M&Aのメリットとデメリットを買い手と売り手の立場から徹底解説!
事業承継の手法としてM&Aが注目されていますが、M&Aにはメリットがある一方でデメリットもあります。この記事では、M&Aを成功させたいと考えている方に向けて、買い手、売り手それぞれの立場でのメリットとデメリットについてみていきましょう。
目次
M&Aの買い手のメリット
M&Aの買い手側のメリットとは次の6点です。
事業立ち上げの時間節約
M&Aでの買い手側のメリットとしては、時間節約のメリットが挙げられます。
ゼロから事業を立ち上げようとすると、設備や環境を整えて、人材を揃えたり育成したりしなければいけません。利益を上げられるようになるまでに、年単位の時間が必要になってしまうことが多いでしょう。
M&Aですでに設備や人材が揃っていて、利益を出している会社や事業を手に入れれば、新規事業立ち上げにかかる時間を大幅に節約できます。事業立ち上げ時の時間節約は買い手側としての大きなメリットといえます。
事業規模拡大
同業他社をM&Aで買収する場合には、事業規模の拡大のための時間節約ができるという点も買い手側のメリットです。
生産量や売上を増やすために工場や営業所を新しく立ち上げて、現在の製品やサービスと同レベルのものを提供できる人材を育てるのは時間がかかります。
M&Aですでに設備と熟練の人材のいる同業他社を買収すれば、すぐに事業を拡大できる環境と人材を手に入れることができるのです。
新規事業進出
買い手側が新規事業へ進出したい場合にもM&Aでの買収には大きなメリットがあります。
既存の事業とシナジー効果の見込める分野へ新しく進出したいと考えても、新規事業を立ち上げるのには、設備の用意と人材の育成に多大なコストと時間がかかります。
しかし、すでに進出したい分野で成功している会社を買収すれば、コストと時間をかけずにその分野の事業を自社の傘下に置くことが可能です。
また、新規事業は失敗する可能性も高いのですが、すでに売上のある会社を買収することで、買い手側の新規事業進出の失敗リスクを大幅に低減することができるというメリットもあります。
営業エリア拡張
買い手側が営業エリアを拡張したい場合にもM&Aには大きなメリットがあります。
業種によっては新規エリアの開拓が事業拡大の重要なポイントになる会社もあるでしょう。しかし、新規エリアを開拓するためには、営業所や店舗を新しく立ち上げて、その地域で新たに人材を採用する必要があり、時間とコストがかかります。
さらに、自社の知名度が低いエリアへ進出したい場合、コストをかけて営業所や店舗を立ち上げても集客に苦労する可能性が高いでしょう。
すでにそのエリアで知名度の高い会社を買収することができれば、営業拠点や人材、その会社の持つ販路や顧客、地域独自のノウハウなども手に入れることが可能です。
新規エリア開拓の時間とコストを大幅に節約できる点は買い手側の大きなメリットになります。
競争力強化
M&Aでの買収により買い手側には会社の競争力を強化できる可能性が高まるというメリットもあります。
国内では長く続いたデフレにより厳しい価格競争に巻き込まれてしまい、思うように利益を上げることが難しい状況に陥っている会社が多いのが現実です
さらに、グローバル化が進み、国内の同業他社だけでなく海外企業とも競争しなければいけない状況の中で、多くの会社で他社と差別化して厳しい競争に打ち勝てるように経営体質を強化する必要性が高まっています。
M&Aで事業規模を拡大することで、シナジー効果による他社との差別化や、スケールメリットによる仕入れコストの削減、市場でのシェア拡大が見込めるでしょう。
節税対策
M&Aでの買収には買い手側に節税効果というメリットがある場合があります。
売り手側の会社が赤字であった場合、M&Aのスキームによっては買い手側が負債を引き継ぐことになります。
引き継いだ負債は、買い手側の会社が7年間繰り越すことが可能です。負債を繰越欠損金として処理すれば、買い手側の会社の黒字と相殺して、法人税の節税に役立てることができるでしょう。
実際に税金対策としてM&Aでの買収を実施する会社もみられます。
M&Aの売り手のメリット
M&Aでの売り手側のメリットは次の通りです。
事業承継の実現
売り手側のM&Aのメリットとして、現在大きく注目されているのが後継者問題の解決です。現在、国内企業の6割以上で後継者が不在で、将来的な会社の存続が危ぶまれる状況に陥っています。
後継者が見つからなければ、事業は好調でも将来的に会社を廃業せざるを得ない状況になってしまい、従業員の雇用問題や、その会社が持つ技術やノウハウが未来に継承できないといった問題が生じる可能性が懸念されています。
そこで近年注目を集めているのがM&Aでの事業承継です。社内や親族ではなく、別の会社にM&Aで売却して会社の将来を託すことで、後継者がいなくても事業の継続を図ることが可能になるというメリットが注目されています。
従業員の雇用継続
売り手側のM&Aのメリットとしては、現在の経営者が経営を続けることができなくなっても、従業員の雇用を保障できるという点が挙げられます。
後継者問題や事業の悪化などを理由として会社を廃業することになったら、従業員は全員解雇することになります。再就職が難しい人は、そのまま路頭に迷ってしまう可能性もあるでしょう。
しかし、M&Aで会社を売却することになれば、多くのケースで従業員の雇用は買い手側の会社が継続して引き受けます。
M&Aでの会社売却には、売り手側の会社の従業員の生活を守ることができるというメリットがあるのです。
事業の選択と集中
M&Aでは、会社の全てを売却するのではなく、一部の事業のみを売却することもできます。この場合、売り手側としては事業の選択と集中が可能になるというメリットがあります。
採算が取れない事業やブランド、社内の他の部門とのシナジー効果が見込めずに、長期的に見た時に会社の成長に寄与しない部門をM&Aで売却すれば、会社の経営資源を、より発展を見込める部門へと集中的に投下することが可能になるでしょう。
売り手側としては事業の選択と集中により、限られた会社の経営資源を効率的に活かせるようになるというメリットを得られます。
売却益獲得
売り手側のM&Aのメリットとして売却益の獲得も挙げられます。
もしも、M&Aで会社を売却せずに廃業した場合には、従業員への退職金や設備などの処分費用、廃業のための法律的手続きのための弁護士などへの委託費用などが必要となり、経営者はかなりの出費を負担することになります。
M&Aで会社を売却できれば、このような出費は一切必要なく、経営者は引退後の生活費や事業のための資金など、自由に使い道を選べる豊富な資金を手に入れることができるのです。
経営者保証の解消
経営者が個人保証を負っている会社をM&Aで売却した場合には、経営者が個人保証から解放されるというメリットも得られます。
中小企業では多くの場合、会社の負債に対して、経営者個人が連帯保証人になったり、自宅を担保にしたりして個人保証を負っています。廃業後に会社の負債が残った場合には、経営者が返済を続けたり、担保を差し出したりする必要があります。
しかし、M&Aでは多くの場合、負債もまとめて買い手側の会社へ譲渡することができるので、経営者は個人保証から解放されて、さらに売却益も手に入れることができるのです。
時間短縮効果
M&Aでの事業譲渡での事業売却には、その事業への投資額を回収するまでの時間を短縮できるというメリットも売り手側にはあります。
会社に複数の事業がある場合には、利益率が低く投資額を回収できない事業が出てしまうものです。しかし、自社では利回りが低い事業であっても、他の会社にとっては宝の山の可能性もあるでしょう。
自社の不採算事業に対してシナジー効果を期待できる会社に、M&Aのスキームの一つである事業譲渡で売却すれば、自社で事業を続けるよりも早く投資額の回収が可能です。
全額回収するのは不可能でも、早めの損切で損失を最小限に抑えることができるでしょう。
M&Aの買い手のデメリット
M&Aのデメリットもみておきましょう。買い手側のデメリットは次のとおりです。
売却側人材の流出
買い手側のデメリットとしては、M&Aで買収した会社の期待していた人材が退職してしまう可能性がゼロではないことです。
M&Aでは売り手側の会社の従業員の雇用を買い手側が引き継ぐことが多いのですが、従業員が会社を売却されることに納得できなかったり、経営体制の変更についていけなかったりして退職してしまうことがあります。
買い手側のM&Aの目的が人手不足の解消であったり、キーマンとしていた人材がいたりすると、買い手側にとって人材の流出が大きなデメリットになってしまいます。
売り手側の従業員にはM&Aについての情報を開示できるようになってから丁寧に理解を求めて、人材流出を防止することが大切です。
また、売り手側は、最終契約書を交わす前に情報が流出して、従業員の間に不要な憶測からの不安が広がらないように、情報管理を厳重にしましょう。
許認可を引き継げない
業種によっては公的な許認可が必要な事業がありますが、M&Aで会社を買収した場合、業種やM&Aのスキームによっては売り手側が取得していた許認可を買い手側が引き継げないことがあるので注意しましょう。
また、本来は引き継げるはずだった許認可が、M&A成立後に売り手側に重大な違反が見つかり取り消されてしまい、買い手側が許認可を取り直す必要性が出てきた、という場合もあります。
許認可を引き継ぐことができない場合、クロージング日までに買い手側が新たに取得する必要がありますが、申請から認可されるまで1ヶ月以上かかる場合もあります。
許認可が間に合わない場合には無認可状態となってしまうので業務を開始できないかもしれません。
許認可が必要な業種の場合には、買い手側が売り手側の許認可を引き継げるのか、新規取得が必要なのか、事前によく確認しましょう。
簿外債務のリスク
M&Aの買い手側のデメリットとして、売り手側の簿外債務を見破るのが難しいという点もあります。
簿外債務とは、貸借対照表にはない債務です。通常、会社のすべての債務は貸借対照表に記載しますが、何らかの理由で買掛金や引当金が記載されていないことがあります。
中小企業では、未確定な債務は損金として認められないために、貸借対照表に記載するメリットがなく、簿外債務になってしまうことが多いようです。
売り手側の簿外債務を買い手側が見抜くことは難しいのですが、デューデリジェンスの徹底と、表明保証で回避できます。
表明保証とは、最終契約書締結までに売り手側が買い手側に開示したすべての情報の真実性を買い手側が保証することです。
もしも、最終契約書締結以降に買い手側に開示されていない問題が発覚した場合には、M&Aの破談や売り手側から買い手側への賠償金の支払いなどの罰則を最終契約書に記載することで、買い手側のリスクを低減させることができるでしょう。
PMIの失敗リスク
PMI(Post Merger Integration)とは、日本語での「経営統合プロセス」の英語の頭文字です。
M&Aは最終契約書の締結からクロージングで完了ではなく、その後の2つの会社の経営体制を統合させていくプロセスが最も困難な過程となり、この過程をPMIといいます。
買い手側も売り手側も、従業員全員がM&Aで1つの会社になって良かったと思える未来を作り出し、両社の業績もシナジーを生み出して大きな成長を遂げることができれば、M&Aの成功と言えます。
しかし、現実には統合がうまくいかずに、従業員の離職や取引先からの取引停止を招いてしまうなど、経営体制の移行に失敗する可能性があります。
また、予想していたシナジー効果を十分に発揮できずに、売り手側も買い手側も業績を伸ばすことができなかったりするリスクもあるのが、M&Aの買い手側のデメリットです。
買収価額の判断ミス
買い手側のM&Aのデメリットとして、買収価額を適切に判断できない可能性があるという点です。
M&Aでの譲渡金額の決め方は、多くの場合、売り手側企業の純資産額に、数字には表せない価値をのれん代として上乗せします。
買い手側企業としては、想定した期間内に十分に回収できるであろうと判断してのれん代を決定するのですが、M&A後に思うように利益を出せずに、のれん代の回収に失敗する例も多いのが現実です。
M&Aの売り手のデメリット
M&Aの売り手側のデメリットは次のとおりです。
マッチングミス
M&Aで会社を売却したい売り手側のデメリットとしては、適切な買い手と出会えるかどうかわからないという点です。
まず、M&Aでの売却を希望したとしても、買い手が見つかるとは限りません。日本のM&Aの成功率は4割以下といわれており、M&Aでの売却を希望する6割以上の会社は売却できずに廃業に追い込まれています。
また、M&Aでの会社の売却に成功したとしても、売却することだけに目が向いてしまうと、買い手側にとってのシナジー効果を生み出すことができずに、お互いの業績を向上させることができない結果に終わってしまうでしょう。
経営者はM&Aの完了時点で経営から身を引いたとしても、M&A後の業績が悪化すれば、買い手側に引き継いだ従業員の待遇が悪くなることが予想されます。
マッチングミスを起こさないようにするためには、M&Aでの売却の準備に時間をかけることが大切です。
売却予定時期の数年前からM&Aの専門家への相談をはじめて、時間をかけて自社のアピールポイントの整理と買い手探しを行うことで、お互いにシナジー効果を見込める最適な相手を見つけることができる可能性が高まるでしょう。
取引先の心証
M&Aで会社を売却すると、取引先からの心証が悪くなる可能性があるという点も、売り手側のデメリットとして考えられます。
長年の信頼関係によって継続されてきた取引先であれば、M&Aによって大手企業の傘下に入ったり経営者が変わったりしたら反発されてしまい、最悪の場合取引停止になる可能性もあるでしょう。
また、取引先との契約によってはチェンジオブコントロール(COC)条項が含まれている場合があります。COC条項とは、どちらかの会社でM&Aなどにより経営権の変更があった場合には、もう一方の会社が一方的に契約内容の変更や破棄ができるという内容の条項です。
M&Aでの買い手側の目的が顧客や調達ルートの確保の場合もあるので、M&Aでの会社売却を検討し始めたら、それぞれの取引先との契約内容にCOC条項が含まれていないか確認しましょう。
COC条項が含まれていたとしても、相手側に理解してもらい、問題なく会社の売却後も取引を継続できているところが多くあります。
COC条項が含まれているかどうかにかかわらず、M&Aが決まったら取引先への丁寧な説明を心がけて、会社売却の必要性と、M&A後も変わらず取引を継続できる点を理解してもらうように心がけましょう。
想定以下の売却額
売り手側のM&Aのデメリットとして、売却額が想定していた金額に届かない場合も多いという点も挙げられます。
特に、M&Aの目的が、経営者の引退後の生活費や事業資金の調達であり、目標金額が明確である場合にはこのデメリットの影響が大きくなるようです。
売却額が想定していた金額以下になる理由とは、売り急いだために買い手側に買い叩かれてしまうか、会社のM&A市場での価値が低いかのどちらかであることが考えられます。
目標としている金額で売却するためには、早めにM&Aの専門家への相談をはじめて、数年単位で準備を進め、市場価値が最も高いタイミングを判断して売却することが理想的です。
また、自社のアピールポイントを整理して、買い手側に適正価値を理解してもらえるように準備しておくことも重要です。早めにM&Aの専門家に相談しながら、より高額で売却できるように、じっくりと準備をしていきましょう。
M&Aの買い手の成功ポイント
M&Aでの企業買収を成功させるためにはどのようなポイントに注意したらいいのでしょうか。買い手側としての3つの成功ポイントをみていきましょう。
失敗を防ぐ意識
M&Aを成功させるためには、買い手側の失敗を防ぐ意識というものがとても大切です。失敗を防ぐ意識とは、当初のM&Aでの会社買収の目的を忘れずに完遂しようとする意識のことです。
M&Aを進めていると、当初の目的を忘れてしまい、どこでもいいのでとにかく他社を買収することが目的化してしまうことがよくあります。
その結果、従来の業務とのシナジー効果を生み出すことができずに、業績アップに繋がらないどころか、両社の業績悪化の原因になってしまうこともあるようです。
そのような結果にならないためにも、M&Aでの会社買収の目的にかなった会社を探すことが、M&Aでの会社買収の成功のために必要なポイントになります。
デューデリジェンスでの調査
M&Aでのデューデリジェンスとは、買収監査とも呼ばれるもので、買い手側が売り手側の会社のリスクや事業価値を徹底的に調査することです。
買い手側がM&Aに詳しい法務や財務の専門家で作るチームを売り手側の会社に派遣して、M&Aを進める上での問題点がないかどうか調査します。
このときに、買い手側としてM&Aを成功させるために注意するポイントは、売り手側の協力を快く引き出せるように心がけながら、リスクを的確に発見することです。
売り手側としては、買い手側から会社を丸裸にされるようなデューデリジェンスは、必要性は理解していても気持ちが良いものではありません。
派遣した専門家チームが上から目線で資料の提出を迫るなどすると、心証を悪くしてM&Aが破談になる可能性もあります。
一方、簿外債務や粉飾決済などの不都合な情報は隠したがるのが人情ですが、デューデリジェンスの段階で発見できなければ、買収後の大きなリスクになるでしょう。
売り手側の会社を隅々まで調査するようなデューデリジェンスを実施するのは、費用も時間もかかりすぎるので、調査範囲は絞り込む必要があります。
絞り込んだ調査範囲で的確な調査ができる専門家チームを結成して、売り手側の協力も得ながら効率的に調査を行うことが、M&Aを成功させるための重要なポイントになります。
適正な企業価値評価
最終的に買い手側にとってM&Aが成功したかどうかは、買収した金額以上の収益を買収した会社が生み出せるかどうかにかかっています。そのためには、売り手側の会社の企業価値評価を適切に行うことが、M&Aの成功のためには重要なポイントです。
M&Aで売り手側の企業価値を評価する手法は次の通り複数あります。
株価 | 上場企業の企業価値を評価する場合に使う 市場で決定される株価を企業価値とする |
資産方式 | 非上場企業に使う手法 企業の資産総額を基に計算する |
収益方式 | 非上場企業に使う手法 売り手側企業の将来の収益を予測して企業価値を算定する |
併用方式 | 非上場企業に使う手法 資産方式と収益方式を合わせて企業価値を算定する |
通常は、1つだけでなく、複数の方式を組み合わせて企業価値を算定します。将来的に回収が可能で、なおかつ売り手側が納得する買収金額を提示できるように、企業価値評価は、デューデリジェンスの結果に基づいて慎重に行いましょう。
基本合意書を取り交わすメリット
M&Aでは、デューデリジェンスを実施する前に基本合意書を交わすことが一般的です。
しかし、秘密保持義務と独占交渉以外の項目には基本的に法的拘束力をかけることがない基本合意書は、売り手側にメリットはあっても買い手側のメリットはあまり感じられないという声もあるようです。
しかし、買い手側にとっても基本合意書を交わすことには大きなメリットがあります。基本合意書のメリットについてみていきましょう。
基本合意書の必要性
M&Aにおいて基本合意書を締結する必要性とは次の2つが考えられます。
- トップ面談後の交渉で合意した内容を明文化することでお互いの信頼関係を強める
- M&Aの方向性について売り手側と買い手側で共通認識を持つこと
基本合意書を作成しなければ、交渉で合意したことは単なる口約束になってしまいます。法的拘束力がないとはいえ、基本合意書で明文化することで、M&Aについての認識をお互いに共有できるようになるでしょう。
基本合意書のメリット
基本合意書を作成するメリットとは具体的に次の通りです。
スケジュールの明文化
M&Aで基本合意書を作成するメリットのひとつが、スケジュールを明文化できるという点です。
売り手側の経営体制によっては、意思決定に時間がかかる可能性があります。そのような会社を買収したい場合に、スケジュールを明確化しておかなければ、いつまでたっても最終合意に至らない可能性があります。
基本合意書に「最終契約日の期限」もしくは「基本合意書の有効期限」を明記しておけば、その期限内での交渉が進めやすくなるでしょう。
心理的拘束性
M&Aで基本合意書を作成するメリットのひとつが、心理的な拘束を特に売り手側にかけることができるという点です。
売り手側の経営者にとって、長年自分が育ててきた会社を売却するということは、心理的な抵抗感が大きいものです。口約束だけで進めている状態では、途中で話を反故にされる可能性もあります。
法的拘束力は少ないとはいえ、基本合意書で明文化することで、売り手側のM&Aでの売却に向けた意識を固めて、その後の手続きや交渉に心理的に向かわせる効果が期待できます。
独占交渉権(買い手)
M&Aで基本合意書を作成する買い手側のメリットのひとつが、独占交渉権を設定することができるという点です。
M&Aでの独占交渉権とは、M&Aに関して他の会社との接触は一切禁じるというもので、他の会社からもっと有利な条件提示などで買収されることを防止するためのものです。
売り手側の会社を買収したいライバル企業が多い場合には、買い手側にとって独占交渉権はとても重要なものとなります。
ただし、独占交渉権は永続的にかけられるものではなく、通常は1ヶ月から6ヶ月程度の期間で設定するのが一般的です。
売り手側としては、独占交渉権は選択肢が狭まる条項でありデメリットのほうが大きいものなので、買い手側としてはこの間に交渉をまとめることが大切です。
買収価額の上限設定(買い手)
M&Aで基本合意書を作成する買い手側のメリットのひとつが、買収価額の上限を設定できるという点です。
基本合意書には、最初の交渉で両社が合意した具体的な譲渡金額もしくは譲渡金額の値幅が記載されます。さらに、デューデリジェンスで発見された問題によっては、そこからの値引き交渉が最終交渉で行われます。
もしも、基本合意書に金額が明記されていなければ、最終交渉で売り手側から金額の引き上げ交渉をされる可能性もあるでしょう。
基本合意書で価額を明記して上限金額を決めておくことで、買い手側が買収のための予算を組みやすくなるというメリットがあります。
交渉力強化(買い手)
売り手側の会社が上場企業である場合、買い手側の会社は基本合意書締結後に、M&Aの案件内容が適時開示されることがあります。基本合意書締結後に買い手側が情報を開示する理由は、買い手側の交渉力を強化するためです。
基本合意書の締結後にM&Aが破談となると、世間はデューデリジェンスで深刻な問題が見つかったためだとみなすので、売り手側の会社の信頼を損なう可能性があります。
その結果、取引停止が相次ぎ売上減少からの業績悪化につながってしまった例もあるようです。
そのために、M&A案件について買い手側から情報が公開されると、売り手側としても自社の都合での破談が難しくなり、M&Aの成立を重視するしかなくなってしまうので、買い手側の交渉力強化に繋がります。
M&Aスキーム(手法)ごとのメリット・デメリット
M&Aの手法、スキームは次の通り8つあります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 会社分割
- 株式交換
- 株式交付
- 株式移転
- 第三者割当増資
- 合併
それぞれの手法の概要と、メリットとデメリットをみていきましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手側の会社の発行済み株式を買い手側が買い取って経営権を取得するスキームです。
株式譲渡では、株主の変更により会社のオーナーが買い手側に変更されて、すべての資産と契約は買い手側に引き継がれますが、会社の法人格はそのまま残ります。中小企業のM&Aでよく使われるスキームです。
さらに株式譲渡のスキームを細かく見ていくと次の3つの手法があります。
相対取引 | 大株主などから直接株式を取得する方法で 主に非上場企業の買収で行われる |
市場買付 | 証券取引所で株式を買い付ける手法で 上場企業の買収で行われる |
公開買付 | 市場外で不特定多数の株主に対して 株式の買い付けの申込みを行う手法 |
相対取引で株主が複数いる場合や公開買付では、株主間の不公平が生じないように同一価格で株式を買い取るのが一般的です。
市場買付を選択した場合には、発行済株式の5%を超えて取得した場合には、取得日から5日以内に大量保有報告書を財務局へ届ける必要があります。
証券取引所での株の買付動向が公開されるので、株価の高騰を招きやすく、過半数の取得を目指す場合には選択されません。
株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットは次のとおりです。
- 法律的な手続きが他のスキームと比較すると簡単
- 売り手側の会社の独立性が保たれる
- 買い手側が過半数の株式を取得できれば反対株主がいても柔軟な会社運営が可能
- 許認可も買い手側に引き継ぐことが可能
株式譲渡でのM&Aのメリットについて詳しくみていきましょう。
- 法律的な手続きが他のスキームと比較すると簡単
M&Aの他のスキームと比較すると、株式譲渡では株主総会の承認や債権者保護手続などの法的な手続きが必要ないので、法的な手続きを簡単に進めることができます。
- 売り手側の会社の独立性が保たれる
売り手側の会社の法人格はそのまま残ることから、買収後も独立した会社として存続可能です。
- 買い手側が過半数の株式を取得できれば反対株主がいても柔軟な会社運営が可能
買い手側としては、過半数以上の株式を取得できれば会社の支配権を持つことができるので、反対勢力がいても抑え込めるでしょう。
- 許認可も買い手側に引き継ぐことが可能
飲食業許可や建設業許可などの公的な許認可は、株式譲渡でのM&Aでは売り手側から買い手側へ譲渡されるので、M&A後に買い手側が新規取得する必要がありません。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡でのM&Aのデメリットは次のようなものが考えられます。
- 売り手側と買い手側の会社のシナジー効果を発揮しにくい
- 意図しない簿外債務を引き継ぐ可能性がある
- 買い手側が全ての株式を集められるとは限らない
株式譲渡のデメリットを詳しくみていきましょう。
- 売り手側と買い手側の会社のシナジー効果を発揮しにくい
株式譲渡では、売り手側の会社が法人格を残したまま存続します。そのために、買い手側の会社との統合がうまくいかずに、M&Aによるシナジー効果を他のスキームよりも発揮しにくい場合があるようです。
- 意図しない簿外債務を引き継ぐ可能性がある
株式譲渡では、売り手側の会社のすべてを買い取る形になります。そのために、簿外債務も引き継ぐことになってしまう点もデメリットでしょう。
デューデリジェンスで簿外債務を発見できない場合もあるので、買い手側としては表明保証を最終契約書に盛り込むことが重要です。
- 買い手側が全ての株式を集められるとは限らない
株主が複数いる場合に、全ての株式を買い取りたいと考えても、株主の所在がわからなかったり、売却を拒否されたりして、全て集められるとは限りません。
全株式の取得を目指す場合には、買い手側はあらかじめ株主の人数や所在などを調べておいたほうがいいでしょう。
全株式の取得が難しい場合には、議決権を行使可能な過半数の取得を、できれば拒否権を発動されない3分の2以上の取得を目指すことも検討してください。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の一部もしくは全てを他の会社に譲渡することです。他のスキームと比較した場合の事業譲渡の特徴とは、会社の一部の事業だけを選択して譲渡できる点です。
複数の事業を営んでいる会社が、不採算事業を精算したいときや、事業の選択と集中をしたいときに選択されます。
ただし、株式譲渡と比較すると手続きが複雑で、法的な手続きでのコストがかかる可能性があります。
事業譲渡のメリット
M&Aのスキームで事業譲渡を選択するメリットは次のとおりです。
- 一部の事業だけを選別して譲渡対象にできる
- 法人格を残すことができる(売り手側)
- 従業員を自社に残すことができる(売り手側)
- 節税効果を期待できる(買い手側)
- 負債を引き継ぐ必要はない(買い手側)
- 一部の事業だけを選別して譲渡対象にできる
事業譲渡は会社の全てではなく、一部の事業のみを譲渡するものです。
買い手側としては従来の事業とのシナジー効果を期待できる事業だけを買い取ったり、自社の弱みを強化するために必要な事業だけを買い取ったりすることが可能です。
売り手側としては、不採算事業や他の部門とのシナジー効果を発揮できていない事業を事業譲渡で売却することで、事業の選択と集中ができ、売却益を得ることもできます。
- 法人格を残すことができる(売り手側)
事業譲渡は会社の売買ではなく、一部の事業のみの譲渡なので、売り手側の法人格はそのまま残すことが可能です。
- 従業員を自社に残すことができる(売り手側)
事業譲渡では、従業員は個別に買い手側に引き継ぐか決めることができます。売り手側が事業のみを整理して従業員は自社に残したい場合には、事業譲渡には大きなメリットがあります。
- 節税効果を期待できる(買い手側)
節税効果は、事業譲渡の場合は買収金額ののれん代の部分を損金として計上することが可能で、5年間償却することができます。のれん代の償却により5年間の節税効果を期待できるのです。
ただし、不動産や消費税課税資産も譲渡される場合には、不動産取得税、登録免許税、消費税などの負担が増加して、株式譲渡や会社分割といったスキームよりも税務負担が大きくなる場合もあるので注意しましょう。
- 負債を引き継ぐ必要はない(買い手側)
事業譲渡では売り手側の負債を引き継ぐ必要はありません。買い手側は自社に必要な部分だけを選別して買収できます。ただし、相手との交渉によって譲渡される事業に由来する負債を引き継ぐことはあります。
事業譲渡のデメリット
M&Aのスキームで事業譲渡を選択するデメリットは次のとおりです。
- 株主総会での承認が必要(売り手側)
- 従業員が移動する場合は個別承認が必要など手続きが煩雑
- 負債が残る可能性がある(売り手側)
- 譲渡した事業との競業が法律で禁止されている(売り手側)
- 許認可を引き継げない(買い手側)
事業譲渡のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 株主総会での承認が必要(売り手側)
事業譲渡で一部の事業だけをM&Aで売却する場合には、売り手側は株主総会での特別決議が必要になります。特別決議には3分の2以上の賛成が必要なので、株主が複数いる場合には、それぞれの株主の理解を得る手間などがかかる点がデメリットになる場合があります。
- 従業員が移動する場合は個別承認が必要など手続きが煩雑
事業譲渡では譲渡対象を個別に取引します。従業員や取引先が売り手側から買い手側に移動する場合には、個別での契約の承認が必要です。多くの従業員や取引先が移動する場合には、個別承認に手間がかかってしまうことがあります。
- 負債が残る可能性がある(売り手側)
譲渡する事業に由来する負債であっても、事業譲渡では買い手側が引き継ぐ必要はありません。交渉によって事業と一緒に引き継いでもらえる可能性はありますが、売り手側に負債だけ残る可能性があります。
- 譲渡した事業との競業が法律で禁止されている(売り手側)
事業譲渡を選択した場合、会社法で事業を譲渡した側の譲渡した事業との競合禁止である競合避止義務が規定されています。
不採算事業など不要な事業を譲渡する場合には問題ないでしょうが、資金作りのために事業譲渡する場合などは、譲渡した事業と同じ事業は自社ではできなくなる点によく注意しましょう。
- 許認可を引き継げない(買い手側)
飲食業許可や建設業許可などの公的な許認可が必要な業種では、事業譲渡の場合、許認可を買い手側に引き継ぐことができません。
許認可は法人に対して与えられるものなので、事業だけを別の法人に譲渡する事業譲渡では引き継ぐことが不可能です。買い手側が許認可を持っていない場合は新規取得が必要になります。
クロージング日までに買い手側が許認可を取得できないと、業務を開始できません。申請から1ヶ月以上かかることもあるので、早めに準備をしておくように注意しましょう。
会社分割
M&Aのスキームの一つである会社分割とは、会社の事業の一部もしくは全部の権利を他の会社に承継させる手法です。
会社の一部の事業の譲渡が可能であることから、事業譲渡と混同されやすいのですが、会社分割と事業譲渡には大きな違いがあります。
事業譲渡では従業員や取引先との個別の契約承認が必要です。しかし、会社分割では譲渡する事業の包括的な承継となるので、基本的に個別の契約承認は不要となります。
会社分割には、新設分割と吸収分割の2種類があります。
新設分割では、新しく会社を新設して既存の事業を新会社に移転します。会社を分社化して、経営のスリム化や倒産リスクの分散を図りたい場合に採られる手法です。
吸収分割とは、既存事業の一部を別の会社に移転する方法です。売り手側で採算が合わない事業を、よりシナジー効果を見込める会社へ売却する場合などに採られることが多い手法となります。
会社分割のメリット
会社分割のメリットは次のような点が考えられます。
- M&Aの手続きがしやすい
- 買収資金が不要(買い手側)
- 譲渡資産の売却金に対する消費税がかからない(売り手側)
会社分割のメリットの詳細をみていきましょう。
- M&Aの手続きがしやすい
会社分割は債権者の同意が不要です。また、包括的承継であるので、従業員や取引先と個別に契約を結んだり、不動産の登記をひとつずつ書き換えたりする必要もありません。
全ての取引に対して個別の手続きが必要な事業譲渡と比べると、会社分割のほうが手続きが少ない点が大きなメリットです。そのために、譲渡する事業の規模が大きい場合には、事業譲渡ではなく会社分割が選択されることが多くなります。
- 買収資金が不要(買い手側)
会社分割では、買い手側が支払う対価は現金でなくても構いません。新しく発行する新株で支払うこともできるので、買い手側としては買収資金が不足していても、会社の買収が可能です。ただし、売り手側が現金での支払いを求めてくることもあるので、その場合は交渉となります。
- 譲渡資産の売却金に対する消費税がかからない(売り手側)
事業譲渡では売り手側が手にした売却金に対して消費税が課されます。しかし、会社分割では消費税が課されません。また、一定の条件を満たした場合には、法人税と所得税の支払いも必要ないので、税負担が少ないM&Aの手法であるといえます。
会社分割のデメリット
会社分割のスキームを選択したことで生じるデメリットは次のとおりです。
- 株主総会での承認が必要
- 許認可の再取得が必要になる場合がある(買い手側)
- 財務・税務の取り扱いが煩雑になる可能性がある(買い手側)
- 簿外債務など不要な債務を引き継ぐ可能性がある(買い手側)
- 株主構成が大幅に変更する可能性がある(買い手側)
会社分割のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 株主総会での承認が必要
会社分割を行うためには、株主総会での特別決議が必要です。特別決議には3分の2以上の同意が必要なので、反対する株主が多いとM&Aできない可能性もあります。
- 許認可の再取得が必要になる場合がある(買い手側)
許認可が必要な業種を会社分割する場合には、買い手側が新規に取得し直す必要がある場合があります。
例えば、建設会社の一部を会社分割でM&Aする場合には、売り手側の建設会社が持っている建設業許可は売り手側の会社で引き続き必要なものなので、買い手側には譲渡できません。
事前に許認可についてよく確認して、再取得が必要な場合は買い手側は早めに準備を進めましょう。
- 財務・税務の取り扱いが煩雑になる可能性がある(買い手側)
会社分割は、M&Aの手続き自体は事業譲渡よりも簡単ですが、買収後の買い手側の税務と財務の取り扱いがとても煩雑になります。
会社分割には、適格分割と非適格分割とがあり、それぞれ税務上の取り扱いが変わるなど、高度な知識がないと適切に税務や財務を処理できなくなるおそれがあります。
会社分割を行う場合には、買い手側は税務や財務の処理が適切に行える体制であるかを事前によく確認して、必要であれば対応できる専門家を採用するなどの対策を行っておきましょう。
- 簿外債務など不要な債務を引き継ぐ可能性がある(買い手側)
会社分割は包括的承継なので、買収した事業の全てが買い手側に移転します。その中には、簿外債務などの買い手側には必要ない債務も含まれている可能性もあるので注意が必要です。
特に、簿外債務などはM&Aの完了後に発見されることも多く、買い手側にとっては大きなリスクになります。デューデリジェンスの徹底と、表明保証でリスクを回避しましょう。
- 株主構成が大幅に変更する可能性がある(買い手側)
新株を発行して支払い対価とした場合、新規発行して支払いに充てた株数によっては買い手側の会社の株式構成が大きく変更される可能性があります。議決権に影響する可能性もあるので、新株発行での影響は事前に検討したほうがいいでしょう。
株式交換
M&Aでの株式交換とは、売り手側の会社の株式を譲渡される対価として、買い手側の会社の株式で支払う手法のことです。
買い手側の会社は、売り手側の会社の株主に対して自社株を交付する代わりに、売り手側の会社の株式を譲り受けます。対価として支払われるのは自社株だけでなく、社債や新株予約権、現金でも大丈夫です。
株式交換では、売り手側の発行済株式を全部取得した買い手側の会社は完全親会社となり、売り手側の会社は完全子会社となります。
株式交換では、買い手側も売り手側も株主の特別決議が必要なので、敵対的M&Aではあまり使われません。友好的M&Aでよく使われるスキームです。
株式交換のメリット
株式交換でのM&Aのメリットは次のような点が考えられます。
- 買収資金を用意する必要がない(買い手側)
- 売り手側の会社を100%子会社にできる(買い手側)
- 売り手側の会社を存続させることが可能(売り手側)
- 売り手側の会社の株主は買い手側の会社の経営に参画できる可能性がある(売り手側)
- 譲渡された株式を売却して利益を得ることができる(売り手側)
それぞれのメリットの詳細をみていきましょう。
- 買収資金を用意する必要がない(買い手側)
株式譲渡では現金払いしかできないので、多額の買収資金を用意する必要があります。一方、株式交換では、買収の対価として株式や社債で支払うことができるので、買い手側は買収資金の用意の必要がありません。
買い手が時価総額が高い上場企業であれば、株式交換でのM&Aを繰り返して、自社の規模を拡大することもできます。買収した会社とのシナジー効果が発揮できて業績向上につながれば、グループ全体として上向きの成長サイクルに入る可能性も期待できるでしょう。
- 売り手側の会社を100%子会社にできる(買い手側)
売り手側の会社に複数の株主がいて、M&Aでの会社売却に反対する株主がいる場合には、株式譲渡では買い手側は売り手側の会社を100%子会社にすることは難しいでしょう。
しかし、株式交換であれば、株主総会で特別決議で承認されれば、強制的に反対する株主が持つ株式も株式交換することができるので、買い手側としては株式譲渡よりも確実に100%子会社化しやすいというメリットがあります。
なお、M&Aに反対する売り手側の株主は、株主総会で反対の意思を示した上で、自分が保有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できます。公正な価格は協議で決められ、協議で決められない場合には裁判で決定されます。
- 売り手側の会社を存続させることが可能(売り手側)
株式交換では、株主の構成が変わるだけなので、売り手側の会社は買い手側に吸収されずに法人格をそのまま残すことができます。売り手側の会社は事業をそのまま継続可能です。
- 売り手側の会社の株主は買い手側の会社の経営に参画できる可能性がある(売り手側)
株式交換では、売り手側の会社の株主に、買い手側の会社の株式が与えられるので、売り手側の会社の株主は、買い手側の会社の株主になります。
株式の保有数によっては議決権に影響を与えることも可能になり、買い手側の会社の経営に参画できるかもしれません。
- 譲渡された株式を売却して利益を得ることができる(売り手側)
買い手側が上場企業であれば、売り手側の株主が取得した買い手側の会社の株式は証券会社での売買が可能です。株式が値上がりしたら売却して利益を得ることもできるでしょう。
株式交換のデメリット
株式交換のデメリットは次のようなものが考えられます。
- 手続きが複雑
- 売り手側の会社を完全子会社化する場合でしか利用できない(買い手側)
- 不要な事業や債務を引き継ぐ可能性(買い手側)
- 株価下落のリスク(買い手側)
- 子会社が親会社の株主になる(買い手側)
株式交換のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 手続きが複雑
株式交換は会社法で手順が定められており、法律に従って厳格に株主総会での特別決議などの手続きを取る必要があります。もしも法律の定めに従わなかった場合には、株式交換無効の訴訟を起こされるリスクがあり、M&Aが順調に進まない可能性もあります。
- 売り手側の会社を完全子会社化する場合でしか利用できない(買い手側)
株式交換のスキームを利用できるのは、買い手側の会社が売り手側の会社を100%完全子会社化する場合のみです。株式の議決権を取得できる過半数や、拒否権を発動されない3分の2以上の取得でのM&Aを目指す場合は、他のスキームを採用するしかありません。
- 不要な事業や債務を引き継ぐ可能性(買い手側)
株式交換では、売り手側の会社を100%子会社化するので、売り手側の会社の全てを買い手側の会社が引き受けることになります。自社で必要ない事業や、簿外債務などのリスクも全て引き受けなければいけません。
- 株価下落のリスク(買い手側)
売り手側の株主に付与する株式を新株発行した場合には、買い手側の会社の株式の総数が増えます。M&Aをしても企業価値が大幅に向上しない場合には、株数が増加したことで1株あたりの株価が下落する可能性があるでしょう。
- 子会社が親会社の株主になる可能性(買い手側)
メリットの「売り手側の会社の株主は買い手側の会社の経営に参画できる可能性がある」の裏返しで、買い手にとってはこの点がデメリットになる場合があります。
売り手側の会社が中小企業であれば、会社の株式を経営者が全て持っている場合もあります。その場合に、株式交換でM&Aを行えば、子会社が親会社の株主になり、親会社の経営に参画する可能性もあるでしょう。
株式交付
M&Aのスキームのひとつである株式交付とは、売り手側の会社の株主に対して株式を譲り受ける対価として、買い手側の会社の株式を交付するという手法です。
対価として自社の株式を与えるという点では、株式交換と同じ手法にみえます。しかし、株式交付は令和3年に会社法で定められた新しいM&Aのスキームであり、株式交換とは大きな違いがあります。株式交付では完全子会社化する必要はありません。
株式交換では売り手側の会社の株式を買い手側の会社は100%取得する必要がありました。しかし、それでは株式の過半数、もしくは3分の2の取得でも構わない場合には株式交換の手法を使うことはできません。
また、株式交換でのM&Aが適格株式交換として認められていなければ、売り手側が譲り受けた株式の株価がM&A後に上昇した場合に、差額が譲渡益とされて売り手側へ課税される可能性もあります。
適格株式交換として優遇措置を受けるための条件が厳しく、株式を対価として支払う形でのM&Aを望んでもなかなか株式交換には踏み切れないという会社も多い、という状況がありました。
そこで、100%の完全子会社にしなければいけないという株式交換の使い勝手の悪さを修正して、税制上の優遇措置を受けるための条件を緩和したスキームが株式交付です。
株式交付を選択するためには、買い手側も売り手側も次の要件を満たす必要があります。
- 両社とも株式会社であること
- 両社とも国内の会社であり、持分会社、精算会社ではないこと
- 売り手側の会社の株式が50%以上他社に保有された子会社になっていないこと
株式交付では、買い手側の会社からの株式の交付に応じた売り手側の株主は買い手側の会社の株主になりますが、応じなかった株主はM&A後も売り手側の株主のままになります。売り手側の全ての株主がM&A後には買い手側の株主になる株式交換とはこの点も違います。
株式交付のメリット
株式交付のメリットは次のとおりです。
- 完全子会社化する必要がない(買い手側)
- 資金調達の負担を軽減できる(買い手側)
- 売り手側の会社の新株予約権の取得が可能(買い手側)
- 適格要件の条件が少ない
- 税制上の優遇措置を受けられる(売り手側)
株式交付のメリットの詳細についてみていきましょう。
- 完全子会社化する必要がない(買い手側)
株式交付では買い手側の会社は売り手側の会社の株式を100%取得する必要がありません。買い手側は経営上、株式の持分を必要なだけを取得することができます。
株式交換のように売り手側の全ての株主が買い手側の株主になる必要はなく、買い手側の会社の経営が混乱する可能性を低減できます。
- 資金調達の負担を軽減できる(買い手側)
株式交付では、売り手側の株式を取得する対価として買い手側の会社の自社株を交付できます。現金も対価とすることはできますが、全額現金で支払う場合と比較すると、買い手側の資金調達の負担は大幅に軽減できるでしょう。
- 売り手側の会社の新株予約権の取得が可能(買い手側)
株式交付で買い手側が売り手側の会社の株式を取得するときには、発行済株式の他に新株予約権も取得できます。
もしも、新株予約権を買い手側が取得できないことになると、M&A後に売り手側の経営者や第三者に新株予約権を行使されてしまい、議決権を買い手側が失う可能性があります。
新株予約権も買い手側が確保することで、売り手側との親会社、子会社の関係を確実なものにすることが可能です。
- 適格要件の条件が少ない
株式交換よりも適格要件の条件が緩いことも株式交付の大きなメリットです。株式交換では、適格要件を満たすためには買い手側から売り手側へ現金などの株式以外のものを交付しての買収ができません。
また、その他にも適格要件を満たすための条件が複雑で、法務や税務の高度な知識のある専門スタッフがいないと対応できないほど難しいものとなっています。
一方、株式交付であれば、買い手側から売り手側への対価は8割以上が株式であれば適格要件を満たすことが可能です。
- 税制上の優遇措置を受けられる(売り手側)
株式交付であれば上記の通り適格要件を受けやすく、税制上の優遇措置を受けやすい点は、売り手側としてはM&Aでの買収に応じやすくなるというメリットがあります。
買い手側から受け取る対価の8割以上を株式で受け取り、適格要件を満たせば、受け取った株価が値上がりしても、譲渡所得税が課税されません。
株式交換では将来的な税負担の可能性から買収に応じることが難しかった会社でも、株式交付であれば応じやすくなります。
株式交付のデメリット
株式交付のデメリットは次のとおりです。
- 日本で設立された株式会社しか株式交付のスキームで買収できない(買い手側)
- すでに子会社になっている会社では利用できない(買い手側)
- 対価の8割以上が株式でなければならない(売り手側)
- 情報が少ない
株式交付のデメリットの詳細についてみていきましょう。
- 日本で設立された株式会社しか株式交付のスキームで買収できない(買い手側)
株式交付のスキームを採用できるのは、買い手側も売り手側も日本で設立された株式会社である場合のみです。合同会社などの株式会社以外の会社組織ではこのスキームは利用できません。
また、このスキームでは海外の会社が親会社、子会社にそれぞれなることもできないので、海外企業とのM&Aには採用できない点も注意しましょう。
- すでに子会社になっている会社では利用できない(買い手側)
株式交付のスキームが利用できるのは、他の会社を子会社とする場合だけです。すでに買い手側が半数を超える株式を取得して子会社化している会社の株式を、さらに追加で取得するためには、株式交付の手法は利用できないので注意しましょう。
- 対価の8割以上が株式でなければならない(売り手側)
株式交付で適格要件を満たすためには、買い手側から売り手側への対価は8割以上が株式でなくてはいけません。現金も含めるのなら、現金の割合は2割未満にする必要があります。
株主構成の変更の可能性から買い手側が8割未満に抑えたい場合や、売り手側が2割を超える現金が必要である場合には、適格要件を満たせなくなる点に注意しましょう。
- 情報が少ない
株式交付のスキームは令和3年に定められたものなので、まだ実施例が少なく、情報があまりありません。株式交換のデメリットを改善したものだとはいえ、今後、予期しなかった問題点が浮かび上がってくる可能性もあります。
国税庁から発表される、株式交付に関する今後の情報に注意したほうがいいでしょう。
株式移転
株式移転とは、親会社を新規設立して、子会社となる会社の発行済株式を全て新しい親会社に移転させる手法です。グループ間で持株会社を設立したり、複数の企業を経営統合したりするときに採用されることが多いスキームです。
株式移転では、新設される親会社が株式移転設立完全親会社、完全子会社になる会社が株式移転完全子会社となります。
このスキームでは、子会社の株式は全て親会社が取得します。親会社の株式の動きは一般的に次のとおりです。
- ある会社(A社)が株式移転設立完全親会社(B社)を設立した場合には、B社の株式はA社の株主に割り当てられる
- 複数の会社(C社、D社)が経営統合するために、株式移転設立完全親会社(E社)を設立した場合には、E社の株はC社とD社の株主に割り当てられる
このスキームでは、子会社の株主から親会社に株式が移動するだけで、不動産や設備といった資産は移動しません。
株式移転のメリット
株式移転のメリットは次のとおりです。
- 資金調達の負担が少ない(買い手側)
- 少数株主を排除しての100%完全子会社化が可能である(買い手側)
- 債務を引き継ぐリスクがない(買い手側)
- 子会社はそれぞれ別法人として存続するので経営統合を急ぐ必要がない
- 従業員への影響が少ないので理解を得やすい
株式移転のメリットの詳細をみていきましょう。
- 資金調達の負担が少ない(買い手側)
買い手側の会社は、売り手側の会社の株主に対して、新設する親会社の株式を新規発行して割り当てればいいので、株式を買収するための資金を調達する必要がありません。
- 少数株主を排除しての100%完全子会社化が可能である(買い手側)
株式移転では、売り手側の会社の株主総会での3分の2以上の賛成を得ることができれば、少数株主を排除して100%子会社化することが可能です。
- 債務を引き継ぐリスクがない(買い手側)
株式移転では、新設する親会社に子会社の株式が移転するだけで、子会社はそれぞれ別法人格として存在します。資産や負債が親会社に移動することはありません。
そのために、買い手側が募債債務を含めて不要な債務を引き継ぐリスクがないというメリットもあります。
- 子会社はそれぞれ別法人として存続するので経営統合を急ぐ必要がない
株式移転では、子会社となる売り手側の会社はそれぞれ別法人格として存在し続けます。人事や労務、システムなどはM&A後も、M&A前の体制で業務を続けることが可能です。統合を早急に一つにまとめる必要はありません。
株式移転は、M&A前の体制を維持しながら、少しずつ体制を変更して統合を進めていくことが可能なスキームです。
- 従業員への影響が少ないので理解を得やすい
M&A後に売り手側の会社の従業員が、買い手側の会社の人事制度や企業文化に馴染むことができずに離職してしまうこともよくあります。
しかし、株式移転では、M&A後も子会社はそれぞれの法人として独立して存在し続けるので、人事制度や労務制度、業務内容などに大きな変更はありません。
人事制度や企業文化のすり合わせは時間をかけて行うことが可能なので、従業員への影響が少なく、M&Aへの理解を得やすいスキームといえるでしょう。
株式移転のデメリット
株式移転のデメリットは次のとおりです。
- 株価下落のリスク
- 株主構成が変化する
株式移転のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 株価下落のリスク
新設される親会社が上場企業である場合には、新規発行される株式の数によっては1株あたりの利益が減少することで、株価が下落する可能性があります。
また、会社を新設することから、管理コストの増大によって利益が減少する懸念があり、そちらも株価下落要因となる可能性があるでしょう。
- 株主構成が変化する
株式移転では、子会社となる会社の株式は全て親会社に移転して、子会社の株主は代わりに親会社の株式を受け取ります。
複数の会社を経営統合するために株主移転を行う場合には、それぞれの会社の株主が親会社の株主となり、株主構成が大きく変化します。
株主構成が変化したことで、子会社の元の経営者や株主が以前のような経営ができなくなる可能性が出てくるでしょう。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、会社が新株を発行して第三者に割り当てることです。新株を発行する会社の資金調達か、新株の割当を受ける第三者が会社の支配権を強化することのどちらかを目的として行われます。
新株を発行する会社が、50%以上の議決権を持つ新株を第三者に交付すると、交付された第三者に経営権を譲渡することができるので、M&Aの手法としても採用されることがあります。
また、資本関係を持たない会社同士が資本業務提携を行うときにも、採用される手法は第三者割当増資です。
第三者割当増資でM&Aを行う場合には、買い手側は売り手側の株式を100%取得することはできません。買い手側は既存の株主とともに、売り手側の会社経営に参画していくことになります。
第三者割当増資のメリット
第三者割当増資のメリットは次のとおりです。
- 手続きが簡単で早い
- 買い手側と売り手側に強固な関係性を構築できる
- リスク回避できる(買い手側)
- 比較的早い資金調達が可能(売り手側)
第三者割当増資のメリットの詳細をみていきましょう。
- 手続きが簡単で早い
定款で株式の譲渡制限を設けていない公開会社であれば、取締役会決議で第三者割当増資の新株発行ができます。
株式の発行価額が有利に設定されている場合には、株主総会の特別決議が必要になる場合もありますが、多くの場合、他のスキームと比較すると第三者割当増資は簡単な手続きでM&Aが行える点が大きなメリットです。
- 買い手側と売り手側に強固な関係性を構築できる
第三者割当増資を行えば、売り手側と買い手側の会社の間に資本関係ができあがることから、関係性を強固にすることが可能です。買い手側の会社の事業とのシナジー効果をより生み出しやすい環境を構築しやすくなるでしょう。
- リスク回避できる(買い手側)
買い手側としては、売り手側の会社の経営に参画できるようになりながら、100%株主にならないことでリスク回避もできるというメリットがあります。
100%株主であれば、売り手側の会社が何か問題を起こしたときに、株主に道義的責任が問われる可能性があります。しかし、第三者割当増資であれば、他にも株主が存在しているので、責任を他の株主と分担できリスク回避が可能です。
- 比較的早い資金調達が可能(売り手側)
公開会社であれば、取締役会決議で新株もしくは新株予約権の発行が可能です。他のM&Aのスキームと比較すると、比較的短期間で資金調達が可能で、会社の財政基盤の強化に役立ちます。
また、第三者割当増資で調達した資金には返済義務がない点も、売り手側には大きなメリットとなるでしょう。
第三者割当増資のデメリット
第三者割当増資のデメリットは次のとおりです。
- 1株あたりの価値が希薄化する恐れがある
- 増税リスク(売り手側)
- 経営者が個人的な資産を増やすことができない(売り手側)
第三者割当増資のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 1株あたりの価値が希薄化する恐れがある
第三者割当増資によって新株を発行すると、増資を受ける売り手側の会社の発行済み株式の総数が増加します。
M&A後に企業価値が向上して株価が上昇する可能性もありますが、M&Aのシナジー効果をうまく発揮できなければ1株あたりの価値が下がってしまうでしょう。既存株主の反発を受ける可能性があります。
- 増税リスク(売り手側)
第三者割当増資によって売り手側の会社の資本金が増加したことで、税金の負担が重くなる可能性があります。資本金1億円以上になってしまうと、法人税率の軽減税率が適用されなくなる点に注意しましょう。
- 個人的な資産を増やすことができない(売り手側)
第三者資本増資では、売却金は売り手側の会社や経営者には入ってきません。株式を新規発行することで、会社の資本を増強するための手段です。経営者個人の資産を増やすことにはつながらない点に注意しましょう。
合併
合併とは、2つの会社を1つの会社に統合するM&Aのスキームのことです。合併では売り手側の会社が、買い手側の会社に包括的に承継されます。
売り手側の会社は買い手側の会社に全ての権利義務を譲渡して消滅するので、買い手側の会社を存続会社、売り手側の会社を消滅会社と呼びます。
合併の手法は2種類です。一つが買い手側の会社がそのまま存続会社となる場合の吸収合併、もう一つが新設した会社が存続会社となる新設合併です。
しかし、新設合併では許認可等を新規取得する必要があるので、多くの場合は吸収合併を採用することが多いようです。
合併のメリット
合併のメリットは次のとおりです。
- スピード感を持ってM&Aを実施できる(吸収合併の場合)
- 資金調達の負担を軽減できる(買い手側)
- 対等な立場でのM&Aというイメージづくりができる
合併のメリットの詳細をみていきましょう。
- スピード感を持ってM&Aを実施できる(吸収合併の場合)
吸収合併では、消滅会社の雇用や債務、債権などのすべての権利義務が包括的承継で存続会社に引き継がれます。個別に雇用関係を契約し直す手間などをかけずに済むことから、スピーディーなM&Aが実施可能です。
- 資金調達の負担を軽減できる(買い手側)
合併でのM&Aでは、消滅会社の株主への対価として株式を充てることも認められています。自社株で支払うことも可能なので、買い手側は大規模な資金調達の負担を負わずにすむという点が大きなメリットです。
- 対等な立場でのM&Aというイメージづくりができる
株式譲渡や事業譲渡でのM&Aの場合、買い手側が強大な力関係で売り手側を飲み込んでいくというイメージがあり、買い手側の会社のイメージ低下につながることがあります。
しかし、合併では、存続会社と消滅会社にはなるものの、出資比率1対1の対等合併を選択することも可能です。M&Aの他のスキームと比較すると、対等な立場でのM&Aというイメージづくりをしやすい点も企業によってはメリットになり得るでしょう。
合併のデメリット
合併のデメリットは次のとおりです。
- 手続きが煩雑
- 株式の価値の希薄化リスク
- PMIの負担が他のスキームよりも大きい
合併のデメリットの詳細をみていきましょう。
- 手続きが煩雑
M&Aを合併で行うためには、開示事項の備置き(事前・事後)、債権者保護手続き、株主総会での特別決議、といった手続きが必要で、他のM&Aのスキームと比較しても手続きが多くて煩雑です。M&Aを実施するまでに時間や労力がかかる点がデメリットになるでしょう。
- 株式の価値の希薄化リスク
売り手側の会社の株主への対価として新株を発行した場合、M&Aで企業価値が大きく向上しなければ1株あたりの価値が希薄化し、株価が下落する可能性があります。買い手側の会社の既存株主への影響が懸念されるところです。
- PMIの負担が他のスキームよりも大きい
他のスキームでは、M&A後も売り手側の法人格が残り、グループ内の他社という緩い形での統合から入ることもできます。しかし、合併ではM&A後はすぐに2つの会社が1つの会社に集約されるので、PMIの負担が大きくなります。
クロージングに向けた統合の準備段階から、スムーズな統合に向けて、システムの統合、経営戦略や企業文化のすり合わせなどを進めていくことが大切です。
M&Aが従業員に及ぼすメリット・デメリット
M&Aは従業員にもメリットとデメリットがあります。従業員に対するメリットとデメリットをみていきましょう。
M&Aが従業員に及ぼすメリット
M&Aが従業員に与えるメリットは次のような点が考えられます。
- 待遇が良くなる可能性
- キャリアの幅が広がる可能性
- 大手企業のグループ社員になれる可能性
M&Aが従業員に与えるメリットの詳細をみていきましょう。
- 待遇が良くなる可能性
売り手側がM&Aする理由が事業の悪化である場合には、従業員の給料や賞与、福利厚生などの待遇が悪くなっている可能性もあります。
M&A後には、買い手側の会社の雇用条件に合わせることが一般的なので、売り手側の会社の従業員は待遇が改善する可能性があるでしょう。
- キャリアの幅が広がる可能性
売り手側も買い手側も、今までに社内になかった事業がM&Aで一つの会社になれば、従業員は新しい分野に挑戦できる可能性が広がります。
また、M&A前には他の会社の従業員だったもの同士が、同じ会社で働くようになることで、今までに得ることができなかった仕事のやり方や考え方などを吸収できるようになる可能性もあるでしょう。
- 大手企業のグループ社員になれる可能性
中小企業が大手企業の傘下になるM&Aである場合には、M&Aをきっかけに、大手企業のグループ社員になれる可能性もあります。
福利厚生の内容が良くなったり、住宅ローンの審査が通りやすくなったりするなど、大手企業の社員ならではのメリットを享受できる可能性もあるでしょう。
M&Aが従業員に及ぼすデメリット
M&Aが従業員に与えるデメリットは次のような点が考えられます。
- 今までと同じ条件で働き続けることができない可能性
今まで地域限定の業務しか行わない中小企業で転勤なしで働いていたのに、全国規模の大企業とM&Aしたために、遠方への転勤を命じられる、といった可能性はゼロではありません。
M&Aで待遇が良くなっても、勤務地など、今までと同じ条件で働き続けることができなくなる場合もあります。
- 売り手側の従業員が仕事でストレスを抱えやすくなる可能性
会社が完全に他の会社に買収された場合、経営体制が完全に変更されて、指揮系統は異なったものになります。同じような仕事をしていても、細かい部分で指示される内容や仕事の進め方が変わり、売り手側の従業員はM&A後にストレスを感じる可能性もあるでしょう。
- 以前の社長とは離れ離れになる可能性
家族経営的な雰囲気の中小企業の場合、従業員がその会社で働き続ける理由が、経営者やその家族との信頼関係であることもあります。
そのような会社が、経営者の引退などを理由に大手企業にM&Aで買収された場合、以前の社長とは違う上司の指揮のもとで働くことに、違和感を覚えるという人もいるようです。
M&Aが顧客に及ぼすメリット・デメリット
M&Aが顧客や取引先に及ぼすメリットとデメリットもみておきましょう。
M&Aが顧客に及ぼすメリット
M&Aが顧客や取引先に及ぼすメリットは、販路や調達先が拡大される可能性と、スケールメリットによる売上増加の可能性です。
M&Aで2つの会社が統合することで、お互いの会社の顧客や取引先との関係性が作られます。M&Aした会社の顧客や取引先も、販路を広げて売上拡大できたり、今まで取引がなかった調達先を確保できる可能性があります。
また、スケールメリットを求めた同業でのM&Aの場合には、製造量や販売量が増加するので、顧客や取引先との取引量も増えて、売上がアップする可能性も考えられるでしょう。
M&Aが顧客に及ぼすデメリット
M&Aが顧客や取引先に及ぼすデメリットは、取引停止の可能性がある点です。
M&Aをした会社が、顧客や取引先と同業の会社と統合した場合には、競合関係になってしまうことから、取引が停止される可能性もあります。
また、完全な取引停止には至らなくても、M&A後に取り扱い製品の統廃合などにより、一部商品の取り扱い停止の可能性も考えられるでしょう。
M&Aが地域社会・行政に及ぼすメリット・デメリット
M&Aが地域社会・行政に及ぼすメリットとデメリットもみておきましょう。
M&Aが地域社会・行政に及ぼすメリット
後継者問題や業績の悪化で廃業するしかないと思われていた会社が、M&Aでの売却により継続できることになれば、地域社会にとっては雇用が維持されるというメリットがあります。
雇用が維持されれば、地域からの人口流出を防ぐことができるので、結果として行政では税収も確保されるでしょう。
M&Aが地域社会・行政に及ぼすデメリット
M&Aが地域社会や行政に及ぼすデメリットは、M&A後に今まで通りの事業が継続される保証がない点と、地域に馴染めない企業が進出してくる可能性がある点です。
M&Aでは、いったん売り手側の会社の全てを受け入れた上で、徐々に事業を整理していく可能性があります。地域で多くの雇用を生み出している部門が整理されて、多くの人員が整理された場合には、地域の雇用問題や人口流出の可能性もあるでしょう。
また、地元の会社とのM&Aをきっかけに環境問題を引き起こすような会社や、地域の風紀を乱すような会社が進出してくる可能性も排除できません。雇用と税収が確保される代わりに、住環境の悪化を招かないように地域を守ることも重要です。
M&Aが金融機関に及ぼすメリット
M&Aが金融機関に及ぼすメリットは次のとおりです。
仲介手数料の獲得
M&Aを行うためには、会計や法律のM&Aに関する高度で専門的な知識が必要です。また、適切な相手とのマッチングも大切です。
一企業では、M&Aについて知見の高いスタッフや顧問を揃えることは難しいので、取引のある金融機関が買い手と売り手の間に入り、仲介をすることもよくあります。
金融機関にとって、M&Aで仲介を行えば、着手金、顧問料、成功報酬などの仲介手数料を獲得できる点がメリットになるでしょう。
貸し倒れ防止
売り手側の会社の事業が悪化しており倒産危機にある場合、M&Aで会社を売却することができれば、融資している金融機関としては貸し倒れを防止できるというメリットがあります。
そのまま倒産や廃業をされてしまえば、融資の全額回収はほぼ不可能です。しかし、負債も買い手に引き継がれるスキームでのM&Aであれば、買い手が返済を続けてくれるでしょう。
新規ビジネスモデル創出(地方銀行、信用金庫)
ネット銀行の台頭などにより、地方の銀行や信用金庫では生き残りをかけた統廃合などが進んでいます。
一方、地方の中小企業では後継者不足や人手不足などで、業績は好調でも廃業危機にある会社が沢山あります。
業績悪化に苦しむ地方銀行や信用金庫にとって、地元企業のM&Aのサポート事業に乗り出すことは、新しいビジネスモデルを創出できるとてもいいチャンスと考えられるでしょう。
M&Aが士業に及ぼすメリット
M&Aが士業に及ぼすメリットは次のとおりです。
弁護士
M&Aにおいて弁護士は、全ての段階で関わる必要があります。M&Aでの弁護士の役割は、法的な面での助言や手続きのサポートを行ったり、当事者の代わりに交渉を行ったりすることです。
検討段階でのM&Aの法的リスクの調査や対策の助言、契約書などの書類の作成や手続きのサポート、債権者や株主などのステークホルダーとの交渉などを弁護士が担います。
弁護士がM&Aに関する業務を行えば、最初の相談の段階からクロージングまで、幅広い業務に携わることが可能です。
税理士
M&Aにおいて、税理士は税金対策のための助言と税務処理のサポートのために必要です。
M&Aには8つのスキームがありますが、スキームの選び方で収めるべき税額が大きく変わる可能性があります。税理士は税金対策として最適なスキームを検討して、確定申告などの税務処理を担当します。
また、財務の専門家でもあることから、公認会計士と協力して、売り手側の会社のバリュエーション(企業価値評価)も行います。
税理士事務所にとっては、M&Aのサポートを行うことは業務の幅を大きく広げられるメリットがあります。M&Aでは税理士が担当する専門分野が幅広いことから、全ての業務ではなく、一部の業務だけでも限定的に請け負うことが可能です。
公認会計士
公認会計士は会計・財務の専門家として、M&Aでは税理士と協力して、バリュエーションや財務デューデリジェンスを担当します。税理士とは異なり、税務に関する事柄は基本的に担当しません。
会計事務所によっては、M&Aのスケジュール策定などのM&Aのプロセス全体のサポートを行っているところもあります。
公認会計士だけでは、M&Aの法務と税務の部分を扱うことができません。しかし、M&Aのチームに公認会計士がいることで、公正な立場からの適切な企業価値評価が可能になり、適正価格を算定できるでしょう。
M&A成功事例
M&Aに成功した事例を紹介します。
大企業のM&A成功事例
大企業でのM&Aの成功事例は次のとおりです。
三井住友フィナンシャルグループ
2023年9月8日に、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBC)が、三井住友DSアセットマネジメント株式会社の保有する日興グローバルラップ株式会社(以下、NGW)の全株式を取得して、日興グローバルラップ株式会社を子会社化するM&Aを発表しました。
SMBCは三井住友銀行などを傘下に置く、三井グループ、住友グループの金融持ち株会社です。NGWは、資産運用と投資の助言を行う会社です。
多様化する投資家ニーズに応えられるように資産運用ビジネスの強化に取り組んでいるSMBCとしては、このM&AによってNGWのファンド選定や資産配分などの研究開発機能をグループ内で活用し、より一層公正で付加価値の高い資産運用サービスを提供できるとしています。
ニデック
2023年8月1日に、ニデック株式会社から、米国のプレス機周辺装置メーカーAutomatic Feed Company、Lasercoil Technologies LLC、及び Automatic Leasing Companyの株式の持分100%を取得して、両社をグループ会社にしたことが発表されました。
ニデックは京都市に拠点を置く電機メーカーで、特に精密小型モーターの開発と製造において世界一のシェアを誇る会社です。
ニデックが買収した米国の2社は、オハイオ州を拠点とするプレス機とその周辺機器等を製造・販売・サービスを提供する会社で、米国内での自動車ボディパーツ向け市場で70%のシェアを持っている会社です。
ニデックの子会社がプレス機の製造・販売業務をグローバル展開しており、このM&Aにより北米市場への販売を拡大できるなどのメリットが大きいとしています。
伊藤忠商事
2023年6月28日に、総合商社大手の伊藤忠商事株式会社から、TRENDE株式会社の発行済株式を追加取得して連結子会社化するM&Aが発表されました。
TRENDE株式会社は、主にP2P電力取引の技術開発及び家庭向け屋根置き太陽光サービス事業を行っている会社です。
電力価格の上昇などエネルギー問題が社会課題となる中、分散型電源の普及とP2P電力取引への期待が高まっています。伊藤忠商事としてはこのM&Aにより、脱炭素ソリューション分野での電力の地産地消プロジェクトの社会実装を進めていきたいとしています。
パナソニックホールディングス
2023年4月21日に、パナソニックホールディングス株式会社が、株式会社エクセルシャノンへの出資比率を49%から66%へ引き上げて連結子会社化するM&Aを発表しました。
今後は、パナソニックHD傘下で住宅設備、建材の製造販売を行うパナソニックハウジングソリューションズ株式会社の管掌のもとに入ります。
エクセルシャノンは株式会社トクヤマの100%子会社として1994年に設立された、純国産樹脂サッシを製造販売するメーカーで、2020年にパナソニックHDが第三者割当増資で49%の株式を取得しました。
このM&Aにより、エクセルシャノンが培ってきた高断熱仕様の樹脂サッシと、パナソニックHD製品とのシナジー効果を創出して、さらなる事業強化を図るとしています。
トヨタ自動車
2023年3月28日に、トヨタ株式会社が、富士モータースポーツフォレスト株式会社の設立を発表しました。また、富士スピードウェイ株式会社の株式の一部を譲り受け、新会社の完全子会社にしました。
この新体制により、富士スピードウェイの周辺エリアを開発するトヨタ不動産との連携をより一層強めて、モータースポーツが好きな人や、モータースポーツ界で働く人が、富士に来たいと思えるような場所づくりを目指していくとのことです。
参考:トヨタ、富士モータースポーツフォレスト・プロジェクトを推進する新会社を設立 併せて富士スピードウェイを完全子会社化し、新会社傘下へ
中小企業のM&A成功事例
中小企業のM&Aの成功事例もみていきましょう。
製造業のM&A成功事例
埼玉県朝霞市でアクリル樹脂とアクリルシートの加工を手掛けているフレコード株式会社では、経営者の年齢や健康面を理由に、従業員と顧客を守るためのM&Aで会社を譲渡しました。
譲渡先は東京都目黒区の株式会社スター・レジンです。同社では、樹脂加工分野を中心としたトータルサポートを行えるようにグループ会社を形成したいと考えています。
樹脂製品の加工と製造の環境が整っていて実績のあるフレコード株式会社であれば、シナジー効果が期待できると判断したとのことで、今後は、株式会社スター・レジンのリソースも活用して、フレコード株式会社の業績も伸ばしていきたいとのことです。
不動産業のM&A成功事例
福岡県大牟田市に本社を構えて、長年に渡り福岡県を中心に不動産業を営んできた株式会社大幸商事では、経営者の身内に後継者がいないことから、M&Aでの会社売却に踏み切りました。
縁あってスピーディな対応をしてもらえるM&A仲介会社と出会うことができ、4.5ヶ月という短期間でのM&A成立を果たせたとのことです。
譲渡先を選ぶにあたっては、従業員の今後も考えて、「生き残り」ではなく「勝ち残り」ができる会社ということを最優先に考えて、同じ福岡県内で住宅関連事業を営む株式会社エトウへ売却することになりました。
サービス業のM&A成功事例
コンサルティング会社を営むF氏は、自分の趣味であるシーシャ(水タバコ)のお店を構えたいと考えていました。しかし、未経験である自分がゼロから店舗を立ち上げることに不安を感じていたところ、M&Aで店舗を買収する方法があると知ったそうです。
仲介会社を通してM&Aができると知り、M&A総研で仲介してもらうことに決めました。結果として、オーナーの人柄がよく、店舗も総合的に高く評価できるところを紹介してもらい、買収することになりました。
最初にシーシャの店舗を買収したときには、F氏は経営を広げていく考えはなかったそうですが、このM&Aで知り合った店舗のオーナーからの人脈が広がり、今後の積極的な展開や経営の多角化も視野に入れるようになったとのことです。
M&A失敗事例
M&Aには、M&Aでの売却を希望しても売却できなかったり、他社を買収後に期待していたシナジー効果を得られずに、業績を上げることができなかったりといった失敗事例もあります。M&Aでの失敗事例もみておきましょう。
大企業のM&A失敗事例
大企業でのM&Aの失敗事例です。
LIXIL
LIXILグループは、2014年に南アフリカの住宅設備会社、グローエ・ドーン・ウォーターテックをM&Aで買収しました。それに伴い、グローエ・ドーン・ウォーターテックの子会社であった中国で水栓事業を営むジョウユウも傘下に収めました。
しかし、ジョウユウでは2008年から財務書類を偽造しており、2015年に不正会計が発覚し、同年に債務超過から経営破綻しています。この結果、LIXILは608億円の損失を計上し、社長を含む役員11人が月額報酬3ヶ月減額で責任を負うことになりました。
不正会計を見破れなかった理由は、グローエ・ドーン・ウォーターテックがジョウユウの会計システムにアクセスできない状態だったのを、LIXILに報告していなかったためです。
また、LIXIL側のデューデリジェンスが徹底していなかった可能性も大きいでしょう。LIXILとしては、再発防止のためにM&Aでの合併や買収の手続きを厳格化するなどの、内部監査体制を強化することになりました。
マイクロソフト
マイクロソフトは、2014年にフィンランドのノキアのデバイス事業を買収しました。
ノキアは1998年から2011年まで、市場占有率と販売台数で世界一であった携帯電話端末メーカーで、スマートフォン事業に乗り遅れたマイクロソフトがスマートフォン事業を強化する目的で買収しました。
ノキアでは、2011年からマイクロソフト独自スマホであるWindows Phoneの製造に携わっていましたが、iPhoneとAndroidの急成長に追いつかず、売上は低迷するばかりです。
マイクロソフトが傘下に入れて本格的にWindows Phoneの立て直しに着手しようとしましたが、iPhoneとAndroidの牙城を崩すには至らなかったようです。
2015年にはマイクロソフトはモバイル端末事業から撤退し、ノキアの減損処理と7,800人の人員削減を行いました。
丸紅
大手商社の丸紅は、2012年に買収した米国の穀物大手ガビロンの穀物事業を、2022年にカナダの穀物大手バイテラに売却しました。
丸紅は、ガビロン買収で米国での穀物調達力を強化し、中国を中心としたアジア各国への販売網を広げる想定でしたが、米中の対立が深まる中で、売上を伸ばすことができませんでした。
1,000億円を超えるといわれる巨額なガビロン買収でののれん代に対して、2015年にはおよそ500億円の損失を出しており、丸紅にとっては大きすぎる負の遺産となってしまったようです。
東芝
総合電機メーカーの東芝は、2006年に米国にある原子力関連事業会社のウェスティングハウス・エレクトリック(WH)を買収しました。東芝の買収目的は、当時の原子力発電での主流技術であった加圧水型原子炉を手に入れるためです。
このM&Aをきっかけとして、東芝としては世界の原子力発電事業へ乗り出していく予定でした。しかし、2011年の東日本大震災での原発事故から世界的な脱原発の流れとなり、業績が思うように伸びませんでした。
さらに、買収当時のWHの企業価値は18億ドルといわれていたのを東芝が見誤り、54億ドル(当時のレートで約6,000億円)と本来の価値の3倍もの金額で買収したことで損失を大きくし、2017年にはWHは経営破綻しました。
東芝は2018年に1ドルでWHを売却しましたが、その後、再建に成功し、2023年には1兆円で売却されています。
日立
総合電機メーカー大手の日立製作所は、2002年にIBMのハードディスク部門を約20億5,000万ドルで買収しました。
当時の日立は、ストレージ、バイオメディカル、都市再生事業の3つの部門への選択と集中を掲げており、この買収はストレージ部門の目玉案件だったそうです。
しかし、1990年代までは付加価値が高かったハードディスクでしたが、2000年代に入りコモディティ化していきました。その結果、価格破壊が起こり、想定していた収益を上げることができませんでした。
2011年には43億ドルでウエスタン・デジタルへ売却することになり、買収額よりも高額で売却できたものの、追加投資等を考えると総額は赤字の失敗事例だといわれています。
中小企業のM&A失敗事例
中小企業のM&Aの失敗事例も紹介します。
秘密保持違反事例
製造業のA社では、経営者の高齢化と後継者問題の解決のためにM&Aでの会社の売却を決断し、M&Aの専門家に仲介を依頼しました。
仲介を依頼してから半年足らずという短い期間で売却先が見つかり、順調に話が進んでいるように思われましたが、最終契約前にA社の経営者がM&Aについての情報を外部へ漏らしたことがわかり、秘密保持義務違反で破談となってしまいました。
通常、M&Aでは両社に対して、従業員や取引先への影響を最小限に抑えるために秘密保持義務が課されます。M&Aについての情報は、最終契約を交わすまでは、必要最低限の人数での共有にとどめておくことが重要です。
対応ミス事例
運送業のB社では、後継者問題の解決のためにM&Aでの会社の売却を決断して、M&Aの専門家に仲介を依頼しました。
その地域では大手の運送会社であり、すぐに買い手が見つかりましたが、B社側の不誠実な対応で破談となってしまったようです。
不誠実な対応とは次のようなものでした。
- 買い手側や仲介会社から必要な書類の提出などを求められてもいつまでも提出しない
- 基本合意書締結以降に基本的な条件の変更を頻繁に求めてくる
買い手側としては、M&Aをしても大丈夫か判断するためには、売り手側の経営資料が必要です。また、基本合意書で決めたことはM&Aの方向性となるので、売り手側からの根拠のない大幅な条件の変更は基本的にありえないでしょう。
M&Aは企業同士の結婚ともいわれており、相性が最も重視されます。相手側からの信頼を損なうようなことがあると、成立しない可能性が大いにあるので注意が必要です。
M&Aのメリット・デメリットまとめ
現在、日本では多くの会社で会社を存続させていくためのM&Aが必要とされています。しかし、M&Aでの売却を希望しても、売却できない会社も多いのが現状です。
M&Aを成功させるためには、メリットだけでなく、デメリットにも目を向けてしっかりと時間をかけて対応をすることが大切です。ぜひ、M&Aのメリット、デメリットをよく理解した上で、M&Aに向けた準備を始めましょう。
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