M&Aの年買法とは?企業価値評価の計算方法からメリット・注意点まで解説!

M&Aを効率的に進めるための特殊な計算方法を年買法と呼び、今まで多くのM&Aで活用されてきました。本記事ではM&Aの年買法について詳しく解説を行い、企業価値評価の計算方法やメリット、注意点について詳しく解説しましょう。

目次

  1. M&Aにおける年買法とは?
  2. M&Aにおける年買法の計算方法
  3. M&Aにおける年買法のメリット・デメリット
  4. M&Aにおける年買法の注意点
  5. 年買法は他の企業評価手法と併用して利用しよう

M&Aにおける年買法とは?

机の上に置かれたノートPCとメモ用紙
Andrew Neel Pexels

企業間でM&Aを行う際に必要な企業価値計算時に、買収の対象企業の時価純資産に複数年分(1~5年分)を加算して計算する企業価値評価の1つが年買法です。

一方で複数年分の営業利益は営業権と呼ばれ、M&Aが完了した際に獲得できる営業利益の予想として交渉時に活用されます。

M&A字にこれらの算出法を導入することにより、企業価値に応じた価格で取引が実現されるでしょう。

企業価値とは?

会社全体の経済的な価値のことを意味する言葉で、企業が将来に生み出すキャッシュフローの存在価値のことを企業価値といいます。

企業価値の算出方法には3種類の方法が挙げられ、それぞれが異なった特徴を持ち合わせているので、複数の方法を組み合わせて評価するのが一般的です。

M&Aの企業価値評価を算出する他の方法

明確な企業価値評価を行えばスムーズなM&Aが可能です。

そして前述で解説したように企業価値評価の算出方法には3つの手法があり、その特徴もさまざまです。

ここからはM&Aの企業価値評価を算出する3つの方法を詳しく解説します。

コストアプローチ

M&Aの対象会社の純資産を基準にして評価する方法のことを、コストアプローチといいます。

コストアプローチは帳簿価格を基準にして評価する計算方法であるうえに、時価修正時においても専門家の評価をもとに訂正するのも特徴的です。

このような評価方法を採用することにより、客観性に富んだ的確な評価を実現しています。

一方でコストアプローチは帳簿価格を基準に評価を進めるので、評価に将来の収益性を反映できないのが注意点です。

またM&A対象会社の帳簿価格を基準に評価するため、市場状況を評価に加味できません。さらに帳簿の記載に誤りがあれば、正確な評価ができないのも注意点です。

一般的に簿価純資産法や時価純資産法が、コストアプローチの有効な手法として活用されています。

マーケットアプローチ

M&Aの対象会社と似ている上場企業や、過去の取引データと比較・検討して評価する方法をマーケットアプローチといいます。

この手法を活用すれば、上場企業の市場株価や財務情報などを基準に評価するため、市場の状況を反映した客観的な評価が可能です。

一方でマーケットアプローチは上場企業のデータを基準として評価するので、M&Aの対象会社の個別事例などを参考にすることができません。

また似たような会社がない場合や、似ている会社に異常値があれば利用することができないのも注意点です。

一般的に市場株価法や類似会社比較法、類似取引比較法などが主なマーケットアプローチの方法として利用されています。

インカムアプローチ

M&Aの対象会社が将来に獲得することが期待できる、キャッシュフローや利益を基準に評価する方法がインカムアプローチです。

この方法ではM&Aの対象会社の事業計画や資産計画を基準に評価するので、評価内に将来の収益性を盛り込むことができます。

またM&Aの対象会社の事業計画の事象も評価内に盛り込めるため、M&A対象会社の強みも評価されるのもメリットです。

一方でM&A対象会社の将来に対して評価するので、現時点の完全な評価をすることができません。

また会社の今後の事業計画を基準に評価をするので、精算を基準にする会社に利用できないのもデメリットです。

一般的にDCF法や配当還元法がインカムアプローチの主な方法として利用されています。

年買法がM&Aで活用されなくなってきている理由

以前年買法は、M&Aにおける一般的な評価方法として多くの企業間取引で活用されていました。

利用されていた理由として、以前はM&Aにおいて買い手・売り手の双方が現在のように価格に対して注意していなかった点が挙げられます。

また以前はおおむね適正価格近い価値で取引されれば、お互いに納得して取引が成立していました。

一方現在は現状の企業価値だけでなく、今後の事業展望で見込める将来性を重視して企業価値を評価します。

このような観点からも、過去の利益を基準に企業評価をする年買法は近年利用されることが少なくなりました。

結果的に年買法では、企業の将来性も見越した適正な評価が困難になるため、利用頻度も減少傾向にあります。

M&Aにおける年買法の計算方法

クリップにまとめた税務書類と電卓
Nataliya Vaitkevich Pexels

年買法は以前多くの企業で活用されていたM&A時の企業評価方法ですが、実際にどのような計算方法で評価値を算出するのでしょうか。

ではM&Aにおける年買法の計算方法を解説します。

年買法の計算式

年買法の詳しい算出方法は中小企業庁が監修している、経営者のための事業承継マニュアルに掲載されています。

しかしマニュアル内には年買法という名前では掲載せず、企業価値の算出方法として掲載されているので確認してください。

年買法の算出方法の事例として、一定数年の利益を年間利益に乗じたのれん代に時価純資産をプラスする方法が挙げられています。

このような計算方法を採用する理由として、現在の資産や負債の状況やキャッシュフローの状況、市場相場の状況も目安にしなければいけない点が挙げられます。

しかしこの計算方法はあくまでも算出方法の一例に過ぎないので、状況次第で企業価値の算出方法を変更しましょう。

計算手順

年買法の計算手順は最初に土地の含み益も考慮したうえで、時価純資産の算出を行います。

次に3~5年分の営業利益を想定して算出するのれん代を算出し、最後に時価純資産に営業権(営業利益×3~5)で算出する企業価値を算出して完了です。

下記に年買法の具体例を表記しておきます。

・簿価純資産:1,500百万円

・土地含み益:500百万円

・売上高:1,000百万円

・営業利益:150百万円

上記の場合においては簿価純資産の1,500百万円に土地の含み益である500百万円を加算することで、時価純資産である2,000百万円が算出されます。

時価純資産が算出されれば、複数年分の営業利益を加算しますが今回は営業利益の5年として計算しましょう。

すると2,000百万円の時価純資産に、営業利益150百万円の5年分(450百万円)を加算した2,450百万円が企業価値として算出されます。

M&Aにおける年買法のメリット・デメリット

M&A
StockSnap

M&Aにおいて効率的に年買法を活用すればスムーズな事業承継を行うことができますが、年買法にはメリット・デメリットの双方が存在します。

ではM&Aにおける年買法のメリットやデメリットを詳しく解説をしましょう。

メリット

ここからはM&Aにおける年買法のメリットを解説します。

メリットを把握して取引に活用することで、M&Aで大きな成果を得ることができるので参考にしてください。

資産・負債と損益を考慮した方法

年買法はDCF法と比較すると、資産や負債を明確にしながら企業価値を算出します。

したがって算出値にばらつきが出にくく、資産や負債、損益を考慮した明確な計算方法であるのもメリットの1つです。

例えばDCF法では計算基準をキャッシュフローとしているので、キャッシュフローの設定や計算者により結果が異なることもあります。

一方の年買法では計算基準を時価純資産や営業利益に設定しているので、明確な数値を検出可能です。

また年買法でも計算にばらつきは出ますが、営業利益にかける年数などの副次的な部分のみにばらつきが出る場合があります。

結果として年買法はDCFと比較すると正確に資産や負債、損益などを考慮した計算方法といえます。

計算が簡単

他の企業価値算出方法に比べ、計算が簡単なのも年買法のメリットです。

例えば近年一般的に活用されている企業価値算出方法のDCF法は、年買法に比べて計算に必要なパラメーターがかなり多くなっています。

また算出に使用する数式に関しても、年買法よりも難易度の高い無限級数といった計算方式を利用しての算出が必要です。

このような計算式はDCF法を知らなければ、全く理解できない場合がほとんどでしょう。

一方の年買法は非常に簡単な計算式で算出できるうえに、直感的に使用できるのもメリットです。

デメリット

M&Aにおける年買法には、メリット同様に数点のデメリットも存在します。

では年買法のデメリットを詳しく解説しましょう。

理論的ではない

年買法のデメリットとして第一に挙げられるのが、論理的でない点です。

年買法は基本的にM&Aの現場の考えにも続いて発展してきた方法で、計算法に関する論理的な裏付けなどはありません。

したがって計算式としては論理的でない部分も多数見受けられます。

結果的に株主に対しての論理的な説明が必要な上場企業のM&Aでは、さらに論理的な視点から考慮した計算法が求められるケースも少なくありません。

キャッシュ項目が考慮できない

年買法の計算方法ではキャッシュに関する項目が設定されていないので、企業価値算出時にキャッシュ項目が考慮できないのもデメリットです。

キャッシュ項目が考慮できないので大幅な利益が出た際に減価償却が完了していれば、今後キャッシュアウトが必要になるのもデメリットといえます。

市場環境を考慮できない

市場環境を考慮して企業価値を算出できないのも、年買法のデメリットです。

年買法は基本的にM&A対象会社の損益計算書や貸借対照表の数値を基準とした評価方法で、マルチプル法で活用されるような明確な指標が導入されていません。

したがって年買法では市場環境を明確に考慮したうえでの算出は不可能です。

M&Aにおける年買法の注意点

ポイント
Tumisu

M&Aにおいて年買法を活用すれば、使い方次第で効率的な事業引継ぎができます。

一方でM&Aにおいていくつかの注意点に留意することによりその効果をさらに高めることも可能です。

ではM&Aにおける年買法の注意点を詳しく解説をします。

他のバリエーション手法と併用する

M&Aには年買法以外にもさまざまな方法があり、それぞれでメリットやデメリットがあります。

またM&Aの形式次第で使用できない場合もありますが、他のバリエーション手法と併用して企業価値を算出するのも注意点です。

このように年買法と他の方法を併用すれば、効率的なM&Aが促進されます。

希望売却価格を決める際の目安として考える

年買法を希望売却価格を決める際の目安として考えるのもM&Aにおける注意点の1つです。

前述でも解説したように年買法は明確な理論に基づいたものではなく、基本的にM&Aの現場の考えに基づいて発展してきました。

したがって正確な評価額の算出が必要なケースには適した方法ではありません。

一方で現場の考えに基づいた効率的な方法なので、売却価格の目安として利用するには最適なM&Aの方法といえます。

また年買法は企業価値の評価計算が簡単にできるので、今後の交渉のために売却価格の概算とするのもおすすめです。

このように1つの目安として用いることで、具体的な売却価格も決定しやすくなります。

相手企業との交渉を重視して最終的に取引金額を決める

相手企業との交渉を重視して最終的に取引金額を決めるのも、年買法を利用する際の注意点の1つです。

M&Aの売却価格は企業同士の交渉の過程で決まっていくので、的確な方法で評価額を計算しても希望金額が相手と異なることもあります。

企業の立場次第で評価額も異なるので、最終的な取引金額は企業同士の交渉次第で変化するのです。

したがって年買法で算出した評価額をあくまでも交渉の指標金額として捉え、交渉の中で最終的な金額を決定するのも注意点といえます。

年買法は他の企業評価手法と併用して利用しよう

社内プレゼンの風景
austindistel Unsplash

本記事で解説したように、年買法はM&Aの現場的な考えに基づいた実践的な方法で、的確な数値を算出できる方法ではありません。

しかし的確な金額を算出できる他の方法と併用することで、その効果を発揮することができます。

今後自社の事業承継を検討しているのであれば、本記事を参考に年買法を効果的に活用して成果を上げてください。

また年買法でも効率的な事業の引継ぎを行うことができますが、さらにスムーズな引継ぎを行うのであれば事業承継がおすすめです。

事業承継を活用すれば、自社親族内の後継者を擁立できれば簡単に手続きが完了します。

さらに親族や従業員内に後継者がいなくても、第三者企業から最適な後継者の擁立ができるのも事業承継のメリットです。

特に近年は事業承継に特化している仲介会社も多いので、一度利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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