精密部品製造業のM&A動向や事例を徹底解説!取引相場やメリット・注意点は?
精密部品製造業界では、IoT技術の導入や生産効率化、新規事業参入を狙ったM&A動向が活発です。この記事では、過去実施された売却・買収事例を踏まえながら精密部品製造業界のM&A事情を解説します。取引価格の相場やM&A成功へのポイントも併せてチェックしましょう。
目次
精密部品製造業の現状とM&Aの動向
ここでは精密部品製造業界の主な業務内容と特性、業界を取り巻く現状課題を確認した上で、多く見られるM&A動向を解説します。
精密部品製造業の特性
精密部品製造業とは、文字の通り細かい部品を製造する業務を主に担う業種のことです。自動車や電子機器、半導体、医療機器など幅広い精密部品を手掛けます。
精密部品は多くの機械に用いられる上、その機械が稼働するために欠かせません。そのため、高度な技術と製品管理能力が求められる点が特徴です。
精密部品製造業の現状
高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響で、医療機器に対する精密部品の需要が増加しました。この他、時計や測量機器への需要も増加傾向にある点が特徴です。
ただし電子部品関連では、新製品が続々と誕生します。そのため精密部品製造業界も新技術への対応が必要です。
コストの低い海外製品にも対抗しなければならず、国内企業は事業の増強や効率化、新規事業開拓も行わなければならない状況にあると言えるでしょう。
精密部品製造業のM&Aの市場規模と動向
精密部品製造業界では、事業拡大や新技術の導入、新規事業の開拓といった現状課題をM&Aで解決する動向が多く見られます。
精密部品製造業界で見られる主なM&A動向・パターンは、以下の通りです。
- 動向①:精密部品製造にかかる技術を獲得するためのM&A
- 動向②:東南アジアををはじめとする新興国に進出するためのM&A
- 動向③:関連業種による業界再編のためのM&A
- 動向④:製造効率化を狙いデジタル技術を導入するためのM&A
- 動向⑤:精密部品製造業から別分野事業に参入するためのM&A
精密部品製造業のM&A事例
ここでは、精密部品製造業界で過去に行われたM&A事例を6つ紹介します。
当事者はどのような目的で売却・買収を実施したのでしょうか。この点に注目しながら事例を確認しましょう。詳しいIR情報は、各事例下のリンクから参照できます。
- 事例①:日本電産とOKK
- 事例②:アルコニックスとジュピター工業
- 事例③:オートバックスセブンとファトラスタイリング
- 事例④:ルネサス エレクトロニクスとCeleno Communications Inc.
- 事例⑤:ウイルテックとサザンプラン
- 事例⑥:あいホールディングスとイシモリテクニックス
①日本電産とOKK
売却企業 (株式交換・子会社) | OKK(現・ニデックオーケーケー) (工作機械製造・販売事業) |
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買収企業 (株式交換・親会社) | 日本電産 (精密部品製造事業、家電・産業用モータ関連事業) |
M&Aの手法 | 株式交換(簡易株式交換) |
M&Aの目的 | ・企業価値の向上 ・経営の柔軟性向上 ・グループ戦略の一層の強化 ・親子上場解消に伴う経費削減 ・国内・海外販売力強化 ・ノウハウの活用 ・技術集結による新製品開発 ・生産拠点の補完・増強 |
実施時期 | 2022年12月 |
株式交換比率(親会社:子会社) | 1 : 0.28 |
②アルコニックスとジュピター工業
売却企業 | ジュピター工業 (精密部品製造事業、コネクタ金属端子部品のプレス加工事業) |
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買収企業 | アルコニックス (非鉄金属製品製造・販売事業) |
M&Aの手法 | 株式譲渡 |
M&Aの目的 | ・グローバルな事業展開 ・商社機能と製造業の融合加速化 ・グループにおけるシナジー効果の創出 ・企業価値の向上 |
実施時期 | 2021年12月 |
譲渡価格 | 非開示 |
③オートバックスセブンとファトラスタイリング
売却企業 | ファトラスタイリング (工業製品のデザイン開発・コンサルタント事業、 自動車用品製造・販売事業、カスタムコンプリートカー事業) |
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買収企業 | オートバックスセブン (カー用品卸・小売事業、車検・整備事業、車両販売事業) |
M&Aの手法 | 株式譲渡 |
M&Aの目的 | ・カスタムコンプリートカー市場への参入 ・オリジナルブランドの商品開発 ・将来的な装・板金や内装施工機能の拡充 ・グループにおける更なる収益拡大 |
実施時期 | 2022年2月 |
譲渡価格 | 非開示 |
④ルネサス エレクトロニクスとCeleno Communications Inc.
売却企業 | Celeno Communications Inc. (イスラエルのアナログ半導体企業) |
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買収企業 | ルネサス エレクトロニクス (半導体製品の研究開発・製造・販売・サービス事業) |
M&Aの手法 | 株式譲渡 |
M&Aの目的 | ・ソリューション提供力の拡充 ・イスラエルの設計拠点獲得 ・設計開発・エンジニアリング力の強化 ・グローバルの人材増強 ・より充実したサービス提供 |
実施時期 | 2021年10月 |
譲渡価格 | 約315百万米ドル(約359億円) |
⑤ウイルテックとサザンプラン
売却企業 | サザンプラン (中古OA機器買取・修理・磨き上げ・売却事業) |
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買収企業 | ウイルテック (製造請負・製造派遣事業) |
M&Aの手法 | 株式譲渡 |
M&Aの目的 | ・修理サービスと再生技術の連携 ・流通ノウハウの活用 ・電子部品の販売力強化 ・一層の企業価値向上 |
実施時期 | 2020年6月 |
譲渡価格 | 5億9,200万円 |
⑥あいホールディングスとイシモリテクニックス
売却企業 | イシモリテクニックス (ナット・ネジ・コネクター等の精密部品製造販売事業) |
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買収企業 | あいホールディングス (監視カメラ・レコーダー等セキュリティシステム機器関連事業) |
M&Aの手法 | 株式譲渡 |
M&Aの目的 | グループ内におけるネジや周辺パーツのシナジー効果創出 |
実施時期 | 2018年2月 |
譲渡価格 | 約2億7,000万円 |
精密部品製造業のM&Aのメリット・デメリット
精密部品製造業界のM&Aにおけるメリットとデメリットを確認しましょう。M&Aは多くの恩恵が受けられるため魅力的な対処法ですが、考慮すべきポイントも存在します。
メリットとデメリット両方を正しく把握した上で、M&Aの手続きに入りましょう。
メリット
まず精密部品製造業界におけるM&Aのメリットから確認しましょう。売却側・買収側それぞれの視点に分けて解説します。
売り手側
精密部品製造業界のM&Aで売却側企業が得られるメリットは、以下の通りです。
売却側のメリット | ・株式や事業譲渡による売却益が得られる ・従業員の雇用を維持できる ・後継者問題を解決できる ・大手傘下に入れば経営が安定する ・経営者が個人債務から解放される |
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買い手側
精密部品製造業界のM&Aで買収側企業が得られるメリットは、以下の通りです。
買収側のメリット | ・顧客や人材を獲得できる ・低コスト・低リスクで精密部品製造業界に参入できる ・効率的に事業拡大できる ・事業エリアを拡げられる ・売却側とのシナジー効果を期待できる |
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デメリット
次に、デメリットを確認しましょう。こちらも上記と同様、売却側・買収側それぞれの視点から解説します。
売り手側
精密部品製造業界のM&Aにおける売却側のデメリットは、次の通りです。
売却側のデメリット | ・理想通りの条件にならない場合がある ・不安を感じた従業員が退職するおそれがある ・取引先との関係が悪化するおそれがある ・会社経営における影響力が小さくなる ・マッチングに苦戦する場合がある |
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買い手側
精密部品製造業界のM&Aにおける買収側のデメリットは、次の通りです。
買収側のデメリット | ・期待通りのシナジー効果が得られない場合がある ・買収にかかる資金の調達が必要 ・売却側の簿外債務を引き継ぐおそれがある ・売却側従業員が待遇に不満を抱くおそれがある ・文化の融合にかなりの時間を要する場合がある |
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精密部品製造業のM&Aの買収・売却価格相場
精密部品製造業界でM&Aを行う場合、当事者となる企業はどのくらいの相場を見込めば良いのでしょうか。経営者にとって、M&A相場は特に気になる項目です。
ここでは、価値相場で押さえたい知識と算出方法について簡単に解説します。
価格相場
早速相場を記載したいところですが、精密部品製造業界には一概に言える具体的な数字がありません。
会社の大きさや事業規模、期待できるシナジー効果の大きさ、収益性などの要素が相場価格に影響を与えるためです。
価値の算出方法
大まかなM&A価格相場を算出することはできます。相場算出はさまざまな評価アプローチが存在しますが、例えば以下のような式を活用するのが一般的です。
大まかな相場(価値)の算出方法 |
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M&A取引価格相場 = 時価純資産 + 営業利益 × 2~5年分 |
企業価値には「のれん代」と呼ばれる見えない価値資産を正しく評価する必要があります。専門家のサポートを受けながら相場算出すると良いでしょう。
精密部品製造業のM&Aの手順
ここでは、精密部品製造業界でM&Aを実施する際にとられる手順を8ステップに分けて解説します。
以下で紹介する内容は、精密部品製造業界以外の業種にも共通です。戦略策定からクロージングまで、M&Aの基本的な流れを確認しましょう。
- 戦略策定
- 委託契約
- 本格的な戦略策定
- 会社売却・買収の手続き
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 最終条件交渉・契約締結
- クロージング
①戦略策定
M&Aの準備段階として最初に行われるのが、戦略策定です。会社状況を分析し、課題点や今回のM&Aで実現すべき目標を設定します。
M&Aで効果が得られる見込みが立てられたら、M&Aの手続きに入りましょう。
②委託契約
次に、専門家への委託契約締結です。M&Aにかかる手続きは専門知識が求められるので、このタイミングでM&A仲介会社などの専門家に依頼します。
仲介手数料や実績を確認し、信頼できるM&A仲介会社を見つけましょう。この委託契約は、アドバイザリー契約とも呼ばれます。
③本格的な戦略策定
M&A仲介会社のサポートを受けながら、本格的な戦略策定を行います。市場動向を分析し、多くの効果が得られる手法や方向性を定めましょう。
相手企業の絞り込みも行います。候補企業経営者と会談を重ね、相互理解を深めましょう。理念や方向性が共感できる企業が見つかればマッチング成功です。
④会社売却・買収の手続き
相手企業とのマッチングが済んだら、売却・買収手続きに入りましょう。当事者間で交渉を重ね、今回のM&Aにおける取引条件をまとめます。
売却側の場合は、従業員の処遇など不安要素を明確にしておくことをおすすめします。当事者双方が合意できる条件を目指しましょう。
⑤基本合意書の締結
基本合意書を締結しましょう。基本合意書には、実施日、取引株式の種類・数量、M&A手法、譲渡価格、支払い方法といった項目を記載するのが一般的です。
基本合意書は当事者間のM&Aへの合意を示すもので、法的拘束力がありません。
⑥デューデリジェンス
次に、デューデリジェンスが実施されます。デューデリジェンスとは、売却側の経営状況、資源や設備、負債やリスクなどあらゆる項目を調査する実態把握プロセスです。
売却側の簿外債務リスクを軽減できるため、買収側には非常に重要な手続きと言えます。デューデリジェンスは、専門家に依頼して執り行われるのが一般的です。
⑦最終条件交渉・契約締結
デューデリジェンスが済んだら、最終条件交渉と契約締結です。基本合意書の内容とデューデリジェンス結果をもとに、細かい条件調整を当事者間で行います。
最終契約書は法的拘束力を持つので、締結前に条件を入念に確認しましょう。
⑧クロージング
M&Aの中で最終段階に位置する手続きが、クロージングです。最終契約書のスケジュール・内容に従って株式や事業の譲渡と対価の支払いが実施されます。
クロージングまで済めば、一連のM&Aの手続きは完了です。クロージングの具体的な内容は、取引条件によって異なります。
精密部品製造業のM&Aを行う場合の注意点
ここでは、精密部品製造業界のM&Aを成功させるために気を付けたいポイントを解説します。一般的にM&Aは、多くのリスクと労力をかけて行われるイベントです。
以下6つのポイントに留意し、成功確率を上げた状態で手続きを進めましょう。
- 事前の準備をしっかりと行う
- 従業員のモチベーション維持を徹底する
- 自社の強みをアピールする
- M&Aの目的を明確にする
- M&Aの専門家に相談する
- 優秀な人材の離職を防止する
事前の準備をしっかりと行う
M&Aを成功させるためには、事前準備が欠かせません。経営難や人材不足問題が起きてからでは、相手企業が見つからず最悪の場合廃業せざるを得なくなります。
できるだけ経営が安定している頃から計画を立て、適切なタイミングですぐ動けるように準備しましょう。
従業員のモチベーション維持を徹底する
従業員のモチベーション維持も重要です。M&Aで待遇が悪化してしまうのではないかと不安に感じ、退職してしまわないように配慮する必要があります。
M&Aの内容がしっかり決まってから情報公開を行い、M&Aが従業員においても有益であることを説明し、納得してもらいましょう。
自社の強みをアピールする
また、自社の強みをしっかりアピールすることもM&A成功に繋がります。事業の得意分野や取引実績データを資料にまとめておくと良いでしょう。
アピールポイントが明確な企業は、M&Aの相手候補に選ばれやすくなります。
M&Aの目的を明確にする
M&Aの目的を明確にすることも、M&A成功への重要なポイントです。漠然とした状態で売却・買収を行うと、効果が得られず損失になる可能性があります。
今の状況に即した適切な目的を設定した上でトップ会談を実施し、相互理解を深めてください。方向性やニーズが合致した企業をM&Aを行いましょう。
M&Aの専門家に相談する
精密部品製造業界に限らず、M&Aは税務や法務といった専門知識が多くの場面で必要です。個人で進めるよりも、知識豊富な専門家への依頼をおすすめします。
精密部品製造業界でM&A実績がある仲介会社に相談し、サポートを受けましょう。
優秀な人材の離職を防止する
人材は、M&Aにおける企業価値を決める重要な要素です。優秀な人材が居れば居るほど評価額は高額になる傾向があります。
中途半端にM&Aの情報が流出して優秀な人材が離れてしまわないように、秘密保持契約書の締結などで情報管理を徹底しましょう。
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