株式譲渡にかかる税金を徹底解説!課税の種類や特例・節税対策・注意点は?
経営者が保有する株式と引き換えに、現預金などの対価を受け取れる株式譲渡。
株式譲渡は取引手法の一種であるため、利益が発生すれば税金がかかります。
本記事では株式譲渡にかかる税金の種類や節税対策、注意点などについて解説していますので、不備がないよう実施前にしっかりとチェックしておきましょう。
株式譲渡でかかる税金の種類
株式譲渡にかかる税金について理解するには、まず「どのような税金が発生するのか」、先に全体像を把握した方がスムーズです。
株式譲渡にかかる税金には以下の3種類があります。
- 所得税
- 住民税
- 法人税
まずは株式譲渡にかかる税金の種類を確認しましょう。
所得税
- 所得税とは、株式譲渡で会社を売却した際、発生した利益に対して係る税金のことです。
- 利益は株式を取得したときの時価総額から必要経費を差し引いた金額になります。
- 株式譲渡の所得は以下の計算式で算出することが可能です。
株式譲渡の所得=株式取得時の時価ー株式の取得にかかった必要経費 |
上記の計算式で株式譲渡の所得を求めた後は、所得税の税率を所得にかければ金額が求められます。
住民税
- 住民税とは、行政サービスを維持するために徴収される税金のことで、個人住民税と法人住民税の2種類があります。
- そして個人住民税はさらに、所得割と均等割の2つに分類され、所得割は一律10%、均等割は自治体ごとに定額が定められています。
- 詳しくは以下の表のようなイメージです。
種類 | 備考 | 税率 |
---|---|---|
所得割 | 国民に対して一律で発生する (※生活保護者、未成年など非課税対象者を除く) | 10% |
均等割 | 一定以上の所得がある場合に発生する | 自治体ごと |
均等割は一定以上の所得がある場合に発生するのですが、たとえば給与所得者の場合は年間の給与収入が93万円を超えると均等割が課税されます。
そのため、基本的にはいずれも株式譲渡に付随して発生する税金と考えて差し支えないでしょう。
法人税
法人税とは、法人が事業を営む上で得た所得に対して課される税金のことです。
個人の所得には所得税がかかりますが、法人の所得には法人税がかかるイメージですね。
法人税は以下の3種類に分類されます。
名称 | 分類 | 税率 | 備考 |
---|---|---|---|
法人税 | 国税 | 15%〜23.2% | 法人の所得に課される税金 |
法人住民税 | 地方税 | 都道府県:法人税額×1.0% 市区町村:法人税額×6.0% | 法人に対して課される住民税 |
法人事業税 | 地方税 | 3.5%〜7.48% (普通法人の場合) | 事業を行う法人に課される税金 |
上記3種類はまとめて法人税等と表現されることもあります。
法人による株式譲渡ではこれらの法人税等が課されますので頭の片隅に置いておきましょう。
株式譲渡の税金の計算方法
株式譲渡の税金の種類について確認できたところで、次は税金の計算方法を確認しましょう。
税金を計算するにあたり、前提として知っておくべき税金の知識には以下のようなものがあります。
- 株式譲渡の税金の対象
- 株式譲渡の税金の区分
- 申告分離課税
- 所得税・復興特別所得税・住民税の税率
- 株式譲渡の税金の計算方法
これらの知識は株式譲渡の税金を計算する上で必須ですので、それぞれ解説します。
株式譲渡の税金の対象
- 株式譲渡の税金の主な対象は「譲渡所得」です。
- 譲渡所得は以下の計算式で求めることができます。
株式譲渡の所得=株式取得時の時価ー株式の取得にかかった必要経費 |
万が一、株式の取得費が不明の場合は”概算取得費”として、売却価格の5%を取得費にすることも可能です。
取得費の調べ方は主に次の3つ。
1つ目が取引報告書で確認する方法です。
取引報告書とは、証券会社から郵送またはPDFなどで電子データとして発行される書類で、その資料に株式取得費が記載されています。
他にも、取引残高証明書・月次報告書などの資料からも確認することは可能です。
2つ目が証券会社に問い合わせる方法です。
証券会社には顧客勘定元帳という取引の精算金額が記載された法定帳簿を必ず保管しているので期間を指定して確認しましょう。
ただ、保存義務があるのは10年間のみなので、それより古いデータだと無い場合も考えられます。
3つ目が預金通帳で確認する方法。
預金通帳の残高を見れば取得費がわかるケースもあります。
第三者による公的なデータでなくても認められることもあるため、取得単価や取得した数、銘柄などのメモ書きでも取得価格の証明に使える可能性があることを覚えておきましょう。
株式譲渡の税金の区分
株式譲渡の税金区分には上場株式等と一般株式等の2種類があります。
上場株式等 | ・上場企業の株式 ・国債、地方債、外国国債 ・公募株式投資信託 など |
---|---|
一般株式等 | 上場株式等に該当しないもの。 非上場企業の株式など。 |
より詳細な分類が知りたい方は国税庁の該当ページ[1]で確認してください。
申告分類課税
申告分類課税とは、特定の所得ごとに独自の計算式や税率をかけて計算する方式のことです。
一般的には総合所得といって、対象の所得を合計した金額に税率をかけ、まとめて計算する方式が取られますが、株式譲渡の利益に関しては総合所得とは別で計算します。
所得税・復興特別所得税・住民税の税率
株式譲渡の譲渡所得には所得税、住民税、復興特別所得税の3種類がかかります。
税率は以下の表の通りで、合計20.315%が課されます。
種類 | 税率 |
---|---|
所得税 | 15% |
住民税 | 5% |
復興特別所得税 | 0.315% |
計 | 20.315% |
上場株式等と一般株式等で税率に差はなく、一律で20.315%の税金が課されます。
株式譲渡の税金の計算方法
先述の通り、株式譲渡では株式譲渡による「譲渡所得」に対して税金が発生します。
株式譲渡の譲渡所得は「譲渡価額ー取得にかかった必要経費」の差分。
必要経費にはたとえば以下のような費用が挙げられます。
- 仲介手数料、委託手数料
- 消費税
- 名義書換料
これだけではイメージしにくいと思いますので計算例も示します。
たとえば譲渡価格が3,000万円で、必要経費が1,000万円だった場合、差額は2,000万円。
この2,000万円に対して個人であれば譲渡所得税の20.315%がかかります。
金額にして406万円ですね。
法人の場合は所得に応じた法人税がかかります。
株式の取得費が不明な場合
場合によっては株式の取得費が分からないケースもあると思います。
その際は概算取得費を用いて計算することも可能です。
株式の取得費が不明の場合は「売却価格の5%を取得費とする」というルールがありますから、今回の例であれば3,000万円×5%=150万円が取得費になります。
3,000万円から150万円を差し引いた2,850万円が所得として扱われますから、それに20.315%をかけた578万円が税金として発生する計算です。
ただし、概算取得費は個人のみ適用できるルールになります。
法人は株式取得費が不明だとそもそも貸借対照表を作成できないため、取得費が分かっていることが前提だからです。
法人は概算取得費を適用できない点に注意しておきましょう。
株式譲渡でかかる税金の節税方法
株式譲渡でかかる税金も一定の条件を満たすことで節税できる場合もあります。
この章では、株式譲渡で税金を節税する主な手法をご紹介いたします。
株式譲渡の税金は節税できるのか
- 事業承継の主な方法には事業譲渡と株式譲渡がありますが、事業譲渡は法人税+αで約31〜35%の税金がかかります。
- 一方、株式譲渡であれば個人は20.315%、法人でも約29%〜42%に抑えられるため、税金を抑えるという観点では株式譲渡の方が有利でしょう。
- また、次のような方法で節税することができる場合もあります。
- 一部を退職金にする
- 株式の取得費を5%とする(※法人は不可)
- たとえば、一部を役員退職金として支払う方法は、中小企業のM&Aにおいてよく用いられるスキームです。
- 譲渡対価の一部を退職金として支払えば、ある一定の額までは譲渡所得にかかる税金よりも少なくすることができます。
- 通常通り譲渡対価を交付する場合と比べて大幅に節税できる可能性があるでしょう。
- ただ、役員退職金には適正範囲があり、その範囲を超えると損金の対象外となる場合も。
- 計算上は役員退職金を活用した方が節税になっても、実際は損をするパターンもあるのでより確実に節税したい場合は専門家に相談されることをおすすめします。
譲渡損の申告
原則として、株式譲渡で損をした場合は確定申告が必要ありません。
ただ、分離課税で確定申告をすることで「損益通算」および「繰越控除」を受けられる可能性があります。
それぞれの制度の概要としては、損益通算は上場株式の譲渡損失をその年の利子・配当と相殺させることができる制度。
繰越控除は損失を出した年、及びその翌年から3年間にわたって損失を繰り越せる制度のことです。
譲渡損が大きかった場合は、これら2つを併用することで節税を試みましょう。
株式譲渡での税金の注意点
株式譲渡の税金には以下2つの注意点もあります。
- 親族間での取引の場合
- 譲渡損失に対する繰越控除
株式譲渡の税金の注意点も確認しましょう。
親族間での取引の場合
1つ目の注意点は、親族間での取引の場合について。
一般的に上場株式の株式譲渡および非上場株式の株式譲渡では以下のように譲渡価格が決まる場合が多くあります。
種類 | 譲渡する価額 |
---|---|
上場株式 | 市場で公開されている価額 |
非上場株式 | 最終的な合意に至った価額(※第三者の場合) |
上記のように譲渡価額の算定方法にはセオリーがあり、税務上の注意点はそれほど多くありません。
ただ、親族間で株式譲渡を行う場合には話が変わってきます。
株式の時価と譲渡した価額の差が大きくなりすぎると、贈与税が生じるケースもあるからです。
親族間で株式譲渡を行う際は、"適正価額"を把握した上で譲渡することを注意点として覚えておきましょう。
譲渡損失に対する繰越控除
- 2つ目の注意点は、譲渡損失に対する繰越控除について。
- 繰り返しになりますが、株式の譲渡で損をした場合は原則、確定申告は不要です。
- ただ、確定申告をすることで、損益通算と繰越控除を適用できる場合があるため、条件を満たせば実質的な節税をすることも可能。
損益通算 | 上場株式の譲渡損失をその年の利子・配当と相殺できる制度 |
---|---|
繰越控除 | 翌年から3年間にわたって譲渡損失を繰り越せる制度 |
繰越控除に関しては繰り越す年、およびその翌年から3年間の間は取引をしなくても毎年確定申告が必要になることが注意点として挙げられますが、節税によるメリットも多くあります。
大幅に譲渡損失が生じた場合は、上記2つを併用することも検討してみましょう。
株式譲渡での税金の特例制度
株式譲渡の税金を上手に節税するためにも、いくつか知っておきたい特例制度があります。
株式譲渡の税金の節税への効果が期待できる特例には以下のようなものがあります。
- 事業承継税制
- 取得費加算
もちろん一定の条件はあるため確実に節税効果があるとは言えませんが、うまく特例を活用すれば株式譲渡の税金を抑えることも可能なため、ぜひチェックしましょう。
事業承継税制
- 事業承継税制とは、本来納税する予定だった相続税が猶予又は免除される特例制度のことです。
- 注意点としては、特例制度の適用後でも一定の要件を守る必要があり、取消事由に該当してしまうと猶予が打ち切りになってしまうこと。
- そればかりか、利子税が発生して逆に損をしてしまうことにもなり兼ねないため予め要件を把握しておきましょう。
- 守るべき要件には、たとえば下記のようなものがあります。
- 後継者が代表取締役、かつ筆頭株主
- 継続者が制度の対象となる株式を保有
- 5年間の平均で雇用の8割以上を維持
- 資産保有型会社等、上場会社、風俗営業会社等に該当しない
- 年次報告を都道府県知事へ毎年提出
- 継続届出書を税務署へ毎年提出
- 事業承継税制は相続税や贈与税といった負担の大きい税金の納税猶予を受けられる点で魅力的な制度ではありますが、複雑であることもまた事実です。
- 打ち切られた時のデメリットもあるため、専門家に相談する際は実績や経験を事前にチェックし、慎重に選ぶようにしたいですね。
取得費加算
- 取得費加算の特例[2]とは、相続によって取得した株式を一定期間内に譲渡した時、相続税額のうちの一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる特例のことです。
- 特例の適用を受けるための要件として以下の3つが定められています。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
- 申告期限の翌日から3年以内に譲渡、という制限はあるものの、上場株式・非上場株式の双方で適用できることがポイント。
- 特例を受けるためには一定期間内の確定申告が必須となっていますが、相続された株式を譲渡する予定がある方はこちらの特例を頭の片隅に置いておきましょう。
- [2]国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
株式譲渡に必要な税金を理解して不備のないように!
株式譲渡の税金は個人であれば譲渡所得税(所得税・住民税・復興特別所得税)が、法人であれば法人税等がかかります。
計算方法は至ってシンプルで、株式譲渡の譲渡価格から株式の取得にかかった費用などの必要経費を差し引き、税率をかけるだけ。
それほど難しい計算はありません。
ただ、そこに損益通算や繰越控除、特例制度といった節税のための施策が絡むと一気に複雑になるという注意点もあります。
ご自身で税金計算することも不可能とは言いませんが、相応の専門知識が求められるため、確実に乗り越えていくためには専門家への相談も検討したいです。
どの選択を取るにせよ、株式譲渡にはどのような税金があり、どうすれば節税できるのかを自分自身で把握しておくことが重要ですので、今回の記事を繰り返し読んで必要な知識を習得してくださいね。
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