M&Aの手順と進め方を売却企業目線で徹底解説!検討からクロージングまでの流れとは
M&Aは、まずは一般的な手順を把握し、次に自社の場合のM&Aの手順を計画していくことが重要です。臨機応変な対応も重要ですが、土台となる計画があってのものです。スピード感も求められるため、判断を誤らないためにも計画に比重を置くと良いでしょう。
目次
M&Aの大まかな手順
M&Aは最初に大まかな手順を把握し、そこから詳細を詰めていく流れが一般的です。そこで、まずはM&Aの大まかな手順をご紹介します。
M&Aとは
そもそもM&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略です。Mergersは合併、Acquisitionsは買収を意味します。つまり、合併と買収を合わせてM&Aということです。複数の会社が合併して1つになったり、企業や株式や事業を売買したりします。
M&Aは名前の通り大きく合併と買収に分けられますが、合併にも買収にも複数の方法があります。以下では、いずれの方法も網羅する形で解説していきます。M&A方法によって手順、進め方が異なる部分もあるので、そこではM&A方法ごとに手順や進め方を解説します。
M&Aは4段階
まずM&A全般において、大きく分けると以下の4段階の手順で進められます。
- 準備段階
- マッチング段階
- 交渉段階
- 最終段階
上記それぞれの段階について、手順、進め方を解説していきます。また以下で解説する手順、進め方は売却側の立場からのものです。
M&A売却側の手順1:準備段階の進め方
最初は、M&Aの準備段階の手順と進め方です。M&Aは準備が重要なため、全手順の中で最重要と言っても過言ではないでしょう。M&Aにおいて準備が必要な理由は複数ありますが、目的やスケジュールが明確化されていた方が効率的に進められるだけでなく、M&Aにおいてスピードが重要ということもあります。
特に売却側は対応が遅れることで、コストや労力がかかるだけでなくその間にも業績が傾く可能性があります。結果的に売却価額が下方修正され、焦ってM&Aを決めてしまうといった事例も多々あります。
スピード感を持って臨機応変にM&Aを進めていくためには、事前準備が欠かせないということです。
M&Aの検討(M&Aニーズの発生)
M&Aの案が出てきたということは何らかのニーズが発生したのでしょう。M&Aの目的は企業ごとに異なるので、最初にどのようなニーズが発生したのかはケースバイケースです。たとえば経営者の高齢化によって企業の存続が難しくなった、不採算事業の影響で業績が赤字になっている、といったものが挙げられるでしょう。以下では、M&Aニーズごとに検討すべきポイントを挙げます。
事業承継
事業承継を目的にM&Aを検討するケースは年々増加しています。なぜなら、経営者の高齢化によって経営の継続が厳しい、少子化の影響や市場の急速な変化もあって後継者もいない、といった状況の企業が増えているからです。
こういった状況下では、経営者自身の今後の生活資金の確保や従業員の労働環境などが重要になってくるでしょう。どういった条件でM&Aを実施したいのか、ニーズを細分化し、優先順位をつけてまとめていく必要があります。
事業の選択と集中
事業の選択と集中を目的にM&Aを実施するケースも多いです。この場合、一部の事業は自社に存続させ、一部の事業を売却することになります。事業の選択と集中というニーズが出てきた段階で、残したい事業と売却したい事業はある程度は明確になっているでしょう。
しかし、この段階である程度ではなくより詳細に条件を決定していくことが重要です。事業の選択と集中では事業譲渡などの方法を選択することが多いですが、事業譲渡では事業だけでなく資産や負債も譲渡対象を選択できます。
もちろんすべて売却側の希望通りになるとは限りませんが、買収側と交渉するためにもニーズは細かくまとめておく必要があるということです。ニーズを細かくまとめたうえで、交渉しながら微調整していきます。
ニーズがきちんとまとまっていないと、買収側の言いなりになってしまったり、優先順位を間違えたりして、契約締結後に後悔するような事態になるでしょう。
経営の安定化と発展
事業の選択と集中に似ていますが、経営の安定化と発展を目的にM&Aのニーズが生まれる場合もあるでしょう。事業の選択と集中が目的の場合は事業を取捨選択して企業全体をコンパクトにしますが、経営の安定化と発展が目的の場合は企業を縮小するとは限りません。
たとえば、自社事業を売却した後に、他社の事業や他社の企業を丸ごと買収するといった選択肢もあります。事業を集中させるだけでなく、市場規模が小さくなっている事業を売却して縮小し、新たな市場進出を狙って事業や企業を買収するといった進め方もあるでしょう。
M&Aアドバイザー選び
自社でM&Aニーズの明確化、細分化などが進んだら、M&Aアドバイザーを選びます。ただし自社だけでニーズの細分化等が難しい場合、あまり方針が固まっていない段階でM&Aアドバイザーに相談することもあります。無料相談を受け付けている機関も多いので、気軽に相談できるでしょう。ではそもそもどのような機関に相談すれば良いのかですが、複数の選択肢があります。
商工団体や公的機関については、相談はできるもののM&A仲介業務は行わないため、以下で紹介する機関からは除いています。
M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aアドバイザー選びの選択肢としてもっとも一般的でしょう。現状取引先の金融機関や専門家がいないのであれば、M&A仲介会社に依頼するのがもっともスムーズと考えられます。
M&A仲介会社はM&Aを専門としているので実績が豊富な場合が多く、全体のスケジュール調整、アドバイス、必要な専門家の手配など一連のサービスを提供してくれます。M&A仲介会社は売買企業双方とやり取りしているため、マッチングしやすいという点も大きなメリットです。
M&A仲介会社と似たものにFA(ファイナンシャルアドバイザー)がありますが、こちらは売買企業のいずれか一方に付いて、利益最大化を狙います。中小企業の場合はM&Aを仲介してスムーズに進めてくれるM&A仲介会社、大企業の場合は利益最大化のために交渉に力を入れてくれるFAを選択するケースが多いでしょう。
金融機関
金融機関にM&Aアドバイザーの役割を依頼する場合もあります。金融機関によってはM&Aにも力を入れています。ただしM&Aは取り扱っていない金融機関もあり、断られる可能性もあるでしょう。
またこれからM&Aアドバイザーを探すのに、あえて金融機関を選択するのはあまり得策ではないと考えられます。すでに付き合いのある金融機関があって、そこの担当者がM&Aのサポートをしてくれそうな場合は相談から始める、といった流れが現実的でしょう。
士業事務所
士業事務所もM&Aに力を入れている場合があります。具体的には、弁護士事務所、税理士事務所、会計事務所などが該当します。多くの企業にとって身近なのは特に税理士事務所でしょう。
取引のある税理士事務所がM&Aにも力を入れている場合は、M&Aアドバイザーの役割を依頼することが可能です。長年取引している場合は信頼関係があり、また自社事業についても理解があると考えられます。
ただし士業事務所はM&Aに力を入れている事務所もあれば、そうでない事務所もあります。またこれからM&Aアドバイザーを探すのであれば、あえて士業事務所を選ぶメリットは薄いと考えられます。
士業事務所はあくまでも一部の分野の専門家であって、M&A全体の専門家ではないからです。M&A仲介会社に依頼すれば各分野の必要な専門家を手配してくれるので、士業事務所を選ぶのはすでに取引がある場合が一般的です。
M&Aマッチングプラットフォーム
M&Aマッチングプラットフォームは、売買企業をインターネット上でマッチングさせるサービスです。売却側は情報を登録し、買収側が情報を見て売却側にコンタクトを取る仕組みが一般的でしょう。
M&A仲介会社にもM&Aマッチングプラットフォームは用意されています。M&Aマッチングプラットフォーム単体で利用する場合、M&Aアドバイザーからのサポートやアドバイスは受けないということです。
自社に専門家が在籍していたりM&Aを専門的に扱っていたりする企業であればM&Aマッチングプラットフォームだけの利用でもM&Aをうまく進められるかもしれませんが、そうでない場合は難しいでしょう。そのため、M&Aマッチングプラットフォームを利用するのであればM&A仲介会社にも依頼するのが一般的です。
M&Aアドバイザーの手数料
M&Aアドバイザーの手数料は、依頼する機関によって異なります。また同じM&A仲介会社でも、会社によって手数料の仕組みは異なります。一般的には、大きく分けるとリテイナーフィーと成功報酬に分けられます。
リテイナーフィーは成功報酬以外の手数料で、契約時に支払う着手金や毎月支払う一定額が該当します。リテイナーフィーの仕組みはM&A仲介会社によっても異なり、たとえば毎月一定額は設けておらず、着手金と成功報酬のみのM&A仲介会社もあります。
成功報酬の設定もM&A仲介会社によって異なりますが、レーマン方式を採用しているM&A仲介会社が多いでしょう。レーマン方式とは、M&Aの価額に応じて段階的に成功報酬割合を設定する仕組みです。以下の数字が一般的です。
売買価額 | 成功報酬 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円~10億円の部分 | 4% |
10億円~50億円の部分 | 3% |
50億円~100億円の部分 | 2% |
100億円を超える部分 | 1% |
また売買価額の算出方法は複数あり、株価をもとに計算する場合もあれば、オーナー受取額、企業価値、総資産額をもとに計算する場合もあります。何をもとに売買価額を計算するかによっても成功報酬が変わってくるので、M&Aアドバイザーを選ぶ際の重要なポイントです。
M&A売却側の手順2:マッチング段階の進め方
準備段階の次はマッチング段階の手順です。M&Aアドバイザーと業務委託契約書を締結した後、相手企業を見つけて交渉していく進め方になります。それではマッチング段階の手順を解説していきます。
M&Aアドバイザーと業務委託契約書の締結
M&Aの実施が決定したら、M&Aアドバイザーと業務委託契約を締結する手順です。上でも少し触れましたが、契約形態として、仲介してもらう仲介契約と売買企業一方に付いてもらうアドバイザリー契約があります。
仲介契約
M&A仲介会社と契約を結ぶ場合、仲介契約になります。仲介契約ではM&Aアドバイザーは売買企業双方と契約を結んでいるため、双方の状況を把握しやすいです。そのため、売買企業双方のニーズを汲んでM&Aを進めてくれるでしょう。
ただしどちらか一方について利益最大化を狙うわけではなく、円満な進め方をするという特徴があります。言い換えれば自社の利益を最大化する進め方ではないので、交渉して自社の利益最大化を狙いたい場合はFAを選択することになるでしょう。
中小企業の場合はFAと契約すると交渉にかかる労力やコストがM&A利益を上回ってしまうことが多いため、M&A仲介会社を選ぶのが一般的です。
アドバイザリー契約
FAと契約を結ぶ場合は、アドバイザリー契約になります。アドバイザリー契約では、M&Aアドバイザーが売買企業の一方と契約を結びます。契約を結んだ企業のニーズを汲んで利益最大化を狙って交渉を進めてくれます。大企業はM&Aに時間、労力、コストをかけてでも利益最大化を狙う価値があります。
なぜなら、交渉によって変わってくる金額が大きいからです。そのため、大企業はFAとアドバイザリー契約を結ぶケースが多いでしょう。
M&A戦略とスケジュール策定
M&Aアドバイザーと業務委託契約を締結したら、M&A戦略を明確化したうえでスケジュールを策定する手順です。自社のニーズはある程度伝えるものの、基本的にはM&Aアドバイザーが提案、策定します。ただしM&Aによって実現したいことや売却対象は経営者の希望が重要なので、M&Aアドバイザーは経営者からヒアリングを行ったうえで提案や策定をする手順になります。
企業価値評価
売却側は自社の企業価値評価を行う手順です。企業価値評価は基本的に経営者が行うのではなく、M&AアドバイザーやM&Aアドバイザーが用意した専門家が実施します。企業価値評価は主観ではなく客観が重要なので、定型の計算方法に沿って実施するのが一般的です。
企業価値評価の計算方法には以下のようなものがあります。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
細かくは上記の方法の中でもそれぞれ複数の計算方法があるのですが、大枠では上記3つの計算が挙げられます。またどれか単一の方法で企業価値評価を行うのではなく、複数の計算方法を組み合わせる場合もあります。
交渉相手探し
売却側が交渉相手を探す際、一般的な手順では三種類の資料を作成します。具体的には以下の通りです。
- ロングリスト
- ショートリスト
- ノンネームシート
ロングリストとショートリストは売買企業双方がそれぞれ作成するのが一般的ですが、ノンネームシートは売却側のみが作成するものです。ではそれぞれどのような資料なのか概要をご説明します。
ロングリスト
ロングリストとは、売却先企業候補をざっくりと洗い出した資料です。M&Aアドバイザーに売却先の希望をある程度伝えると、M&Aアドバイザーが多くの企業をリストアップしてくれる手順です。ロングリストの段階では細かい選定は行わず、希望条件に合致しそうな企業は網羅的に拾っていきます。
ショートリスト
ロングリストの中から特定の条件で絞り込んで作成するのがショートリストです。条件ごとにそれぞれショートリストを作成する場合もあります。イメージとしては、ロングリストに対して特定条件で絞って抽出したものがショートリストということです。
ノンネームシート
ノンネームシートは、企業を特定されない範囲で情報公開した資料です。業種、場所、規模、売却目的、希望価額などの情報を記載するのが一般的です。売却側はM&Aマッチングプラットフォーム上やM&Aアドバイザーに対してノンネームシートを公開するため、買収側は売却側のノンネームシートを閲覧できるということです。
秘密保持契約書の締結
上記の資料等を活用して交渉相手が決まったら、秘密保持契約書を締結する手順です。秘密保持契約書を締結する目的は、売却側の情報が外部に漏れて不利益を被ることを避けるためです。秘密保持契約書を締結する手順を踏むことで、売却側は買収側に対してノンネームシート以上の情報を開示できるようになります。
M&A売却側の手順3:交渉段階の進め方
秘密保持契約書を締結したら、交渉の段階に入ります。ここまでの段階で準備が念入りにできていると、交渉の手順はスムーズに進みやすいでしょう。仮に相手企業と折り合いがつかなかった場合も判断基準がしっかりしていれば切り替えが早いからです。
交渉段階で試行錯誤することも重要ですが、迷ったり期間的な焦りから判断ミスをしたりする可能性も高いため、交渉前の段階で交渉の方針を固めておくことが重要でしょう。
経営情報の開示
秘密保持契約書の締結後、まずは売却側の経営情報を開示します。この情報をもとに交渉が進むからです。経営情報の開示方法は交渉の方法によって異なりますが、インフォメーションメモランダム、プロセスレターなどの資料として経営情報を開示します。資料の作成はM&Aアドバイザーや、M&Aアドバイザーが用意した専門家が担当してくれます。
交渉
交渉についてはM&A方法や企業ごとに異なり、また当然、売買企業双方にとって重要な工程です。これまでの工程も当然重要なのですが、交渉をスムーズに進めて満足のいくM&Aを実施するための準備を行ってきたと言っても過言ではないでしょう。
企業価値の適正な算出も行っていますが、企業価値に絶対的な正解はありません。そのため買収側は企業価値を引き下げた価格を提示してくる可能性が高いです。絶対的な正解がない中で交渉しながら合意に向かっていきます。
買収側の意向表明書
意向表明書はM&Aを行う意思を表明する書類です。意向表明書は買収側からの一方的な意思表示なので、意向表明書をもってM&Aが決定するわけではありません。秘密保持契約書を締結し、トップ面談を実施した後に提出するのが一般的でしょう。意向表明書を提出し、本格的な交渉に入っていくイメージです。
トップ面談
トップ面談では、売買企業の経営者同士で面談を行います。本格的な交渉の前段階としてトップ面談を行うのが一般的で、トップ面談では踏み込んだ話まではしない場合が多いでしょう。
売買価格の交渉よりも、お互いのM&Aに関する考え方を話して価値観が合うか検討したり、世間話を通して互いの人間性を知ったりするイメージです。
基本合意書の取り交わし
売買企業間の交渉がまとまったら、基本合意書を取り交わします。基本合意書には、M&A方法、条件、今後の進め方などが記載されます。基本合意書を取り交わした時点でM&Aについて双方前向きな状態ですが、基本合意書によってM&Aの実施が決定するわけではありません。
基本合意書が法的拘束力を持つのは、あくまでも今後の手順、進め方の部分です。今後手順通りにM&Aを進めたものの、問題があればM&Aが中断される可能性もあります。特にデューデリジェンスの工程が、今後の流れにおいて重要です。
M&A売却側の手順4:最終段階の進め方
基本合意書を取り交わしたら最終段階に入ります。最終段階に入っても、M&Aの実施が決定したわけではなく、今後M&Aが中断されたり、再交渉が必要になったりする可能性も十分あります。特にデューデリジェンスによって、M&Aが最終的にどのような形になるか決まってきます。
デューデリジェンス
デューデリジェンスは、買収側が売却側の企業を調査する工程です。デューデリジェンスは複数の観点から実施され、それぞれの観点で問題ないことを確認したうえでM&Aの実施に進みます。
逆に言えば、デューデリジェンスの結果に問題があり、M&Aが中断されたり条件が見直されたりといったこともあります。デューデリジェンスをどの観点で実施するかは売却企業の状態ごとに異なりますが、以下のような観点が一般的です。
- 財務デューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 労務デューデリジェンス
- 事業デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
上記すべての観点でデューデリジェンスを実施するのは、労力、時間、費用などの観点から厳しい場合が多いです。そのため、特に売却側企業に問題のありそうな観点からデューデリジェンスを実施します。
売却側はデューデリジェンスに協力します。たとえば買収側が気になりそうなポイントをあらかじめ説明しておくことや、資料の提示を求められたら応じることなどが挙げられるでしょう。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスでは、主に財務諸表の精査を実施します。財務デューデリジェンスは公認会計士などの専門家が実施するのが一般的でしょう。M&Aアドバイザーが公認会計士でない場合は、M&Aアドバイザーから公認会計士などに依頼します。
財務デューデリジェンスで調査するポイントは複数ありますが、特に重要なのは簿外債務の有無でしょう。簿外債務とは、帳簿上に存在しない債務のことです。売却側も把握できていない場合があり、そのままM&Aを実施すると買収側は不利益を被ります。
簿外債務は買収側にとって懸念事項なので、売却側は事前に債務状況を把握、整理して買収側にきちんと明示しておくことが重要でしょう。
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、税務の観点からのデューデリジェンスです。税理士が担当するのが一般的でしょう。過去に税金の申告漏れがないかや、今後どのくらいの税金が発生するかの見積もりなどが目的です。
特に過去の申告漏れがあると、M&A実施後に買収側が負担することになります。当然買収側はこのような事態は避けたいと考えているでしょう。売却側としては税務状況を事前に整理し、クリーンであることを証明することが重要です。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスでは、法的な観点から幅広く売却側企業を調査します。具体的には、組織の法令順守、取引先との契約関係、許認可の取得状況、株主との関係などが該当します。M&A仲介会社に在籍している弁護士や、M&Aアドバイザーが提携している外部の専門機関に依頼する場合が多いでしょう。
労務デューデリジェンス
労務デューデリジェンスは法務デューデリジェンスの一種とされる場合も多いです。デューデリジェンスの切り分け方は明確に決まっているわけではないので、労務デューデリジェンスと法務デューデリジェンスが別になっている場合もあるでしょう。
労務デューデリジェンスでは、労務関連のコンプライアンスや未払い残業代など労務面で問題がないかを確認します。近年は労務問題が大きな問題になることが多いため、重要視される傾向です。
事業デューデリジェンス
事業デューデリジェンスでは、事業そのものの調査を行います。事業内容が売却側から開示を受けた内容と合致しているか、市場のニーズに合っているか、といった調査です。ビジネスデューデリジェンスと呼ばれることも多いでしょう。
事業デューデリジェンスはM&Aアドバイザーや提携している外部のコンサルティング会社などが行うことが多いです。また同業でのM&Aの場合は、買収側の企業内に詳しい人材が複数いるはずなので、買収側企業が担当することもあります。
ITデューデリジェンス
近年はIT環境が企業業績に大きな影響を与えるため、ITデューデリジェンスも重要視されるようになっています。またM&A実施後に業務システムを統合する必要があるため、その点でも調査が重要です。問題をあぶりだす目的だけでなく、早い段階でIT環境を把握し、PMIに役立てるためにデューデリジェンスを実施する面もあります。
最終交渉
デューデリジェンスの実施後、最終交渉の手順に進みます。デューデリジェンスの結果に問題がなければ、最終交渉の手順は比較的スムーズに進むでしょう。しかしデューデリジェンスの結果に問題があった場合、事前に交渉していた内容を大幅に変更する手順が必要であったり、そもそもM&Aの実現が困難であったりします。最終交渉は、デューデリジェンスの結果次第ということです。
最終契約書の締結
最終交渉後に、最終契約書を締結する手順です。最終契約書には法的拘束力があるので、最終契約書を締結した段階でM&Aの実施は決定するということです。では最終契約書にはどのような内容が記載されるのか、解説していきます。
M&A条件
M&A条件には、クロージングの実施内容や日程、取引対象、価格、支払い方法、などが幅広く含まれます。特に契約からクロージング日までの間に売却企業価値が変動する可能性があるので、この価格調整については細かく決められる傾向があります。
資本、純資産、負債、売上などが増減する可能性があるので、これらの計算・調整方法をあらかじめ決めておくことでクロージング時に売買企業間で争いになるような事態を防止します。
表明保証
表明保証とは、M&A条件に関する諸々が真実であることを表明するものです。デューデリジェンスで確認できていない部分などで条件と異なる部分があった場合、悪意の有無にかかわらず契約違反となります。違反によって相手側が被った損害を補償するのが一般的でしょう。
誓約事項
誓約事項とは、今後やるべきことや、逆にやってはならないことの約束です。クロージングよりも前の誓約事項もあれば、クロージング後の誓約事項もあります。たとえば資産を売却したり従業員を引き抜いたりすると契約締結時と状況が変わってくるため、禁止する場合があります。逆に、整理しておくことを義務付ける事項を設ける場合もあります。
補償
補償は、表明保証や誓約事項の違反があった際の被害補償を指します。相手企業に不利益を与えているので、その分を補償する旨をあらかじめ契約書に含めるということです。具体的にどのようなことをしたらどのような補償を行うのかある程度決めますが、すべてを明確化するのは困難です。
どのような違反があるのかすべては想定できないので、金額の目安を設定しておく場合が多いでしょう。また基本的には与えた損害と同程度の補償をすることになります。
クロージング前提条件
クロージングの前提条件とは、クロージングまでに満たしておくべき条件のことです。クロージングの前提条件を満たしていない場合は、相手側はクロージングしないという選択ができます。つまりM&Aは中断されるということです。その結果損害を被った場合、上記の通り契約書に含まれている補償の対象になります。
クロージングの準備
最終契約締結後、クロージングに向けて複数の準備を行います。クロージングでは売買企業双方が契約書の内容を実施する必要があり、そのためには一定の準備が必要ということです。準備の手順はM&A方法によって異なるので、場合分けして解説していきます。
株式譲渡での準備
株式譲渡では、株式を売買することで経営権が移転し、M&Aが成立します。そのため、事前準備としては以下が挙げられます。
- 株式名簿の用意
- 取得対価の用意
- 会社実印など重要なものの用意
- 臨時株主総会、役員選任の事前通知
上記のような事前準備が挙げられます。取得対価や株主総会は売却側ではなく買収側の準備なので、売却側は手順の把握だけしておけば良いでしょう。
事業譲渡での準備
事業譲渡は会社の経営権は移転させずに、事業や資産を引き渡す手順になります。クロージングの事前準備としては経営権を引き渡す方が手順が簡単で、事業譲渡のように個別の手続きが必要な方が手間がかかります。
具体的に何を準備するかは事業内容などによって異なりますが、引き渡す資産や負債の用意、対価の用意、許認可の取得、取引先や従業員との交渉などの手順が必要です。
株式交換・株式移転・株式交付・会社分割・合併での準備
株式交換・株式移転・株式交付・会社分割・合併などは組織再編の手段として用いられるのが一般的です。そのため売買企業双方に対しての準備よりも、株主総会の特別決議承認、債権者保護手続き、公正取引委員会に対する株式取得の計画届出書提出といった準備手順が必要になります。
クロージング
クロージングの準備が整ったら、クロージングを実施します。クロージングの手順は事業譲渡以外の場合と事業譲渡の場合で異なるので、分けて解説していきます。厳密に言えば準備同様にM&A方法ごとに異なりますが、事業譲渡以外と事業譲渡では手順が特に大きく異なります。
所有権や契約などの移転(事業譲渡以外の場合)
事業譲渡以外の場合は、会社全体や事業を包括承継します。つまり個別の手続きが少なく済むということです。そのため売却側も買収側も事業譲渡と比較するとクロージングの手間は少なく済みます。
具体的な進め方はM&A方法によって異なりますが、会社を新設する場合は新設登記の申請などが必要で、また対価は株式の場合もあれば現金の場合もあります。いずれにしても事業譲渡ほど細かい手順を踏む必要はないということです。
所有権や契約などの移転(事業譲渡の場合)
事業譲渡は譲渡対象の事業、資産、負債などを細かく選択できます。そして包括的に承継するわけではなく、譲渡対象ごとにそれぞれ手続きを行う必要があります。移管手続きだけでなく第三者に対抗する要件を満たす必要もあるため、全体的に手順は煩雑です。
交渉がまとまった段階で譲渡の対象はある程度決まっているので、クロージングがスムーズに進むよう準備しておくことが重要です。クロージングが遅れるとPMIにも影響し、買収側はスムーズに事業をスタートできなくなります。売却側がしっかり準備しておくことで、買収側も安心して事業譲渡のクロージングを進められます。
M&Aの手順まとめ
M&Aの手順、進め方は基本的に大まかな流れが決まっています。まずは基本的な手順、進め方を把握し、自社の場合の流れを計画しておく必要があります。事前に手順が明確になっていればあとはそれに従って進めていくだけなので、トラブルが少なくなるでしょう。
M&Aには相手企業もいるので当然臨機応変な対応は重要ですが、たとえば交渉時にどのような条件を提示されたらどのように反応する、といったことまで決めておくと焦って納得のいかない条件に合意してしまうようなことも減るはずです。
事業譲渡の場合は特に事前準備が重要ですが、M&A全般において手順を把握して計画的に進めることが重要で、場当たり的な進め方はなるべく避けた方が良いでしょう。
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