M&Aで買収された企業の退職金の扱いは?株式譲渡と事業譲渡の違いも解説!
株式譲渡や事業譲渡などM&Aで買収された企業における退職金はどうなるのかや、誰が払うのかについて疑問を抱える方も多いでしょう。
この記事では、M&Aの手法によって変わる退職金の扱いについて解説します。
目次
M&Aの手法別での退職金の違い
M&Aの手法には、株式譲渡、事業譲渡、吸収合併、吸収分割、新設分割などのさまざまなものがあります。今回は、その中でもよく行われる「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つについて取り上げます。
まず、退職金の違いに移る前に、株式譲渡と事業譲渡の違いについて解説します。
株式譲渡は、単純に株主の変更のみが行われることです。株主が買い手企業に対して過半数~100%の株式を譲渡することで経営権が買い手企業に移ります。株式譲渡では株式を譲渡するだけで完結するため、手続きが比較的簡単で頻繁に使われる手法です。
一方事業譲渡は、事業の一部もしくは全てを譲渡する手法です。事業が複数ある場合は、その一部を譲渡することもできます。
事業譲渡は経営権を渡すわけではないため、経営権を手放したくない場合や会社の名前を残したい場合に使用されます。
次は、株式譲渡と事業譲渡それぞれにおける「退職金の違い」について解説します。
株式譲渡
株式譲渡では、簡単に言えば経営権が移るだけなので雇用契約は譲渡前と変わりません。
そのため、退職金についてもそのまま継承されます。
株式譲渡において、役員などの売却側の株主が売却益を得た場合、所得税がかかってしまいます。この税負担を軽減するために、株式譲渡と同時に役員退職金を組み合わせることで税金の負担を抑えることができます。
退職金には所得税と住民税が課せられますが、退職金に関する税制優遇措置があるため、所得税は一定の範囲内で税率が引き下げられます。
株式譲渡において、退職金を組み合わせることで譲渡益に対する所得税の税率を下げることが可能です。
ただし、この場合には退職金に関する税制優遇措置の範囲内でのみ、所得税の税率が引き下げられます。
事業譲渡
事業譲渡でのM&Aにおいて、売却側の会社の従業員は買収側に転籍することになります。
そのため、退職金に関しての問題があがってきます。
売却側の従業員が買収側に転籍する際に、その前に所属していた会社で保証された退職金制度の条件で退職金を受け取ることになります。
この場合の退職金の支払い方法には、事業譲渡の前に支払う方法と、事業譲渡の後に買収側が引き継いで支払う方法の2つがあります。
事業譲渡前に支払う場合は、売り手企業が従業員の退職金を事前に支払います。
一方事業譲渡後に買収側が引き継ぐ場合は、買収側が引き継いだ退職金と事業譲渡前に発生した退職金を合わせて買収側が支払うことになります。
ただし、事業譲渡においては、買収側が退職金の債務を引き継ぐために、買収金額から差し引かれることがあるため、事業譲渡を行う際には買収側は従業員の退職金の額を事前に計算し、買収金額から差し引いておく必要があります。
M&A・会社売却した場合の退職金
ここまでは、M&Aを行った際の退職金について株式譲渡と事業譲渡の場合に分けて違いを説明してきました。
ここからは、退職金の算出方法について「社員・従業員」と「役員・社長」の場合に分けて解説します。
社員・従業員
売却後の企業において社員が退職する場合は、売却前に経営していた旧会社が退職金を支払います。
またM&A・会社売却した際の退職金の課税については「分離課税」が適用されます。具体的には、下記の式で算出されます。
(退職金の金額-退職所得控除)×1/2×税率
上記の式における退職所得控除は、勤続年数に応じて異なります。
具体的には、下記の条件で算出されます。
・勤続年数が20年以下の場合
40万円×勤続年数(ただし80万円未満の場合は80万円)
・勤続年数が20年を超える場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
以上のように、M&A・会社売却による退職金の支払いについては、課税方法が勤務年数によって異なるため注意が必要です。
役員・社長
次に、役員や社長のM&A・会社売却した際の退職金についてです。
注意点としては、社長や役員だからという理由で過度に高額な退職金を得ようとすることは禁止されています。
役員や社長の退職金は下記の計算式によって算出されます。
退職時の月額報酬×役員としての勤続年数×功績倍率(約2~3倍)
上記の式における功績倍率とは、会社への貢献度によって変わる数値であり、一般的には2~3倍程度の倍率をかけることが多いです。
M&A・会社売却をした場合の役員退職金を受け取るメリット
M&A・会社売却をした際に、役員退職金を受け取るべきだという情報をよく耳にするが、いまいちメリットがわからないという方も多いでしょう。
ここでは、M&A・会社売却した場合に役員退職金を受け取ることで得られるメリットについて、売却側と買収側に分けて解説します。
売却側のメリット
M&Aした際に売却側が、役員退職金を受け取るメリットとして、税金を減らせることが挙げられます。
税金を減らすことで、より多くの利益を手元に残すことが可能です。
M&A・会社売却した際の利益を全て受け取る場合は、売却益すべてに20%の税金がかかってしまいます。
しかし、一部を役員退職金として受け取る場合には退職所得控除が使えます。
退職金から退職所得控除を引いた額に対して所得税がかかるため、その分税金を抑えることが可能です。
さらに、売却益から退職金を引いた額に対して20%の税率をかけることになるため、M&Aによる売却益にかかる税金を抑えることもできます。
よって、M&Aした際には役員退職金を受けることで売却側にもメリットがあります。
買収側のメリット
次に、M&A・会社売却した際の買収側が退職金を支払うことによるメリットを解説していきます。
買収側のメリットとしては、退職金を買収側の企業で損金計上できることが挙げられます。
所得は(益金-損金)で計算され、所得に対してさらに税金がかかります。
しかし損金を増やすことで所得が減り、税金の額を下げることができます。
つまり、損金計上することで法人税の支払額を減らすことができます。
このように、買収側においても退職金を支払うことで節税できるというメリットがあります。
M&A・会社売却した場合の役員退職金の節税方法
ここまでは、M&Aや会社売却をする際に役員退職金を受け取ることで税金を減り手元に残る金額が増えるメリットがある、ということに関して説明してきました。
ここからはM&A・会社売却した場合の役員退職金での具体的な節税方法について紹介していきます。
退職金の課税ルール
まずは、退職金の課税ルールについて解説します。
退職金は退職所得控除というものがあり、ほかの所得と比べて税金面で優遇されているため、節税する方法として活用できます。
具体的に、どのようにして退職所得控除が計算されるのかを説明します。
退職所得控除は、20年以下の勤務か20年を超える勤務かによって場合分けされます。
・20年以下の場合
40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には80万円)
・20年を超えている場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
次に、退職所得の計算式です。
退職所得=(退職金の額-退職所得控除額)×1/2
退職金として支給された額から、先ほど計算した退職所得控除額を引いたものに1/2をかけることで算出できます。
株式譲渡でかかる税金
株式譲渡をする際にかかる税金についてです。
売却側にかかる税金と買収側にかかる税金に分けて説明していきます。
売却側の税金
株式譲渡によるM&Aをした際に売却側にかかる税金は、売却益に対する分離課税のみです。
通常の所得に適用される課税方法は、総合課税というもので、1年間に得た所得の合計に対して課税されます。これには所得金額の合計額によって税率が変わる累進課税方式が使われています。
しかし分離課税に関しては、累進課税ではなく「20.315%」で固定の分離課税が適用されます。
売却した際の譲渡対価から必要な費用を引いた株式譲渡益に対して、分離課税(20.315%)がかかるため、節税効果が期待できるでしょう。
買収側の税金
次に、株式譲渡によるM&Aをした際に買収側にかかる税金についてです。
買収側には、基本的には税金がかかることはありませんが、株式が時価に比べて半額以下で取引された場合はその差額が利益だとみなされ、税率をかけられる可能性もあります。
そのため、買収側は基本的には税金がかかることはありませんが、株式の時価を確認しておくことが非常に重要です。
事業譲渡との比較
事業譲渡によるM&Aをした場合は、株式譲渡によるM&Aの方法と違い、買収した企業から売却した企業へと売却益が入るため、法人税や消費税がかかってしまいます。
株式譲渡によるM&Aの場合であれば、譲渡した際に得られた利益に対して分離課税が適用される上、後ほど紹介する役員退職金での節税方法を併用することで支払う税金を減らし、手元に残る利益を増やすことが可能です。
事業譲渡でのM&A、株式譲渡によるM&Aで比較すると、株式譲渡でM&Aを行う方法によって得られる利益を大きくすることができます。
しかし、事業譲渡でのM&Aの際にも税金がかからない場合もあり、株式譲渡によるM&Aの方が税金による負担が少ないとは一概には言えません。
事業譲渡でのM&Aによる利益を損金で打ち消せる場合であれば、税金の支払いを免除されることもあります。
役員退職金を用いた節税
次に、役員退職金を用いることで可能な節税方法について、売却側と買収側に分けて紹介します。
売却側における節税
まず、売却側における節税効果について解説します。
売却側に関しては、役員退職金を用いることで節税をすることができます。
M&Aにより得られた株式譲渡益から退職金が引かれるのですが、株式譲渡益と退職金にかかる税金は違います。
M&Aによる株式譲渡益から退職金を引いた額に対して分離課税が適用されます。退職金には退職所得控除が適用されるため、課税される額を減らすことが可能です。
つまり、役員退職金を用いることで退職所得控除額の分だけ課税される額が減るため、節税効果を得られるというメリットがあります。
買収側における節税効果
次は、買収側における節税効果について解説します。
買収側は、買収資金を節約することができます。
役員退職金は、売却側が支払うため買収側は、退職金の分の買収資金の節約が可能です。
また、役員退職金を損金に計上できるため、法人税などの節税効果を得ることができるというメリットがあります。
M&A・会社売却した場合の退職金の注意点
M&Aや会社売却をした場合の退職金に関する注意点について解説します。
主な注意点には以下の4つがあります。
- 退職金を清算するときの支払い
- 勤続年数での所得税の控除金額の違い
- 勤続年数の取扱い方
- 退職金の扱いについての説明
それぞれについて理由と共に詳しく説明します。
①退職金を精算する時の支払い
M&Aや会社売却が行われた場合、基本的には従業員への退職金の支払いは売却側の企業の決まりに従って行われます。
仮に買収側が退職金の債務を引き継いだ場合でも、これまでの決まりに従う必要があります。
通常は売却側が支払うべきであった退職金のため、M&Aした際の売却益から引くべきものであり、働いている従業員はM&Aや会社売却が行われると聞いた時点で退職金について必ず不安に感じるはずです。
その際に退職金が支払われないとなると、従業員のやる気が下がってしまったり、不満がたまることによって会社の業績に影響が出たりすることもあるかもしれません。
そのようなことにならないためにも、M&A・会社売却を行う際には退職金支払いについて相手企業としっかりと話し合い、退職金について考える必要があります。
②勤続年数での所得税の控除金額の違い
退職金の課税ルールのところでも紹介したのですが、退職所得控除を計算する際には勤続年数によって控除額が変わります。
従業員にとって勤続年数がどのように扱われるのかは、非常に重要なことです。
理由としては、勤続年数によって支払う税金額が変わることにより手元に残る額が変わるからです。
そのため、買収側の企業は、売却側の企業と勤続年数に関して話し合っておく必要があります。
③勤続年数の取扱い方
勤続年数の取扱い方にも注意が必要です。
前述した通り、従業員はM&A後の勤続年数の扱い方に関して不安に感じている場合が多いです。
勤続年数によって控除額が変わるため、以前の企業からの通算でカウントするのか、M&A後にリセットして新しくカウントし直すのかを明確にしておく必要があります。
特別な場合でない限りM&Aは会社側の都合であるため、従業員が損をしないように勤続年数の取り扱いは通算でカウントする方法がベストです。
④退職金の扱いについての説明
従業員が不安に思わないよう、M&Aの手続きが完了する前に売却側の企業としっかり退職金について話し合い、従業員に不利益が生じないような取扱い方を考える必要があります。
そして退職金の取扱い方が決まれば従業員にその旨をしっかりと伝え、安心してもらうことが大切です。
そうすることで、従業員との信頼関係を築いたままの状態が維持されます。
M&Aにおける退職金は両者にとってメリットになる
ここまで解説してきた通り、M&Aを行う際の「退職金」における節税効果を合わせることによって、手元に残る金額が増えるということがわかりました。
退職金における節税対策以外にも、M&Aの際に必要な対策や準備は存在するので、M&Aの専門家が在籍しているM&A仲介会社に相談することをおすすめします。
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