M&Aの失敗事例27選!企業の買収・売却が失敗した理由や要因と失敗確率を解説!

M&Aは成功事例に注目されることが多いですが、その裏には多数のM&A失敗事例が存在します。失敗事例を把握することも、自社のM&Aを成功させるためには重要です。先人たちの失敗を学び、同じ轍は踏まないようにM&Aを進めてください。

目次

  1. M&Aの失敗内容
  2. M&Aの失敗確率
  3. M&A失敗事例27選
  4. M&Aの失敗要因・理由(売却側企業)
  5. M&Aの失敗要因・理由(買収側企業)
  6. M&Aで失敗しない方策
  7. M&A失敗事例のまとめ

M&Aの失敗内容

M&Aは成功事例やノウハウに注目されるケースが多いですが、当然失敗事例も多々あります。ではそもそも、どのような状況になってしまうとM&Aは失敗になるのでしょうか。基本的には目的を達成できるかどうかなので企業によって異なるのですが、概ね以下に集約できるでしょう。

  • 投資額が回収できない
  • 業績伸び悩みによる赤字
  • のれん減損の発生
  • 破産
  • 売却側企業の法令違反その他で買収側の企業イメージも悪化
  • 売却側企業の粉飾決算が露呈

たとえば投資額の回収をM&Aの目的としていて回収できなかった場合、当然M&Aは失敗になります。しかし仮にM&Aの目的を達成できたとしても、後から破産してしまったり企業イメージが大幅に悪化したりすれば最終的にM&Aは失敗したことになるはずです。

そのため、目的の部分だけでなくよくあるM&A失敗事例をあらかじめ把握し、避けるようにM&Aを進める必要があります。上で挙げたよくあるM&A失敗事例について解説していきます。

投資額が回収できない

投資額に対してリターンが想定よりも小さければ、そのM&Aは基本的に失敗です。回収までの期間設定や投資額とリターンの割合などは企業ごとに異なりますが、目標値よりも大幅にリターンが小さければM&A失敗ということになるでしょう。

また少なくとも、最終的に投資額は回収する必要があります。投資額を回収できなければ数字上損になっていて、また労力や時間を費やしていることも考慮すると、投資額を回収できていないと大幅に投資対効果が見合っていないと考えられます。

業績伸び悩みによる赤字

業績が伸び悩めば、上で挙げた投資額の回収に失敗し、M&Aの失敗につながります。業績の伸び悩みが投資額を回収できない要因になるケースが多いでしょう。業績が伸び悩む理由は複数考えられます。

たとえば、急激な市場の変化があった、想定していたシナジー効果を得られなかった、従業員・取引先・顧客など関係者からの反発により協力を得られなかった、経営者の体調不良等によって事業の継続が困難になってしまった、といった理由が挙げられるでしょう。

のれん減損の発生

のれん減損が発生し、結果的にM&A失敗と認めざるを得ない状況になる場合もあります。ざっくり言えば、買収した企業や事業の価値が想定よりも下がってしまい、買収のために費やした費用に見合わなくなるということです。

のれん減損とは

まず、のれんとは買収価格と企業の純資産の差額のことです。言い換えれば、目には見えない価値の部分となるでしょう。帳簿上の数字よりも、のれん代を上乗せして買収しているということです。そして買収した企業や事業の価値が減少した場合、のれん減損としてのれんの価値を下方修正します。

破産

M&Aが要因となって企業が破産する場合もあります。破産の直接的な要因は、買収した企業のコンプライアンス問題、不良資産、上で挙げたようなのれん減損や業績伸び悩みなどです。M&Aは当然投資対効果が上回ることを期待して行うものですが、真逆の結果になってしまった事例も多いということです。

売却側企業の法令違反その他で買収側の企業イメージも悪化

企業にとって信用力やイメージは必須です。イメージが良いからこそ商品・サービスが売れると言っても過言ではないでしょう。M&Aを実施した際に売却側の企業にコンプライアンス等の問題があれば、当然買収側の企業にもイメージは影響してきます。

仮に売却側の問題を知らずに買収してしまったとしても、世間的にはイメージの低下は避けられないでしょう。リサーチを怠った買収側の責任もあります。売却側のコンプライアンス問題等により、売却側が破産してしまう事例もあります。特に海外の企業を買収した際に発生しやすい問題です。

売却側企業の粉飾決算が露呈

M&A実施後に、売却側企業の粉飾決算が露呈するケースもあります。この場合も売却側に問題がありますが、リサーチを怠った買収側の責任もあります。そして粉飾決算が露呈すると、上記のようにコンプライアンス上の問題につながる面もあれば、単純に想定よりも資産が少なかったり負債が多かったりして企業の存続が危ぶまれるといった面もあるでしょう。

M&Aの失敗確率

M&Aのすべての事例を把握している機関は存在せず、また何をもって成功かも見方によって変わってくるでしょう。しかし、独自の基準でM&A事例に関する情報をリサーチしている機関は複数あります。

そこで、ここでは代表例として三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公表しているデータをご紹介します。三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2021年に、過去5年間の国内M&Aに関する調査を実施しました。対象企業は売上高が300億円以上の国内企業277社です。

調査はアンケート形式になっていて、結果的に以下のようになりました。

期待を上回る成果が得られている

9%

ほぼ期待どおりの成果が得られている

63%

期待したほどの成果は得られていない

24%

かなり期待を下回る成果しか得られていない

4%

上のような結果になりました。この結果から、M&Aの失敗確率は3割程度と考えられるでしょう。その理由は、「期待したほどの成果は得られていない」と「かなり期待を下回る成果しか得られていない」の合計が28%だからです。

ただし「かなり期待を下回る成果しか得られていない」と回答したのは4%で、失敗した企業の大部分は「期待したほどの成果は得られていない」と回答しています。つまり、M&Aで大失敗をする確率は低いものの、ある程度の失敗であればそれなりの頻度で発生するということです。

また成功に目を向けても、ほとんどは、「ほぼ期待どおりの成果が得られている」という回答です。期待を上回るような成果を得られている企業は1割未満です。多くの企業は、期待通りの結果か、もしくは期待をやや下回る結果になっていると言えるでしょう。この二択が全体の9割近くを占めています。

また三菱UFJリサーチ&コンサルティングは同時に海外M&Aに関するアンケートも実施しています。その結果が以下です。

期待を上回る成果が得られている

7%

ほぼ期待どおりの成果が得られている

54%

期待したほどの成果は得られていない

36%

かなり期待を下回る成果しか得られていない

3%

結果としては概ね国内M&Aと同じような形になっていますが、数字的には海外M&Aの方が失敗確率は高いと言えるでしょう。「ほぼ期待どおりの成果が得られている」と回答した企業が国内M&Aでは63%であったのに対し、海外M&Aでは54%です。

また「期待したほどの成果は得られていない」と回答した企業は国内M&Aでは24%であったのに対し、海外M&Aでは36%です。国内M&Aの失敗確率が3割程度なのに対し、海外M&Aの失敗確率は4割程度と考えられます。

「かなり期待を下回る成果しか得られていない」と「期待を上回る成果が得られている」については海外M&Aも国内M&A同様に少数です。どちらの数字も海外M&Aの方が少ないので、大失敗も大成功も海外M&Aの方がやや少ないという結果になっています。

ごくわずかな差ではありますが、この結果についてはやや意外性があるかもしれません。海外M&Aの方が大失敗も大成功も多そうなイメージがあるかもしれませんが、海外M&Aはリサーチを入念に行う傾向がある分、想定から大幅にズレることがやや少ないと推測できるでしょう。

M&Aは全体的に成功率の方が高いですが、失敗している企業もあるので注意が必要です。

M&A失敗事例27選

次にM&Aの失敗事例として実際の企業の事例をご紹介します。上でご説明した通り国内M&Aの約3割、海外M&Aの約4割は失敗しているので失敗事例は数多いのですが、ここでは有名企業の事例に絞って挙げていきます。事例としてご紹介するのは以下です。

  1. LIXILのM&A失敗事例
  2. 日本郵政のM&A失敗事例
  3. ディー・エヌ・エーのM&A失敗事例
  4. マイクロソフトのM&A失敗事例
  5. セブン&アイ・ホールディングスのM&A失敗事例
  6. グリーのM&A失敗事例
  7. 丸紅のM&A失敗事例
  8. キリンホールディングスのM&A失敗事例
  9. パナソニックのM&A失敗事例
  10. 第一三共のM&A失敗事例
  11. HOYAのM&A失敗事例
  12. 日本板硝子のM&A失敗事例
  13. 東芝のM&A失敗事例
  14. セブン&アイ・ホールディングスのM&A失敗事例②
  15. 新生銀行のM&A失敗事例
  16. テスコのM&A失敗事例
  17. 日立製作所のM&A失敗事例
  18. ウォルマートのM&A失敗事例
  19. 古河電気工業のM&A失敗事例
  20. NTTドコモのM&A失敗事例
  21. NTTコミュニケーションズのM&A失敗事例
  22. 野村證券のM&A失敗事例
  23. フォードモーターのM&A失敗事例
  24. 日本航空のM&A失敗事例
  25. 富士通のM&A失敗事例
  26. 三菱地所のM&A失敗事例
  27. ソニーグループのM&A失敗事例

上記27の事例について、どのような理由でM&A失敗に至ったのか等を解説します。いずれも大企業の事例なので中小企業とは事情が異なる面もありますが、M&A失敗理由の一つとして参考にはなるはずです。

LIXILのM&A失敗事例

LIXILは住宅関連サービスを提供しているグローバル企業です。具体的には、戸建住宅、マンション、オフィスビル、商業施設などの建材や設備機器の販売、導入を行っています。2011年に、INAX、サンウエーブ工業、新日軽、トステム、東洋エクステリアの5社が統合して設立された企業です。

そしてこのLIXILは2016年7月に、ドイツの水栓メーカーであるグローエをM&Aによって完全子会社化しました。LIXILとグローエはいずれもグローバルに事業展開しており、業界としては同業種に分類されるものの、得意分野が異なるという状況でした。つまりシナジー効果を発揮するには優良な条件がそろっていると言えるでしょう。

しかし、このM&Aは失敗に終わっています。理由は、グローエの中国子会社ジョウユウでの不正会計が発覚したことです。グローエグループはジョウユウの財務情報を正確に把握できておらず、このことをLIXILに報告していませんでした。結果的に、M&A成立後にジョウユウが債務超過状態であることが発覚しています。

LIXILが被った損失は総額数百億円とされていますが、信用力を失った影響などを考慮すると損失はより大きいでしょう。デューデリジェンスをはじめとする調査を徹底していなかったことから、大きな痛手を受けたM&A失敗事例です。

日本郵政のM&A失敗事例

日本郵政株式会社は、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険などから成り立っている日本郵政グループの持株会社です。主には、預貯金、送金、決済サービス、公的年金などに関する窓口販売・手続き業務などを行っています。

日本郵政は2015年5月に、オーストラリアの国際輸送物流会社であるトール・ホールディングスを買収しました。そしてこのM&Aは、数千億円の大きな損失を出したという意味で失敗に終わっています。

まず日本郵政がトール・ホールディングスの買収に踏み切った理由は、海外展開を本格化させる狙いがあったからです。国内人口の減少などの影響で日本郵政の利益が下がっている状況下で、焦りがあって浅はかなM&Aに踏み切ってしまったと指摘されています。

M&A戦略が甘く、ほとんど当時の担当者であった西室泰三の独断状態だったとの指摘も出ているくらいです。大規模な海外M&Aは特に、生半可な戦略では太刀打ちできないという事例でしょう。

ディー・エヌ・エーのM&A失敗事例

ディー・エヌ・エーはインターネット関連の事業を展開する企業で、スマートフォン用ゲーム開発、配信やSNS運営などを手掛けています。ディー・エヌ・エーは2014年10月、iemoとペロリの二社をM&Aにより買収しました。

iemoは住宅やインテリアに特化したサイトを運営している企業で、ペロリはファッションのまとめサイトを運営している企業でした。ディー・エヌ・エーはこの二社を合計50億円程度で買収しています。

しかし結果的に買収したサイトに不正確な医療情報が掲載されているなどの問題が発生し、ディー・エヌ・エーは対象メディアの全記事を非公開としたうえで謝罪文を発表する事態になりました。

ディー・エヌ・エーにとっては大きな損失で、M&Aの失敗事例と言えるでしょう。またこの件によって、Web業界では特に医療情報の掲載には慎重になる風潮ができたのではないでしょうか。そういう意味でもディー・エヌ・エーのM&A失敗事例は有名です。

マイクロソフトのM&A失敗事例

マイクロソフトは言わずと知れた、Windowsやオフィスソフトなどで有名な、ビルゲイツとポールアレンによって創業されたアメリカの企業です。そんなマイクロソフトも、過去にM&Aに失敗しています。

マイクロソフトがM&Aを実施したのは2014年4月です。フィンランドのベンダー企業、ノキアの携帯端末事業を72億ドル程度で買収しました。しかし2014年頃はすでにスマートフォン販売事業は低迷していて、結果的に約76億ドルという買収価格よりも高い減損損失を計上する状況に陥ったのです。

マイクロソフトの主な狙いはウィンドウズフォンというWindows OSを搭載したスマートフォンを市場に浸透させて利益を拡大させることでしたが、iOSやAndroidからシェアを奪うことはできなかったという結果でした。失敗の理由としては、タイミングが遅かったという要因が大きいでしょう。

セブン&アイ・ホールディングスのM&A失敗事例

セブン&アイ・ホールディングスは、コンビニエンスストアのセブンイレブンやイトーヨーカ堂などをグループに持つ管理、企画、運営企業です。セブン&アイ・ホールディングスは2013年12月にニッセンを子会社化した過去があります。

ニッセンはカタログ通販の老舗です。M&Aの結果としては期待していたようなシナジー効果を発揮することができず、数十億円の損失を出しました。

グリーのM&A失敗事例

グリーは主にソーシャルゲーム事業、アニメ事業などを手掛けるインターネット関連企業です。最近はあまり耳にすることのない企業名かもしれませんが、サービスに人気のあった2012年10月、ゲーム会社のポケラボを138億円で買収しました。

しかしその後ヒット作が生まれることはなく、2015年6月期に63億円の減損損失を計上するという結果になっています。

丸紅のM&A失敗事例

丸紅は穀物事業と電力事業に強みを持つ総合商社です。日本の五大商社の一つです。五大商社は丸紅以外には、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事があります。丸紅は2012年5月にアメリカで穀物事業を行うガビロンを買収しましたが、結果的にM&Aは失敗しています。

M&Aが失敗した理由は、中国が寡占化を警戒し、ビジネスを禁止したことです。また丸紅は2022年にガビロンをカナダの穀物大手バイテラに売却しています。M&Aによる買収に失敗し、売却という選択肢を取らざるを得なかった事例です。

キリンホールディングスのM&A失敗事例

キリンホールディングスは大手飲料メーカーです。キリンビールや午後の紅茶などが特に有名でしょう。製品が売れているキリンホールディングスですが、海外M&Aに失敗した過去があります。2011年8月、キリンホールディングスはスキンカリオールを2,000億円程度で買収しました。

スキンカリオールはブラジルにあったビール、清涼飲料水メーカーです。M&Aの結果としては、2015年に減損損失1,100億円の計上です。M&Aの狙いとしてはブラジルへの市場開拓でしたが、ブラジルの景気低迷が要因となり狙っていたようなシナジー効果を得られず、赤字が膨らんだという経緯になります。

パナソニックのM&A失敗事例

パナソニックは言わずと知れた有名企業でしょう。電機メーカーが事業の主軸で、エアコンや洗濯機などの大型家電から、電池などの小型製品までを生産販売しています。パナソニックは2008年12月に、三洋電機を約400億円で買収しました。その後追加投資をして完全子会社化しているので、M&Aに投資した総額は8,100億円以上とされています。

しかし結果としては2013年3月期の個別決算で6,000億円以上の評価損となりました。M&Aが失敗した要因としては、リチウム電池事業の赤字が大きいでしょう。パナソニックも三洋電機も電池事業を手掛けているためシナジー効果を得られる想定でしたが、技術に相互利用できる部分が少なく、ゼロから設計し直す必要がありました。

こういった状況下で三洋電機のエンジニアは韓国テクノロジー企業のサムスンなどに移っていくことになり、電池事業はますます停滞していくことになります。競争優位性を失っていき、上記の結果となりました。

第一三共のM&A失敗事例

第一三共は日本の大手製薬会社です。テレビCMなどで見かける機会も多いでしょう。第一三共は2008年6月に、インドの後発医薬品メーカーであるランバクシーラボラトリーズを海外M&Aにより買収しました。買収価額は約4,900億円です。

M&Aが失敗に終わった大きな理由は、アメリカの食品医薬品局がランバクシーラボラトリーズの品質管理体制に問題があるとし、アメリカへの輸出を禁止したことでしょう。買収後にこのようなことが起こってしまったので不運とも言えますが、デューデリジェンスを徹底していれば、輸出規制がかかるような事態になることを想定できたかもしれません。そのことからも、デューデリジェンスに関する教訓になる事例です。

HOYAのM&A失敗事例

HOYAは日本の光学機器やガラスを扱うメーカーです。HOYAは2007年5月にペンタックスをM&Aにより約1,000億円で買収しました。ペンタックスはデジタルカメラや天体望遠鏡などの製品を製造するブランドです。

しかし業績は伸びず、2009年3月の連結決算では約304億円の減損損失を計上するという結果になっています。その後2011年には、デジカメ事業をリコーに売却しました。

日本板硝子のM&A失敗事例

日本板硝子はガラスや土石製品を製造、販売している企業です。日本板硝子は2006年2月にイギリスのガラス製造企業であるピルキントンを6,160億円で買収しました。しかしその後リーマンショックや欧州債務危機が発生し、急速に需要が減少し、それに伴い業績が悪化する事態になりました。これらの要因により赤字決済が続いたので、M&Aは失敗に終わったと言えるでしょう。

東芝のM&A失敗事例

東芝は総合電機メーカーです。一般消費者向けの家電などの製造だけでなく、エネルギーや社会インフラ事業も手掛けています。そして東芝も過去にはM&Aに失敗しています。2006年2月、東芝はアメリカの原発大手であるウェスチングハウスを海外M&Aによって買収しました。

しかしその後の2011年に東日本大震災が発生し、世界的に原発に対する不安感が高まっていきました。この環境下では原発事業で収益を上げるのは困難で、結果的に2,600億円程度の減損損失が生じたのです。

セブン&アイ・ホールディングスのM&A失敗事例②

セブン&アイ・ホールディングスの事例は上でもご紹介しましたが、さらにさかのぼって2005年12月にもセブン&アイ・ホールディングスはM&Aに失敗しています。野村プリンシパル・ファイナンスから株式の65%を買収して完全子会社化したのですが、業績が伸び悩み、2010年2月の個別決算で670億円の評価損益を計上するという結果になりました。

セブン&アイ・ホールディングスは日本の業界内だけでなく数ある企業の中でもトップクラスに成功している企業と考えられますが、M&Aや事業では失敗も多く経験しているということです。

大手企業の場合は失敗と成功を経ながら成長していけますが、中小企業の場合は一度の失敗で破産につながるような大ダメージを受ける可能性も高いでしょう。そのため、大手企業とは戦略が異なることを前提に事例をご確認ください。

新生銀行のM&A失敗事例

新生銀行はSBIホールディングス傘下の普通銀行です。SBIホールディングスは日本の金融持株会社で、グループ内には新生銀行以外にもSBI証券、SBIマネープラザ、SBI FXトレードなどの有名企業があります。これら以外にも数十の企業が傘下にあり、企業名の冒頭にSBIと付いていることが共通点です。

そして新生銀行は2004年9月にM&Aによって、アプラスを買収しています。アプラスはクレジットカード・信販企業です。M&Aの失敗につながった大きな理由は、過払金訴訟の影響でしょう。約1,010億円の減損損失を計上することになりました。

アプラスは2007年3月までクレジットカードのキャッシング金利を法外に設定しており、利息制限法違反の状態でした。そのため、上記以前に借入をした人は過払い金が発生している可能性があるのです。

2024年現在もアプラスの過払い金請求は行われていて、アプラスの過払い金請求を売りにしている法律事務所なども複数存在するくらいです。

テスコのM&A失敗事例

テスコはイギリスの小売業をメインにする企業です。事業の幅自体は広く、電気通信業、金融業、ガソリンスタンド、通信販売業なども手掛けています。テスコは2003年7月、日本の中堅スーパーであるつるかめランドを経営していたシートゥーネットワークをM&Aにより買収しました。

約300億円の投資額で買収しましたが、業績不振により日本進出から8年後の2011年には市場から撤退したという結果です。

日立製作所のM&A失敗事例

日立製作所は日本国内でトップクラスに知名度のある電機メーカーでしょう。日立製作所もM&Aに失敗した過去があります。2002年12月に日立製作所、通称日立はアメリカのIBM(International Business Machines)社からハードディスク事業を20億円程度で買収しました。IBM社はグローバルに事業展開するテクノロジー関連企業です。

買収後にハードディスクの価格相場は大幅に下がっていき、どんどん赤字が拡大したという経緯になります。当時先を読むのは難しい状況下でしたが、技術の進歩やそれによる市場の変化などを見通せていればM&Aによる買収は行われなかった可能性があるでしょう。技術や市場の変化によってM&Aに失敗してしまった事例です。

ウォルマートのM&A失敗事例

ウォルマートはアメリカの世界最大スーパーマーケットチェーンです。また2024年現在、売上額では世界中の企業の中で最大です。ウォルマートは2002年4月に日本の西友とM&Aによって資本提携を結びました。その後ウォルマートは西友を子会社化しましたが、西友の業績が伸びず、必要な投資資金が膨らんでいきました。最終的には2,470億円以上の投資を行ったとされています。投資対効果で見てM&Aは失敗と言えるでしょう。

古河電気工業のM&A失敗事例

古河電気工業は大手非鉄金属メーカーです。電線、光ファイバー、ワイヤーハーネスなどの製造を行っています。国内電線業界では2位の売上高なので、一般消費者からの認知度は低いものの業界内では有名企業と言えるでしょう。

古河電気工業は2001年7月にアメリカで光ファイバー事業を手掛けるルーセントテクノロジーを約22.27億ドルで買収しました。その結果、世界のファイバー業界で売上高2位まで業績を伸ばしています。一時的にはM&Aによる買収は成功していたのですが、その後売上が縮小していき、2004年3月期には1,000億円の評価損を計上するに至っています。

事業が縮小した大きな要因は、ITバブルの崩壊と考えられます。後から振り返れば要因がある程度はっきりしているのですが、当時は情報も少なかったので、事前に事業の障壁となる要因を予測することは難しかったでしょう。

今の時代は当時よりも情報が多く判断しやすい状況なので、あらかじめ事業の障壁となる要因は徹底リサーチしておく必要があります。

NTTドコモのM&A失敗事例

NTTドコモは携帯電話などの無線通信サービスや国際通信サービスを提供している日本最大手の電気通信事業者です。NTTドコモは2000年にオランダのKPNモバイルに4,000億円を投資しました。さらにイギリスのハチソン3GUKにも1,900億円を投資しています。

翌2001年にはアメリカの携帯電話企業であるAT&Tワイヤレスに1兆2,000億円を投資しました。そして、これらの投資はいずれも失敗に終わっています。一連のM&Aによる損失額は約1兆5,000億円になると推定されています。

NTTコミュニケーションズのM&A失敗事例

NTTコミュニケーションズはNTTグループの主要企業の一つで、電信電話や国際通信事業を担っています。2000年8月、NTTコミュニケーションズはアメリカのベリオを約6,000億円で買収しました。海外進出を狙った海外M&Aでしたが、結果として業績が悪化し、2001年9月中間期には5,000億円の減損損失を計上するに至りました。

野村證券のM&A失敗事例

野村證券は野村ホールディングス株式会社の100%子会社で、野村グループの中核である証券業務を担う企業です。日本国内の証券会社の中でも知名度はトップクラスでしょう。野村證券は1998年に欧州最大手であるドイツ銀行に対して投資を行いました。しかしその後ドイツ銀行は経営不振に陥り、野村證券が引き受けていた債務は返済不能になってしまいました。結果的に1,300億円以上の損失です。M&Aの失敗事例と言えるでしょう。

フォードモーターのM&A失敗事例

フォードモーターはアメリカの自動車メーカーです。大量生産工程や大規模マネジメントを得意としており、また自動車の組み立て工程にベルトコンベアを取り入れたのはフォードモーターが最初です。

マツダは日本国内で有名な自動車メーカーです。フォードモーターとマツダは1979年11月に資本提携を結んでいます。しかしマツダの業績不振などの理由から、1996年5月以降はフォードモーターのマツダに対する出資比率が段階的に引き下げられていきました。

そして2015年には、フォードモーターはマツダの株をすべて売却し、両者の資本関係は完全に解消されています。

フォードモーターとマツダの歴史は長いですが、フォードモーターにとっては投資対効果で見てマイナスになっているために株式を全売却しているので、M&Aの失敗事例と言えるでしょう。

日本航空のM&A失敗事例

日本航空は通称JALといい、日本でもっとも歴史のある航空会社です。日本航空は、1990年代後半に国内外で複数のM&Aを実施しています。

具体的には、1998年のアメリカハワイ航空の買収、英国航空との資本提携が挙げられます。ハワイ航空については2001年に売却価額の4割程度で売却しました。英国航空との資本提携は2001年に解消しています。いずれもM&Aの失敗事例と言えるでしょう。

富士通のM&A失敗事例

富士通は総合エレクトロニクスメーカーです。またITベンダーとしてシステム開発サービスも提供しています。サービス・商品としては、通信システム、電子デバイスなどの販売や提供が有名でしょう。

富士通は1990年11月、イギリスのIT事業であったICLを約1,890億円で買収して完全子会社にしました。しかしその後業績が悪化し、2007年3月期個別決算では2,900億円の評価損を計上しています。

三菱地所のM&A失敗事例

三菱地所はレジデンスマンションなどの住宅作りを手掛ける住宅デベロッパーです。テレビCMなどでもおなじみの企業でしょう。三菱地所は1989年10月にロックフェラーセンターをM&Aにより買収しました。ロックフェラーセンターはアメリカのニューヨークにある複合施設です。超高層ビルも含まれています。買収価額は約2,200億円でした。

しかし買収後に不動産市場が不況に陥り、時価が暴落する事態になっています。最終的に物件の大半をアメリカに売却したのですが、約1,500億円の損失になりました。M&Aの失敗事例です。

ソニーグループのM&A失敗事例

ソニーグループは多国籍コングロマリット企業です。もともとはエレクトロニクス分野が事業の中核でしたが、ソニー株式会社に事業を移管しています。その後はグループ全体の統括などを行う持株会社に移行しています。

ソニーは1989年9月、コロンビアピクチャーズをM&Aによって約5,000億円で買収しました。当時は現在のソニーグループがソニーという名称になっています。

コロンビアピクチャーズはアメリカの映画スタジオ、制作会社です。しかし買収後にヒット作が生まれず、多額の減損処理が2024年時点でも継続しています。

M&Aの失敗要因・理由(売却側企業)

M&Aの失敗事例について見てきました。失敗の理由は企業によって異なり、事前の調査を怠ったがゆえに失敗につながる場合もあれば、事前に要因を予測するのは困難な事例もありました。少なくとも、事前に予測できる範囲の要因は取り除いておくか、M&A事態を再検討することが重要です。

次に、M&Aに失敗してしまう要因・理由について解説していきます。売却側、買収側それぞれに失敗要因・理由があるので、まずは売却側からです。売却側がM&Aに失敗する要因・理由には以下のようなものがあるでしょう。

  • 交渉でイニシアティブを取れない
  • 誠意の低い態度
  • 適正さに欠ける条件提示
  • オーナー経営者と役員の意思不統一
  • 簿外債務
  • M&A交渉中の業績低下
  • 重要議事録の未作成
  • 株券・株主名簿の管理不備
  • 情報漏えいによる破談

M&Aの失敗要因・理由は上記の通り複数あります。これらを事前に把握しておいて、避けるようにM&Aを進めることが重要です。上記のM&A失敗要因・理由についてそれぞれ解説していきます。

交渉でイニシアティブを取れない

M&Aにおいて、基本的に買収側と売却側は対等の関係です。しかし、日本では特にお客様は神様といった言葉があるように買い手を尊重する文化があります。その結果、買収側の方が優位といった考え方を持った経営者などがいるのも事実でしょう。

買収側から売却側に対していろいろと条件を提示し、条件を飲むのが当然といった態度の経営者も出てくるかもしれません。そこでしっかりと交渉でイニシアティブを取らないと、買収側に有利な条件でM&Aが成立してしまう可能性があります。

誠意の低い態度

売却側の態度が不誠実なせいでM&Aが失敗してしまうケースも多々あります。たとえばデューデリジェンスに非協力的であったり、意図的に情報を隠蔽したりするケースもあります。

単純に対応が良くないのもM&Aに悪影響を与えますが、悪意を持って情報を隠蔽や改ざんするのは法的な問題にも当然発展します。買収側企業はもちろん、関係各所に迷惑をかけることになるでしょう。

適正さに欠ける条件提示

M&Aにおいて売買企業間での希望条件が異なるのはよくあることです。条件をすり合わせていく交渉は当然に行われるものです。しかし、売買企業はどちらも適正な相場を把握したうえで条件提示をしないと、交渉は難航するでしょう。

特に売却側は自社に対して思い入れなどもあるので、市場から見た相場よりも明らかに高額で条件提示してしまうケースがあります。M&A仲介会社の担当者が付いている場合などは、担当者と相談して適正価格をしっかり把握したうえで条件をまとめることが重要です。

オーナー経営者と役員の意思不統一

オーナー経営者と役員の意思が統一されていないと、当然M&Aは難航する可能性があります。買収側とある程度条件のすり合わせができているにもかかわらず、売却側内でもめてしまうということです。このような事態になると買収側に迷惑がかかり、M&Aの話が流れてしまうことにもつながるでしょう。

簿外債務

簿外債務が存在すると、買収側からの信用を大きく損ないます。買収側からすると簿外債務は当然大きな障壁になるからです。意図的に残している場合はもちろんなくし、把握できていないといったことがないように自社を調査する必要があります。

M&A交渉中の業績低下

M&Aは着手から成立までに数か月から1年程度かかるのが一般的です。そしてこの期間中に業績が悪化してしまうケースも多々あります。そもそも業績の悪化などが原因で企業買収に踏み切ることが多いため、どんどん右肩下がりになってしまうのは当然と言えば当然です。

しかし、可能な限りM&A交渉中の業績悪化は防ぐべきでしょう。少なくとも、もう売却するから事業には力を入れなくても良い、売却に専念したがゆえに事業が疎かになっている、といったことは避けなければなりません。

M&A交渉中に業績が悪化すれば買収側から条件変更の申し出が入る可能性も高く、売却側にとって損になってしまうからです。M&Aの話自体が流れてしまう可能性もあるでしょう。

重要議事録の未作成

重要議事録は買収側にとって企業の状態を判断するのに必要な材料です。そのため、重要議事録がないと買収側からの信頼性低下につながり、またM&Aの条件提示やM&Aそのものを実行すべきかどうかの判断に迷うことにもなります。

売却側は議事録を事前に整理し、自社での対応が難しい場合は専門家に相談する必要もあるでしょう。M&A仲介会社などを介している場合、担当者に相談すれば対応してくれるはずです。

株券・株主名簿の管理不備

M&Aが成立したら、基本的に株式を譲渡することになります。一部株式の譲渡を伴わないケースもありますが、その場合も信頼性という観点では株券・株主名簿が整備されていた方がより良いでしょう。

株式を譲渡する際に株券と株主の状況を把握できていないと、譲渡がスムーズに進まない可能性があります。買収側に迷惑がかかり、M&A自体が中止になってしまうケースもあります。

中小企業では特に経営者がざっくりと記憶しているだけといった場合もあるので、事前に資料としてまとめておくのがおすすめです。

情報漏えいによる破談

M&Aに関する情報をどこまで開示するかはケースバイケースです。早い段階で公になりすぎると、関係者や企業が動いて売却側企業の価値が下落してしまうこともあります。買収側にとってもデメリットが生じ、売買価格が引き下げられたり、M&Aが中止になったりすることもあります。

M&Aの失敗要因・理由(買収側企業)

次に、買収側企業から見たM&Aの失敗要因・理由を挙げていきます。買収側の失敗要因・理由としては以下のようなものがあります。

  • M&Aの目的が不明瞭
  • 売却側企業の選択ミス
  • M&Aのアドバイザーに丸投げ
  • 思い込み
  • 責任者が不確か
  • 不十分な企業価値評価
  • 不十分なデューデリジェンス
  • 従業員の離職
  • 簿外債務の後日発覚
  • 不十分なPMI
  • 売却側企業の業績低下

買収側にも失敗要因・理由は複数存在します。すべての内容をあらかじめ把握し、何度も失敗リスクを避けるための試行錯誤を行うことが重要です。それぞれの失敗要因・理由について解説していきます。

M&Aの目的が不明瞭

M&Aの実行そのものが目的になり、M&Aによって企業を買収すればうまくいく、といった考えになってしまうケースがあります。上でもご説明した通り、M&Aは失敗する確率もそれなりに高く、特に目的が不明瞭だとM&Aを実施しても期待していたような成果を得られません。大損害につながるケースも多々あります。

M&Aはあくまでも手段であって目的ではないので、M&Aによってどのような事業戦略を取り、その結果どのように収益が拡大していくのか事前に想定し準備を進めることが重要です。

売却側企業の選択ミス

M&A仲介会社やアドバイザーと契約している場合、売却側企業のリストをもらって、そこから売却側企業を選択するのが一般的です。事前に細かく希望条件等を決めておけばリストが適正なものになりやすいですが、認識がズレていたり、そもそも条件等が明確になっていなかったりする場合、リストの内容が自社に合わないものになるかもしれません。

またリスト自体が適正でも、そこから一社に絞る段階で選択ミスが生じることもあります。重要なのは、事前に希望を明確にし、担当者としっかり調整することです。そのうえで買収候補を絞り込み、より細かい情報を開示してもらう必要があります。

M&Aのアドバイザーに丸投げ

M&A仲介会社やアドバイザーは、担当者が優良であれば適切なアドバイスをくれるはずです。しかし、買収側企業の要望や、買収側企業にとって何が最良の選択肢なのかは担当者にはわかりません。企業を経営している経営者にしかわからない面が多いでしょう。

そのため、M&A仲介会社やアドバイザーに丸投げしても思うような結果は得られないということです。丸投げせずに自分自身で考えて判断することと、大前提として信頼できる担当者を見つけることも重要になります。

信頼できる担当者に付いてもらったうえで、相談しながら自分自身でも判断していくことがM&Aの失敗を避ける流れです。

思い込み

根拠のない思い込みはM&A失敗の大きな要因です。明確な根拠があるわけではなく、もともと取引のある信頼できる企業だから買収してもうまくいくだろう、買収でうまくいった企業は多いと聞くから大丈夫だろう、といった考えで買収を決断するのは危険です。

上でご紹介した通り、多くの企業がM&Aで損失を出しています。大企業は資金力があるので復活できるかもしれませんが、中小企業は一回の買収失敗で倒産してしまうケースも多々あります。明確な根拠や戦略を持って判断することでM&Aの失敗確率を下げられるでしょう。

責任者が不確か

M&Aによって企業を買収すると、買収側企業の経営者が売却側企業の事業においてもトップということになります。しかし実際にはM&A実施前の体制でそのまま事業が継続されていて、買収側企業の経営者は買収した事業にあまり関与していないといったケースも多々あります。

このような場合、対外的には買収側企業の経営者に責任があるものの、内部での責任の所在が不明確になります。内部で、どの事業のどの部分が誰の責任なのかといったことを明確にすることで、業務が円滑に進むと同時にトラブル発生時の対応が早くなります。

不十分な企業価値評価

M&Aの直接売買に結び付く重要な交渉に入る前に、売却側企業の価値を適正に評価しておく必要があります。M&A仲介会社やアドバイザーと契約している場合、相談することで適切な評価をしてくれるでしょう。

ただし、具体的な交渉に入る前にデューデリジェンスを実施してしまうと、M&Aが成立するかもわからない段階で大きな費用がかかってしまいます。必要以上に費用がかかってしまうだけでなく、すでに大きな費用をかけているので多少条件が悪くても買収を成立させなければならないといった邪魔な感情も出てきてしまいます。

こういった事態を避けるためには、必要な調査に絞ったうえで売却側企業を適切に評価するよう担当者に相談することが重要です。

不十分なデューデリジェンス

M&Aの交渉がある程度進んだ段階では、デューデリジェンスの工程が重要になります。上の事例でも挙げてきましたが、デューデリジェンスを怠った結果失敗するケースは多いです。デューデリジェンスはどの観点からどこまで調査すべきかの判断が難しく、予算との相談になる面もあるでしょう。

しかし必要な部分をカットしてしまうと節約した費用どころではないしっぺ返しに合う可能性もあるため、最低限に絞りすぎる考え方は危険でしょう。

従業員の離職

M&A実施後に、売却側企業の従業員が離職してしまうケースもあります。上で挙げたパナソニックが三洋電機を買収した事例などは典型的です。企業文化の違いや、事業の停滞などによって優秀な従業員ほどより待遇の良い企業に流れてしまいます。

PMIがうまくいかないと自身の将来への不安や企業に対する不信感などから、買収側企業の従業員が離職してしまうケースもあります。

このような事態を防ぐためには、適切なシナジー効果が得られるかの事前調査を徹底することや、M&A実施後の組織体系、責任の所在などを明確にしておくことが重要です。特に技術分野はM&Aの担当者が正確に把握できていないことがあるので、担当者が適切に理解することや、技術側の担当者がM&Aに関与していく必要があるでしょう。

簿外債務の後日発覚

簿外債務はM&Aにおけるよくある落とし穴です。簿外債務は売却側企業が意図的に隠している場合もあれば、売却側企業も把握できていない場合もあります。いずれにしても買収側企業にとってはデメリットになるので、簿外債務を見つけたら買収価額を引き下げるか、買収を中止する必要があるでしょう。簿外債務を見落とさないためにも上で挙げたデューデリジェンスが重要です。

不十分なPMI

PMIはM&Aによる買収後に実施されるプロセスです。Post Merger Integrationの略で、複数の観点から経営統合を行います。具体的には、経営面、制度面、業務面、事業面、意識面といった観点が挙げられます。

PMIの成否によって、シナジー効果や従業員の働きやすさなどが大幅に変わってきます。そのため、M&Aによる失敗を防ぐためには重要なプロセスということです。

売却側企業の業績低下

売却側企業の業績低下は売却側にとっても買収側にとってもデメリットです。そして買収側は売却側の業績を正確に把握しておく必要があるでしょう。なぜなら、売却側はあえて業績低下を伝えない可能性も高いからです。業績低下を伝える義務はなく、伝えることでM&Aに悪影響になる可能性が高いことをわかっているからです。

そのため買収側はM&A期間の売却側の業績を把握し、売買価格に反映させたり、買収を中止したりすることが重要になります。

M&Aで失敗しない方策

最後にM&Aで失敗しないための方策を挙げていきます。具体的には以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • M&Aの目的明確化
  • 適切な相手企業選び
  • 厳正な企業価値評価
  • デューデリジェンスの徹底・適切な進行
  • 十分に練ったPMI計画を策定し実施する
  • 信頼できるM&Aの専門家を起用する

それぞれの方策について解説していきます。

M&Aの目的明確化

M&A自体が目的ではなく、M&Aは目的を達成するための手段です。目的のないM&Aは失敗確率が上がるので、目的は必須になります。特にM&A実施後にどのように事業を伸ばし、収益が拡大するのかのプランが明確になっていないと投資対効果に見合わない可能性が高いため、シナジー効果の発揮方法やPMIまで事前に想定しておくことが重要でしょう。

適切な相手企業選び

売買企業はいずれも適切な相手企業選びが必要です。売却側は自社を評価してくれる相手企業を選ぶ必要があり、買収側は目的に合った相手企業を選ぶ必要があります。ではどのような観点から相手企業を選定するのが良いのでしょうか。具体的には以下が挙げられます。

  • 売却・買収ニーズ
  • シナジー効果
  • 財務の健全さ
  • M&Aの実現確度

それぞれの内容について解説していきます。

売却・買収ニーズ

売却側も買収側も、ニーズの高い相手を選んだ方が価格やその他条件面でメリットを得られる可能性が高いでしょう。ニーズが高いということは、それだけ価格や条件を譲歩してもM&Aを実現させたいということだからです。

たとえば経営者が高齢で早く事業を売却したい場合や、市場の変化で早く特定の事業を買収したいと考えている場合などはわかりやすい例でしょう。

シナジー効果

特に買収側企業はシナジー効果を可能な限り想定し、買収を進める必要があります。売却側にとっても、シナジー効果が高いということはそれだけ自社に対して需要が高まり、価格やその他条件でメリットがある場合が多いです。シナジー効果の要因としては、技術の組み合わせ、事業分野の組み合わせ、販路の組み合わせ、その他ノウハウの組み合わせ、などがあります。これらの観点から調査と予測の精度を高めていくことが重要です。

財務の健全さ

売買企業どちらも、相手企業の財務状態は健全であった方が良いです。買収側は買収後に負債を抱える可能性などがあるので当然でしょう。売却側は買収側の財務状態が健全な方が買収価額に期待でき、またその後働き続ける従業員などのことを考えても財務状態は重要です。

M&Aの実現確度

条件面が良くても、M&Aの実現確度が低いと流れてしまう可能性が高く、M&Aに費やした時間、労力、費用などが無駄になります。そのため、実現確度が高い相手を選んだ方が良いでしょう。実現確度の判断は難しいですが、経営者のスタンスや株主など相手企業側の関係者との関係性などを聞き出せると判断しやすいでしょう。

厳正な企業価値評価

企業価値評価を厳正に行うことで、投資対効果の見積もりや交渉時に役立ちます。企業価値評価はM&A仲介会社やアドバイザーなどの担当者が専門家に依頼して実施するケースが多いです。経営者自身がすべて行うわけではありませんが、ある程度は把握しておいた方が良いでしょう。企業価値評価の方法は大きく以下に分けられます。

  • コストアプローチ
  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ

実際にはこれらの方法を組み合わせて企業価値評価が行われることも多いですが、まずはそれぞれの方法を把握しておく必要があります。どの方法も一長一短なので、メリットを活かしつつデメリットを避ける方法で算出していくということです。

コストアプローチ

コストアプローチは、売却側企業の貸借対照表の純資産額を企業価値と考えて評価する方法です。明確な数字を基準に評価を行っているので、客観的にわかりやすいというメリットがあります。しかし将来的な収益や現在の企業のブランド価値などが反映されていないため、その点はデメリットです。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、売却側企業のキャッシュフローをもとに企業価値を評価する方法です。将来的に見込まれる価値も織り込んで企業価値が評価されるため、M&Aの観点として重要なシナジー効果などにもつながりやすく、より適正な数字になりやすいというメリットがあります。

しかし、将来的な正確な収益は当然誰にもわかりません。その結果、売買企業間で判断が分かれやすく、交渉が難航する要因になる可能性もあるでしょう。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、市場にある売却側企業や、M&A事例をもとに企業価値を評価する方法です。実例をもとに算出するので、現在の市場に合った数字になりやすいというメリットがあります。

しかし完全に一致する企業やM&A事例が存在しないのはもちろん、類似するケースがないことも多いでしょう。類似するケースがあっても、細かく分析してみると状況が異なるかもしれません。

デューデリジェンスの徹底・適切な進行

デューデリジェンスはM&Aにおいて重要な工程です。どの観点でどのように売却側企業を分析していくかによって、M&A全体の成否にも関わってきます。M&Aの失敗という観点では、失敗を防ぐためにもっとも重要な工程と言っても過言ではないかもしれません。しかし力を入れればその分費用もかかってくるので、判断が難しいところです。デューデリジェンスの流れは個別のM&Aによって異なりますが、概ね以下のような流れで進行されます。

  1. キックオフ
  2. 売却側企業への必要書類リスト提示
  3. デューデリジェンス専用ルームでの調査
  4. 売却側企業へのインタビュー
  5. 中間レポート
  6. 最終報告書の提出

これらの流れを徹底的に適切に進行していくことが重要です。それぞれ何を行うのか解説していきます。

キックオフ

キックオフはデューデリジェンスの最初の工程です。デューデリジェンスにおいて、どのような観点からどのような調査を行うか、スケジュールはどのくらいで見ているか、などを話し合います。M&A仲介会社やアドバイザーを介している場合、担当者が各専門家と連携を取ってくれて、具体的な調査は各専門家が行うのが一般的です。

売却側企業への必要書類リスト提示

デューデリジェンスは売却側企業の協力が欠かせません。そして具体的にどのような協力をしてもらうのかは、買収側から指示を出す必要があります。特に必要書類は事前に用意しておいてもらった方がスムーズです。リストであらかじめ提示しておけば、売却側は必要書類を準備しやすいでしょう。

デューデリジェンス専用ルームでの調査

データルームと呼ばれる、デューデリジェンスの専用ルームを用意する場合もあります。ルームは売却側企業の会議室に用意されるのが一般的です。最近はインターネット上にバーチャルルームが設置されることも増えています。

このデータルームでは、各専門家などがそれぞれ担当の観点から売却側企業の調査を行っていきます。重要なタイミングでは買収側企業の経営者なども立ち合い、進捗状況や問題点などを共有します。

売却側企業へのインタビュー

調査だけでは把握できない部分もあるため、売却側企業に対してインタビューを行います。基本的には売却側企業の経営陣に対して個別にインタビューを行い、調査で把握しきれなかった情報を把握します。そしてインタビューの内容にもとづいて追加調査を行います。

中間レポート

デューデリジェンスがある程度進んだら中間レポートを作成します。中間レポートは、デューデリジェンスの専門家と買収側企業の経営者などの間で共有します。中間レポートにもとづいて意見を出し合い、追加調査が必要な場合は実施します。

最終報告書の提出

デューデリジェンスが一通り完了したら、最終報告を行います。最終報告はデューデリジェンスを実施した専門家と買収側企業の経営者などの間で行われます。売却側企業に対しては特に何も報告しないのが一般的です。資料は共有せず、デューデリジェンスが完了したことを伝える程度でしょう。

十分に練ったPMI計画を策定し実施する

M&Aの工程においてはデューデリジェンスもかなり重要ですが、PMIも買収成立後の流れを決定づけるものです。またPMIはスピード感も重要で、長引くと従業員、顧客、その他関係者が離れていってしまい、取り返しがつかない可能性もあるでしょう。

スピード感のあるPMIを実施するためには、事前の計画が欠かせません。事前に十分に練ったPMI計画を策定し、実行することになります。PMI計画の策定は、基本的にはM&Aを実施する前にある程度作られている必要があるでしょう。

相手企業が決まっていないので細かく作り込むことはできませんが、特に買収側はシナジー効果などを考えているはずなので、シナジー効果を検討するためにはPMIも同時に考える必要があります。そのためM&A実施前にある程度PMI計画は作られていて、相手企業が決まったタイミングでさらに精度を高めていくイメージです。

つまりPMI計画は早めに策定を進める必要があり、M&Aの成否に大きく影響します。

信頼できるM&Aの専門家を起用する

M&Aは、M&A仲介会社やアドバイザーと二人三脚で進めるのが一般的です。専門家に丸投げするのはNGですが、逆に自社だけで進めるのも基本的にはNGです。大企業で自社に専門家がそろっている場合などは自社だけで進めることも不可能ではありませんが、それでもアドバイザーなどは付けるのが一般的でしょう。

中小企業の場合はM&A仲介会社を介してM&Aを進めることが多いです。そして、M&A仲介会社選びと、その会社の誰が担当者になるかによってM&Aの成否に大きく影響します。重要なポイントとして、M&A仲介会社選びももちろん重要なのですが、その中の担当者も見極める必要があるということです。

M&A仲介会社の評判などはインターネットやSNSで比較的簡単に見つかりますが、担当者まで判断するとなるとオンラインの情報だけでは難しいことも多いはずです。そのため、複数のM&A仲介会社などに無料相談を行い、複数の担当者と実際に面談してみるのが有効です。

良い担当者に巡り会えれば依頼し、そうでない場合は会社に担当者の交代を打診したり、別のM&A仲介会社を検討したりするのが得策でしょう。実績や表面的なスペックなどももちろん重要ですが、実際に話してみて人間性や自分との相性を考えることもM&A成功のためには重要になります。

M&A失敗事例のまとめ

M&Aの事例は多数存在し、すべての事例を正確に把握している機関も人間も存在しないでしょう。そのため、正確な成功確率、失敗確率は不明です。そもそも何をもってM&A成功、失敗とするかの定義も企業によってそれぞれ異なります。

しかし、複数のM&A事例を把握している機関も存在します。それらのデータにもとづくと、国内M&Aは失敗確率が3割程度、海外M&Aは4割程度と考えられるでしょう。いずれも成功確率の方が高いものの、失敗する確率もそれなりに高いことがわかります。

過去のM&A失敗事例や失敗しないための方策を学び、力を入れて取り組んでください。特に事前の目的設定や、PMIまでの一連の流れを綿密に計画しておくことはかなり重要です。またパートナーとなるM&A仲介会社や担当者もM&Aの成否に大きく影響するので、担当者選びから力を入れる必要があるでしょう。

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