EC業界におけるM&A事情を徹底解説!動向や成功事例・取引相場は?
EC業界のM&Aは、流通大手の参入やCtoC企業の成長の背景から増加傾向です。EC業界のM&Aには、売却側と買収側にそれぞれメリットやデメリットも存在します。EC業界のM&Aを行うには、事例や相場、成功のポイントを理解することが大切です。
目次
EC業界とは?
EC業界について、業界の現状とビジネスモデルについて解説します。
EC業界の現状
経済産業省が公表している報告書では、2010年に7.7兆8,800億円であった日本のBtoC によるEC市場は、右肩上がりに向上し、2019年では19兆3,609億円まで上がっています。
物販分野でのEC化率も、2010年の2.84%から2019年では6.76%まで上がっています。
さらにBtoB分野におけるEC市場では、2015年に約287兆円規模だったのが、2019年では約352兆円規模であり、このようにEC市場における取引は活発化している傾向です。
市場規模の推移の他にも、EC業界では3つの特徴があります。
1つ目は、PCと比較しスマートフォンからの取引額が増えている傾向にあることです。
スマートフォンからの取引が増加していることで、カメラおよび決済機能を使ったECサービスを提供する動きや、メッセージ機能を利用して消費者とコミュニケーションを図る動きが見られます。
2つ目は、SNSを利用したマーケティング施策を実施するEC事業者が増えていることです。
総務庁の調査では、日本はすべての年代でSNSを利用する時間が年々増加していることが分かっています。
それにより、SNSで考え方や趣味などが同じ人物から情報を集め、その情報を基に商品を購入するか意思決定するパターンが増えていると言われています。
このような背景が、SNSで消費者の興味や関心を引く情報を発信したり、自社商品の評価について収集し分析を行ったりするEC事業者が増加している理由です。
3つ目は、キャッシュレス決済が普及したことです。
政府により2019年に行われた「キャッシュレス・消費者還元事業」の影響により、1年間でキャッシュレス決済に利用された金額が約4.6%も増えています。
EC業界のビジネスモデル
EC業界のビジネスモデルは、主に以下の5つです。
① BtoC(企業→個人)
BtoCとは、Business to Consumerの略称であり、Consumerは消費者を意味しています。
一言でいうと、企業が消費者に向け、商品およびサービスを販売する販売方式のことです。
「楽天市場」や「Amazon」、「Yahoo!ショッピング」など多くの方に利用されている通販サイトのようなECサイトは、企業が一般の消費者に向けて商品を販売するため、BtoCになります。
BtoCでのEC市場では、新型コロナウィルスの影響により、2020年頃に市場規模が落ち込みましたが、大幅な下落を見せた飲食業界と旅行業界を除いたジャンルでは、順調な伸びの動向を見せています。
新型コロナウィルスの影響により外出する人が減りECサイトの需要が増えたことで、以前まで実店舗で買い物をしていなかった層にも、インターネットを利用した買い物が普及し、その状況は徐々に定着しています。
このような背景からも、BtoCでのEC市場は需要が増加し続ける動向が予測可能です。
② BtoB(企業→企業)
企業間で行われる取引のビジネスモデルです。
企業から個人に対して行われるBtoCよりも大きな市場規模であり、日本国内におけるEC市場のほとんどがBtoBで行われてます。
クローズドのネットワークで受注情報や発注情報をやり取りしているEDIから、BtoB向けのECサイトに移行する事例も増え、今後市場が拡大していく動向と予測されます。
③ CtoC(個人→個人)
CtoC(Customer to Customer)とは、個人と個人の間で取引されるビジネスモデルです。
つまり、個人が他の個人に向けて商品やサービスを提供します。
代表的な例としては、オンラインマーケットプレイス、またはオークションECサイトで個人が不要品を出品し売る形態である、メルカリなどのフリマアプリで個人がハンドメイド品を販売するなどがCtoCに該当します。
インターネットが普及したことで、CtoCビジネスが急速に拡大し、個人が自分のスキルやアイディア、不要品を活かして収益が得られるようになりました。
その一方で、競争も激しくなっており、自分の商品やサービスを他の出品者と差別化する工夫や努力が必要です。
適切な価格を設定したり、効果的なプロモーション、顧客対応を向上させたりすることなどがCtoCビジネスを成功させるポイントになります。
④ CtoB(個人→企業)
CtoBは「Consumer to Business」の略称で、一般消費者の個人が企業に対して行うビジネスのことです。
近年、働き方が多様化し、特別なスキルを所有する個人が、そのスキルを企業に対して販売するビジネススタイルが増えています。
たとえば、専業主婦が副業のためWebデザインの案件を受注したり、プログラミングスキルなどを提供した案件を受けたりといったことがあります。
そのため、簡単に言えば仲介の場として、CtoBサイトが徐々に成長している現状です。
⑤ DtoC(企業→直接個人)
DtoC(D2C)とは「Direct to Consumer」の略称であり、メーカーが自社で企画や製造した商品を、卸売業者や店舗などといった中間業者を通すことなく、直接消費者に売るビジネスモデルのことです。
アメリカでは、起業して間もない企業がDtoCを活かし、大成功している事例が注目され、日本においても大手企業が中心となり取り組む企業が増えてきています。
特に美容関連やアパレル、食品といった、元々店頭で接客し販売するのを中心としていた業界で採用されることが目立っています。
DtoCは自社で運営するECサイトを利用して、消費者に直接商品を販売するため、顧客との接点を増加する目的で実店舗を展開することもありますが、購買においてはオンライン上で実施するのが一般的です。
EC業界のM&Aの動向
EC業界のM&Aの動向について解説します。
CtoC企業が成長
近年、スマートフォンやタブレットを利用する人が増加し、CtoCのECが非常に早いスピードで拡大している動向です。
2018年におけるネットオークションの市場規模は、前年と比較し+95億円、フリマアプリの市場規模においては前年と比較し+1,557億円の急速な増加する動向でした。
このように、CtoCのEC市場は確実に成長を続けており、フリマアプリにおいては特に急激に拡大している動向です。
また、市場規模の数字を見た際に、ネットオークション市場をフリマアプリが崩したのではなく、それぞれが独立して市場を構築していると考えられます。
そのため、フリマアプリやネットオークションは、新に市場開拓しているといえる動向です。
近年著しい成長を見せているCtoCのECは、これから先もしばらくは伸び続けると予想できます。
物を所有する意欲が減少していると言われる現代において、場所やもの、人、乗り物、お金といった資産を多人数で共有や交換して使う「シェアリングエコノミー」が注目を集め、関連企業を中心とし、シェアリングエコノミー協会が設立されています。
また、CtoCのEC成長は海外でも起きており、EC市場規模が中国の次に大きいアメリカでは、インターネットオークションにおいて世界で最も多くの利用者抱えるeBay(イーベイ)の流通総額が直近10年で約2倍に拡大している動向です。
百貨店や流通大手がEC業界に参入
2016年の時点で、国内における小売市場は約140兆円でした。
その中の、約15兆円はEC市場が占めています。
全体のうち百貨店での動向は、市場規模が7兆円弱で、成長分野と言われるコンビニ市場も約11兆円のため、ECの市場規模は百貨店やコンビニ市場より大きいです。
実際にEC市場の成長率に注目すると、直近の数年は年率10%前後で変動し、金額を軸で考えると直近5年間で約1.8倍に増加している動向になります。
日本での小売市場の横ばいが続いている動向を考慮すれば、EC市場の成長力がどれだけ高いかが分かりやすいです。
日本の小売業界では、店舗で販売する形態からECへ販売チャネルが変化していることを理解しましょう。
しかし、約15兆円という数字は、デジタル系商品やサービスECなどの金額も含まれています。
純粋な物販系のみで見るとEC市場規模は約12兆円です。
EC化率は今後も上昇すると言われており、少なくても今後数年間は、ECは日本での数少ない成長市場の動向が予測されます。
このような将来性を考慮し、ECに取り組む企業は現在も増え続けている現状です。
老舗メーカーや有名ブランド、全国的に展開している大手流通企業といった、さまざまな業種業態の企業が取り組み始めている動向になります。
これまでは参入に消極的であった企業も、積極的にECに参入するケースが多いです。
小売を実施している企業においてECは、絶対に外すことのできない市場になっています。
不採算事業からの撤退する企業も増えている
M&Aで、ネットショップやECサイトで売るメリットに、他事業に経営資源が集中できることがあります。
企業や事業を成長させるためには、限りある資源を効果的に活用することが大切です。
仮に、不採算事業に多くの経営資源を費やしている状況であれば、不採算事業のみを売ることで、収益性が高い事業にリソースが投入できます。
また、ネットショップやECサイトを複数運営している際は、デザイナーやエンジニアの物流コストや人件費など、多くのコストが発生します。
収益性が低いネットショップやECサイトを売却することにより、コストが削減でき、会社の業績向上にも繋げられることも可能です。
EC業界のM&Aの成功事例
EC業界のM&Aの成功事例を11個紹介します。
ヤフーとZOZOのM&A
1個目のM&A事例は、ヤフー(Yahoo!)が大手衣料品通販サイトの「ZOZOTOWN」が運営するZOZOの買収です。
買収方法は株式公開買い付けであり、この買収により、ヤフーはZOZOが発行した株式を最高50.1%まで買い、ZOZOを子会社化しました。
買収額は最大で4007億円の大規模な株式公開買い付けです。
ヤフーは現在、アメリカのアマゾンや日本の楽天に続いて、国内ECサイトで第3位の規模です。
ヤフーの社長は、2020年代前半にヤフーをECで国内1位にする目標を掲げており、今回の買収は、そのうちのステップとして捉えています。
近年成長に陰りが見られていたZOZOTOWNは、2019年3月期の連結純利益が前期と比比較し21%減であり、設立してから初めての減益となっていました。
また、ZOZOTOWNの割引サービスへ反発があり、名の知れたアパレル企業が撤退したことで出店数も減っていたようです。
このような状況が、ZOZOの前沢社長から愛着のある会社を売却する後押しをした可能性も考えられています。
今回の株式公開買い付けにより、ZOZOを傘下に置くヤフーがECサイトでどのような成長を見せていくのか期待できます。
楽天と日本郵政のM&A
2個目のM&A事例は、日本郵便株式会社と楽天株式会社のM&Aです。
物流やモバイル、DXといった、さまざまな領域で連携を強化するため、業務提携合意書が締結されました。
日本郵政グループは、日本全国を網羅する郵便局および物流のネットワークを軸に、多くの人の生活に欠かせない社会インフラの役割があります。
楽天グループは、70を超えるサービスと1億人を超える楽天会員を所有し、独自の経済圏が形成されています。
両社のグループは、本資本や業務提携を基に、地域社会への貢献やお客様の利便性向上、事業拡大のため、両社グループにおける経営資源や強みを、効果的に活用してシナジーの最大化を狙っています。
楽天とFablicのM&A
3個目のM&A事例は、楽天とFablicのM&A事例です。
楽天は、スマートフォンで個人同士による売買取引が可能なフリマアプリ「フリル」を提供しているFablicが発行している、すべての株式を取得し、完全子会社化しました。
楽天は、EコマースでのC2C事業をさらに拡大するために、Fablic社を楽天グループに加えています。
このM&Aにより、各社の強みや顧客基盤を活用した、さまざまな連携が可能です。
「フリル」は、サービスの提供を開始した当初よりも、美容用品やファッションのジャンルに力を入れており、10代後半~20代をメインに多くの女性から人気があります。
一方で、「ラクマ」は、それぞれのジャンルで均等に、幅広くユーザー層を獲得しています。
今後は、お互い送客などで補完し合いながら、さらに効率良く顧客基盤の強化や拡大に取り組む方針を示しています。
セブン&アイ・ホールディングスとアスクルの業務提携
4個目のM&A事例は、セブン&アイ・ホールディングスとアスクルの業務提携に関する基本合意締結を結んだ事例です。
アスクルは、都市部における自社配送や、AIを活かした1時間帯時間指定などを「LOHACO」で提供しています。
福岡や関東、関西に物流拠点を配置し、高い品質で高度な物流サービスが強みです。
セブン&アイの商品力とアスクルの物流プラットフォームなど、各社の所有する経営資源を相互に補完し、高いシナジーが実現できることをセブン&アイ・ホールディングスが判断したことで、業務提携に合意しました。
共同事業において、商品の供給は主にセブン&アイ・ホールディングスが実施し、システムや物流はアスクルが行っていきます。
ロコンドとFashionwalkerのM&A
5個目のM&A事例は、ロコンドとFashionwalkerのM&Aです。
株式会社ロコンドは、株式会社ワールドが保有している株式会社Fashionwalkerの、すべての株式を取得する基本合意書を締結しました。
ロコンドは、ファッションと靴の通販サイトである「LOCONDO.jp」を基盤とする、EC事業などを展開する企業です。
祖業であるECモール事業におけるノウハウの蓄積が深いことを強みとしています。
一方、ワールドは傘下のブランド事業や投資事業、プラットフォーム事業、デジタル事業を経営するグループ全体における経営の管理や、それに付帯した業務を展開する企業です。
Fashionwalkerは、ECサイトの「FASHIONWALKER」をメインに運営するECモール事業や、自社ECサイトの構築および運営を受託するEC受託事業を展開しています。
M&Aで、ロコンドはEC事業のアパレル領域を強化させるため「LOCONDO.jp」との相乗効果を創り出し、サービスをさらに強化させ顧客層の拡大を狙っています。
ヨドバシカメラと石井スポーツのM&A
6個目のM&A事例は、ヨドバシカメラと石井スポーツのM&Aです。
ヨドバシHDは、スポーツ用品を販売するICI石井スポーツを買収しました。
ICI石井スポーツはスキーや登山用品といったアウトドア用品を販売する専門小売です。
投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが持っているICI石井スポーツのすべての株式を、ヨドバシHDが譲り受ける条件で合意しました。
ヨドバシHDは、ICI石井スポーツの100%株主になる予定であり、ICI石井スポーツと子会社の株式会社アート・スポーツを傘下にする見込みです。
ヨドバシHDは、子会社とした後でもICI石井スポーツの経営方針をしっかりと理解し、店舗の運営における独立性や、従業員の雇用維持をすると説明しています。
ヨドバシHDとグループ企業が運営している不動産への出店や、物流システム、EC、経営システム利用により、収益の拡大やサービス向上、専門性の追求を推進する予定です。
京王百貨店とセレクチュアーのM&A
7個目のM&A事例は、京王百貨店とセレクチュアーのM&A事例です。
京王電鉄の子会社の京王百貨店は、クックパッドからセレクチュアーのすべての株式を取得し、子会社化しました。
セレクチュアーは、「アンジェ web shop」をメインに、インテリア雑貨やファッション、フードなど、約15,000にもおよぶアイテムを商品として取り扱う、ECサイトの運営をしている企業です。
京王百貨店は、今回のM&Aによって、EC専業会社が所有するマーケティング力やノウハウと、京王百貨店および京王グループ各社と各種連携することで、EC事業での新事業機会の創出、ならびに顧客基盤を拡充することを目指しています。
オイシックスと大地を守る会のM&A
8個目のM&A事例は、オイシックスと大地を守る会のM&A事例です。
オイシックスと株式会社大地を守る会は、合併し経営統合するため、株式の交換を実施することを決め、株式交換契約書を締結しました。
大地を守る会の普通株式1株に対し、オイシックスの普通株式261株を割り当て交付します。
オイシックスとは、EC市場において「Oisix」ブランドで安心安全な食品や、時短のニーズに向けた商品など、高品質かつ高付加価値分野で食品宅配サービスを展開している企業です。
一方、大地を守る会は、「大地宅配」ブランドで有機や無農薬食材に拘った、会員制宅配事業を手掛けています。
今回のM&Aにより、オイシックスと大地を守る会は、お互いが所有している配送網や生産者のネットワーク、マーケティングノウハウなどを活かし、既存顧客層の確保と新規の顧客拡大を行うと同時に、サプライチェーンの効率化も目指す狙いです。
なお、本統合後も、宅配事業に関しては、既存の「Oisix」や「大地宅配」ブランドを活用した事業の展開を継続していく方針です。
ファーストトレードとパラダイムシフトの業務提携
9個目のM&A事例は、ファーストトレードとパラダイムシフトの業務提携です。
EC事業の支援に取り組むファーストトレード株式会社は、IT領域でのM&A事業を展開している株式会社パラダイムシフトと業務提携契約を締結しました。
ECサイトやD2CブランドのM&A事例が、日本に限らず世界的に増加しています。
サイトの運営に限界を感じている事業者や、さらに効率化して事業発展を目指している事業者などを買収し、自社が所有する物流の効率化ノウハウや、広告戦略ノウハウなどを活用して事業を急拡大させる事業者も多いです。
また、ファーストトレード社が提供している、中国からの輸入代行支援プラットフォームであるCiLELで事業支援に取り組む事業者も5,000人以上います。
そこから大手企業や販売ノウハウを所有した企業と資本業務提携を締結する企業も増えてきています。
今回ファーストトレード社とパラダイムシフト社が業務提携を締結したことで、ファーストトレード社が支援しているEC事業者様に対し、M&Aでさらに事業を成長させる機会と、事業売却といった選択肢の提供を考えているようです。
DCMホールディングスとエクスプライスのM&A
10個目のM&A事例は、DCMホールディングスとエクスプライスのM&Aです。
DCMホールディングス株式会社は、エクスプライス株式会社のすべての株式を取得し、子会社化しました。
DCMホールディングスとは、ホームセンター事業をメインに取り組む子会社の、事業活動指揮や管理を実施している企業です。
エクスプライスは、家電をメインに幅広くの商品を販売している、日本トップクラスの大きさを誇る専門店EC事業会社です。
今回のM&Aで、DCMホールディングスでは、EC事業におけるリアル店舗の活用や、非家電領域での商品ポートフォリオ拡充、相互送客、物流スピードアップだけでなく、コストダウンといった、さまざまな事業上でシナジー創出を目指し、グループやエクスプライスと相互で企業価値の向上を目指しています。
エディオンとフォーレストのM&A
11個目のM&A事例は、エディオンとフォーレストのM&Aです。
エディオンはJ.フロントリテイリング傘下で、文具や日用品の通信販売事業を展開しているフォーレストをJフロントが所有するフォーレスト株すべてを取得し、子会社化しました。
株式取得費用は約33億円であり、通販専門事業者のノウハウを導入することで、Eコマース事業の強化を目指します。
エディオンでは、メインの家電販売に加え、Eコマース事業とリフォーム事業を強化する計画を公表しており、今回のフォーレスト買収もそのうちの一つです。
非家電商品の拡充を図るだけでなく、フォーレストが所有する物流センターなどから、倉庫運営ノウハウを取り入れ、Eコマースの売り上げアップを狙います。
EC業界でM&Aを活用するメリット・デメリット
EC業界でM&Aを活用するメリット・デメリットを、売却側と買収側に分けて解説します。
売却側企業のメリット
M&Aでの売却側企業のメリットは、主に以下2つです。
【売却利益が得られる】
EC事業や会社を売却することで、一般的に「純資産+営業利益の2〜5年分」程度の利益が得られます。
売上や会員数など、各指標の数値が優秀なEC事業であればあるほど、M&Aアドバイザーに支払った費用や当初に出資した金額を合わせた金額と比較しても、多くの利益が受け取れる可能性があります。
多くの売却利益が得られることにより、メインの事業や新しい事業、引退した後の生活資金などに利益を使うことが可能です。
【事業承継の問題を解決できる】
経営者の年齢が高く、今後の健康に不安を持っている場合は、事業承継における準備を早い時期から進めることが重要です。
しかし、事業継承を実施したくても、親族や社内に後継者がいない場合は事業承継ができません。
後継者がいないことを理由に、順調に運営できているEC事業から撤退しなければいけない可能性もあります。
事業承継せずに廃業してしまうと、これまでEC事業で培ってきたノウハウ・ブランド力などが消滅してしまうのは当然のこと、取引先が連鎖で倒産してしまったり、従業員が雇用を失ってしまったりと、さまざまな面で影響を及ぼす可能性が高いです。
そのような事態を防止するために効果的なのが、M&Aでの事業承継です。
第三者にEC事業や会社を売却することで、取引先との契約や従業員の雇用、ノウハウなどを継続できます。
廃業と比べた場合に、EC事業や会社を売却することは、さまざまな面で大きなメリットがあります。
買収側企業のメリット
M&Aでの買収側企業のメリットは、買収後すぐに利益が上げられることです。
M&Aでは、既に軌道に乗ったECサイトが購入できます。
多くのリピーターがいる、独自の商材を扱っているといったECサイトを選ぶことで、買収後すぐに利益を上げることが可能です。
ECサイトを1から立ち上げようとすると、はじめに顧客を獲得しなければなりません。
ECサイトに客を集めるためのマーケティング戦略を考えたり、扱う商材に工夫したりといった、挑戦と改善を繰り返すことで収益が上げられるようになります。
しかし、M&Aで買収したECサイトの場合は、事業として地盤が既に固められているので、サイトを立ち上げる際のステップが省略可能です。
売却側企業のデメリット
M&Aでの売却側企業のデメリットは、自分が想定しているよりも低価格で事業や企業が売却となる可能性があることです。
M&Aの相手候補が見つかったとしても油断は禁物です。
会社や事業を売る際の金額は、将来的に企業や事業でどの程度収益が得られるかという観点で計算されます。
現在は収益が順調に出ている企業や事業の場合でも、将来性が見込めない場合は企業や事業に対する価値が低く評価されるデメリットがあります。
自社の企業としての価値に自信がある場合は、思ったよりも売却で利益が出ずデメリットとなってしまうでしょう。
このデメリットを軽減するためには、できるだけ企業価値が上げられるように、価値を磨き上げることが重要です。
企業価値を高めて希望価額でM&Aが行えるように、ノウハウや技術力の強化、設備投資、借入金の削減、訴訟といった問題の解消、未払い給与支払いなど、企業価値が向上するよう努めることでデメリットを減らせます。
買収側企業のデメリット
M&Aでの買収側企業のデメリットは、EC事業へ早期参入を試みて買収したものの、サイトのリニューアルや事業の引継ぎに時間がかかってしまい、想定していたような効果が得られないことです。
リニューアルや引き継ぎに時間を要してしまうと、その間は収益が上げられないデメリットが発生します。
特に、システムが古いECサイトを買収する際は注意が必要です。
時間と共に余計な費用も発生するため、新しくサイトを構築した方がデメリットは小さいです。
そのため、ECサイトを買収する際は、あらかじめリニューアルや引き継ぎの必要性を必ず確認しておきましょう。
また、もう一つのデメリットとして、債務などを引き継いでしまう可能性があります。
ECサイトを所有する企業ごと買収した場合は、ネット販売におけるノウハウが得られるのは当然ですが、その他に企業が抱える簿外債務や偶発債務も引き継いでしまうデメリットがあります。
買収する企業が抱える債務は、将来的に企業にとって損失に繋がる可能性も高いです。
そのようなデメリットを防ぐためにも、買収する前の交渉において、債務が有るかしっかり確認することが大切です。
買収するECサイトが抱えている債務が大きい場合には、事業譲渡のスキームを利用しましょう。
そうすることで、協議で取引対象が決められるため、簿外債務や偶発債務などを引き継がないことが可能です。
EC業界のM&Aの取引相場
EC業界のM&Aの取引相場は、以下の通りです。
大まかな取引相場
EC企業のM&Aにおける相場と一言でいっても、決まった基準額は存在しません。
これはEC企業に関係なく、すべてのM&Aにおいて同じであり、理由はM&Aの取引相場は、企業価値の算出で決まるからです。
企業価値の計算にはさまざまな方法があり、重視する価値によって変わります。
また、1つの計算方式のみを利用することは少なく、いくつかの計算方式を併用し相場の計算における正確性を上げています。
EC業界のM&A時に相場を計算する際には、以下計算式を利用されることが多いです。
「相場の計算式」
時価純資産+営業利益平均×2~5年
具体的に説明すると、時価純資産が3,000万円あり、3年間における平均の営業利益が1,000万円の企業の場合、時価純資産の3,000万円に営業利益3年分の3,000万円(1,000万円×3)を合計した6,000万円が企業価値です。
計算をする際に、台帳上に記載されている簿価をそのまま使うのではなく、時価に換算して利用するため「時価純資産法」という名前です。
コストアプローチといった考え方の一つであり、株式を譲渡することにより、それぞれのEC企業を買収する場合によく利用されます。
また、企業全体を買収するのではなく、EC事業に限り買収するような場合は、事業譲渡によりM&A実施し、事業資産を時価純資産の代わりとして入れて計算する場合もあります。
相場の算出方法
企業評価価値の相場を求める際の計算方法は、上場企業か非上場企業・非公開会社なのかで異なります。
上場企業の場合は、既に株価が市場公開されていますので、以下の計算式で簡単に算出可能です。
『計算式』
基準価値=時価総額(株価×発行済総株式数)
その一方で、非上場企業などであれば企業評価価値を算出する方法は、大きく分けて「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3種類があります。
ここからそれぞれ解説します。
【コストアプローチでの相場の求め方】
ストック・アプローチやネットアセット・アプローチなど呼ばれる場合もあり、会社の純資産を基準として企業価値を求める方法です。
会計上での純資産額を基準に評価する「簿価純資産法」、評価の対象である企業や事業におけるすべての資産や負債を時価に換算して純資産を評価する「時価純資産法」に分けられます。
『簿価純資産方式での相場の求め方』
企業が提出する決算書で計上されている資産から、負債を引いて企業価値を求めます。
企業価値を発行済の株式総数で割ることで、1株当たりの価値を算出可能です。
『時価純資産法での相場の求め方』
企業が持っている資産や負債に対して時価評価し、時価評価した後の資産に対して負債を引いた金額が企業価値になります。
求めた企業価値を発行済の株式総数で割ることで、1株当たりの価値を算出可能です。
【マーケットアプローチでの相場の求め方】
市場で成り立っている価格を基準とし企業の価値を算出する方法です。
代表的なものでは、評価の対象となる企業そのものの株式市場価格を基準に評価する「市場株価法」と、評価の対象となる企業と似た上場企業の市場株価や、似たM&A取引における成立価格を基準にし、一定の倍率を評価する対象となる企業の経営指標に乗じることにより価値を算出する「マルチプル法」の2種類があります。
「市場株価法での相場の求め方」
評価の対象となる企業が、上場している会社の際に利用されます。
毎日の終値に対し1~3ヵ月の平均を取り、評価額とするのが一般的です。
「マルチプル法での相場の求め方」
マルチブル法の計算式は、以下の通りです。
『計算式』
企業価値=自社のEBITDA×類似上場企業のEBITDA倍率
EBITDAとは、無形資産や有形資産、金利、税の減価償却費が引かれる前の利益を指します。
EBITDAを求める際には、以下の計算方法を使用することが多いです。
1.減価償却費+営業利益
2.利息(支払利息-受取利息)+減価償却費+経常利益
【インカムアプローチでの相場の求め方】
キャッシュフローや将来的な利益といった収益性を基準に企業の価値を算出する方法です。
代表的な方法には、評価対象となる企業が将来的に生むキャッシュフローを、現在価値から割り引くことにより事業価値を算出するDCF法があります。
『計算式』
企業価値=企業が創出するフリーキャッシュフローによる期待値に対し加重平均資本コストを割り引いた現在価値
現在価値は、将来もらう貨幣価値に対して、金利などを考慮し一定の割引率で引き、現在の貨幣価値に換えて求めます。
フリーキャッシュフローは、税金を政府に納め、事業で必要な投資を行った後に株主と債権者に分配できるキャッシュフローのことです。
EC業界でM&Aを成功させるポイント
EC業界でM&Aを成功させるポイントは、以下3つです。
シナジー効果を見込める買い手候補を探す
1つ目のM&A成功のポイントは、シナジー効果を見込める買い手候補を探すことです。
ネットに弱い企業が、ネットに強い企業をM&Aにより、大きなシナジー効果が生み出せます。
例えば、自社の製品に強みを持つ企業がM&AによりECサイトを買収した場合、販売チャネルが拡大することで、急激な収益アップが期待可能です。
実際に、オフライン販売の企業であれば、営業時間に決まりがあったり、悪天候の日には売り上げが低下してしまったりする可能性があります。
しかし、ECサイトでは時間に制約がないだけでなく、コロナ禍や悪天候の際は特に売り上げが高くなります。
そのため、IT戦略に関して弱い企業がECサイトのM&Aを実施することで、不足している販売チャネルを補え、顧客の動向を幅広くカバーすることが可能です。
自社のECサイトを使いやすくする
2つ目のM&A成功のポイントは、自社のECサイトを使いやすくすることです。
ECやネット通販会社のM&Aで、できるだけ高額で企業や事業を売却するには、自社ECサイトのUI・UXを高め、使いやすくすることが重要です。
将来性があるECサイトを構成する際には、ユーザーが魅力的に感じるデザインや利用してみたいと感じる質の高いサービスを検討しましょう。
特にECやネット通販会社における企業価値は、構築しているサイトの質が影響するためUIやUXを高めることにより、自然と売却や譲渡金額が高くなります。
ECやネット通販会社でM&Aを成功させ、できるだけ高い価格で売却するためには、ECサイトを整えることが効果的です。
買い手からニーズがある経営資源をもつ
3つ目のM&A成功のポイントは、買い手からニーズがある経営資源をもつことです。
売り手企業が所有しているノウハウや人材、顧客といった経営資源を獲得できることは、買収企業がM&Aを行うメリットの1つです。
買収では多くの資金が必要なため、自社からして必要な経営資源を持っている企業とのM&Aを実施します。
つまり、買収候補からニーズのある経営資源を所有していない場合、M&Aで相手の候補を探し、納得いく条件でM&Aを実施できる可能性が低いです。
そのため、EC事業でM&Aを成功させたい場合は、業界の動向や、これまでのM&A事例を調べ、買収候補がどんなニーズを所有しているのか、理解することが重要です。
EC業界でM&Aを成功させよう
いかがでしたでしょうか?
ここまで解説してきた様に、近年、EC業界ではCtoC企業が急激に増加し、百貨店や流通大手がEC業界に参入する事例が増えています。
また、事業後継者がいない事業を継続できたり、継承後すぐに利益が得られる可能性が高かったりと、EC事業のM&AにおけるメリットからM&Aを行う企業も増加している傾向です。
しかし、普段の業務が忙しくM&Aで高く会社を売却する方法や成功させるポイントは理解しているものの、どのように取り組めば良いのか明確にできておらず、時間ばかり経過してしまっている経営者も多いです。
EC業界でM&Aを成功させるためには、M&Aを行うメリットやデメリットを十分理解し、成功させるポイントを理解することが大切です。
また、実際のEC業界におけるM&A事例を活用することで、成功確率が高くなりますので、参考にしてみましょう。
当記事が、EC業界でM&Aを行う上で、参考になりましたら幸いです。
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