株式譲渡とは?手続きの流れやメリットと中小企業における注意点を解説!
株式譲渡はM&A手法の中の一つで、もっとも多く用いられる手法です。株式を移転させるだけなので事業への悪影響が少なく、事業譲渡などに比べると税金面でもメリットがあります。M&A全体も株式譲渡も今後はより件数が増えていくでしょう。
目次
株式譲渡とは
株式譲渡とは、譲渡企業の株主が保有している株式を譲受企業に引き渡すことで経営権を移行させ、その対価として金銭を受け取ることをいいます。
株式譲渡はM&A手法のうちの一つで、複数あるM&A手法の中でも、もっともよく用いられる方法でしょう。
株式譲渡の取引方法
株式譲渡はM&A手法の一種ということでしたが、株式譲渡の中でもさらに以下の三種類に分けられます。
- 相対取引
- 市場買付け
- TOB
いずれも株式を売買する点では共通していますが売買方法が異なります。それぞれの方法について解説していきます。
相対取引
相対取引は、企業の売却側と株主が直接株式を売買する株式譲渡方法です。株主が経営者の場合は、売却側企業の経営者と買収側企業の経営者が直接株式を売買するということです。株主が分散している場合は、株主それぞれに個別に連絡する必要があります。
買取価格についてもそれぞれの株主との個別交渉になります。ただし一般的には、株主によって売買価格は変動させず、同一価格での売買が多いでしょう。また非上場株式の場合は後述する市場買付けとTOBは選択できません。非常上場株式で株式譲渡を行う際は、相対取引一択になります。
市場買付け
上場株式の場合は市場買付けという株式譲渡方法を選択できます。市場買付けは名前の通り株式市場から株式を買い集めます。市場買付けによって発行済株式総数と潜在株式総数の合計の5%より多く株式を取得した場合、取得日から5営業日以内に管轄財務局に大量保有報告書を提出しなければなりません。5%ルールと呼ばれることが多いでしょう。
5%ルールの後に1%より多く株式保有割合が変動すると、変更報告書を提出する必要があります。1%ルールと呼ばれることはあまりないですが、5%ルールとセットで1%ルールと把握しておくと良いでしょう。
市場買付けは相対取引と比較すると株式を買い集めやすいメリットがありますが、上記の通り複数のルールがあります。また株式の買収が市場に明らかになってしまい、株式価格が高騰する可能性もあります。デメリットが大きいため、市場買付けは株式譲渡の方法としてあまり一般的ではありません。
TOB
TOBはTake Over Bidの略で、日本語では「公開買付け」です。公開買付けという名前の通り、TOBは不特定多数の株主に対して買付期間、買付価格などを公開し、大々的に株式を買収します。この点でTOBは市場買付けと似ていますが、TOBは市場外で行うという特徴があります。
公開買付けは市場内での取引なのに対し、TOBは市場外の取引になります。TOBでは、買収側の企業が株主にいくらで買い取りますという旨を通知し、それに賛同した株主が市場外で売却するという流れになります。この際の株価はある程度上乗せされることが多く、上乗せ分をプレミアムと呼びます。
譲渡制限株式とは
企業によっては、譲渡制限株式を発行している可能性があります。譲渡制限株式とは、株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式のことです。自社株が知らない間に買い占められ、会社を乗っ取られてしまうようなリスクを避けるために譲渡制限株式は発行されます。
譲渡制限株式を株式譲渡によって売買する場合、株式譲渡承認請求書の提出が必要です。提出先は取締役会や株主総会になっているケースが一般的でしょう。経営陣や経営者個人が承認機関ということになっている場合もあります。株式譲渡承認請求書には、譲渡する株式数、買収側の氏名などを記載します。
このように譲渡制限株式は株式譲渡時にも制限が加わりますが、あくまでも形式的なものです。なぜなら、株式譲渡を実施している時点で売却側企業は明確に株式を売却する意志を持っているからです。ただし例外として、敵対的買収が行われている際には譲渡制限株式は効力を発揮します。
M&Aによる株式譲渡の流れ
株式を実際に譲渡するのは、株式譲渡の中の最後の工程です。M&Aによる株式上においては、以下のような手続きの流れで売買企業間の合意が取れたうえで、最終的に株式を売買します。敵対的買収の場合のみ例外です。
- M&Aアドバイザーに相談・契約締結
- 企業価値評価
- 交渉相手探し
- 秘密保持契約締結
- トップ面談
- 基本合意書取り交わし
- デューデリジェンス
- 最終交渉
- クロージング
株式譲渡も他のM&A方法も、最終的な合意に至るまでの手続きは概ね同じです。方法に応じて交渉内容や売買企業それぞれの準備は当然変わってきますが、手続きとしては最後の売買以外は進め方が前後したりが多少変わっても同じと考えて差し支えないでしょう。それぞれの手続きについて解説していきます。
M&Aアドバイザーに相談・契約締結
M&Aそのものを行うかどうかや、M&Aを検討している段階でM&Aアドバイザーに相談するのが一般的です。無料相談を受け付けているM&A仲介会社が多いので、相談段階では費用はほとんどの場合でかかりません。
M&Aアドバイザーは立場上、M&Aを成立させたいのでM&Aを推奨するケースが多いですが、相談の段階で強制されることはありません。M&Aアドバイザーの立場を認識したうえで、意見を参考にすると良いでしょう。
またM&Aアドバイザー選びは後のM&A工程やM&Aの結果に大きく影響してきます。M&A成否の大きなカギを握っている、M&Aアドバイザー選びで大部分が決まると言っても過言ではないでしょう。
もちろんM&Aアドバイザーと二人三脚でM&Aを進めるので企業側の努力も必要ですが、M&Aアドバイザーに先導してもらうことも多いです。そのため複数のM&Aアドバイザーに無料相談し、相性の良いM&Aアドバイザーを吟味するのがおすすめです。
M&Aの意思が固まり、良いM&Aアドバイザーが見つかったら仲介会社と契約を締結します。この段階での契約はあくまでもM&A仲介会社との契約なので、相手企業探しや相手企業との契約は後の工程で行います。
企業価値評価
売却側の企業は自社の企業価値評価を行う必要があります。なぜなら、適切な企業価値を把握したうえで条件提示する必要があるからです。中小企業の場合は自社に専門家が在籍していないケースが多いため、企業価値評価はM&Aアドバイザーが用意した専門家か、M&Aアドバイザーが実施する場合が多いです。
企業価値評価の方法は、インカムアプローチ、コストアプローチ、マーケットアプローチなどがあります。売却側企業の経営者が企業価値評価を行うわけではないのでこれらの手法を細かく理解する必要はありませんが、ざっくりとは把握しておくことをおすすめします。
ざっくりとでも手法を把握しておけばM&Aアドバイザーから受け取った資料の内容を理解しやすく、疑問の解消や提案に役立つでしょう。たとえば、数字上は見えないが自社に大きな価値があると考えているポイントがある場合などが挙げられます。
これらをM&Aアドバイザーや買収側企業に伝える際に、企業価値評価の方法を把握していると、主観だけではない客観的な主張をしやすいでしょう。
交渉相手探し
M&Aを希望する企業はそれぞれ交渉相手を探します。
売却側は、この段階では企業名を特定できないように概要のみを提示します。ノンネームシートと呼ばれる資料で、必要情報を提示しつつ外部に情報が漏れないようにする狙いがあります。ノンネームシートの作成や公開についてはM&AアドバイザーやM&Aアドバイザーが用意した専門家が代行します。
買収側は売却側の提示したノンネームシートから買収メリットが大きいと考えられる企業を探します。この時、基本的にはM&Aアドバイザーが希望条件にマッチする企業の情報を提示してくれます。シナジー効果や買収可能性の評価などもM&Aアドバイザーは協力的に行います。
秘密保持契約締結
売買企業がマッチングされたら、秘密保持契約を締結します。秘密保持契約とは、売却側が開示した情報を外部に漏らさないという契約です。ノンネームシートだけでは詳細な情報は分からないため、マッチング後に買収側企業は詳細な情報を開示します。
トップ面談
秘密保持契約締結後にトップ面談を行うのが一般的です。明確に決まった手続きではないものの、トップ面談を行うことで双方の考え方や認識を確認できるメリットがあります。トップ面談の段階ではM&Aに関する詳細な金額などについては触れず、ある程度雑談なども踏まえつつお互いを知っていくような流れが一般的です。
基本合意書取り交わし
双方に株式譲渡の意志が固まってきたら、基本合意書を取り交わします。
基本合意書には、株式譲渡というM&A方法、今後のスケジュール、デューデリジェンスの協力義務、などを盛り込むのが一般的です。平たく言えば、特にこの後のデューデリジェンスで大きな問題がなければM&Aを成立させましょう、といった意志確認の意味合いも持ちます。
また、基本合意書はM&A決定の法的拘束力を持つものではありませんが、M&Aの独占交渉権と秘密保持に関しては法的拘束力を持たせることが一般的です。
デューデリジェンス
デューデリジェンスはM&Aにおいてかなり重要で、なおかつ買収側企業が選択に悩むケースが多い手続きです。中小企業だけでなく、有名な大企業もデューデリジェンスで失敗している事例が複数あります。
デューデリジェンスとは、買収側が売却側の企業を調査することです。調査の観点は複数あり、IT、法務、税務、財務、事業、労務などが挙げられます。これらの観点からの情報は売却側からあらかじめ提示されているのですが、売却側が提示している情報がすべて正しいとは限りません。
意図的に情報を隠しているケースもあれば、売却側も気づいていないリスクが潜んでいるケースもあるでしょう。M&A成立後にリスク要因が発覚してしまうのを防ぐために、買収側はデューデリジェンスを実施するということです。
デューデリジェンスは、中小企業の場合はM&Aアドバイザーが用意した専門家が実施するのが一般的です。調査する観点が増えればそれだけ費用も時間もかかるので、リスクがありそうな観点に絞ることになります。
ここでの取捨選択が重要になるので、過去のM&Aの失敗事例なども調べてみて、M&Aアドバイザーとよく話し合うことをおすすめします。
最終交渉
デューデリジェンスの結果に問題がなければ、基本合意書の内容やこれまでの交渉にもとづいて最終交渉を行います。デューデリジェンスの結果に問題があった場合は、この段階でM&Aの話が流れるか、もしくは条件等を調整して進めるケースもあります。
最終交渉で争点になりやすい項目としては、クロージング後の売却側の義務、会社の売却価格や債務についてなどです。例えば売却側の義務でいうと、売却側の経営者は2年間は継続して勤務する必要がある。といったようなものです。これをロックアップ条項などと呼んだりもします。
最終契約では今までの交渉内容通りスムーズに進む場合もあれば、根本的に前提条件が変わってくることもあります。双方の合意を取れたら、最終契約を締結します。
クロージング
クロージングとはM&A取引の実施のことです。株式譲渡の場合は、売却側の株式を引き渡し、対価として買収側が現金を振り込む、といったイメージになります。これまでの交渉が適切であれば売買企業間でのトラブルは発生しにくいですが、クロージング手続き自体労力と時間がかかります。クロージングだけでなく、その前後のプレクロージングとポストクロージングという枠組みが設けられているほどです。
プレクロージングとはクロージングの準備のことで、たとえば公正取引委員会に提出する書類の準備、クロージング実施後の組織体制の整備などが挙げられます。ポストクロージングは各種手続きの実施後の作業です。具体的には、株主総会・取締役会、誓約事項の実施、財務諸表の作成、対価調整などが挙げられます。
譲渡制限株式の場合の株式譲渡手続きの方法・流れ
中小企業の場合、自社株に譲渡制限を付けているケースが多いです。そのため、譲渡制限株式の場合の株式譲渡手続きの方法・流れをご紹介します。上でご紹介した株式譲渡の大枠の流れの中の、最終交渉の後の手続きになります。
中小企業の場合は譲渡制限株式が一般的ですが、譲渡制限が付いていなくても大きく流れが変わってくるわけではありません。流れは以下です。
- 株式譲渡承認請求
- 譲渡承認機関による承認
- 株式譲渡承認通知
- 株式譲渡契約締結
- クロージング
- 株主名簿書換請求・株主名簿書換
- 株主名簿記載事項証明書交付請求・株主名簿記載事項証明書交付
それぞれの内容を解説していきます。
株式譲渡承認請求
株式譲渡承認請求は、株主が会社に対して株式を売却して良いかどうかを確認する手続きです。株式譲渡の場合は売却側企業が株式を譲渡する意向があるので、株主が確認するまでもなく売却して問題ありません。そのため、形式的に株式譲渡承認請求書を提出する形になります。
譲渡承認機関による承認
株主が株式譲渡承認請求書を提出したら、売却側企業の取締役会や株主総会で承認を行います。株式譲渡を実施する場合は取締役会も株主総会もすでに株式を売却する前提で動いているので、譲渡承認機関による承認も形式的なものに過ぎません。
株式譲渡承認通知
こちらも形式的なものですが、譲渡承認機関から株主に対して株式譲渡承認通知を送ります。2週間以内に株式譲渡承認通知が送られなかった場合は自動的に承認になりますが、形式的とはいえ株主を迷わせないためにも書類を送る中小企業が多いでしょう。
株式譲渡契約締結
一連の形式的な手続きが完了したら、売買企業間で株式譲渡契約が締結されます。契約内容にもとづき、クロージングに向けて準備を進めていきます。クロージングに向けての準備は、上でも挙げたプレクロージングと呼ばれる場合もあります。
クロージング
クロージングについては上でもご説明した通りで、ここで流れが統合されるイメージです。最終契約締結後に上記のように形式的な手続き等があって、クロージングという形で株式譲渡が実行されます。具体的には対価の支払い、株券受け渡し、といった株式譲渡契約に記載された内容です。
株主名簿書換請求・株主名簿書換
クロージングやポストクロージングの一環に含まれることが多いですが、株主名簿書換請求と株主名簿書換の手続きを行います。買収側企業が株主名簿書換請求を行い、売却側企業は株主名簿を書き換えます。
株主名簿記載事項証明書交付請求・株主名簿記載事項証明書交付
株主名簿の書き換え後に、買収側企業が株主名簿記載事項証明書交付請求を行うと、売却側企業は株主名簿記載事項証明書を交付します。これにより、書類上株主が移行したことが明確になります。
株式譲渡のメリット
株式譲渡ならではのメリットや、他のM&A方法にも共通するM&Aのメリットをご紹介します。譲渡側、譲受側それぞれメリットが異なるので、双方に共通するメリット、譲渡側のメリット、譲受側のメリットに分けて挙げていきます。
株式譲渡側・譲受側の共通メリット
まず株式譲渡側と譲受側に共通するメリットとして、株式譲渡は簡便な手続きにより短期間で成立することが挙げられます。
簡便な手続きにより短期間で成立
株式譲渡によって移行するのは株式だけです。その他の権利上何か大きな変更が生じるわけではありません。事業を切り分けて新たな組織を作ったり資産や負債の権利義務を移転させるような手続きも少ないため、譲渡側も譲受側も負担が少ないです。
株式譲渡側のメリット
次に株式譲渡側のメリットとして以下が挙げられます。
- 事業承継の実現(会社の存続)
- 経営の安定化
- 業績向上の期待
- 個人株主は税率が安い
それぞれのメリットについて解説していきます。
事業承継の実現(会社の存続)
株式譲渡によって会社を存続できます。株式譲渡は株主が変わるだけで、従業員、取引先、事業内容などをそのまま引き継ぎやすいという特徴があります。M&A自体会社の存続につながりますが、会社への影響がより少ないという理由でも株式譲渡は選ばれることが多いです。
経営の安定化
譲受側の企業は、譲渡企業の事業を伸ばす前提で株式譲渡を実施しています。そのため、会社と事業を安定させ、今後の成長が期待できます。譲渡側と譲受側でシナジー効果を発揮する場合も多く、成功すればより経営は安定し、成長していきます。シナジー効果とは、企業間のノウハウ、資産、人材などが組み合わさって相乗効果を発揮することです。
業績向上の期待
シナジー効果を発揮すれば、経営が安定化するだけでなく大幅に業績向上するケースもあります。もちろん失敗するケースも多々ある点には注意が必要ですが、事例数としては成功事例の方が多いです。統計データによって異なりますが、6~7割程度は想定通りの結果を得られているといったデータもあります。
個人株主は税率が安い
個人株主が株式譲渡を行った場合、20.315%の税金が課せられます。内訳は、所得税が15.315%、住民税が5%です。株式は個人名義になっているのが一般的なので、株式譲渡でかかる税金は基本的に20.315%ということです。
一方で、たとえば事業譲渡を行う場合、事業は法人名義になっているケースが多いので34%程度の法人税が課せられます。株式譲渡の方が税金を抑えられるのです。
譲受側のメリット
次に、株式譲渡における譲受側のメリットとしては以下が挙げられます。
- 事業に影響なくM&Aを実施できる
- 事業拡大・新事業進出の実現
譲受側のそれぞれのメリットについて解説していきます。
事業に影響なくM&Aを実施できる
株式譲渡では株式が移動するだけなので、実際の労働現場では大きな変化がありません。譲渡企業が契約している内容などをそのまま承継することになるので、契約の結び直しなども不要です。
たとえば社員にも株式譲渡があったことは伝えられますが、社員の認識としては株式譲渡があったらしいが社員にとっては何も影響がなかった、といったケースもあります。
事業拡大・新事業進出の実現
譲受側は事業拡大や新事業進出を目的に株式譲渡を行うケースも多いため、うまくいけばメリットを得られます。事例としては、まったく異なる事業ではなく、類似する事業を持つ企業を買収するケースが多いでしょう。そのため、事業内容や対象エリアを横展開で拡大していくのが一般的と言えます。
株式譲渡のデメリット・注意点
次に株式譲渡のデメリット・注意点について解説します。株式譲渡側と譲受側でそれぞれデメリット・注意点が異なるため、それぞれ挙げていきます。
株式譲渡側のデメリット・注意点
まず株式譲渡側のデメリット・注意点としては以下が挙げられます。
- 負債があると相手が見つかりにくい
- 不採算事業は対価の低下要因
それぞれのデメリット・注意点を解説します。
負債があると相手が見つかりにくい
株式譲渡では、事業譲渡のように売買対象を取捨選択できません。つまり、負債がある場合は譲受側は負債も譲り受けなければならないということです。そのため、負債があると譲受側企業が見つかりにくくなるでしょう。可能であれば、あらかじめ負債をなくしておくと影響が少なくなります。
不採算事業は対価の低下要因
不採算事業がある場合も切り離して株式譲渡することはできないので、対価が低下する要因になります。負債がある場合と同様に、相手が見つかりにくくなる可能性もあります。ただし負債と比べると不採算事業はあらかじめ会社分割や事業譲渡で切り離すといったことができるので、対処しやすいです。
譲受側のデメリット・注意点
次に譲受側のデメリット・注意点としては以下が挙げられます。
- 不要な資産・負債も承継してしまう
- 簿外債務を承継する可能性
それぞれのデメリット・注意点を解説していきます。
不要な資産・負債も承継してしまう
株式譲渡では不要な負債を切り離すことができないので、譲受側が望んでいなくても承継してしまいます。負債を承継する場合は売買価格を引き下げる交渉をしたり、自社にとって不要だが市場では価値のある事業などを承継せざるを得ない場合は事業譲渡を検討するなどの方法もあります。事業譲渡では資産、負債、事業を売買企業間で交渉して決めることが可能です。
簿外債務を承継する可能性
株式譲渡では譲渡企業を包括的に承継するため、簿外債務を引き継いでしまうリスクがあります。簿外債務は貸借対照表に記載がない債務で、譲渡企業が意図的に隠している場合もあれば、譲渡企業も把握できていない場合もあります。
譲渡企業の経理がある程度適当だと、未払金などが残っているケースも珍しくはありません。簿外債務をあらかじめ清算してもらうか簿外債務を加味したうえで売買価額を調整する必要があるので、この点でも上でご説明したデューデリジェンスが重要です。
株式譲渡における中小企業の注意点
次に株式譲渡における、中小企業ならではの注意点を挙げます。大企業に当てはまらないわけではありませんが、中小企業だからこそより発生リスクが高く、注意が必要ということです。株式譲渡における中小企業の注意点として以下が挙げられます。
- 少数株主
- 名義株
- 株主が未成年者や成年被後見人
- 株主が認知症など正常な判断が取りづらい場合
- 株主が音信不通
- 株主が死亡
- 従業員持株会の株式
それぞれの注意点について解説していきます。
少数株主
大企業のM&Aの場合、少数株主がいてもスクイーズアウトという方法で持ち株比率を100%にすることも可能です。大株主が少数株主の同意を得ずに、すべての株式を取得するという方法です。
一方で、中小企業の場合は少数株主に株式が分散した結果、大株主不在でスクイーズアウトを実行できない可能性があります。スクイーズアウトでは2/3以上の議決権が必要ですが、これが集まらないということです。
中小企業で少数株主に株式が分散してしまっている場合、それぞれの株主と地道にコンタクトを取る必要があります。譲受側企業が譲渡側企業に依頼し、譲渡側企業が実施するケースもあります。
スムーズに進まないとM&Aの話自体が流れてしまう可能性があるため、譲渡側企業はあらかじめ株式を集められるよう準備を進めておく必要があります。
名義株
名義株とは、株式の実際の保有者と名義が異なる株式のことです。親族、知人、従業員などの名義を借りて株式を発行し、建前上株式を持たせている状態です。名義株がありそうな場合は、出資者の確認、配当の確認、株券の確認などが必要になります。
譲受側はデューデリジェンスなどの手続きで調査し、譲渡側はあらかじめ整理しておくとM&Aの進行がスムーズになるでしょう。
株主が未成年者や成年被後見人
株主が未成年者や成年被後見人の場合、株式譲渡に際して保護者の同意が必要になります。そのため、保護者が誰なのかを特定し、保護者に確認しなければならないということです。これについても、譲渡側があらかじめ整理して連絡を取れるようにしておくとスムーズです。
株主が認知症など正常な判断が取りづらい場合
株主が認知症などによって正常な判断が難しい場合もあるでしょう。成年後見人がいれば、上記の通り成年後見人が代理できます。しかし成年後見人がいない場合は、成年後見の手続きを行う必要があります。
手続きにはある程度手間と時間がかかるので、早めに進めておく必要があるでしょう。また成年被後見人になると取締役の欠格事由に該当し、退任扱いになります。結果的に役員の人数に影響してくる可能性もあるので、他の手続きと合わせて早めに対処しておく必要があります。
株主が音信不通
株主が音信不通で連絡が取れない場合、裁判所の許可を得て株式を売却できます。ただし音信不通の条件に該当するためには、株主名簿に記載されている住所に通知を行うことや、その他必要な努力を行うことが必要です。裁判所からの許可は最終手段です。
株主が死亡
株主が死亡している場合、相続によって株主を取得した人物を特定します。特定後に株主名簿の変更手続きを行い、後は一般的な手続き同様です。
従業員持株会の株式
従業員持株会は会社の株式を保有する従業員の集まりです。従業員持株会の株式を譲渡するためには、従業員持株会全員の同意を得るか、従業員持株会を解散させる必要があります。
株式譲渡の税金
株式譲渡では税金がかかります。株主が個人か法人かによって税金が異なるので、それぞれ解説します。
個人株主の税金
個人株主が株式を譲渡した場合、所得税と住民税がかかります。所得税は15.315%、住民税は5%、合計で20.315%です。
法人株主の税金
株主が法人の場合、法人税がかかります。法人税は29%~42%です。法人の規模と企業の年間所得金額によって法人税率が変わってきますが、中小企業の場合は30%程度が相場です。
株式譲渡の事例
最後に、株式譲渡の実際の事例をご紹介します。
マルトクによる日創プロニティへの株式譲渡
日創プロニティ株式会社は、2024年1月15日に株式会社マルトクを株式譲渡によって子会社化することを決定しました。取締役会による決議で決まったということです。日創プロニティは金属材料の加工、組み立て、塗装などを行う企業です。
一方で、マルトクは木材の加工、販売などを行う企業です。異なる素材を扱っている企業を取得することで、シナジー効果を狙ったということになります。素材を組み合わせた新たな製品作りを目指しました。
BINKSによるエフ・コードへの株式譲渡
株式会社エフ・コードは、2024年1月15日の取締役会で株式会社BINKSを株式譲渡によって連結子会社化することを決議しました。エフ・コードはデジタルマーケティングやコンサルティングを行っている企業です。
一方で、BINKSは機械学習の技術を活用したデータ分析、運用、広告施策などを行っている企業です。同業界で少しズレた事業を行っている企業間での株式譲渡なので、シナジー効果を発揮しやすい状況になります。
エフ・コードはBINKSの事業を取得することで、マーケティングやコンサルティングからデータ分析、広告運用まで幅広くデジタルサービスを提供できるようになったということです。
ワイズ・コーポレーションによるフルテックへの株式譲渡
株式会社フルテックは2024年1月15日に、取締役会で株式会社ワイズ・コーポレーションを株式譲渡によって子会社化することを決議しました。フルテックは自動ドアの販売代理店です。一方で、ワイズ・コーポレーションは組み込み系制御基板の開発・設計・製造を中心にシステム開発を手掛けています。
買収によって技術を獲得して新たな製品を開発することや、既存の販売ルートでそれらの新製品を販売することを狙った株式譲渡です。
シン・コーポレーションによるGENDAへの株式譲渡
株式会社GENDAは2024年1月22日に、カラオケ施設の運営等を行う株式会社シン・コーポレーションの株式を取得しました。
GENDAグループはクレーンゲームのオンライン事業やゲーム機のレンタル事業を行っています。一方のシン・コーポレーションは、全国 45 都道府県に 372 店舗ものカラオケボックスを展開しています。
今回の買収を通してGENDAはシン・コーポレーションが保有する全国のカラオケボックスにゲーム機を配置したり、GENDAが保有する販促のノウハウを活用することでシン・コーポーレーションの成長に寄与するとしています。
株式譲渡まとめ
株式譲渡は複数あるM&A手法の中でも定番の方法で、事例数としてももっとも多いです。株式を移転させるだけなので事業への影響が少なく、M&A実施後もスムーズに事業を継続できる点が大きな魅力です。
中小企業の場合は譲渡側の経営者が株主を正確に把握しておらず、株式譲渡が頓挫するようなケースもあります。また経理・会計業務にあまり力を入れておらず、簿外債務や整理されていない負債が残っているケースもあるでしょう。
他のM&A方法にも言えることですが、譲渡側は事前に会社の状況や資料を整備し、譲受側はデューデリジェンスに力を入れることが重要です。M&A自体の流れは、株式譲渡でも他の方法でも概ね同じです。
中小企業の場合はM&Aアドバイザーに相談するところから始まり、最終的にクロージングを行います。今回は割愛しましたが、PMIという売買企業間の統合も重要になります。
また、M&Aアドバイザーの選択によっても結果は大きく変わってくるでしょう。自分でも考えて手続きを進める必要はありますが、M&Aアドバイザー主導で進める場面も多いからです。まずは複数のM&Aアドバイザーに無料相談し、比較検討するのがおすすめです。
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