事業承継の費用はいくらかかる?手数料・税金・補助金などの各種料金の相場を解説!

事業承継には3種類の方法があります。いずれの方法で事業承継を行っても、必ずなにがしかの費用は発生するものです。本コラムでは、事業承継で発生する税金や手数料・料金といった費用の内容や相場などを解説するとともに、事業承継向けの補助金や融資制度も紹介します。

目次

  1. 事業承継の方法ごとの費用(手数料と税金一覧)
  2. 事業承継の費用1:税金
  3. 事業承継の費用2:手数料
  4. 事業承継の相談先
  5. 事業承継を支援する税制
  6. 事業承継向け補助金・融資
  7. 事業承継の費用まとめ

事業承継の方法ごとの費用(手数料と税金一覧)

事業承継とは、会社または個人事業の経営を現経営者から後継者に引継ぐことです。事業承継は、後継者の立場の違いによって、以下の3種類の方法があります。

  • 親族内事業承継
  • 社内事業承継
  • M&Aによる事業承継

ここでは、各事業承継方法の概要を説明するとともに、方法ごとに発生する可能性のある税金・料金・手数料などの費用一覧を紹介します。各費用の詳しい内容については後述いたしますので、そちらをご覧ください。

親族内事業承継と費用

親族内事業承継とは、現経営者の家族や親類などの血族・姻族が後継者となる事業承継です。その中でも代表格は経営者の子どもでしょう。後継者にとって事業承継で必要なものは、会社であれば自社株式、個人事業であれば事業用資産です。親族である後継者は、それらを相続、または贈与によって承継します。

従来、親族内事業承継は、事業承継方法の中でも主力の方法でした。しかし、少子化による子どもの減少と、価値観の多様化により親の後を継がない子どもの増加などの理由によって、親族内事業承継は減少傾向にあります。

親族内事業承継で発生する可能性のある費用は以下のとおりです。

  • 相続税
  • 贈与税
  • 弁護士手数料
  • 司法書士手数料
  • 税理士手数料

弁護士・司法書士手数料は、遺言書の作成を依頼した場合の料金です。税理士手数料は税務の依頼をする場合の料金になります。

社内事業承継と費用

社内事業承継とは、従業員や役員が後継者となる事業承継です。親族内事業承継の減少に伴い、昨今は社内事業承継が増加傾向にあります。

親族ではない従業員が後継者の場合、事業承継に必要となる自社株式または事業用資産を、現経営者から買取らねばなりません。そのための資金調達が社内事業承継の課題です。

社内事業承継では、以下のような費用が発生する可能性があります。

  • 自社株式または事業用資産の買取り資金
  • 公認会計士手数料
  • M&Aアドバイザー手数料
  • 税理士手数料
  • 所得税
  • 復興特別所得税
  • 住民税
  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税
  • 贈与税

贈与税は、現経営者から自社株式または事業用資産を無償譲渡または格安で譲渡された場合、贈与を受けたとみなされ発生します。公認会計士、M&Aアドバイザーの手数料は、自社株式または事業用資産の金額換算を依頼した場合の費用です。その他の費用の説明は後述します。

M&Aによる事業承継と費用

M&Aによる事業承継とは、自社株式または事業用資産を売却することで、その買い手が新たな経営者(後継者)となる事業承継のことです。親族や社内に後継者がいなくても、M&Aをすることで会社は廃業を免れ存続できます。M&Aによる事業承継も現在、増加傾向です。

M&Aによる事業承継では、以下のような費用が発生する可能性があります。

  • M&Aの買収費用
  • M&Aアドバイザー手数料
  • 公認会計士手数料
  • 税理士手数料
  • 弁護士手数料
  • 所得税
  • 復興特別所得税
  • 住民税
  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税

以下の動画では、M&Aの大まかな流れを解説しています。ご参考までご覧ください。

以下の動画では、3種類の事業承継について解説しています。ご参考までご覧ください。

事業承継の費用1:税金

事業承継で発生する可能性のある税金は、以下のとおりです。

  • 相続税
  • 贈与税
  • 所得税・復興特別所得税・住民税
  • 法人税
  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税

各税金の概要を説明します。なお、税金の内容、税率などは2024(令和6)年2月現在のものです。

相続税

親族内事業承継の後継者が、先代経営者の死去により自社株式または事業用資産を相続した場合、相続税が課されます。相続税は、以下の計算結果が基礎控除額です。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数

相続税を正確に計算するには、規定にのっとった細かな計算が必要になりますが、ここでは、相続税計算の根幹部分である税率と控除額を紹介します。

基礎控除後の課税金額帯

税率

控除額

1,000万円以下

10%

1,000万円超~3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超~5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超~1億円以下

30%

700万円

1億円超~2億円以下

40%

1,700万円

2億円超~3億円以下

45%

2,700万円

3億円超~6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

相続税は高額となるケースもあります。一般的な財産なら売却して納税資金にすることが可能です。しかし、自社株式や事業用資産は経営の維持のために売却はできません。相続による事業承継を想定している場合は、納税費用対策が必要です。

贈与税

贈与税には以下の2種類の納税方式があります。

  • 暦年課税
  • 相続時精算課税

贈与税の納税方式は自由に選べますが、一度、選択したら変更はできません。それぞれの納税方式を説明します。

暦年課税

暦年課税とは、1年(1月~12月)単位で受けた贈与に対して課される税金です。基礎控除額は110万円と決まっています。暦年課税の税率は特例税率と一般税率の2種類があり、まず、特例税率の内容は以下のとおりです。

<特例税率>基礎控除後の課税金額帯

税率

控除額

200万円以下

10%

200万円超~400万円以下

15%

10万円

400万円超~600万円以下

20%

30万円

600万円超~1,000万円以下

30%

90万円

1,000万円超~1,500万円以下

40%

190万円

1,500万円超~3,000万円以下

45%

265万円

3,000万円超~4,500万円以下

50%

415万円

4,500万円超

55%

640万円

贈与税の暦年課税・一般税率の内容は以下のとおりです。

<一般税率>基礎控除後の課税金額帯

税率

控除額

200万円以下

10%

200万円超~300万円以下

15%

10万円

300万円超~400万円以下

20%

25万円

400万円超~600万円以下

30%

65万円

600万円超~1,000万円以下

40%

125万円

1,000万円超~1,500万円以下

45%

175万円

1,500万円超~3,000万円以下

50%

250万円

3,000万円超

55%

400万円

特例税率が適用されるのは、父母または祖父母から贈与を受けた18歳以上の受贈者です。それ以外の場合は、一般税率が適用されます。自社株式や事業用資産を毎年110万円以下に分割する贈与が可能であれば、受贈者に贈与税は課されません。

相続時精算課税

相続時精算課税とは、父母または祖父母から贈与を受けた18歳以上の受贈者に限って、2,500万円までは贈与税が非課税になる制度です。2,500万円を超えた部分の金額には、20%の贈与税が課されます。

注意したいのは、相続時精算課税の名目どおり、贈与税が免除された2,500万円までの部分は、相続税の計算の際に対象となることです。税額がどうなるかは個々のケースでさまざまですが、課税が一時的に先送りされただけに過ぎません。

所得税・復興特別所得税・住民税

先代経営者が、自社株式または事業用資産を後継者である従業員に売却、あるいはM&Aで売却した際に、売却益が出れば課税対象になります。この場合の税金は、所得税、復興特別所得税、住民税です。

また、売却した資産の種類によって課税内容が異なります。事業承継の場合、以下の3種類の分類となるでしょう。

  • 株式売却益の課税内容
  • 不動産売却益の課税内容
  • その他の資産売却益の課税内容

資産売却益別の課税内容を説明します。なお、復興特別所得税は2037(令和19)年までの時限税です。

株式売却益の課税内容

個人が売却益(税法上では所得という)を得たとき、売却した資産の種類によって総合課税か分離課税かに分かれます。自社株式を売却して得た売却益(株式譲渡所得)は、分離課税です。まず、株式譲渡所得は以下のように計算します。

  • 株式譲渡所得=株式譲渡対価-株式取得費用-M&Aアドバイザー費用

株式譲渡所得の税率は20.315%で、その内訳は以下のとおりです。

  • 所得税15%
  • 復興特別所得税0.315%
  • 住民税5%

復興特別所得税は「基準所得税額×2.1%」と定められているため、株式譲渡所得では上記の税率となります。

不動産売却益の課税内容

先代の個人事業主が後継者またはM&Aで売却した資産の中に不動産(土地・建物)があり、その資産の売却によって利益を得た場合、分離課税を受けます。不動産の売却益(譲渡所得)には長期譲渡所得と短期譲渡所得という分類があり、その税率は以下のように異なるものです。

  • 長期譲渡所得の合計税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
  • 短期譲渡所得の合計税率39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)

長期譲渡所得に該当するのは、5年超、保有していた不動産の売却益です。一方、短期譲渡所得に分類されるのは、5年以下の保有期間だった不動産の売却益になります。

その他の資産売却益の課税内容

自社株式、不動産以外の資産売却益は、総合課税です。他の所得と合わせて課税されます。総合課税における基礎控除額は以下のとおりです。

合計所得額

控除額

2,400万円以下

48万円

2,400万円超~2,450万円以下

32万円

2,450万円超~2,500万円以下

16万円

2,500万円超

0円

総合課税は累進税率となっており、内容は以下のとおりです。

基礎控除後の課税金額帯

税率

控除額

1,000円~194万9,000円

5%

195万円~329万9,000円

10%

9万7,500円

330万円~694万9,000円

20%

42万7,500円

695万円~899万9,000円

23%

63万6,000円

900万円~1,799万9,000円

33%

153万6,000円

1,800万円~3,999万9,000円

40%

279万6,000円

4,000万円以上

45%

479万6,000円

総合課税では、さらに10%の住民税と、上記の税率計算で確定した基準所得税額に対し2.1%の税率で復興特別所得税が課されます。

法人税

中小企業のM&Aによる事業承継の際に、事業譲渡によるM&Aを行った場合や、事業承継する事業部門を子会社化させてM&Aを行った場合、会社が譲渡益を得ることになり、法人税が課されます。法人税の種類は以下のとおりです。

  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 特別法人事業税
  • 地方法人税

これらの法人税の税率を累算した実効税率は、約31~34%です。資本金額や所在地の違いなどにより各社の税率が異なるため、統一された税率にはなりません。

消費税

従業員である後継者やM&Aの買い手が、事業譲渡によって事業承継する際、譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、10%の税率で消費税が発生します。

消費税は、事業譲渡の費用を支払う際、費用と一緒に渡すものです。つまり、ここで発生した消費税を税務署に納付するのはM&Aの売り手側になります。

不動産取得税

従業員である後継者やM&Aの買い手が、事業譲渡によって事業承継する際、譲渡対象に不動産が含まれていると不動産取得税が発生します。不動産取得税の税率は以下のとおりです。

  • 土地・住宅3%
  • 住宅以外の建物4%

不動産取得税の税額計算は、対象不動産の固定資産税評価額に対し上記の税率を用いて算出します。

登録免許税

従業員である後継者やM&Aの買い手が、事業譲渡によって事業承継する際、譲渡対象に不動産が含まれていると不動産の登記変更手続きも行わなければなりません。その際に登録免許税が発生します。登録免許税の税率は以下のとおりです。

  • 土地1.5%
  • 建物2%

登録免許税の税額計算は、対象不動産の固定資産税評価額に対し上記の税率を用いて算出します。

以下の動画では、M&Aで発生する税金の解説をしています。ご参考までご覧ください。

事業承継の費用2:手数料

ここでは、各専門家に事業承継の相談やサポートを依頼した場合の具体的な料金例を紹介します。

  • 事業承継を税理士・公認会計士に相談する際の料金・費用
  • 事業承継を弁護士に相談する際の料金・費用
  • 事業承継をM&Aアドバイザーに相談する際の料金・費用
  • 事業承継をコンサルティングに相談する際の料金・費用

説明内に記載する金額はあくまでも一例です。実際に相談や業務依頼をする場合は、事前に見積もりを取って金額確認してください。

事業承継を税理士・公認会計士に相談する際の料金・費用

事業承継で税理士や公認会計士に依頼できる業務と費用相場は以下のとおりです。

  • 初期相談:基本的に無料だか有料(1万円程度)の事務所もある
  • 納税額の計算:10万円~60万円
  • 自社株式や事業用資産の評価額算定:数十万円~
  • 顧問契約:月10万円~
  • 事業承継税制の手続き:50万円~250万円
  • M&Aによる事業承継のサポート:M&A対価の5%~10%

M&Aによる事業承継のサポートができる税理士・公認会計士は限られています。依頼を検討する場合は、実績を確認しましょう。

事業承継を弁護士に相談する際の料金・費用

事業承継で弁護士に依頼できる業務と費用相場は以下のとおりです。

  • 初期相談:5千~1万円(30分)、初回は無料だが次から有料などの場合もある
  • 遺言書の作成:30万円~
  • 顧問契約:月10万円~
  • M&Aによる事業承継のサポート:M&A対価の5~10%

M&Aによる事業承継のサポートができる弁護士は限られています。依頼を検討する場合は、実績を確認しましょう。

事業承継をM&Aアドバイザーに相談する際の料金・費用

事業承継でM&Aアドバイザーに依頼できる業務と費用相場は以下のとおりです。

  • 初期相談:ほとんどが無料だが有料(1万円程度)の場合もある
  • 自社株式や事業用資産の評価額算定:10万円~
  • M&Aによる事業承継のサポート:M&A対価の5%(最低報酬額制度あり)

上記の費用目安は、完全成功報酬制のM&Aアドバイザーのものです。完全成功報酬制でないM&Aアドバイザーの場合、着手金や中間金、月額報酬などが発生する場合があります。業務を依頼する前に料金体系の確認と費用見積りを取っておきましょう。

以下の動画では、M&Aの手数料について解説しています。ご参考までご覧ください。

事業承継をコンサルティングに相談する際の料金・費用

事業承継で経営コンサルティングに依頼できる業務と費用相場は以下のとおりです。

  • 初期相談:無料または5千~1万円(30分)
  • 税金対策:20万円~
  • 自社株式や事業用資産の評価額算定:20万円~
  • 顧問契約:月20万円~
  • M&Aによる事業承継のサポート:M&A対価の5%~10%

経営コンサルティングの場合、料金が高めの傾向があります。しかし、各社により状況は異なるため、検討する際は費用見積もりを取って比較しましょう。

事業承継の相談先

事業承継を相談できる主だった機関は、以下のとおりです。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • 商工団体
  • 金融機関
  • 士業事務所
  • M&A仲介会社
  • コンサルティング会社

各機関の概要や特徴などを説明します。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁からの委託事業として各都道府県に設置されている公的機関です。中小企業・小規模事業者の事業承継サポートを専門に行っています。

親族内事業承継、社内事業承継、M&Aによる事業承継のどれでも相談対応しており、基本的に費用は無料です。ただし、外部の士業事務所やM&A仲介会社を紹介され、それらの機関に業務を依頼した場合は、各機関所定の費用が発生します。また、M&Aの仲介業務は行っていません。

事業承継・引継ぎ支援センター独自の取り組みとして行っているのが、後継者人材バンクです。後継者人材バンクでは、中小企業の事業承継を希望する個人起業家と、後継者不在の中小企業・小規模事業者のマッチングサービスを行っています。

商工団体

商工団体とは、各地域に運営されている自由会員制の公益経済団体です。会員である中小企業や個人事業主に対し、事業活動の各種支援を行っています。具体的な商工団体としては、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会などです。

商工団体では、経営相談の一環として事業承継の相談も受けつけています。ただし、相談ができるのは基本的に会員のみです。会員になるためには、入会費用と年会費用が発生します。

また、事業承継の相談は可能ですが、事業承継・引継ぎ支援センターのような事業承継の具体的なサポートは行っていません。

金融機関

銀行や信用金庫などの取引金融機関でも、事業承継の相談が可能です。M&Aによる事業承継のサポートを行う金融機関も増えてきています。各支店のネットワークにより、金融機関独自のM&A情報を得られるかもしれません。

ただし、注意点としては、全ての金融機関の支店がM&Aに対応しているわけではないことと、親族内事業承継や社内事業承継の具体的なサポートには対応していないことが挙げられます。

士業事務所

税理士、公認会計士、弁護士などの士業事務所でも事業承継の相談が可能です。顧問契約を結んでいる士業事務所であれば、自社の実態を把握しているため、有益な相談ができるでしょう。

特に事業承継の場合、税金の相談、遺言書の作成、自社株式・事業用資産の評価算定などで、何らかの士業に頼る場面があります。また、昨今はM&Aのサポート業務に進出している士業事務所も増えており、そのような士業事務所であれば、M&Aによる事業承継の相談も可能です。

M&A仲介会社

後継者不在によりM&Aによる事業承継を目指す場合、M&A仲介会社に相談するのが一般的です。ほとんどのM&A仲介会社では、無料で相談を受けつけています。また、M&A仲介会社には、税理士、公認会計士、弁護士などが在籍していることも多いのが特徴です。

そのため、M&Aによる事業承継だけでなく、親族内事業承継、社内事業承継のサポートについても相談対応できます。無料相談で、それらの事業承継へのサポートを確認してみるとよいでしょう。

以下の動画では、良いM&Aアドバイザーの見極め方を解説しています。ご参考までご覧ください。

コンサルティング会社

中小企業診断士の有資格者が、事業承継専門のコンサルティングを行っているケースもあり、相談が可能です。どのような事業承継の方法でも、準備段階から全てサポートしてくれるため、使い勝手はよいでしょう。

ただし、事業承継に関することを全て取り仕切るため、その分、費用は高くなりがちです。見積もりを取るといった費用面の確認をしてから、依頼するかどうか決めましょう。

事業承継を支援する税制

ここでは、事業承継を支援する税制として、以下の税制や特例を紹介します。

  • 法人版事業承継税制(特例措置)
  • 法人版事業承継税制(一般措置)
  • 個人版事業承継税制
  • 経営資源集約化税制
  • 登録免許税・不動産取得税の特例

どのような税制や特例なのか、内容を確認しましょう。

法人版事業承継税制(特例措置)

事業承継税制とは、中小企業や個人事業主が親族内事業承継を行った際に、要件を満たしている後継者が一定の手続きを行うことで相続税または贈与税の納税が猶予され、最終的には納税免除も可能な制度です。

法人版事業承継税制と個人事業主版事業承継税制では細部が異なるため、分けて説明します。また、法人版事業税制には、期間限定の特例措置と期限のない一般措置があるため、まずは法人版事業承継税制の特例措置の概要説明です。

特例措置では、一般措置よりも要件が緩和され、事業承継税制を活用しやすくなっています。ただし、一般措置では不要となっている特例承認計画を都道府県知事に提出し、認定を受けなければなりません。

特例承認計画には、認定経営⾰新等⽀援機関(商⼯会、商⼯会議所、⾦融機関、税理⼠など)による所見の記載も必要です。特例措置の適用期限は、2018(平成30)年1月から2027(令和9)年12月までの10年間ですが、特例承認計画の提出期限が2024年3月31日までとなっています。

法人版事業承継税制(一般措置)

法人版事業承継税制の特例措置と一般措置の主な違いを比較するため、以下の表に内容をまとめます。

法人版事業承継税制

一般措置

特例措置

特例承認計画の提出

不要

必要(2024年3月まで)

適用期限

無期限

2027年12月31日までの相続・贈与

対象株式数

最大3分の2

全株式

納税猶予割合

贈与100%・相続80%

贈与・相続とも100%

承継パターン

複数の株主から1人の後継者

複数の株主から最大3人の後継者

雇用確保要件

承継後5年間、平均8割の

雇用維持が必要

弾力化

経営環境変化に対応した免除

なし

あり

相続時精算課税の適用

60歳以上の者から18歳以上の

推定相続人・孫への贈与

60歳以上の者から

18歳以上の者への贈与

上表にあるように、事業承継税制の適用を維持するためには、後継者が経営者として存在し、従業員の雇用数も一定以上の人数を維持しなければなりません。

個人版事業承継税制

個人版事業承継税制は、現在のところ、2028(令和10)年までの時限措置となっています。個人版事業承継税制の主な内容は以下のとおりです。

個人版事業承継税制

措置内容

特例承認計画の提出

必要(2024年3月31日まで)

適用期限

2028年12月31日までの相続・贈与

対象資産

事業用資産

納税猶予割合

贈与・相続とも100%

承継パターン

先代1人から後継者1人(原則)

贈与要件

全事業用資産を贈与すること

雇用確保要件

雇用要件なし

経営環境変化に対応した免除

あり

経営承継円滑化法認定の有効期限

最初の認定の翌日から2年間

経営承継円滑化法とは、「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律」のことです。経営承継円滑化法では、以下のことが取り決められています。

  • 事業承継税制
  • 事業承継時の⾦融⽀援措置
  • 遺留分に関する⺠法の特例
  • 所在不明株主に関する会社法の特例

経営承継円滑化法は、円滑な事業承継が行われるようにする総合的支援策の基礎となる法律です。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制は、M&Aによる事業承継の買い手サイドを支援するための税制です。経営資源集約化税制には、以下の2つの措置が用意されています。

  • 中小企業経営強化税制
  • 中小企業事業再編投資損失準備金

それぞれの措置の概要を説明します。

中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは設備投資減税のことです。経済産業局やその他の認定機関へ事前に経営力向上計画を提出し認定を受けた中小企業が、計画に基づいて一定の設備を取得した場合、以下のどちらかの減税措置を得られます。

  • 投資額の10%を税額控除
  • 全額即時償却

なお、資本金が3,000万円超の中小企業の税額控除は、7%までとなります。また、現状では2025(令和7)年3月31日までの設備投資が対象となっていますが、延長される可能性はあるでしょう。

中小企業事業再編投資損失準備金

中小企業事業再編投資損失準備金とは、準備金の積立による法人税の納税猶予です。2024年3月31日までに経営力向上計画の認定を受けた企業が、計画に基づき買い手として株式譲渡によるM&Aを行った場合、その対価の最大70%までを準備金として5年間積立て、その積立金は損金算入できます。

ただし、6年後から5年間かけて均等割で取り崩し、その間は同額を益金算入しなければなりません。つまり、最初の5年間は一定額の法人税の納税猶予となりますが、次の5年間で猶予分を益金として法人税対象額とします。なお、M&Aの取得費用10億円以下が条件です。

登録免許税・不動産取得税の特例

登録免許税・不動産取得税の特例とは、事業譲渡、会社分割、合併のうちいずれかのM&Aを行った買い手が、課せられる不動産取得税と登録免許税の軽減措置を得られるものです。

ただし、2024年3月31日までに経営力向上計画を提出し中小企業等経営強化法の認定を受けた企業が、計画に基づいてM&Aを実施しなければなりません。まず、登録免許税の税率軽減内容は以下のとおりです。

  • 合併の場合:0.4%→0.2%
  • 会社分割の場合:2%→0.4%
  • 事業譲渡の場合:2%→1.5%または1.6%

また、不動産取得税の場合は税率の6分の1相当分が軽減されます。

事業承継向け補助金・融資

事業承継向け補助金には、中小企業庁が運営している「事業承継・引継ぎ補助金」があります。

また、事業承継向け融資は、各金融機関がさまざまなタイプのものを用意していますが、ここでは、政府系金融機関である日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を取りあげました。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金には、以下の3つのカテゴリーがあります。

  • 経営革新補助金
  • 専門家活用補助金
  • 廃業・再チャレンジ補助金

各補助金の概要を説明します。

経営革新補助金

経営革新補助金は、事業承継を契機に新たな経営に関する取組を行った、または行う予定の場合に、経営への投資費用を補助金の対象とします。その他の条件は以下のようになっています。

  • 補助率:対象経費の3分の2、または2分の1以内
  • 補助金下限:100万円
  • 補助金上限:800万円、または600万円

後述する廃業・再チャレンジ補助金と重複申請が可能であり、その場合は上限額が150万円加算されます。

専門家活用補助金

専門家活用補助金は、M&Aによる事業承継を行った売り手側、買い手側それぞれに対し、M&A仲介会社やその他の支援機関に支払った手数料が対象です。その他の条件は以下のようになっています。

  • 補助率:対象経費の3分の2、または2分の1以内
  • 補助金下限:50万円
  • 補助金上限:600万円

後述する廃業・再チャレンジ補助金と重複申請が可能であり、その場合は上限額が150万円加算されます。

廃業・再チャレンジ補助金

廃業・再チャレンジ補助金は、新たな事業を開始するために既存事業を廃業する際の廃業にかかる費用が対象です。その他の条件は以下のようになっています。

  • 補助率:対象経費の3分の2以内
  • 補助金下限:50万円
  • 補助金上限:150万円
ご参考:事業承継・引継ぎ補助金

M&A支援機関登録制度

M&A支援機関登録制度とは、中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」の順守を宣言したM&A仲介会社や士業事務所などが、中小企業庁に申請し認定された場合に、インターネット上のM&A支援機関データベースに登録されるものです。

実は、事業承継・引継ぎ補助金のうちの専門家活用補助金は、このM&A支援機関データベースに登録されている専門家に支払った手数料のみが補助金の対象になります。

ご参考:M&A支援機関登録制度

事業承継・集約・活性化支援資金

日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、事業承継のための投資資金や運転資金を融資するものです。融資限度額は以下のように設定されています。

  • 国民生活事業:7,200万円
  • 中小企業事業:7億2,000万円

国民生活事業とは個人事業主や小規模事業者向け、中小企業事業とは中小企業向けを意味します。

ご参考:事業承継・集約・活性化支援資金

事業承継の費用まとめ

事業承継では、さまざまな費用が発生します。その際に、事業承継を支援する税制や補助金などを活用すると、自己負担費用を大きく減らせるかもしれません。

ただし、税制や補助金の活用は申請の手続きを伴うものです。適切な手続きを踏まないと、認められない可能性があります。事業承継の費用に関する手続きを進める際は、各種専門家のサポートを受けるのが得策です。

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