電子部品業界のM&Aを徹底解説!価格相場や目的・メリットまで網羅的に解説!

電子部品業界では、新たに必要な技術を獲得するために他企業を買収する動きが活発です。当記事では、過去実施された売却・買収事例を踏まえながら、電子部品業界のM&A事情を詳しく解説します。気になるM&A価格相場や成功へのポイント・注意点も確認しましょう。

目次

  1. 電子部品業界の現状とM&Aの動向
  2. 電子部品業界のM&Aの事例
  3. 電子部品業界のM&Aの費用の相場
  4. 電子部品業界のM&Aのメリット
  5. 電子部品業界のM&Aを成功させるポイント
  6. 電子部品業界のM&Aの注意点
  7. 電子部品業界のM&Aは専門家のサポートを受けて成功させよう

電子部品業界の現状とM&Aの動向

ここでは、電子部品業界の主な業務内容と現状を踏まえた上で、業界で多く見られるM&A動向・パターンを解説します。

電子部品業界とは

電子部品業界とは、テレビや自動車、冷蔵庫や洗濯機、パソコンやスマートフォンといった機器に組み込まれる電子部品を主に製造する業界のことです。

上記で挙げた機器だけでなく、幅広い分野に必要な電子部品を製造しています。多くが生活に欠かせない機器に必要な部品を手掛ける業界です。

必要な技術を取り込む目的のM&A

電子部品業界は、M&Aの市場動向が拡大する業界です。例えば、必要な技術を獲得するために他社を買収する形のM&Aはこの業界で多く見られます。

電子部品製造技術は幅広い業種を抱えるため、得意分野は各企業で異なります。必要な技術を持つ会社を買収すれば、ノウハウを獲得できるので効率的です。

電子部品業界のM&Aは今後も増加傾向

電子部品業界は、技術を獲得するためのM&Aが今後も増加すると考えられます。特に、大規模企業が小規模企業の技術を取り入れるM&Aが活発になるでしょう。

また、中小規模企業の多くは経営者高齢化や人材不足への対処を迫られているため、大手の傘下に入り経営を安定化を目指す動きも活発です。

電子部品業界のM&Aの事例

ここでは、電子部品業界で実施されたM&A・事業承継事例を10個紹介します。当事者となる企業が設定した目的に注目しながら各事例を確認しましょう。

※詳しいIR情報は、各事例の下に掲載のリンクから参照できます。

  • 事例①:新日本無線とリコー電子デバイス
  • 事例②:アジア電子部品投資ファンドとセンインテクノロジーズ
  • 事例③:デクセリアルズ・日本政策投資銀行と京都セミコンダクター
  • 事例④:テクタイトと双電産業
  • 事例⑤:日東工業と北川工業
  • 事例⑥:メイコーと十和田ベトナム社
  • 事例⑦:グンゼの電子部品用フィルム事業とダイセル
  • 事例⑧:豊田合成とワンダーフューチャーコーポレーション
  • 事例⑨:アクセルとモーションポートレート
  • 事例⑩:三十三事業承継ファンドとアイビー電子工業

日清紡HDによる新日本無線とリコー電子デバイスのM&A

合併企業①

リコー電子デバイス

(電子部品製造・販売)

合併企業②

新日本無線 ※日清紡HD子会社

(電子部品製造・半導体の研究開発・設計・製造)

新会社

日清紡マイクロデバイス

(電子デバイス製品・マイクロ波製品の設計・製造・販売)

M&Aの手法

合併

M&Aの目的

・標準品ビジネスや信号処理ビジネスの強化

・近距離通信を取り入れた総合的ソリューションの提供

実施時期

2022年1月

(開示事項の経過)マイクロデバイス事業における連結子会社の統合 及び商号変更並びに代表者の異動について

アジア電子部品投資ファンドがセンインテクノロジーズに出資

売却企業

センインテクノロジーズ

(3次元成形回路部品の設計・製造・開発・販売)

買収企業

アジア電子部品投資ファンド

(AIS CAPITALが設立のファンド、電子部品企業への投資事業)

M&Aの手法

出資

M&Aの目的

・事業基盤の強化

・企業価値最大化

・海外市場の開拓

実施時期

2022年3月

譲渡価格

非開示

アジア電子部品投資ファンドの設立ならびにセンインテクノロジーズ株式会社への出資に関する お知らせ

デクセリアルズと日本政策投資銀行による京都セミコンダクターのM&A

売却企業

京都セミコンダクター

(光半導体デバイス・モジュール開発・製造・販売)

買収企業

デクセリアルズ

(電子部品・接合材料・光学材料の製造・販売)

※日本政策投資銀行と共同で株式取得

M&Aの手法

株式譲渡

M&Aの目的

・両社の技術力の融合

・新技術・新製品の提供

・社会のデジタル化と社会課題の解決への貢献

実施時期

2022年2月

譲渡価格

約88億円

株式会社 京都セミコンダクターの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

テクタイトによる双電産業のM&A

売却企業

双電産業

(電子機器関連部品卸・電子関連機器製造)

買収企業

テクタイト

(電子部品事業)

M&Aの手法

株式譲渡

M&Aの目的

・電子部品の販売拡大

・製品組立や検査業務のノウハウ活用

・受託加工分野の拡大

・シナジー効果の創出

実施時期

2019年7月

譲渡価格

非開示

双電産業株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

日東工業による北川工業のM&A

売却企業

北川工業

(電子機器電磁波環境コンポーネント製造・販売)

買収企業

日東工業

(配電盤関連製造事業)

M&Aの手法

公開買付け

M&Aの目的

・売上拡大

・新規市場への参入

・製品開発や研究開発におけるシナジー効果の創出

・国内外におけるグローバル展開の協業

実施時期

2018年11月

譲渡価格

最大281億円

北川工業株式会社株式(証券コード 6896)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ

メイコーによる十和田ベトナム社のM&A

売却企業

十和田ベトナム社

(ベトナムのEMS会社)

※EMSとは電子機器製造を受託するサービスのこと

買収企業

メイコー

(電子回路基板設計・電子部品製造販売)

M&Aの手法

出資持分取得

M&Aの目的

・設計・生産・組立ての一貫供給体制構築

・ベトナム・ハノイ市における量産体制強固化

・日系・外資系顧客を含めた受注拡大

実施時期

2019年9月

譲渡価格

約8億円

ベトナムのEMS会社の出資持分取得(子会社化)に関するお知らせ

グンゼの電子部品用フィルム事業をダイセルに譲渡

売却企業

グンゼ

(アパレル製造、複合商業施設運営、医療機器の製造販売)

※売却対象は、電子部品用フィルム事業

買収企業

ダイセル

(自動車・電子部品・医療等の産業向け化学品製造販売)

M&Aの手法

事業譲渡(事業承継)

M&Aの目的

・機能フィルム分野の事業拡大

・新たなコーティング技術・ノウハウの獲得

・高機能製品の開発・提供体制の強化

・設備の活用拡大による電子部品事業の拡大

実施時期

2022年4月

譲渡価格

非開示

電子部品事業部フィルム部門の株式会社ダイセルへの譲渡に関するお知らせ

豊田合成がワンダーフューチャーコーポレーションに出資

売却企業

ワンダーフューチャーコーポレーション

(3Dタッチパネル・LEDモジュール開発・電子機器受託生産)

買収企業

豊田合成

(ゴム・樹脂から生まれる自動車部品開発・生産)

※トヨタグループの中核企業

M&Aの手法

出資

M&Aの目的

・機能性と意匠性を両立させた製品開発の推進

・財務基盤の安定化

・IHリフロー技術における社会実装の加速化

実施時期

2021年10月

譲渡価格

非開示

電子部品の実装技術に強みを持つ「ワンダーフューチャーコーポレーション社」に出資

アクセルによるモーションポートレートのM&A

売却企業

モーションポートレート

(画像認識や画像処理等の技術によるIPライセンス・

開発支援サービス)

※ソニーネットワークコミュニケーションズ子会社

買収企業

アクセル

(半導体集積回路・プリント基板設計・製造)

M&Aの手法

株式譲渡

M&Aの目的

・AI領域におけるサービス拡充

・AIに関する先端技術とIPライセンス・画像処理技術の融合 

実施時期

2019年8月

譲渡価格

非開示

アクセル、連結⼦会社の ax 株式会社が モーションポートレート株式会社の全株式を取得

三十三事業承継ファンドがアイビー電子工業の株式を取得

売却企業

アイビー電子工業

(電子部品・プリント回路基板設計・加工・検査)

買収企業

三十三事業承継ファンド

(三十三銀行・名南経営キャピタルが設立した事業承継ファンド)

M&Aの手法

株式譲渡

M&Aの目的

売却側企業における事業承継課題の解決

実施時期

2022年3月

譲渡価格

非開示

「三十三事業承継1号投資事業有限責任組合」による投資実行について

電子部品業界のM&Aの費用の相場

電子部品業界でM&A・事業承継を行う場合、各当事者はどの程度の相場を見込めば良いのでしょうか。企業経営者にとって、費用相場は特に気になる項目の1つです。

ここでは、一般的な相場算出方法と算出の際に押さえておきたい知識を解説します。

一般的な算出方法

電子部品業界におけるM&A相場の一般的な算出方法は、以下の通りです。算出にはさまざまなアプローチが存在しますが、こちらは年倍法(年買法)と呼ばれます。

一般的なM&A相場算出方法

M&A取引価格相場 = 時価純資産 + 営業利益 × 2~5年分

交渉によって決定

ただし、最終的なM&A取引価格は交渉で決まります。上記の方法を活用しても、算出した相場と実際の金額で差が生じる可能性があるので、注意が必要です。

M&A仲介会社に相談する

また、M&Aの取引価格相場は算出の際に「のれん代」と呼ばれる見えない企業価値を正しく評価しなければなりません。

専門知識が求められるため、M&A仲介会社に相談しながらの相場算出をおすすめします。

電子部品業界のM&Aのメリット

ここでは、電子部品業界でM&A・事業承継を実施するメリットをチェックしましょう。売却側・買収側それぞれの視点に分けて解説します。

売却側企業のメリット

電子部品業界のM&Aで売却側企業が得られるメリットは、以下の通りです。

売却側のメリット

・株式や事業譲渡による売却益が得られる

・従業員の雇用を維持できる

・後継者問題を解決できる

・大手傘下に入れば経営が安定する

・経営者が個人債務から解放される

買収側企業のメリット

電子部品業界のM&Aで買収側企業が得られるメリットは、以下の通りです。

買収側のメリット

・顧客や人材を獲得できる

・低コスト・低リスクで電子部品業界に参入できる

・効率的に事業拡大できる

・事業エリアを拡げられる

・売却側とのシナジー効果を期待できる

電子部品業界のM&Aを成功させるポイント

ここでは、電子部品業界でM&A・事業承継を成功させるポイントを紹介します。以下8つの項目に留意し、より成功確率を上げた状態で手続きを行いましょう。

  • 自社の分析を行う
  • M&Aを行う目的を明確にする
  • 相手企業を慎重に選ぶ
  • デューデリジェンスにより技術の権利関連をチェックする
  • 原材料調達国・調達経路を確認する
  • 化学物質使用有無と管理体制を確認する
  • 元請け企業・下請け企業の偏りがないか確認する
  • 経験豊富なM&A仲介業者に依頼する

自社の分析を行う

1つ目のポイントは、自社の分析を入念に行うことです。課題が明確でないと、M&Aの方向性があやふやになり、シナジー効果が得られない可能性があります。

得意分野や実績などのデータもあらかじめ資料にまとめておくと良いでしょう。

M&Aを行う目的を明確にする

2つ目のポイントは、M&Aを行う目的を明確にすることです。上記の通り課題を明確化した上で、目的を設定します。

正しく目的を決めることで、ニーズや方向性に合致した企業とマッチングでき、シナジー効果も期待できるでしょう。

相手企業を慎重に選ぶ

3つ目のポイントは、M&A・事業承継の相手企業を慎重に選ぶことです。周りでM&A動向が活発だからといって闇雲に売却・買収を行うのはおすすめできません。

経営者会談で相互理解を深め、共感が得られた企業とM&Aを実施しましょう。

デューデリジェンスにより技術の権利関連をチェックする

4つ目のポイントは、デューデリジェンスで技術の権利を確認することです。売却側が他社からライセンスを受けた技術があると、契約違反になる可能性があります。

そのまま引き継ぐと損害賠償の訴えを起こされるかもしれません。デューデリジェンスを入念に実施すれば、権利関連のリスクを軽減させられるでしょう。

原材料調達国・調達経路を確認する

5つ目のポイントは、原材料調達国や経路を確認することです。電子部品製造には、多くの場合レアメタルや希少鉱物が利用されます。

多くのレアメタルは発展途上国で採掘されるため、現地の情勢悪化や紛争・不法行為・人権侵害・採掘規制などが無いかを確認しましょう。

化学物質使用有無と管理体制を確認する

6つ目のポイントは、化学物質使用有無と管理体制の確認です。昨今では世界的に有害物質の規制が厳格化される傾向にあります。

事業に支障をきたすことが無いよう、電子機器の輸出先で規制に該当する物質が使用されていないか事前に確認しましょう。

元請け企業・下請け企業の偏りがないか確認する

7つ目のポイントは、元請け・下請け企業の偏りがないか確認することです。取引先が1社のみの場合、急なトラブルで供給がストップするリスクがあります。

さまざまな分野で取引を持ち、生産面のリスクを分散できているか確認しましょう。

経験豊富なM&A仲介会社に依頼する

8つ目のポイントは、経験豊富なM&A仲介会社に依頼することです。M&Aは税務や法務といった専門知識が多くの場面で求められます。

電子部品業界に詳しいM&A仲介会社に依頼した上で、手続きを進めましょう。

電子部品業界のM&Aの注意点

電子部品業界のM&Aにおける注意点を解説します。M&Aは多くのリスクを伴うものです。以下の3点を確認し、リスクを抑えた上で手続きを進めましょう。

  • M&Aの手順を理解しておく
  • 優秀な技術者の流出に注意する
  • 譲れない希望売却額を定める

M&Aの手順を理解しておく

1つ目の注意点は、手順を理解してからM&Aを行うことです。M&Aは多くの労力とリスクをかけなければなりません。円滑なM&Aには綿密な計画と準備が必要です。

経営難や人材不足の問題が起きてからではなく、経営が安定している頃から将来に向けて計画的にM&Aの想定を始めることをおすすめします。

優秀な技術者の流出に注意する

2つ目注意点は、優秀な技術者の流出に注意することです。中途半端な情報漏洩があると、M&Aの情報を聞きつけた従業員が困惑し、退職するおそれがあります。

優秀な技術者が不在では企業価値も下落し、M&Aが失敗に終わる可能性もあるでしょう。従業員の処遇を確保した上で説明し、M&Aに納得してもらいましょう。

譲れない希望売却額を定める

3つ目の注意点は、譲れない希望売却額を決めておくことです。円満なM&Aにするためには、双方が合意できる内容でなければなりません。

しかし、両社の意見がぶつかる可能性も当然あります。時間を要することが無いように、あらかじめ譲歩できる希望額の基準を定めておくと良いでしょう。

電子部品業界のM&Aは専門家のサポートを受けて成功させよう

電子部品業界で新しい分野の技術を取り入れるには、M&Aが有効です。相手企業の保有するノウハウを活用できるため、効率的に事業拡大を目指せます。

M&Aを検討される際は、電子部品業界に詳しいM&A仲介会社に相談・依頼し、サポートやアドバイスを得ながら円滑に手続きを進めましょう。

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