吸収合併とは?目的から手続き方法・メリット・デメリット・事例まで解説!
M&Aにおける吸収合併とは何か、その目的、手続き方法、メリットとデメリット、具体的なM&A事例までを詳しく解説。企業が他社を吸収合併する際の法的な要件、経営上のメリット、注意すべき点、実際の合併事例を通じて、吸収合併の詳細な情報を提供します。
目次
吸収合併とは
M&A(合併・買収)において、成長戦略や効率化を目的とした際に重要な選択肢の1つが「吸収合併」です。このプロセスは、企業が他の企業を吸収し、1つの組織として再編されることを意味します。
吸収合併は、単に企業規模を拡大するだけでなく、経営資源の最適化、市場での競争力強化、コスト削減など、多くのメリットをもたらす可能性があります。ここでは、吸収合併の基本的な意味と、企業が吸収合併を行う主な目的や具体的な事例について、詳しく解説します。
吸収合併の意味
吸収合併は、2つ以上の会社が1つに統合されるプロセスを指し、この過程で一方の会社が他方を完全に吸収します。このプロセスの特徴は、吸収する会社(存続会社)がそのまま存続し、吸収される会社(消滅会社)は法的に消滅することです。
消滅会社の資産、負債、契約、従業員などの全ての権利義務は存続会社に移行します。吸収合併は、新設合併と異なり、新しい法人を設立する必要がないため、手続きが簡素化され、時間とコストの節約につながります。
また、既存の会社名やブランド、顧客基盤を維持できるというメリットもあります。このように、吸収合併は効率的かつ戦略的なM&A(合併・買収)の方法として広く用いられており、多くの事例が存在します。
吸収合併の目的
吸収合併の主な目的は、企業の効率化、コスト削減、市場シェアの拡大、競争力の強化にあります。合併を通じて、重複する部門や機能を統合することで、運営コストの削減が可能です。これにより、企業はより効率的な運営体制を構築し、資源を最適化できます。
また、異なる分野の専門知識や技術を持つ会社が合併することによる、製品やサービスの多様化、新たな市場への進出も重要な目的です。これは、企業が新しい顧客層を開拓し、事業の成長を促進する機会を提供します。
さらに、合併により生まれる大きな規模の企業は、市場における競争力を高め、より強固な地位を築けます。これは、市場シェアの拡大や業界内での影響力の増加を目的としており、長期的な安定性と成長を実現するための重要な戦略です。
M&Aにおける吸収合併と新設合併との共通点・相違点
企業の成長や市場競争力の強化を目的とした際、M&A(合併・買収)は重要な戦略の1つです。M&A(合併・買収)には様々な方法がありますが、特に注目されるものが「吸収合併」と「新設合併」です。
これらのM&A(合併・買収)の方法は、企業が資源を統合し、より大きな経済的・組織的効果を目的として用いられます。しかし、M&A(合併・買収)の方法には共通点と相違点があり、それぞれの特徴を理解することが、適切なM&A(合併・買収)戦略を立てる上で非常に重要です。
ここでは、吸収合併と新設合併の定義、共通点、そして相違点について詳しく解説します。
新設合併とは
M&A(合併・買収)における新設合併は、複数の会社が全て解散し、新たに設立される会社にその権利義務を移す合併方法です。このプロセスでは、すべての合併する会社が法的に消滅し、新しい法人がその資産や負債、従業員を引き継ぎます。新設合併は、全ての会社が新しいスタートを切ることを意味し、既存の会社の法人格はなくなります。
共通点
M&A(合併・買収)における吸収合併と新設合併の共通点は、どちらも複数の企業が1つに統合される点です。この統合により、商品やサービス、技術、人材などが組み合わされ、より良い商品やサービスの提供が可能になることが期待されます。また、市場シェアの拡大や資本力の強化、市場に対する信用の向上などのメリットがあります。
相違点
M&A(合併・買収)における吸収合併と新設合併の主な違いは、法人格の扱いにあります。吸収合併では、一方の会社が他方を吸収し、吸収された会社は消滅しますが、存続する会社の法人格は変わりません。一方、新設合併では、すべての会社が消滅し、新たに設立された会社が全ての権利義務を引き継ぎます。
また、新設合併の場合、新たに許認可や免許の取得が必要になることがあり、上場企業が関与する場合は新規上場申請が必要になることもあります。これに対して、吸収合併では、許認可や免許の申請は一般的に必要ありません。
吸収合併のメリット・デメリット
企業の成長戦略や経営効率化のために行われる吸収合併は、多くのメリットを提供する一方で、いくつかのデメリットも伴います。このM&A(合併・買収)の方法は、一方の会社が他方を吸収し、その結果として消滅する会社の全ての権利義務を承継するプロセスを指します。
吸収合併は、企業が直面する様々な課題に対処するための有効な手段として多くの事例が存在しますが、その実施には慎重な検討と計画が必要です。ここでは、吸収合併の具体的なメリットとデメリットを詳細に解説し、企業がこの戦略を採用する際の考慮点を明らかにします。
メリット
吸収合併の最大のメリットは、経営資源の統合によるシナジー効果の早期実現です。異なる会社の資産、技術、人材が1つの組織に統合されることで、新たなビジネスチャンスや効率化が期待できます。また、吸収合併は包括的な承継を可能にします。
これにより、被合併会社は自社の権利や債務、契約、従業員の雇用をすべて合併会社に移せるほか、スムーズな移行が実現されます。さらに、合併会社に資金がない場合でも、対価を株式とすることで実施が可能です。
これは、特に合併会社の株価が高い時に効果的な方法です。被合併会社に繰越欠損金がある場合、適格合併を行うことで、これを合併会社が引き継ぎ、節税効果を得ることも可能です。
デメリット
一方で、吸収合併にはいくつかのデメリットも存在します。まず、被合併会社が消滅することに伴い、株主総会の特別決議や契約書の備置・開示、債権者の異議手続きなど、多くの複雑な手続きが必要です。
これらの手続きは時間と労力を要するため、合併のプロセスが煩雑になる可能性があります。また、吸収合併では、2つ以上の会社が1つになるため、人事評価制度や経理処理などを一本化するPMI(Post Merger Integration)の負担が大きくなってしまいます。
これは、特に企業文化やシステムが異なる会社間での合併において顕著です。さらに、合併会社が未上場会社の場合、株式の流動性が乏しいため、売却などによる現金化が難しくなるという問題もあります。
吸収合併の手続きの流れ
企業が成長戦略の一環として吸収合併を行う際、そのプロセスは複雑で多岐にわたる手続きを含みます。吸収合併は、一方の会社が他方を法的に吸収し、その結果として消滅する会社の全ての権利義務を承継するM&A(合併・買収)の方法です。
このM&A(合併・買収)の方法を実行するには、事前の準備から合併契約の締結、株主総会での承認、さらには債権者保護手続きや登記申請に至るまで、一連の厳格な手順を踏む必要があります。
ここでは、吸収合併を行う際の手続きの流れを、その初期段階から最終的な登記申請に至るまで、詳細に解説します。
①吸収合併契約書の締結
吸収合併の手続きは、まず合併契約書の締結から始まります。この契約書には、合併する会社の商号や住所、吸収合併の効力発生日、合併対価など、法律上定められた必要事項が記載されます。また、協議規定や契約の変更・解除規定など、一般的な企業間契約で定める事項も任意で含みます。
②事前開示書類の備置
合併契約締結後、両当事会社は合併契約に関する書面や電磁的記録を事前に備え置く必要があります。消滅会社では、株主総会承認決議の2週間前から合併の効力発生日まで、存続会社では効力発生日から6ヶ月間が備置期間です。
③株式買取請求に係る株主への通知または公告
合併に反対する株主に対して、株式買取請求権が行使できるよう、当事会社は合併の効力発生日の20日前までに通知を行う必要があります。株主総会で承認を得た場合は、通知の代わりに公告を行うことも可能です。
④株主総会招集手続
両当事会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに株主総会で合併契約の承認を受ける必要があります。この承認決議は、株主総会の特別決議による必要がありますが、特別支配関係にある場合など、略式手続や簡易手続が可能な場合もあります。
⑤合併契約承認
株主総会での合併契約承認は、合併の正式な決定です。この承認は、特に公開会社や種類株式を発行している場合には、要件が加重されることがあります。
⑥反対株主の株式買取請求手続
合併に反対する株主は、自己が所有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できます。このため、当該会社は株主に対して通知または公告を行い、反対株主の買取請求を受け付ける必要があります。この買取請求権の行使期間は、通知または公告から20日間となり、合併契約の段階からこの期間を考慮してスケジュールを調整する必要があります。
⑦債権者保護手続
合併により影響を受ける債権者は、合併に異議を唱える権利を持ちます。異議がある場合、当該会社は債権者に対して弁済や担保の提供を行う必要があります。そのため、両当事会社は官報に合併の旨を公告し、知っている債権者には個別に催告を行います。債権者からの異議申し立てが可能な期間は最低1か月以上設ける必要があります。
⑧合併の効力発生
上記の手続きを経て、合併契約で定めた効力発生日に吸収合併の効力が発生します。この時点で、消滅会社は法的に解散し、その権利義務は存続会社に移行します。ただし、登記が完了するまでは、消滅会社が解散したことを第三者に対して主張することはできません。
⑨事後開示書類の備置
存続会社は、効力発生日から遅滞なく、消滅会社から承継した権利義務等を記載した書面または電磁的記録を作成し、株主や債権者からの閲覧や謄本交付の請求に対応できるようにしなければなりません。これにより、合併後の権利義務の透明性が保たれます。
⑩登記申請
最終的に、効力発生日から2週間以内に、消滅会社の解散登記と存続会社の変更登記を行う必要があります。この登記により、合併が法的に完了し、存続会社が消滅会社の権利義務を正式に承継したことが公的に認められます。
吸収合併で必要な登記
企業が吸収合併を行う際、そのプロセスの最終段階として重要な要素が登記手続きです。吸収合併では、一方の会社が他方を法的に吸収し、消滅する会社の全ての権利義務を承継します。この合併を法的に完了させるためには、正確な登記が不可欠です。
登記には特定の書類の準備、申請手続きの方法、登録免許税の支払い、そして合併契約書の内容が重要な要素です。ここでは、吸収合併における登記プロセスに必要な書類、申請手続きの方法、登録免許税額、および契約書に記載すべき内容について詳細に解説します。
登記に必要な書類
吸収合併の際には、登記手続きに必要な複数の重要な書類があります。
これには、合併の基本的な枠組みを定めた合併契約書、合併に関する株主総会での決議内容を記録した議事録、合併会社の資本金の額を証明する資本金の計上証明書、そして消滅する会社の法的な状況を証明する登記事項証明書が含まれます。
これらの書類は合併の種類や事業の性質によって異なることがありますが、基本的にはこれらが必要です。
登記申請手続き方法
登記申請手続きの方法については、合併効力発生日から2週間以内に合併会社は登記の変更を行い、被合併会社は解散の登記を行う必要があります。この登記は通常、法務局に提出され、合併に関するすべての必要書類を添付して行います。このプロセスは、合併の法的な完了を公式にするために重要です。
登録免許税額
合併に伴う登録免許税額に関しては、合併会社には吸収合併によって増えた資本金の0.15%が課税されます。ただし、資本金の増加額が被合併会社の資本金を超える場合は、その部分に対して0.7%の税率が適用されます。
一方、消滅会社の解散登記手続きには一律3万円の登録免許税が必要で、合併会社にかかる税金が3万円を下回る場合でも、最低限3万円の税金が課されます。
吸収合併の契約書に記載する内容
吸収合併の契約書には、合併する会社の商号や住所、吸収合併の効力発生日、合併対価など、法律上定められた必要事項が記載されます。
さらに、協議規定や契約の変更・解除規定など、一般的な企業間契約で定める事項も任意で含まれます。これらの内容は、合併の具体的な条件や取り決めを明確にするために重要です。
吸収合併の事例
企業の成長戦略や市場環境への適応において、吸収合併は重要な役割を果たします。この戦略は、企業が他の企業を吸収し、その資産やリソースを統合することで、効率化、シナジー効果の創出、または市場での競争力強化を目的としています。
特に、大手企業間の合併は、業界全体に影響を与えることがあります。ここでは、具体的な吸収合併の事例を取り上げ、それぞれの合併事例がどのように行われ、どのような目的があったのかを詳細に解説します。
これらの事例からは、吸収合併が企業にとってどのような意味を持ち、どのような影響を与えるかが明らかになります。
綜合警備保障による子会社ALSOKリースの吸収合併
1つ目の事例として、綜合警備保障株式会社(ALSOK)は、2021年6月8日に取締役会を開催し、完全子会社であるALSOKリース株式会社を吸収合併することを決議しました。この合併事例は、2022年4月1日に効力を発生させることとし、簡易合併・略式合併のM&A(合併・買収)の方法が採用されました。
ALSOKリースは、ALSOKグループのお客様に対して、防犯カメラや出入管理装置などの警備機器や自動火災報知機などの防災設備をはじめとする様々な物件のリースおよび割賦販売を行っていました。
この事例の目的は、グループ体制効率化の観点から、ALSOKがALSOKリースを吸収合併することにありました。合併による株式等の割当はなく、ALSOKリースはALSOKの完全子会社であるため、新株予約権および新株予約権付社債に関する取扱いもないとされました。
三菱UFJリースによる日立キャピタルの吸収合併
2つ目の事例として、三菱UFJリース株式会社と日立キャピタル株式会社は、2020年9月24日に両社の取締役会で経営統合契約及び合併契約を締結しました。この合併事例は、2021年4月1日を効力発生日として行われる予定でした。
両社は、2016年5月に締結した資本業務提携に基づき、ジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブ株式会社(JII)設立による海外インフラ投資事業の強化などの協業を推進してきました。
本事例の目的には、外部環境の変化への迅速な適応と先進的なアセットビジネス領域の開拓がありました。この経営統合事例により、両社はビジネス領域の相互補完及び経営基盤の強化を行えるほか、規模、領域ともに業界屈指のグローバルプレイヤーとなることを目的としました。
吸収合併の注意点
企業が吸収合併を行う際には、多くの注意点が存在します。吸収合併は、一方の企業が他方を法的に吸収し、その結果として消滅する会社の全ての権利義務を承継するプロセスです。
このプロセスは、単に2つの企業を1つにするだけではなく、多くの法的、税務的、労務的な複雑さを伴います。特に、消滅する側の会社の登記手続き、従業員への配慮、そして専門家への相談は、吸収合併の目的を達成するために重要な要素です。
ここでは、これらの吸収合併の際に考慮すべき重要なポイントについて詳しく解説します。
消滅する側の登記手続きも必要
吸収合併においては、消滅する会社の登記手続き方法も重要なポイントです。吸収合併では、一方の会社が他方を吸収し、吸収された会社は法人格を失い消滅します。この消滅する会社に関しては、法的に定められたさまざまな手続きが必要です。
これには、解散登記などが含まれ、これらの手続きを怠ると法的な問題が生じる可能性があります。したがって、吸収合併を行う際には、消滅する会社の登記手続きにも十分な注意を払う必要があります。
従業員への配慮
吸収合併では、従業員への配慮も非常に重要です。合併により、従業員の雇用条件や勤務地、職務内容などが変更される可能性があります。また、企業文化や組織構造の違いから、従業員間での摩擦や不安が生じることも考えられます。
これらの問題を適切に管理し、従業員の不安を軽減するためには、早い段階からのコミュニケーション、透明性のある情報提供、適切な研修やサポート体制の整備が必要です。従業員のモチベーションを維持し、組織の円滑な統合を図るためには、従業員への配慮が欠かせません。
専門家への相談
吸収合併は複雑なプロセスであり、法律、税務、会計、労務など多岐にわたる知識が必要です。特に、合併に伴う税務上の影響や法的な問題は、専門的な知識が必要です。
そのため、吸収合併を検討する際には、法律家、税理士、会計士などの専門家に相談することが推奨されます。専門家のアドバイスを受けることで、合併に関するリスクを最小限に抑え、スムーズなプロセスを進めることが可能です。
吸収合併を成功させるには専門家に相談しよう
吸収合併の目的を達成するためには、専門家の意見を求めることが不可欠です。合併プロセスには、法的な細部、税務上の複雑さ、労務問題、さらには組織文化の統合など、多くの課題が伴います。
これらの課題は、一般的な経営知識だけでは対応が難しいため、法律家、税理士、会計士などの専門家に相談することが重要です。彼らは、合併におけるリスクを特定し、適切な解決策を提供できます。
また、従業員の不安や疑問に対処するためのコミュニケーション戦略の策定にも役立ちます。専門家の助言を得ることで、吸収合併をスムーズに進め、企業の長期的な成功につなげることが可能です。
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