病院のM&Aの動向は?スキームから成功事例・注意点まで解説!

病院などの医療法人においても少子高齢化による後継者不足の動向に伴い、M&Aを活用して事業継続する病院も多いです。本記事では病院のM&Aの動向を解説し、スキームから成功事例・注意点まで解説します。

目次

  1. 病院のM&A動向と課題
  2. 病院のM&Aスキーム
  3. 病院のM&Aのメリットとデメリット
  4. 病院のM&Aの売却・買収相場
  5. 病院のM&A成功事例
  6. 病院のM&Aの注意点
  7. 病院のM&Aは早めに専門家に相談しよう

病院のM&A動向と課題

病院のM&Aの動向は一般企業のM&Aの動向とは異なり、株式移転や株式交換をはじめとした業界再編のスキームがありません。

また個人病院か医療法人化でもM&Aのスキームが異なるうえに、医療法人であれば出資持株の有無によってもM&Aのスキームが異なります。

また病院のM&Aでは一般企業のM&Aよりも専門的な知識が必要なケースも多いです。

このような観点からも事業主や仲介会社には、医療系の法律などに関する深い知識も必要な点が今後の課題として挙げられます。

病院の業界の特性とは?

病院業界の特性として挙げられるのは、病人やけが人に対して適切な施術や治療などの医療行為を行う点が挙げられます。

病院業界と類似している業種として診療所というものがありますが、所有しているベッド数が20個以上であれば病院、20個以下であれば診療所として区分されています。

また勤務している医師数や担当患者数などで、病院と診療所が区分されるのが一般的です。

また病院業界では株式を発行せず、運営は主に基金や出資などで賄われて利益に対する配当は一切行われない点も病院業界の特性といえます。

病院のM&Aの現状と動向

近年の病院業界を取り巻く動向は、病院数の減少や医療コストの増加、医師や看護婦などの人件費の高騰、各種診療報酬の引き下げなどの動向に起因して厳しい局面を迎えています。

このような問題を解決するためにも各病院が積極的にM&A行い、グループ化を促進して経営難を乗り切っているのが現状です。

またM&Aを行えば更なる患者数の確保や、異業種による病院事業への参入も促進されて結果的に地域医療の発展にも繋がります。

病院の今後の課題

前述のように近年の病院業界を取り巻く環境は厳しく、経営難を乗り切るためにもM&Aを行って事業促進化の動向を図るのも1つの課題として挙げられます。

また現在の病院業界では経営難だけでなく、後継者不足の解消も大きな課題です。

2021年の調査によれば一般企業の後継者不在率の動向は60%程度であるのに対し、病院や医療業界では70%以上の病院が後継者不在であるという結果でした。

このような観点からも、資金面や後継者問題などを解消しながら効率的な経営を維持するのが病院業界の今後の重要な課題ともいえます。

病院のM&Aスキーム

病院業界でM&Aを行えば、効率的な事業運営やグループ化、後継者問題の解消などさまざまなメリットを得ることができますが、実際にどのような手法でM&Aが行われるのでしょうか。

ここからは病院のM&Aスキームを詳しく解説します。

①合併

病院のM&Aの有効なスキームとして、合併による事業統合が挙げられます。

合併の手法の中の1つである「吸収合併」を行えば、吸収側の病院は存続して買収された側の病院は経営権を失います。

その動向に伴って買収された側の権利は吸収側に継承されるスキームです。

合併では契約成立のために医療審議会を行ったうえでの行政の認可が必要で、契約成立までに多くの時間がかかってしまいます。

②事業譲渡

病院のM&Aでは事業そのものを他社に譲渡するだけでなく、一部の事業のみを引き継ぐこともできます。

病院のM&Aは、経営者高齢化による後継者不在による事業継続を目的として行われるケースが多いです。

このような場合には売り手は売却する事業のみに係る財産や従業員、権利などを売却すれば経営者が高齢でも法人として存族できます。

しかし病院のM&Aにおける事業譲渡では事業の廃止・開設届など複雑な手続きが必要なうえに、事業における権利範囲なども細かく設定しなければいけません。

したがってスムーズに取引を行うためにも、時間にゆとりを持って取引を進めましょう。

③持株譲渡

持株譲渡も病院の有効なM&Aのスキームの1つです。

持株譲渡はM&Aの対象の病院の持株の有無によって細かな手法が異なります。

病院が持株を所有していれば、財産である出資持株を譲渡して譲渡が完了します。

一方持株を所有していない病院である基金拠出型医療法人などの病院であれば、出資持株ではなく基金を譲渡します。

また持株有り・無しに関係なく譲渡後の社員の処遇は役員・社員変更手続きによって行われるのが一般的です。

④分割

平成28年に行われた医療法の改正により、病院などの医療法人の事例においても分割が可能になりました。

分割を行えば全ての事業ではなく、一部の事業のみを他の病院に継承することができます。

また分割には新規病院を開設して事業を引き継ぐ新設分割、現在運営している病院に事業を引き継ぐ吸収分割に分類されるのが一般的です。

また分割のスキームを実施できるのは持株を所有していない病院だけで、現在は持株を所有していない病院は少ないので現状の事例は少なめに推移しています。

しかし分割は今後幅広く事業展開を進める病院の有効なスキームとして、注目を集めているスキームです。

病院のM&Aのメリットとデメリット

病院業界でM&A行えば、後継者問題の解消や効率的な事業展開などのメリットを得ることができますが、他にどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

では病院のM&Aのメリットとデメリットを買い手側・売り手側双方の立場から紹介します。

メリット

病院のM&Aでは買い手側・売り手側双方ともに、多くのメリットを得ることができます。

では病院のM&Aのメリットを売り手側・買い手側双方の側面から解説します。

売り手側

病院のM&Aを行えば、売り手側は医師や看護婦などのスタッフの雇用先を確保できる点がメリットです。

後継者不在や経営不振などに起因して廃院すれば、当然ながら勤務医や看護婦などのスタッフも解雇されます。

そのような状況に陥る前に事前にM&Aを行って事業譲渡すれば、医師や看護婦もそのまま買い手側に雇用されて失業する心配もありません。

買い手側

優秀な医師や人材を確保できるのも、病院のM&Aにおける買い手側のメリットです。

M&Aによる病院事業引継ぎでなく、新規病院を開設する際には新規の医師や看護婦を募集・採用しなければいけません。

新規病院に多額の資金がかかってしまううえにスタッフの確保にも手間や経費がかかれば、費用対効果を生むまでに大変な時間がかかってしまいます。

そこでM&Aを行って既存の病院を買収すれば、事業そのものを引き継げるうえに業務になれた医師や看護婦もそのまま引き受けてすぐに事業開始できるのもメリットです。

デメリット

病院のM&Aを行えば、メリット同様にいくつかのデメリットも発生します

では病院のM&A時の買い手側・売り手側双方のデメリットを解説します。

売り手側

病院でM&Aを行えば、売り手側に多額の法人税や消費税がかかるのもデメリットです。

病院などの医療機関での事業譲渡や事業売却時に発生する税金は一般企業よりも高額で、売却金に課せられる消費税と加算されれば大変な出費になります。

そのような税金の支払いを軽減して節税するためにも、売却時に経営者は営業権などの金額を退職金として受給しましょう。

買い手側

取引完了後にスタッフ同士の意思疎通がうまくいかずに業務効率が下がる点が、病院のM&Aにおける買い手側のデメリットです。

病院でM&Aを行えば、売り手側の医師や看護婦などのスタッフはそのまま買い手側に引き継がれます。

そして売り手側と買い手側の双方のスタッフが、同じ環境下で仕事をする場面も多くなるでしょう。

そのような場合に今まで違う環境・風土下で勤務してきたスタッフ同士は仕事での価値観が異なることも多く、密な連携をとれるまでに大変な時間がかかってしまいます。

病院のM&Aの売却・買収相場

近年は後継者不足の解消や経営難を乗り切るために病院業界では多くのM&Aが行われていますが、実際にはどれくらいの金額で取引されているのでしょうか。

では病院のM&Aの売却・買収相場を検証します。

売却相場

病院の売却相場は一般的に時価純資産に営業利益を加算し、その数値を3~5を掛けて算出する企業価値評価を算出して求めます。

下記に簡単な計算式を表記しますので参考にして下さい。

・企業価値評価=時価純資産+営業利益×3~5

例:時価純資産4,000万円、営業利益2,000万円の場合

・企業価値評価=4,000万円+2,000万円×3~5=1億8,000万円~3億円

この計算式の時価純資産は時価資産から時価負債を差し引いて算出され、事業の一部のみを譲渡する際には時価純資産から譲渡対象負債の時価を差し引いたものですが、事業譲渡では譲渡されません。

買収相場

近年は事業計画や買収によるリスク評価を行い、それらを加味したうえで将来的に算出される利益を予測して企業価値を定めるDCF法が買収相場の決定方法として多用されています。

DCF法を利用するためには税務や法務に関する専門的な知識が必要なので、仲介会社などの利用がおすすめです。

また大企業や上場企業など債権者や株主への説明が必要なM&Aでは、DCFが一般的な手法として活用されています。

他にも営業権の価格を基準に(営業権=禁煙の営業利益×3~5程度)の計算式で買収相場を決定する年倍法も多く利用されています。

病院のM&A成功事例

近年は多くの病院が効率的なM&Aを行い、事業継続・再生に成功しています。

では実際に行われた病院のM&Aの成功事例を紹介します。

①ときわ会と翔洋会

2019年8月には主に病院やクリニック事業を手掛けていた翔洋会が、民事再生期間中に病院やクリニック、介護老人保健施設などを運営するときわ会に介護・医療事業を譲渡しました。

このM&Aは翔洋会は負債からの脱却、ときわ会は医療体制強化を図るために行った事例です。

ときわ会コーポレートサイト

②社会医療法人北斗と熊谷総合病院

2016年5月には北海道の十勝で主に介護施設やクリニックなどを運営している社会医療法人北斗が、JA埼玉厚生連より熊谷総合病院の事業を譲受しました。

このM&Aは熊井総合病院は経営難を脱却し、北斗が事業シェアを拡大させた事例です。

熊谷総合病院コーポレートサイト

③沖縄徳洲会と木下会

2019年12月には全国的な病院事業を展開する徳洲会グループの1つである徳洲会沖縄が、千葉県で主に総合病院や介護老人施設を運営していた社会医療法人木下会を吸収合併しました。

このM&Aは徳洲会沖縄がさらなる事業範囲を拡大させるために行った事例です。

徳洲会コーポレートサイト

④医療法人社団博洋会と医療法人団竜山会

2021年8月には医療法人博洋会に属する藤井病院の事業を、主に病院やクリニック事業を展開する医療法人竜山会が譲受しました。

藤井病院は夜勤時の人員配置のごまかしや診療報酬の不正請求などで保健医療機関として業務停止命令を受けていました。

このM&Aは博洋会が藤井病院の事業を継続させるために行った事例です。

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⑤NTT東日本と東北医科薬科大学

2015年9月には東北で主に通信事業を営むNTT東日本が、自社が経営している東日本東北病院の事業を東北医科薬科大学に譲受しました。 

このM&AはNTT東日本が東日本東北病院の人材不足を解消し、効率的な事業運営を計るために行った事例です。

東北医科薬科大学コーポレートサイト

⑥日本郵政と社会福祉法人恩賜財団済生会グループ

2017年4月には日本郵政が自社で手掛けていた横浜通信病院の事業を、社会福祉法人恩賜財団済生会グループに譲渡しました。

このM&Aは日本郵政は不採算事業から撤退し、済生会グループは事業シェア拡大を図るために行った事例です。

社会福祉法人済生会グループコーポレートサイト

病院のM&Aの注意点

事業シェア拡大や効率的な事業承継など、病院でM&Aを行えばさまざまなメリットを得ることができますが、取引を成功させるためにはいくつかの注意点があります。

では病院のM&Aを行う際の注意点を紹介するので参考にして下さい。

事前の準備をしっかりと行う

事前の準備をしっかりと行う点も、病院のM&Aを成功させるための注意点の1つです。

病院のM&Aも一般企業のM&Aと同様にも法務や財務、税務などに関するさまざまな資料が必要で関係書類を作成するだけでもかなりの時間がかかってしまいます。

またM&Aは重要な企業間取引なだけに、取引成立までの交渉にも多くの時間を要するのが現状です。

そして資料作成や交渉に時間がかかりすぎてしまい、交渉決裂になるケースも少なくありません。

このような事態を防いでスムーズに取引を完了するためにも、事前の準備をしっかり行って取引に臨みましょう。

契約内容をしっかりと確認する

病院のM&Aを行う際には、契約内容をしっかり把握して取引を進めましょう。

取引前に自社と取引相手企業の事業内容を再度確認し、M&Aを行うことで得ることができるシナジー効果を考慮して買収事業を検討する措置も重要になります。

その際に不要な事業まで買収したり、契約金額に間違いがないか契約内容を十分確認して健全な取引を行いましょう。

デュ―デリジェンスは必ず行う

病院のM&Aを行う際には、デュ―デリジェンスも徹底しましょう。

M&A時にデュ―デリジェンスを行わなければ、取引成立後に帳簿に記載されていない部分で債務が発生する簿外債務や突発債務などが発生する可能性があります。

これらの債務が発生すれば買い手側は取引完了後に想定外の債務支払いをしなければいけません。

そのような事態を予防し、取引完了後の余計な支払いを避けるためにもデュ―デリジェンスは必ず取引期間中に行いましょう。

M&Aの目的を明確にする

M&Aの目的を明確にするのも、病院のM&Aを行う際の注意点の1つです。

目的を明確にしないままM&Aを行っても結果的に企業の方向性が不明瞭になり、取引完了後も十分なシナジー効果を得ることはできません。

一方で事前に明確な目的を立てておけば、その目的達成のために必要な取引相手の選定が可能になり、意義のある取引が展開されます。

M&Aの専門家に相談する

病院のM&Aを行う際には、M&Aの専門家に相談しましょう。M&Aには法務や財務、税務に関する専門的な知識が欠かせません。

そしてそのような複雑な取引を自社のみで行えば多くの時間がかかるうえに、時間がかかりすぎて交渉が決裂してしまう場合もあります。

そこで法務や財務、税務に詳しいM&Aの専門家に相談すれば、スムーズ且つ正確に取引を進めてくれるでしょう。

病院のM&Aは早めに専門家に相談しよう

最近は事業立て直しや事業シェア拡大のため、病院業界で多くのM&Aが行われています。

しかしM&Aの交渉や取引、手続きには複雑なものが多いうえに法務や財務、税務に関する専門的な知識も欠かせません。

そこで仲介会社をはじめとしたM&Aの専門家に早めに相談すれば、豊富な知識や実績をもとにスムーズに取引を進めてくれます。

このような観点からも病院のM&Aを行う際には、早めに専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

またM&Aでも効率的に病院の事業引継ぎや買収を行うことができますが、さらにスムーズな引継ぎや買収を行うのであれば事業承継がおすすめです。

事業承継を活用すれば、自社親族内の後継者を擁立できれば簡単に手続きが完了します。

さらに親族や従業員内に後継者がいなくても、第三者企業から最適な後継者の擁立ができるのも事業承継のメリットです。

特に近年は事業承継に特化している仲介会社も多いので、一度利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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