1人の税理士が運営する事務所では、税理士が引退を考えても、後継者がいないために事業承継が難しい状況です。

会計事務所の経営者である税理士は、事務所の規模に関係なく、経営に関する様々な悩みを抱えています。

例えば、顧問報酬の値下げ要求、顧問先の減少、新規採用の困難、複雑化する会計税務への対応、デジタルトランスフォーメーションへの対応など、多岐にわたる課題などです。これらの先行きの不安から、大手の傘下に入ることを選択する税理士もいます。

会計事務所のM&Aは増加傾向にあり、その背景には様々な理由があります。例えば、引退を考えているが後継者がおらず、子供が試験に合格できない、または他の業界で働いているなどの理由から、事業承継型M&Aを選択する事例が増加中です。

また、他の事業への進出や、事務所のDX化に対応するための資金調達など、成長戦略型M&Aを選択する事例も増えています。

会計事務所や税理士法人におけるM&Aは、業界の変化や経営課題への対応として注目される手法となっています。M&Aを成功させるためには、その背景や目的に応じて適切なスキームを選択することが不可欠です。

ここでは、会計事務所や税理士法人のM&Aにおける主要な手法である「持分譲渡」「事業譲渡」「合併」について、その特徴や適用シーンを詳しく解説します。

持分譲渡は、会計事務所や税理士法人の株式や出資持分を譲渡することによって、事業の一部または全部を移転する手法です。この方法は、事業の継続性を保ちつつ、経営者や株主の意向に応じて事業を移転する際に適しています。

特に、後継者がいない場合や経営資源の集中が求められる場合などに有効です。持分譲渡には、株式の譲渡税制の特例を活用することで、税負担を軽減することが可能です。

事業譲渡は、会計事務所や税理士法人が保有する事業の一部または全部を他の事業者に譲渡する手法です。この方法は、事業の拡大や縮小、事業の再編成を目的として行われることが多くあります。

事業譲渡には、事業譲渡税制の特例を活用することで、税負担を軽減することが可能です。また、事業譲渡によって、新たな事業展開やシナジー効果を期待することもできます。

合併は、2つ以上の会計事務所や税理士法人が合同して、新たな法人を設立するか、既存の法人の1つが他の法人を吸収する手法です。合併には、吸収合併と新設合併の2つの方法があります。

吸収合併は、一方の法人が他方の法人を吸収し、吸収された法人は消滅します。一方、新設合併は、2つ以上の法人が新たな法人を設立し、元の法人は消滅します。合併によって、経営資源の集約や業務効率の向上、市場競争力の強化などのメリットを受けることが可能です。

会計事務所や税理士法人のM&Aは、業界の動向や経済の変化に伴い、近年注目されています。特に、売却の際の価格相場や売却価格がどのように算出されるのかは、多くの関係者にとって重要なポイントです。

ここでは、会計事務所や税理士法人のM&Aにおける価格相場や、企業価値の算出方法について詳しく解説します。

税理士事務所や会計事務所のM&Aの際の売却価格の相場は、主に事務所の年間顧問報酬や前年の年商を基準に設定されることが多くあります。具体的には、税理士業務を主に行っている個人経営の会計事務所の場合、1年間の顧問報酬や前年の年商が売却価格の相場です。

例として、1年間の顧問報酬が4,000万円であれば、M&Aの価格も4,000万円程度で成立しやすいとされています。また、1年間の営業利益が1,000万円であれば、2,000万円から3,000万円程度での成立が考えられます。

企業のM&Aにおける売却価格は、その企業の「価値」を示すものとして非常に重要です。企業価値の算出には様々な手法が存在し、それぞれの方法には特有の考え方や特徴があります。

このアプローチは、企業が持つ資産の再構築コストを基に企業価値を算出します。具体的には、同じような資産を新たに取得するためのコストや、企業が持つ資産の現在の価値を考慮して企業価値を評価し、売却価格を設定します。

インカムアプローチは、企業が将来生み出すであろう収益を現在価値に割り引いて算出します。特にDCF法がこのアプローチの代表的な方法です。DCF法では、フリーキャッシュフロー（企業が自由に使える現金）を基に、企業が将来生み出す価値を算出し、その現在価値を企業価値とします。

マーケットアプローチは、同業他社や同様のビジネスを持つ企業の株価や取引価格を基に、企業価値を算出します。この方法は、公開企業や同業他社の取引事例が豊富に存在する場合に特に有効です。

会計事務所や税理士法人のM&Aは、業界の再編や事業拡大の一環として近年注目されています。しかし、M&Aを進める際には、そのメリットとデメリットをしっかりと理解しておくことが重要です。

売却側・買収側それぞれにとっての利点と懸念点を明確にすることで、より効果的なM&A戦略を立てられます。以下に、会計事務所や税理士法人のM&Aにおける、売却側・買収側の主なメリットとデメリットを詳しく解説します。

会計事務所や税理士法人のM&Aには、売却側と買収側の双方に多くのメリットが存在します。

売却側にとって、M&Aは経営の継続性を保つ上での有効な手段です。特に、後継者が不在の場合や経営者の高齢化が進む中での引退を考えている際、M&Aはスムーズな経営の移行を実現するための選択肢として最適です。

また、売却側が事業の譲渡を通じて得られる譲渡益は、経営者のリタイアメント資金としても活用できます。さらに、顧問先やクライアントとの長年築き上げてきた信頼関係の維持や、従業員の雇用の安定もM&Aの大きなメリットとして挙げられます。

一方、買収側にとって、M&Aは事業の拡大や競争力の強化を実現するための重要な戦略です。新たな顧問先やクライアントを迅速に獲得することで、短期間での収益の増大や事業基盤の強化が期待できます。

さらに、M&Aを通じて全国的なネットワークや拠点を拡大することで、地域に根ざしたサービスの提供や新しい市場への参入が容易です。

また、経験豊富な人材の確保は、サービスの質の向上や新たなサービスの開発にも繋がり、中長期的な事業の成長や競争力の向上に大きく寄与します。

会計事務所や税理士法人のM&Aには、売却側と買収側の双方に複数のデメリットが存在します。

売却側のデメリットとして、M&Aの過程は慣れない交渉や破談のリスクが伴い、精神的なストレスがかかることが考えられます。さらに、M&Aを行うことで競業避止義務違反のリスクが生じ、新たに個人事務所を開業することが難しくなる可能性があります。

また、税理士事務所は特有の制約があり、税理士免許を持つ者しか開業できないため、売却先の選択肢が限られることもデメリットです。

一方、買収側のデメリットとして、税理士業界の価格競争が激しいため、経営状況が良くない事務所も存在することが挙げられます。特に、ネットを活用した新しいビジネスモデルが増える中で、価格競争が激化している現状です。

さらに、DXの導入に伴う投資や人材の確保が課題となり、事務所の経営が難しくなることも考えられます。また、主業務である記帳代行は資格が不要なため、職員の流動性が高く、安定した人材の確保が難しいという問題も存在します。

M&A（合併・買収）の事例は、企業の成長戦略の1つとして増加傾向にあります。特に、会計事務所や税理士法人の間でのM&Aは、顧客基盤の拡大や業務の効率化、専門知識の共有などのメリットが期待されるため、近年増加中です。

以下は、実際のM&A事例をもとに、その背景や経緯、成果について詳しく解説します。

1つ目の事例として、税理士法人TOTALは、平成25年4月1日に井上総合会計事務所（井上貴司税理士、新宿区）と合併を実施しました。この合併の背景には、業務拡張のための移転や新しいスタッフとの合流、お互いの強みを活かした総合士業事務所の形成が挙げられます。

合併後、税理士法人TOTALは70名規模の総合士業事務所として、お互いの強みを活かし、さらなるサービスの向上につながる事例となりました。井上税理士は、60歳を超えても現役バリバリとして活動を続けており、社員税理士（パートナー）としてお客様の担当や営業を行っています。

2つ目の事例として、みそら税理士法人は、2022年7月1日にビジネスサポート林総合事務所と経営統合を行いました。

この経営統合の背景には、両事務所がこれまで提供してきた高品質なプロフェッショナルサービスを通じて、クライアントの成長・発展を支援してきた経緯があります。経営統合を通じて、より大規模なクライアントへの対応や、高品質なサービスの提供を目指しています。

みそら税理士法人は、創業32年を迎え、会社経営や相続、遺言、生前整理などの幅広い業務をサポートしています。大阪に拠点を持つビジネスサポート林総合事務所との経営統合を通じて、一層の信頼を得ることを目指しており、地域経済の活性化に向けて総力を結集しています。

3つ目の事例として、税理士法人カオスは、柄溝税理士事務所を譲受しました。このM&Aの背景には、柄溝税理士事務所の後継者不在や顧問先へのサービス提供の不安がありました。

M&Aの目的として、税理士法人カオスは新規顧客の獲得と定着、職員のモチベーションアップを挙げています。譲受後の2年間で、買取金額に見合う新規顧客の獲得と顧客の定着度に満足しており、柄溝税理士事務所の顧問先の統合や引き継ぎを通じて、職員のモチベーションアップが実現されました。

会計事務所や税理士法人のM&Aは、業界の変化や成長を背景に、多くの事務所で検討されるようになっています。しかし、このような取引を進める際には、他の業界とは異なる独自の課題や注意点が存在します。

以下では、会計事務所や税理士法人がM&Aを実施する際の主要な注意点を詳しく解説します。

M&Aを進める際、最も重要なのは顧客との信頼関係を維持することです。しかし、M&Aの過程で事務所の方針や担当者が変わることで、顧客との契約が解消されるリスクが高まります。

特に、長年の取引関係を築いてきた顧客は、変更に対して敏感であることが多いため、十分なコミュニケーションを取りながら進めることが求められます。

M&Aの成功のためには、早い段階からの計画と準備が不可欠です。特に、事務所の評価や将来のビジョンの共有、そしてM&A後の経営戦略の策定など、多岐にわたる課題をクリアする必要があります。早期からの準備により、スムーズな移行を実現できます。

会計事務所や税理士法人は、一般的な株式会社とは異なる組織形態を取っているため、株式譲渡によるM&Aは実施できません。そのため、事業譲渡や業務提携など、他の方法を検討する必要があります。この点を理解し、適切なM&Aの形態を選択することが重要です。

M&Aの過程は複雑であり、専門的な知識や経験が求められます。そのため、適切なアドバイザーの選定は、M&Aの成功を左右する要因です。信頼性や実際の成功事例、実績、そして業界に精通しているかどうかを確認し、最適なパートナーを選ぶことが必要です。

M&Aの際の売却価格設定は、双方の満足する取引の実現につながります。市場の動向や事務所の実績、将来性などを踏まえて、適切な価格を設定することが重要です。また、価格交渉の際には、相場の把握が有利となるため、事前のリサーチが不可欠です。

会計事務所・税理士法人のM&Aは、業界の成熟や経営者の高齢化、後継者問題などの背景から、近年注目される動向となっています。

具体的な事例を見ると、多様なM&Aスキームや価格相場が存在し、その適切な選択や取り決めが必要です。しかし、M&Aのプロセスは複雑であり、顧客との契約の継続や価格交渉など、多くの注意点が存在します。

このような背景から、M&Aを検討する際は、豊富な経験や知識、実際の成功事例を持つ専門家に相談することが極めて重要です。正確な情報と専門的なアドバイスを受けることで、より良いM&Aの実現が期待できます。

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