SES業界のM&Aの動向は?事例や相場・押さえておきたいポイントもチェック!
我が国のIT人材は2030年まで不足する動向が予想されています。そこで即戦力のIT人材を確保する目的で、SES業界のM&Aが増加中です。この記事ではSES業界のM&Aの動向や相場、メリット・デメリットなどポイントを紹介します。
目次
SES業界とは?
SESとは「System Engineering Service」の略称で、エンジニアを派遣するサービスです。
SESを事業とする企業がクライアントの企業にエンジニアを派遣して、システムの開発や運用・保守などをサポートします。
エンジニアを採用できない場合や採用しても教育コストを掛けたくない場合、SESが事業の企業に技術者の派遣を依頼します。
以下、SES業界の現状とビジネスモデルを詳しく見ていきましょう。
SES業界の現状
SES業界の現状を表す統計やデータは存在せず、現状や動向を説明するのは困難です。
しかし、SES業界の現状の動向は伸びていると予想できます。
理由は、SES業界を含むIT業界の市場規模が伸び続けているからです。
矢野経済研究所の「国内企業のIT投資に関する調査(2022)」によると、民間企業のIT市場規模は13兆5,500億円となっています。
2020年度以降も市場規模が増加の一途をたどっているため、SES業界に対する需要の動向は増加していくと考えられます。
SES業界のビジネスモデル
SES業界のビジネスモデルは、クライアントの企業にエンジニアを常駐させて業務を行うことで報酬をもらう流れです。
常駐するエンジニアは、以下の方法で採用しています。
- 社員として採用したエンジニア
- フリーランスのエンジニア
社員として採用したエンジニアを常駐させる場合、技術が未熟でも研修やOJTで技術力を高めて長期的にサービスを提供できるようにします。
一方でフリーランスのエンジニアを常駐させる場合、実務経験があるため技術力が高く、固定費を削減できるのが強みです。
SES業界のM&Aの動向
SES業界を理解したところで、M&Aの動向を見ていきましょう。具体的な動向は以下の3つです
- 大規模開発におけるコスト削減を目的としたM&A
- 人材確保によるM&A
- 異業種の参入
それぞれ解説します。
大規模開発におけるコスト削減を目的としたM&A
動向の1つ目は大規模なシステムを開発するとき、コストを削減するためにM&Aを行います。
具体的には、外国の大手企業と開発・運用するときです。
外国の大手企業とのプロジェクトは規模が大きいため、開発や運用でコストがかかります。
仮にSES企業とM&Aを行い、開発したサービスを自社で管理するとしましょう。
その結果コストを減らした状態で、サービスを開発・運用していくことが可能です。
人材確保によるM&A
動向の2つ目は、SES業界で人材を確保するためのM&Aも行っていることです。
実際に経済産業省は「ITベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業」で、2030年に41〜79万人のIT人材が不足すると公表済みです。
したがってSES業界の企業をM&Aで買収し、ITの人材を確保している企業もあります。
IT人材を確保する方法として新卒や中途採用をするだけでなく、M&Aを活用していく事例の動向は今後も増えていくでしょう。
異業種の参入
3つ目の動向は、SES業界を含むIT・ソフトウェア業界のM&Aが増えていることです。
理由は異業種の企業が参入するケースもあり、目的はエンジニアやテスターなどITの技術者を確保するためです。
次章で異業種の企業がSESの企業とM&Aを実施したケースも紹介しているので、ぜひ確認してみましょう。
SES業界のM&Aの成功事例
では、SES業界のM&Aの成功事例を見ていきましょう。紹介するのは、以下の9つの事例です。
- RINETがITbookへ企業売却
- ピクタスがナレッジスイートへ企業売却
- フジソフトサービスがナレッジスイートへ企業売却
- キャスレーコンサルティングがISIDインターテクノロジーへ事業譲渡
- Fabeeeとデータセクションの資本業務提携
- EPコンサルティングサービスがグローバルセキュリティエキスパートへ事業譲渡
- ヒューマンウェアがスリープログループへ企業売却
- ITソフトジャパンがインフォメーションサービスフォースへ企業売却
- エイムがユビキタスへ企業売却
順番に説明します。
RINETがITbookへ企業売却
株式会社RINETの事例です。
RINETはシステム開発を事業にしていた企業で、AIやIoTで強みがある企業でした。
一方でITbookは、IT化が進まない行政や民間企業にコンサルティングする事業をしています。
このM&AでITbookは、ビックデータやフィンテックなど創生中の事業を強化できて、既存事業とシナジー効果を発揮できました。
ピクタスがナレッジスイートへ企業売却
ビクタス株式会社の事例です。
ビクタスはSES事業だけでなく、IT技術者の育成にも力を入れていました。
一方でナレッジスイートは営業向けのクラウドサービスの開発・販売や保守・運用を事業にしています。
このM&Aでナレッジスイートは売上規模と社員総数が3倍になり、エンジニアも100名を超えました。
フジソフトサービスがナレッジスイートへ企業売却
株式会社フジソフトサービスとの事例もあります。
フジソフトサービスは創業からSES事業に力を注ぎ、汎用系やオープン系問わず実績を残してきました。
このM&Aでナレッジスイートはエンジニアを増やせただけでなく、市場のニーズを満たす技術力や研究開発の体制も共有できています。
キャスレーコンサルティングがISIDインターテクノロジーへ事業譲渡
キャスレーコンサルティング株式会社の事例です。
キャスレーコンサルティングは、SESの事業を行っていた企業でした。
一方でISIDインターテクノロジーは、電通グループのIT企業で金融と広告業界でシステム開発を行っています。
このM&Aでキャスレーコンサルティングは、事業を売却して莫大な資金を得ています。
その結果、AIや画像解析といった新規事業に投資することができました。
Fabeeeとデータセクションの資本業務提携
Fabeee株式会社の事例です。
FabeeeはSESのほか、AIやシステム開発、DX推進を事業にしていた企業でした。
一方でデータセクションは、データ解析のサービスを提供する企業です。
このM&AでFabeeeはAIよるDXの事業を強化できました。
EPコンサルティングサービスがグローバルセキュリティエキスパートへ事業譲渡
株式会社EPコンサルティングサービスの事例です。
EPコンサルティングサービスは、バイリンガルでデジタルに強い人材がいるSES事業の企業でした。
一方でグローバルセキュリティエキスパートは、情報セキュリティやサイバーセキュリティに強みがある企業です。
このM&Aでグローバルセキュリティエキスパートは、バイリンガルでセキュリティに詳しいエンジニアを排出できています。
ヒューマンウェアがスリープログループへ企業売却
株式会社ヒューマンウェアの事例です。
ヒューマンウェアは近畿地方でシステムエンジニアの派遣事業をしていました。
一方でスリープログループは、BPOを事業にしている企業です。
このM&Aでスリープログループはエンジニア不足を解消しただけでなく、社内でエンジニアに転職する人もいました。
■BPOとは
アウトソーシングの一種で、企業の業務を外部に委託すること。企業の売上に繋がるコア事業以外をBPOとする。人事や総務、コールセンターやヘルプデスクなどが対象。
ITソフトジャパンがインフォメーションサービスフォースへ企業売却
ITソフトジャパン株式会社の事例です。
ITソフトジャパンは、顧客の多くが大手企業とするSESの事業をしていました。
一方でインフォメーションサービスフォースもSESを事業にしている企業です。
このM&AでITソフトジャパンは、経営者の高齢化による事業承継の問題を解決できました。
エイムがユビキタスへ企業売却
エイム株式会社の事例です。
エイムはSESの企業で、組込みやサーバー系のエンジニアが在籍していました。
一方でユビキタスは、ソフトウェアの開発やライセンスを事業にしている企業です。ユビキタスは他の事業に力をいれていて、開発の案件をこなせませんでした。
このM&Aでエイムの技術力を活かせるようになったため、開発の案件を受託できています。
SES業界でM&Aを活用するメリット・デメリット
SES業界のM&Aの事例を見たところで、M&A活用するメリット・デメリットを売却側と買収側で見ていきましょう。具体的には以下のとおりです。
〇メリット | ×デメリット | |
---|---|---|
売却側 | 経営を安定できる | 経営への参画が難しくなる |
買収側 | 人材を確保できる | 債務を引き継ぐ可能性がある |
それぞれ説明します。
売却側企業のメリット
売却側の企業のメリットは、経営を安定できることです。
東京商工リサーチの調査によると、後継者が不在で不安定な経営の企業が2022年に過去最多となりました。
このように経営が安定した企業に売却すれば、買い手企業のノウハウを活かしてSES事業の安定を図れます。
利益が大きい企業の傘下であれば、待遇が改善されることもあるでしょう。
買収側企業のメリット
一方で買収側の企業のメリットは、人材を確保できることです。
SESが事業の企業を買収すれば、自社で不足するエンジニアやプログラマーを確保できます。
同じくSESの事業をしている場合、クライアントの企業に派遣できる人材が増えるため、売上に貢献できる裾野が増えるでしょう。
ほかにも、フリーランスのエンジニアやプログラマーに外注するコストを減らすことも可能です。
売却側企業のデメリット
次に売却側の企業のデメリットは、経営への参画が難しくなることです。
買収企業の子会社となった場合、経営方針や利益の目標額など買い手企業の方針に合わせます。
もし売り手側の企業が経営に携わりたいのであれば、M&Aの交渉段階で伝える必要があるでしょう。
買収側企業のデメリット
一方で買収側の企業のデメリットは、債務を引き継ぐ可能性があることです。
引き継ぐ債務の例として、給与の未払いや簿外債務である残業代の未払いなどがあります。
また顧客とのトラブルも引き継ぐので、事前の調査が重要です。
SES業界のM&Aの相場
SES業界のM&Aの相場に関して、大まかな相場と相場の算出方法を見ていきましょう。
大まかな相場
SES業界のM&Aの相場は、公表されていません。
前章で紹介したM&Aの事例で相場を見てみましょう。
事例の企業 | 譲渡価格 |
---|---|
RINET×ITbook | 1億円 |
ピクタス×ナレッジスイート | 3億1,700万円 |
フジソフトサービス×ナレッジスイート | 6億円 |
キャスレーコンサルティング×ISIDインターテクノロジー | 非公開 |
Fabeee×データセクション | 非公開 |
EPコンサルティングサービス×グローバルセキュリティエキスパート | 非公開 |
ヒューマンウェア×スリープログループ | 4億6,500万円 |
ITソフトジャパン×インフォメーションサービスフォース | 3,200万円 |
エイム×ユビキタス | 7億2,000万円 |
上記の事例からSES業界のM&Aの相場は、3,000万円〜7億円前後です。なお、相場は企業の規模や純資産、営業利益で変化します。
相場の算出方法
相場の算出方法は以下の4つです。
- 時価純資産法+営業利益
- 時価純資産営業利益+役員報酬(※株式譲渡の場合)
- 売却資産額+事業利益(※事業譲渡の場合)
- エンジニアの人数×価値単価
営業利益と事業利益は2〜5年分の利益を加算します。
また買い手の中には「エンジニアの人数×価値単価」を試算して、買収価格を提案するケースも存在します。
SES業界でM&Aを行う際に押さえておきたいポイント
SES業界でM&Aを行う際に押さえておきたいポイントを、売却側と買収側の視点で見ていきましょう。
売却側企業の視点
売却側の視点で押さえておきたいポイントは、以下の2つです。
- 黒字化しておく
- 従業員に共有するタイミング
経営を黒字化しておくのはポイントの1つです。
赤字のまま売却すると、買い手側の財務状況にも影響を与えます。
技術力の高いエンジニアがいても赤字であればM&Aに至らないでしょう。
黒字化にして売却するのが大切です。
また売却が決まったとき、従業員へ伝えるタイミングを間違えないこともポイントです。
売却が決まっていないのに伝わると、仕事に対するモチベーションが低下します。
買い手企業との交渉で、従業員が安心して働ける条件が整ったら伝えるようにしましょう。
買収側企業の視点
一方で買収側の視点で、押さえておきたいポイントは以下の2つです。
- 売却企業の人材を把握
- 徹底的なデューデリジェンス
SESの事業を引き継ぐ場合や自社のシステム開発でのポイントは、売却企業のエンジニアを把握することです。
例えば案件の多いJAVAに関して詳しいエンジニアがいれば、クライアントや自社のシステム開発に貢献できる機会が増えるでしょう。
一方でCOBOLのような需要がないエンジニアが多い場合、買収してもメリットが多くありません。
また、デューデリジェンスを徹底することもポイントです。
前章でも述べたとおり売却企業に債務がある場合、M&Aを実施すると引き継がれます。
M&Aの専門家と協力して、売り手企業にマイナス要素がないか調べていきましょう。
SES業界でM&Aを行う際は慎重に進めよう
日本のIT人材は今後も不足するのが予想されています。
したがって、企業ではIT人材を確保すべくSES業界のM&Aが活発な動向となるでしょう。
SES業界のM&Aが成功するポイントは、経営が黒字であること、技術が高いIT人材がいることです。
買い手の企業は、企業の財務状況を含めて入念に調査する必要があります。
M&Aの相場は企業の規模で違うため、記事で紹介した相場とポイントを参考にしましょう。
M&Aを企業間だけでやるのは時間がかかるので、ぜひM&A総研にご相談ください。
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